IN-IN・OUT-IN・IN-OUT 国内・海外におけるM&Aの概要

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人口減少に伴い国内市場が縮小傾向にある中、大企業だけでなく中小企業も積極的に海外進出を図るようになっています。その際の手段として、クロスボーダーM&Aが注目されています。

M&Aには、「IN-IN」(国内企業同士の合併・買収)、「OUT-IN」(海外企業が国内企業を買収)、「IN-OUT」(国内企業が海外企業を買収)の3種類に分けられます。このうち、故郷をまたいで行われる「OUT-IN」と「IN-OUT」の2つを「クロスボーダーM&A」と呼びます。

本記事では、3種類のM&Aの概要と、その特徴について解説します。

このページのポイント

~IN-IN・OUT-IN・IN-OUTとは?~

M&Aには国内企業間の「IN-IN」、海外企業が国内企業を買収する「OUT-IN」、国内企業が海外企業を買収する「IN-OUT」の3種類があり、「OUT-IN」と「IN-OUT」の2つを「クロスボーダーM&A」とよぶ。

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1. IN-IN(国内同士のM&A)

IN-IN(国内同士のM&A) イメージ

まずはじめに、IN-IN(国内同士の企業同士のM&A)の概要と事例を、それぞれ見ていきましょう。

1-1. IN-INとは

IN-INとは、国内企業同士のM&Aを指します。この戦略は、市場シェアの拡大やコスト削減、経営資源の統合を目的とし、特に国内市場の競争力を高めるための重要な手段となります。

かつてはM&Aに対してネガティブなイメージを持つ経営者が多く、成約件数も少なかったですが、1990年代以降、グローバル競争が激化する中で「選択と集中」を重視する動きが広がり、日本でもM&A市場が活況を呈しました。

近年では、大手企業だけでなく、中小企業においても、成長戦略や事業承継の手段としてM&Aの重要性が認識され、その件数は増加傾向にあります。

1-2. IN-INの事例

国内同士のM&Aにおける代表的な事例として、以下の3件を紹介します。

  • 日本郵政と楽天の資本業務提携
  • マツモトキヨシとココカラファインの経営統合
  • ニトリホールディングスとエディオンの資本業務提携

日本郵政と楽天の資本業務提携

2021年3月、日本郵政と楽天は資本業務提携を発表しました。これにより、楽天は日本郵政から約1,500億円の出資を受け入れ、日本郵政は楽天の株式の約8%を保有する第4位の株主となりました。

この資本業務提携の目的は、両社の強みを生かして物流や通信、金融サービスの分野で協力を強化することです。物流インフラの強化や携帯電話事業の拡大、金融サービスの連携やシナジー効果の創出を目指します。

マツモトキヨシとココカラファインの経営統合

2021年2月、マツモトキヨシホールディングスとココカラファインは、経営統合に合意したことを発表しました。

この統合の目的は、日本国内のドラッグストア業界での競争力を高めることです。仕入れや物流の効率化や商品開発の強化を促進し、顧客へのサービス向上を目指します。

なお、同年10月には共同の持ち株会社「マツキヨココカラ&カンパニー」が発足され、両社が傘下に入ることになりました。

ニトリホールディングスとエディオンの資本業務提携

2022年、ニトリホールディングスとエディオンは資本業務提携を発表しました。この提携の目的は、両社の強みを活かして、国内小売市場での競争力を一層高めることです。

ニトリは家具・インテリアの強力なブランドと広範なネットワークを持ち、エディオンは家電販売での確固たる地位を築いています。この資本業務提携は、新たな商品ラインナップの開発や、商品の相互利用、物流の効率化などを目的としたものです。

2. OUT-IN(海外企業による国内企業の買収)

OUT-IN(海外企業による国内企業の買収) イメージ

次は、OUT-IN(海外企業が国内企業を買収)の概要と事例を、それぞれ紹介します。

2-1. OUT-INとは

OUT-INとは、海外企業が国内企業を買収するM&Aの形態を指します。海外企業が日本市場への進出やシェア拡大を図る際に取られる戦略です。

国内企業にとっては、資本や技術の導入、国際的なネットワークの活用が期待できる一方、文化的な違いや経営統合の課題も伴います。OUT-INを成功させるためには、双方の戦略的な調整と統合計画が重要です。

2-2. OUT-INの事例

海外企業が国内企業を買収した代表的な事例として、以下の3件を紹介します。

  • 鴻海精密工業によるシャープの買収
  • ルノーと日産の提携
  • ロシュによる中外製薬の買収

それぞれ見ていきましょう。

鴻海精密工業によるシャープの買収

2016年、台湾の鴻海精密工業が日本のシャープを買収しました 。この買収の背景には、シャープの経営危機があります。シャープは長年にわたり経営不振に悩まされ、巨額の赤字を抱えていました。鴻海は、シャープの経営再建を目指し、3,800億円を超える投資を行い、同社の主要株主となりました。

鴻海による買収後、シャープは経営再建に向けた改革を進めます。特に、鴻海の技術力と生産能力を活かし、液晶パネルや家電事業の強化を図ることが目指されました。また、鴻海のグローバルな販売網を利用することで、シャープの製品は世界市場での競争力を増しました。この買収により、シャープは再び安定した経営基盤を築くとともに、技術革新を促進し、国際的な競争力を取り戻しています。

ルノーと日産の提携

ルノーと日産の戦略的提携は、1999年に始まりました。ルノーが日産の株式を取得し、資本提携を結ぶことで、両社は経営再建とシナジー効果を追求しました 。

提携の目的は、グローバルな競争力を強化し、開発コストの削減や技術の共有を図ることです。ルノーは、日産の経営危機を救うとともに、日産の技術力や市場展開を活用して、両社の成長を促進しました。

この提携により、両社はコスト削減や新車開発の効率化を実現し、共に強固なグローバルプレゼンスを築きました。しかし、経営統合の難しさや文化の違いから、提携にはさまざまな課題も伴いました。

ロシュによる中外製薬の買収

2001年12月、ロシュは中外製薬の買収を発表しました 。ロシュは中外製薬の株式の51%を取得し、約1,550億から1,980億円(20億から26億スイスフラン)の取引で合併を実現しています。

この買収により新たに設立された合併会社は、日本の製薬市場で重要なポジションを確立しました。ロシュは中外製薬の日本国内での販売と開発権を得る一方、中外製薬はロシュのグローバルネットワークを活用することで、製品の補完と成長が期待されました。

この統合により、両社はそれぞれの得意分野で相互に補完し、グローバル市場での競争力を高めることに成功しています。

3. IN-OUT(国内企業による海外企業の買収)

IN-OUT(国内企業による海外企業の買収) イメージ

最後にIN-OUT(国内企業による海外企業の買収)の概要と事例について紹介します。

3-1. IN-OUTとは

IN-OUTとは、国内企業が海外企業を買収するM&A戦略を指します。日本企業の多くは、国内市場の縮小や人口減少を背景に、アジアなどの新興市場、もしくは北米・欧州の巨大市場への進出を進めています。

2009年から2012年にかけて、円高の影響でアジアや豪州での大型M&Aが活発化しましたが、2012年度末に安倍政権の発足とともにアベノミクスや黒田日銀総裁の異次元緩和が円安を促進したため、IN-OUTの案件数は減少傾向に転じました。

現在、件数としてはアジア市場での案件が増加していますが、金額面では依然として北米や欧州の案件が大きな割合を占めています。

3-2. IN-OUTの事例

海外企業が国内企業を買収した代表的な事例として、以下の3件を紹介します。

  • ソニーによるソニー・エリクソンの買収
  • 日本電産によるエマソン。エレクトリックの発電事業買収
  • サントリーによるビームの買収

それぞれ見ていきましょう。

ソニーによるソニー・エリクソンの買収

2011年10月、ソニーは、エリクソンが保有するソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズの株式50%を取得しました 。この買収はソニー・エリクソンを、ソニーとエリクソンの合弁会社から、ソニーの完全子会社にするものです。なお、買収額は約10億5000万ユーロ(約1100億円)で、対価は株式でなく現金で支払われています。

この買収によって、ソニーはスマートフォンを含むネットワーク対応製品群を迅速に提供できるようになり、ユーザーの利便性が向上しました。また、全製品とサービスに対する知的財産権のクロスライセンスや、ワイヤレスモバイル技術の重要な特許も獲得しています。

日本電産によるエマソン・エレクトリックの発電機事業買収

2016年8月、日本電産は、米エマソン・エレクトリックから産業用モーター、ドライブ、発電機事業を買収すると発表しました 。買収額は約12億ドル(約1200億円)で、日本電産にとって当時最大の案件となりました。

エマソンの事業は欧州と北米で強力な基盤を持っており、日本電産の車載および家電・商業・産業用事業の拡充に寄与することを目指します。

この買収により、日本電産は世界的な産業用および商業用顧客の獲得を進める計画です。

サントリーによるビームの買収

2014年1月、サントリーホールディングスは、米ビーム社を約160億ドル(約1兆6500億円)で買収する と発表しました。買収後、両社のスピリッツ事業を統合し、売上高は約43億ドルを超え、世界のプレミアムスピリッツ市場で第3位に浮上しています。

ビーム社の「ジム・ビーム」や「ティーチャーズ」などのブランドが加わることで、サントリーはグローバル市場での成長をさらに加速させました。両社の取引はビーム社の株主と規制当局の承認を経て、2014年6月に完了しました。

4. まとめ

企業間のM&Aは、国内外でのビジネス拡大や競争力の強化を目指す企業戦略の一環です。国内では、企業が成長戦略の一環として競争力を高めるためにM&Aを行うケースが多く見られます。

一方、海外では、新市場への進出や事業の多角化を図る企業が増えています。このような動きによって、企業は国際的な影響力を強化し、グローバルな市場での地位を確立することができます。

M&Aを検討するときには、国内で完結するIN-INだけでなく、OUT-INやIN-OUTといったクロスボーダーM&Aも検討することで、より多くのビジネスチャンスが期待できるでしょう。


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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部 部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部 部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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