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日本の企業間におけるM&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)の動きは、近年増加していますが、事業承継をM&Aで行う場合は、自社株を譲受企業に譲渡する必要があります。その結果、自社は譲受企業の子会社として新たに事業を継続していくことになります。
しかし、自社株の売却先は譲受企業だけではありません。譲受企業以外にも、ファンドに売却することによって事業承継を成立させることもできます。この事業承継で活用できるファンドとして、プライベート・エクイティ・ファンド(以下、PEファンド)があります。 今回は、PEファンドの概要、投資対象や投資期間、業務の流れおよび活用するメリットについて、詳しく説明します。
目次
1. プライベート・エクイティ・ファンドの概要
1-1. プライベート・エクイティ・ファンドとは?
PEファンドとは、成長・成熟期の企業に対し比較的大規模な資金を提供する、または株主に売却機会を提供するファンドをいいます。原則過半数の株式を対象会社の経営陣の了解を経て取得し、役員派遣を行い、経営を積極的かつ中長期的にサポートして企業価値の向上に貢献し、株式公開(IPO)、第三者への譲渡、自社株買いなどの方法で最終的に保有株式の売却を行い収益を上げることを目的としています。
なお、PEファンドは、その投資先に応じて主に以下の4つの種類があります。
- ベンチャーキャピタル(VCファンド): 成長段階の初期にある企業に対し、資金を提供するファンド
- バイアウトファンド: 企業の全株式または過半数の株式を買収し、経営権を掌握するファンド
- 事業再生ファンド: 経営難に陥った企業の再生を目的に、資金と経営ノウハウを提供するファンド
- ディストレスファンド: 不良債権や経営破綻寸前の企業に投資し、その再生を図るファンド また、世界で代表的なPEファンドには、ワシントンD.C.に本拠地を置く世界最大級の米国系PEファンドのカーライル・グループやロンドンに本拠地を置く欧州最大のPEファンドのベルミラ・アドバイザーズなどがあります。
2. PEファンドの投資対象や対象期間について
PEファンドの投資対象は、その名前にPE=Private Equity (未上場企業の株式)があるとおり、オーナー系中堅企業が主となりますが、それ以外にも大企業の子会社やノンコア事業部、あるいは事業再生が必要な企業や不良債権などが含まれることもあります。
次にPEファンドの投資期間は、おおむね3年から5年とされていますが、10年近く株主として株式を持ち続ける場合もあります。投資額に見合う売却先が見つかった場合は、株式をM&AやIPOで売却し、収益を獲得します。
また、PEファンドによる投資の最大の特徴は、そのPEファンドが持つ経営ノウハウを使って投資した企業の企業価値を最大限引き上げる点です。出資によって議決権を得たファンドは、役員をはじめとする専門家チームを対象企業へ派遣します。
経営ノウハウやコネクションなどを持ったPEファンドの専門家チームは、会社が持っている本来のポテンシャルを最大限まで引き上げていきます。
3. PEファンドの業務の流れ
資金調達を完了したPEファンドが収益を得るまでに行う業務には、以下のような4つのステップがあります。 それぞれについて紹介していきます。
3-1. ソーシング
最初のステップが、ソーシングです。ソーシングとは、投資対象となる案件の発掘業務のことです。ソーシングは、どのPEファンドでも苦労しているプロセスで、証券会社や銀行からの紹介、企業への提案営業などさまざまな方法で対象先へのアプローチが行われています。
3-2. エクゼキューション
次のステップはエクゼキューションです。エクゼキューションとは、案件の実行のことです。ソーシングで決定した投資対象先に対して、企業価値評価やDD(デューデリジェンス:企業の財務や事業内容の精査)を行い、交渉を経て最終契約を締結します。
3-3. バリューアップ
第3のステップは、バリューアップです。バリューアップとは、エクゼキューションによって投資が実行されたあとの運用のことです。
PEファンドがそれぞれの企業に投資する投資期間は、一般的にはおおむね3年から5年といわれています。例えば、この期間でIRR(internal rate of return:内部収益率)で20%前後の利益を出そうとすると、イグジット時の企業価値を約2.5倍まで引き上げなければなりません。 なお、企業価値を上げるためには、主に売上の拡大と費用の削減にともなう利益率の改善が必要です。
3-4. EXIT(イグジット)
最後のステップは、EXITです。EXITとは、バリューアップによって企業価値が増大した会社の株式や事業を譲渡して、投資資金を回収することを指します。過去においてはPEファンドのEXITのほとんどはIPOでしたが、今はM&Aも一つの方法となっています。
M&AによるEXITを行う場合は、買い手候補を厳選し、DDを実施後にPEファンド内の投資委員会の決裁を受け、最終契約を締結して取引を実行します。
4. PEファンドを活用するメリット
PEファンドには企業の売り上げや利益を高めるための数多くのノウハウが蓄積されており、創業から事業再生までの様々なステージで、投資対象となる企業と深くかかわっています。ここで、企業側から見たとき、このPEファンドを活用するメリットは主に以下の通りです。
4-1. 企業価値が向上しやすい
1つ目のメリットが、企業価値の向上です。
PEファンドから出資を受けると、ファンド側から役員や専門家などのチームが派遣されます。派遣された役員は、いわゆるプロの経営者であることが多いです。彼らからは今まで気が付かなかった問題点や新たな経営手法による業務改善への道筋が示されます。
4-2. 資金調達ができる
2つ目のメリットは、資金調達です。
PEファンドは多くの機関投資家からの投資を受けているため、金融機関と比較しても潤沢な資金を持っています。また、PEファンドからの出資金は借入金ではないため、毎月の元本返済や金利などを支払う必要はありません。 したがって、出資を受けた資金はすべて、企業価値向上のために投入できます。
4-3. 自社にマッチした人材を紹介してもらえる
3つ目のメリットは、ファンドからの人材紹介です。
PEファンドは多くの企業に投資しているため、さまざまな業界の複数の企業と太いパイプを構築しています。もちろん、役員や従業員など数多くの人材との接点なども同様です。 したがって、自社のコア事業にふさわしい人材を紹介してもらえる可能性があります。
4-4. 企業文化が維持しやすい
4つ目のメリットは、企業文化の維持です。
競合企業に買収された場合は、自社の企業文化を捨てて、競合企業の企業文化に合わせなければならない可能性があります。しかし、PEファンドであれば、これまでの企業文化の維持が企業価値向上につながると考えれば維持発展を望めます。
4-5. M&Aのサポートをしてもらえる
5つ目のメリットは、M&Aのサポートを受けやすいことです。
PEファンドのEXITのひとつであるM&Aを実行する場合、M&A戦略に長けた専門家が多数在籍しています。したがって、そのノウハウを活かして企業価値を最大限まで高めたうえで、売却先企業として最適な企業を見つけてもらえる可能性があります。
5. まとめ
今回は、PEファンドの概要、投資対象や投資期間、業務の流れおよび活用するメリットについて、詳しく説明しました。
M&Aによる事業承継を考える場合、承継先候補として考えられる選択肢には、事業会社だけでなくPEファンドがあります。
PEファンドのサポートによって、会社が本来持っているポテンシャルを最大限発揮できます。そのため、経営者は、PEファンドについて理解し、必要に応じてM&Aの専門家に相談することが望まれます。
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