事業承継における生命保険の活用 活用時の注意点や選ぶポイントを解説

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オーナー経営者から後継者への事業承継には、各種費用が必要となります。特に、現経営者に不測の事態が生じ、突発的な事業承継を余儀なくされた場合などは大変です。

会社の経営が混乱し、業績が悪化してしまうこともあるでしょうし、高額な相続税が課されてしまうかもしれません。こうした非常事態に対応できるのが、生命保険です。生命保険を活用すれば、事業承継に伴うさまざまなリスクの低減が望めます。

そこで本記事では、事業承継の課題を解決するための、生命保険の活用法を紹介したうえで、生命保険を選ぶ際のポイントなどについて解説します。

このページのポイント

~事業承継における生命保険の活用~

事業承継に適した生命保険の種類は、「定期保険」「終身保険」「長期平準定期保険」「逓増定期保険」の4つである。後継者が決まっており、万一の時のため、相続税・贈与税の納税資金を確保したい場合には、後継者を受取人にすることで、納税資金を確保でき、相続税や贈与税の支払いに備えることが可能。ただし、2019年度の税制改正により、節税(租税回避)目的での生命保険の利用は、禁止されているため、生命保険料を損金扱いにするような節税対策は現在はできない。

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1. 事業承継で生命保険は活用できる?

はじめに、事業承継にはどのような課題があるのかを整理します。生命保険を活用して、それらの課題をいかにして解決していくのか、順番に把握しましょう。

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1-1. 事業承継における主要な課題

事業承継には、さまざまな課題があります。そのなかでも、多くの企業に共通している課題は、以下の3つです。

経済的な負担

どのような形の事業承継であれ、大なり小なり経済的な負担が伴うことを、まず理解しておかなければなりません。

例えば、株式を相続・贈与する際は相続税や贈与税が発生し、株式譲渡によって事業承継を行う際には基本的に対価が必要です。こうした出費への備えが甘く、資金が不足していると、事業承継が予定通り円滑に行えなくなってしまいます。

また、事業承継後に経営が悪化した場合には、後継者が金融機関からの融資の個人保証を負う可能性が生じ、万が一の際は、自身の生活が困窮する恐れもあります。

突発的な事業承継の発生

現経営者の体調不良や突然の死去が原因となり、事業承継が唐突に起きる可能性もあります。近年は、中小企業経営者の高齢化が深刻化しており、突発的な事業承継の発生リスクは年々高まっています。

急な事業承継では、資金面で問題が生じる可能性が高いです。必要な資金の準備が間に合わなかったり、引き継いだあとの事業がうまくいかず、収益が低下したりするリスクなどがあります。

そのため、突発的に発生する事業承継に備え、ある程度の備えをしておくことが重要です。

相続トラブルのリスク

事業承継の際は、相続に関するトラブルが起きやすい点にも、留意しなければなりません。

事業承継をスムーズに行うためには、株式を後継者に集中させる必要がありますが、相続によって株式が他の相続人に分散してしまうと、事業承継後の会社運営が難しくなってしまいます。

こうした株式の分散を防ぐために、他の相続人に対して代償金を支払う「代償分割」という方法があるものの、株価が高くて支払金額が高額になったり、元々の資金が足りなかったりすれば、実現は難しくなってしまいます。

相続財産に多額の預貯金が含まれていれば、それを代償金として支払えば問題ありません。ただし、一般的に相続財産の多くは、不動産や自宅のように分割が困難なものであるため、相続に関するリスクを十分に理解しておく必要があります。

1-2. 事業承継の課題に対する解決策

次に、事業承継の課題を3つのパターンに分け、それぞれ生命保険をどのように活用すれば解決できるのかについて解説します。

相続税・贈与税の納税資金を確保したい場合

オーナー経営者の死亡に伴い、事業承継を行うにあたり、相続税や贈与税の納税資金が必要となる場合は、事前に生命保険に加入して後継者を受取人にしておくことで、これらの資金を確保できます。

株式を相続や贈与で後継者に譲渡すると、評価額に応じた相続税・贈与税が不可欠です。これらの税金を支払う目的で株式を売却するわけにもいかないため、資金が足りない場合は不動産などの資産を売却し、納税資金を準備しなければなりません。

後継者をあらかじめ生命保険の受取人にしておけば、納税資金を確保でき、相続税や贈与税の支払いに備えることができます。

後継者に資金を残したい場合

事業承継に際して、後継者に資金を残したい場合にも、生命保険を活用した方法は有効です。

事業承継の実施を視野に入れないまま、現経営者が突然亡くなってしまった等のケースでは、前もって資金が用意できていないことがあります。こうした場合でも、事前に生命保険に加入しておくことで、後継者に十分な資金を残すことが可能です。

後継者に保険金が入れば、事業承継に必要な資金や、債務がある場合の返済などにあてられ、事業承継や承継後のスムーズな企業経営が期待できます。

自社株の評価額を下げて費用負担を軽減したい場合

自社株の株価が高すぎると、株式の購入が難しくなったり、相続税や贈与税が高額になったりします。こうしたケースにおいて、自社株の評価を下げる目的で生命保険を活用すると、ある程度の効果が期待できます。

会社側が 生命保険に加入して保険料を支払うと、社外に現金が流出するのが一般的です。その結果、会社の資産が減り、純資産価額も減少します。

非上場企業における自社株の評価は、会社の規模にもよりますが、多くの場合、時価純資産価額を用いて評価します。そのため、保険に加入して資産が減少すれば、自社株の評価が下がるわけです。

ただし、株価を劇的に下げるほどの効果はありません。株価を下げるのであれば、別の方法と併用して行うことを推奨します。

2. 事業承継に適した生命保険の種類

次に、事業承継には、どのようなタイプの生命保険が適しているのかについて解説します。さまざまな種類がある生命保険のうち、事業承継に適しているのは、以下の4つです。

2-1. 定期保険

事業承継におすすめする生命保険の一つ目は、定期保険です。一定期間保険料を支払い、かけ捨てるタイプの生命保険は、保険料が安いため会社の負担は軽く、後継者の資金確保に役立ちます。

ただし、保障期間が過ぎてしまうと、万が一の場合でも保険金が支払われないため、注意が必要です。また、途中解約の場合も返戻金(へんれいきん)が少ないか、まったくないことになるので、あらかじめ返戻金について確認しておくことが大切です。

こうした点に留意さえしておけば、定期保険はコストを抑えて事業承継対策を行う 効果的な方法となります。

2-2. 終身保険

事業承継に適した生命保険の2つ目は、終身保険です。終身保険は、保障期間が定められておらず、解約しない限り保障が続くタイプの保険を指します。

契約者が死亡するまで契約を継続していれば、必ず保険金を得られる点が大きな特徴です。途中解約するような場合でも、払込期間に応じた返戻金が受け取れます。

ただし、解約時期によっては、返戻金が払込金額より少ない場合もあるため、その点に留意しなければなりません。終身保険は保険料が高めなので、コストと効果のバランスを見極めて選ぶ必要があります。

2-3. 長期平準定期保険

事業承継に推奨する3つ目の生命保険は、長期平準定期保険です。長期平準定期保険とは、経営者向けの生命保険の一つです。保障期間は定期保険よりも長く設定でき、かつ、定期保険とは異なり、解約時でも解約金が返ってくる場合が多いという特徴があります。

したがって、終身保険のように活用できる使い勝手の良さを兼ね備えています。また、保険料が一定であるため、会社の資金を管理しやすい点もメリットです。

2-3. 逓増定期保険

事業承継に最適な生命保険の4つ目は、逓増(ていぞう)定期保険です。逓増定期保険も、経営者向けの生命保険の一種です。加入期間が長くなるほど、死亡時の保険金が高くなり、最大5倍にまで上昇します。

ただし、解約時の返戻金のピークは5〜10年と比較的早く設定されており、ピーク以降は下がり続け、満期を迎えると0円になってしまうため、注意が必要です。

逓増定期保険は、事業承継の時期が近い未来であり、かつ、明確に定まっているようなケースで活用するのがおすすめです。

3. 事業承継対策に活用する生命保険を選ぶポイント

続いて、事業承継の対策として、生命保険を活用する際に注意すべきポイントについて解説します。

3-1. 事業承継時期が確定している場合

事業承継の時期が決まっている場合は、定期保険を利用することで保険料を安く抑えつつ、事業承継に向けた対策が講じられます。

一方、事業承継が近い将来ではなく、まだまだ先の場合は、解約返戻率のピークが20〜30年に設定されている「長期平準定期保険」を利用したほうが良いでしょう。

10年程度先の事業承継を予定している場合は、解約返戻率のピークが10年前後に設定されている「逓増定期保険」を活用し、資金などの準備を行うことを推奨します。

3-2. 事業承継時期が未定の場合

事業承継の時期が決まっておらず、できれば生涯経営者であり続けたいとお考えの場合は、解約しない限り保障が一生続く「終身保険」がおすすめです。

終身保険であれば、経営者が何歳で亡くなっても死亡保険金が支払われます。この保険金を事業承継の資金として使えば、次世代へのバトンタッチをスムーズに行えます。

ほか「長期平準定期保険」も最適です。保険料の変動がなく、定期保険のようにコストを抑えつつ長期間の保障が受けられるため、生涯現役を目指す経営者の方に理想的な保険といえます。

4. 事業承継対策に生命保険を活用するときの注意点

最後に、事業承継対策として生命保険を活用する際、注意すべきことについて解説します。特に気をつけなければならないのは、以下の3点です。

4-1. 将来的なキャッシュフローを把握する

生命保険に加入する際は、保険料の支払いに注意が必要です。保険料が高すぎると会社のキャッシュフローを圧迫し、業績が悪化すれば、資金不足で途中解約を余儀なくされる可能性が生じます。

一方、保険料を抑える目的で、あまりにも安い保険商品を選択すると、保障内容が薄く保険金も少なく、いざというときの保障をカバーしきれない場合も考えられます。

事業承継を見越して、どの保険が適しているかを複数比較・検討しましょう。そのうえで、将来のキャッシュフローをできるだけ正確に予測し、無理のない範囲で生命保険に加入することが重要です。

4-2. 事業承継のタイミングをしっかりと計画する

事業承継対策の一環として、生命保険に加入する場合は、事業承継の時期をあらかじめ計画しておくことが肝心です。

保険を解約すると返戻金を受け取ることができますが、解約返戻率のピーク前後に解約すると、返戻金が少なくなってしまいます。そうなれば、予定していた金額よりも少ない返戻金しか受け取れず、結果的に損失を出すことになります。

また、解約返戻金や保険金を受け取る際には、納税が必要になる場合があることにも注意が必要です。保険の契約者と保険金の受取人が異なる場合は贈与税の対象となり、解約返戻金や保険金以外にも相続財産がある場合は、その分も課税されることになります。

そのため、予想以上に高額な課税が生じる可能性があります。こうした事態を防ぐためには、あらかじめ返戻金のピークや発生しうる税金を理解したうえで、いつ事業承継を行うのかを明確にしておくことが大切です。

4-3. 節税対策に利用しない

生命保険は節税対策に利用できないため、この点にも注意しておかなければなりません。2019年度の税制改正により、節税(租税回避)目的での生命保険の利用は、禁止されています。

そのため、以前は会社が支払った保険料は、損金扱い(=経費扱い)にできていましたが、現在では適用されません。古い情報を頼りに誤った節税対策を行うと、あとで高額な税金を支払うことになってしまいます。

そうならないように、最新の税法に基づく理解を深めておくことが肝要です。

5. まとめ

事業承継にはさまざまな費用が必要となるため、事前に資金の準備をしておくことが大切です。その際、生命保険を活用すると、万が一の場合でも対応できる準備が整えられます。

ただし、いつ事業承継を行うかによって、加入すべき生命保険の種類は異なります。また、必要な金額次第で、支払う保険料も変わるのが一般的です。したがって、事業承継対策として生命保険を利用する際は、自社の状況に合う商品を選び、最適な保険料プランを立案することが重要です。

M&Aキャピタルパートナーズは、東証プライム上場のM&A仲介会社であり、事業承継対策としての保険商品のプランニングに詳しい専門家も多数在籍しています。生命保険を活用した事業承継対策に興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部 部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部 部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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