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日本の企業間におけるM&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)の動きは、近年増加しています。M&Aを検討する過程において、オリジネーション(Origination)という言葉を耳にすることがあります。今回は、M&Aにおけるオリジネーションの概要、ソーシング(Sourcing)やエグゼキューション(Execution)との違い、オリジネーションの業務の流れおよびオリジネーションを依頼するときの留意点について、詳しく説明します。
目次
M&Aにおけるオリジネーションとは
M&Aにおけるオリジネーション(Origination)とは、「M&A案件を発掘する活動領域」や「専門業者によるM&Aの提案・調査」などを行うプロセスをいいます。
オリジネーションはM&Aプロセスの前半部分に該当するもので、主にM&Aをしたい買い手と売り手を探し出し、その中から買い手と売り手を適切にマッチングして、双方にM&Aを提案する業務をいいます。
オリジネーションという用語は、一般的にM&Aアドバイザー側から見たときの業務の分類になり、オリジネーション業務を担当するM&Aアドバイザーをオリジネーターと呼ぶことがあります。
ソーシングやエグゼキューションとの違い
次にソーシング(Sourcing)やエグゼキューション(Execution)との違いについて、説明します。
ソーシングは、オリジネーションの前段階の業務となり、主として買い手となる企業の選定を指します。
M&A担当者は、売り手企業の情報を開示し、興味を示した買い手を20社程度選出し、買手企業のメリットを考慮して5社程度まで絞ります。オリジネーション業務をスムーズに行うために、担当者はソーシングを慎重に行う必要があります。
なお、M&Aを取り扱う企業によっては、ソーシングとオリジネーションを同一とする考えもあります。
エグゼキューションは、オリジネーションの次に行われ、M&Aクロージングまでにかかる業務を指します。
エグゼキューションの流れは、以下のとおりです。
- 基本合意書の締結が終わると、M&A担当者は売手企業の経営状況を正確に知るためのデューディリジェンスに進みます。デューディリジェンスにより、買い手は負債を背負うリスクやM&A後の利益向上の見通しを認識できるのです。
- その後、最終交渉が行われM&A条件に変更が出た場合、M&A担当者は最終契約書に修正を加えます。
- 契約書の調印が済むと、経営権の移転や書類の引き渡し・代金決済などを行い、M&Aをクロージングする流れとなります。
なお、エグゼキューションでは高い専門知識を要し、一般的に会計士や弁護士など各分野の専門家のサポートを受ける必要があります。
オリジネーションの業務の流れ
オリジネーションは、M&Aの成功を左右するほど重要な役割を担います。
先ほども述べたように、オリジネーションでは円滑なM&Aのため、売り手と買り手のマッチングを重視しますので、ここではオリジネーションの業務の流れを説明します。
3-1.M&Aの目標設定・戦略策定
M&Aプロセスの全体を通した目標設定や戦略策定は、オリジネーションの初期段階で行われます。M&Aの目標・戦略をしっかり固めることで、その後のM&Aプロセスをスムーズに行うことができます。
3-2.M&Aの業者選定
依頼する専門家の選定により、オリジネーションの充実度が変わる場合もあるでしょう。
M&Aの依頼先は、弁護士、税理士、会計士およびM&A仲介業者などさまざまです。オリジネーションは、買い手への交渉を重点的に行いますので、交渉力を得意とする専門家を選びましょう。適切な専門家選びができると、両企業のメリットを考慮しながらの交渉を遂行して行くことが期待できます。
3-3.マッチング
M&Aにより、相乗効果が出ると予測できる両企業を引き合わせる業務がマッチングです。
M&Aが成功したというには、クロージング後に売り手と買い手双方にメリットが出る必要があります。
オリジネーションで売い手の目的に沿う買い手候補に交渉を持ちかけ、買い手の目的とすり合わせることがM&A成功の近道といえます。
また、双方の目的がマッチすれば認識の齟齬も減らせるので、最終契約の決裂というリスクも軽減できるといえます。
3-4.ピッチング(提案)
ピッチング(提案)とは、担当者が両企業に適格なM&A手法を提案する業務を指します。
M&Aの手法では、株式譲渡での買収が多く見られますが、事業譲渡や合併・分割などの手法もあります。例えば、事業譲渡で一部の事業売却を希望する売い手に対し、株式譲渡を用いて企業ごと買収してしまっては、売い手の希望を満たせません。そのため、M&A担当者が、双方の企業を尊重できるピッチングを行えると、M&A後に両企業の相乗効果を期待できます。
3-5.調査・分析
M&A担当者が買い手候補と円滑な交渉をするには、事前の調査・分析が必須といえます。
両企業を詳細に把握するほどM&Aにおける相性などの理解が深まり、戦略も練りやすくなるのです。両企業の強みや弱み・経営状況などを洗い出し、そこからメリットになる点を割り出せる担当者は、説得力のある交渉につなぐことが可能となります。
オリジネーションを依頼するときの留意点
次に売手企業側から見たオリジネーションを依頼するときの主な留意点を以下に紹介します。
4-1.M&Aの目的を明確にする
専門家に依頼をする前に、M&Aの目的を明確にしましょう。M&Aは目的に合わせて戦略を練るので、不明確なまま依頼をしては戦略を立てられません。買収額を得ることが目的なら、企業価格の算定や好条件で買収可能な買手との交渉に力を入れるはずです。
4-2.優先順位を予め決めておく
売却の条件に優先順位を付けることで、買い手との交渉を円滑に行えます。買い手候補が選出されても、売い手の希望条件をすべて満たしてくれるとは限りません。希望条件が多いほど、買い手との交渉が難航するリスクも上がります。例えば、従業員の雇用存続が最優先というように、売却条件に順位を決めると、担当者は交渉に重きを置く条件を絞ることができます。
4-3.自社の資料を準備しておく
担当者が買い手と交渉しやすくするために、事前に自社の資料を準備しておくことが有用です。
M&A依頼の契約後に自社の情報を伝える流れでは、担当者が情報収集や資料作成に時間をとられます。オリジネーションを円滑に進めるためにも、事業の概要、売却に至るまでの経緯、自社の強みと弱み、財政状態や経営状況をまとめておくと、M&A担当者が聞き取りにかける手間が省け、買い手との交渉に時間を割けることができます。
まとめ
今回はオリジネーションについて説明しました。M&Aを検討している経営者にとっては、オリジネーションについて理解し、M&Aを実施する際には適切に活用することが望ましいです。