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M&Aスキームの一つに吸収分割があります。吸収分割とは、既存の会社の事業やそれに関連する資産・負債や契約などを切り取って、他社に移転させる方法のことです。事業の規模が大きくて事業譲渡をスキームとして使用するのが大変な場合や、グループ企業内の組織再編などの際に活用されています。
ただし、吸収分割を行うためには、分割会社と承継会社との間で吸収分割契約書を取り交わさなければなりません。
そこで本記事では、吸収分割契約書の概要や記載事項、作成時の注意点などについて解説します。
このページのポイント
~吸収分割契約書とは?~
吸収分割とはM&Aスキームの一つで、事業の規模が大きくて事業譲渡をスキームとして使用するのが大変な場合や、グループ企業内の組織再編などの際に活用されている。その際に、分割会社と承継会社との間で締結する契約書が吸収分割契約書である。記載すべき事項は「法定記載事項」と「任意的記載事項」の2つで、法令上で記載が義務付けられているものが「法定記載事項」であり、義務付けられてはいないものの記載が推奨される事項のことを「任意的記載事項」という。
目次
1. 吸収分割契約書とは?
吸収分割契約書とは、M&Aのスキームの1つである吸収分割を行う際に、分割会社と承継会社の間で締結する契約書のことです。
吸収分割を行うと、分割会社が行っている事業に関する資産・負債や権利義務などが、継承会社に移ります。この際、両社の間で契約を締結することが、会社法によって義務付けられています。
この契約締結時に用いられるのが、吸収分割契約書です。
2. 吸収分割契約書の記載事項
吸収分割に記載すべき内容は以下の2つです。
- 法定記載事項
- 任意的記載事項
それぞれ見ていきましょう。
2-1. 法定記載事項
会社法において、吸収分割契約書への記載が義務付けられている事項を「法定記載事項」といいます。法定記載事項に含まれる事項は、次の8つです。
記載項目 | 内容 |
---|---|
分割会社と承継会社の商号と住所 | 契約当事者を特定するために記載します。また、分割会社と承継会社双方の事業内容や雇用している従業員数なども記します |
承継する資産や債務雇用契約などの権利義務 | 承継会社に引き継がれる資産や負債、得意先との契約や従業員との雇用契約などを記載します。より詳細に記載する場合は、別紙へ記載することも可能です |
株式の承継に関する事項 | 分割会社または承継会社の株式を承継する場合は、その株式に関する事項を記載します |
対価として交付される金銭等の詳細 | 吸収分割の対価が以下のどのパターンに当てはまるかに応じて、その内容を記載します 【承継会社の株式の場合】 【承継会社の社債の場合】 【承継会社の新株予約権の場合】 【承継会社の新株予約権付社債の場合】 【上記以外の場合】 |
新株予約権や社債に関する事項 | 分割会社の新株予約権の新株予約権に対して、新株予約権の代替として承継会社の新株予約権を交付する場合に以下の内容を記載します A. 承継会社の新株予約権を交付する、分割会社の新株予約権の新株予約権者が保有する新株予約権の内容 B. 分割会社の新株予約権者に交付する、承継会社の新株予約権の内容、数、その算定方法 C. 分割会社の新株予約権が新株予約付社債に紐づいた新株予約権である場合は以下を記載 |
会社分割の新株予約者に対する承継会社の新株予約権の割り当てに関する事項 | 「新株予約権や社債に関する事項」の「B」に該当する場合にのみ記載します |
吸収分割の効力発生日 | 権利義務の承継が発生日を明らかにするために記載します |
効力発生日に右記行為が発生する場合はその旨 | ・全部取得条項付種類株式の取得 |
2-2. 任意的記載事項
法令上で記載が義務付けられてはいないものの、記載が推奨される事項のことを「任意的記載事項」といいます。
任意的記載事項は、会社分割という手法の本質的な内容や、一般的な社会秩序に反さなければ、契約に盛り込むことが可能です。
多くの吸収分割で記載されている任意的記載事項の例としては、以下のものが挙げられます。
記載項目 | 内容 |
---|---|
従業員や役員の処遇 | 明確にすることで、吸収分割後の不安定さが防げます |
契約解除や変更に関する事項 | 地震などの災害などで契約の遂行が難しくなった場合の契約の解除や変更の条件などを記載します |
善管注意義務 | 不適切な行動による被害を防止します |
競業避止義務 | 競合企業への転職などを防ぎます |
株主総会 | 日付を明記し、契約書に記載します |
秘密保持に関する事項 | 機密事項の保護などを確保します |
3. 吸収分割契約書の承継権利義務明細表とは
次に、吸収分割契約書に添付する承継権利義務明細表について解説します。
3-1. 承継権利義務明細表の概要
吸収分割契約書では、吸収分割契約のすべての内容を、必ずしも契約書本体に記載する必要はありません。
その代わりに、これらの内容を「承継権利義務明細表」として別紙に記載し、吸収分割契約書に添付することができます。
具体的には、承継する資産や負債、知的財産権や得意先・従業員との契約、許認可や承認・登録や届出などの具体的な権利義務の内訳を、継承権利義務明細表に記載します。
3-2. 承継権利義務明細表の具体例
以下は、掲載権利義務明細表の具体例です。自社で作成する際の参考にしてください。
4. 吸収分割契約書作成時の注意点やポイント
吸収分割契約書の作成時に、特に気をつけるべきポイントとして、以下の2点を抑えておきましょう。
- 印紙税がかかる
- 正確に作成するために専門家に頼る
それぞれ解説します。
4-1. 印紙税がかかる
吸収分割契約書を作成する際には、印紙税が必要となります。
吸収分割契約書は印紙税法における5号文書に該当するため、1通につき4万円の印紙税がかかります。したがって、4万円分の収入印紙を購入し、吸収分割契約書に貼り付けたうえで割り印をしなければなりません。
また、不動産登記変更を伴う場合には、さらに追加で印紙税や手数料が必要となります。具体的にどれくらいの印紙税や手数料が必要になるのかを知りたい場合は、税理士などの専門家に事前に相談することをおすすめします。
4-2. 正確に作成するために専門家に頼る
吸収分割契約書には、会社法第758条で定められた項目を記載しなければなりません。吸収分割契約書のテンプレートはオンライン上でも入手できますが、法的効力を有する契約書にするためには、テンプレートを自社のケースに合わせてアレンジする必要があります。
また、分割後の運営をスムーズにするためには、善管注意義務や秘密保持などの任意的な事項も記載しておいた方がトラブルの発生を未然に防ぐことができます。
したがって、社内で作成することも可能ですが、抜けや漏れもなく正確に作成するためには、弁護士やM&Aの専門家に依頼する方が良いでしょう。
5. まとめ
吸収分割契約書の記載内容には、必ず記載しなければならない「法的記載事項」と、任意ではあるものの記載しておいた方が良い「任意的記載事項」の2種類があります。
それ以外にも、契約後のトラブルを未然に防ぐためには、善管注意義務や秘密保持に関する事項なども記載しておかなければなりません。
M&Aキャピタルパートナーズは東証プライムに上場しているM&Aの仲介会社であり、吸収分割契約書の実務経験が豊富な弁護士が多数在籍しています。契約書の作成に自信がない方や疑問がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。