企業の合併
~吸収合併と新設合併~
吸収合併と新設合併
合併は、複数の会社を一つの法人格に統合する手法である。合併には、「吸収合併」と「新設合併」の2種類がある。
「吸収合併」は、合併により吸収され、消滅する会社の権利義務の全部を存続会社が吸収して承継させる手法であり、「新設合併」は、新規に会社を設立し、新設会社に消滅するすべての合併対象会社の権利義務の全部を承継させる手法である。
新設合併の場合、ただし、新設合併の場合、新設法人が改めて事業に必要な許認可を取得し直す必要がある等、手続きが煩雑でコストがかかるため、実務上は吸収合併が使用されることがほとんどである。
合併のメリットとデメリット
- 会社が一体化されるため、統合効果を早期に実現することができる。
- 合併対価を株式とすれば、買い手企業は資金調達せずに買収することができる。
- 「対等合併」という名のもと、対等な立場でのM&Aを印象づけることができる。
- 統合作業を早急に進める必要があることから、統合作業に対する現場の負荷が大きく、本来の事業活動が停滞してしまうおそれがある。
- 買収に伴い買い手企業の新株が発行されるため、合併比率によっては買い手企業株主の持分が希薄化し株価が下落するリスクがある。
- 会社が一つになるため、合併当事会社に重複した顧客取引がある場合その取引を縮小されるおそれがある。
吸収合併の主要な手続き
主な手続き |
内容 |
関連条文 |
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合併契約書の締結 |
合併契約に関する重要事項の決定および合併承認のための株主総会招集のために、事前に取締役会の承認を要する。 |
748条 749条 |
事前開示書類の備置 |
合併契約の内容などの法定開示事項を記載した事前開示書類を当事会社の本店に備置する。備置の開始日は、株主総会開催日の2週間前、株主または債権者への公告・通知・催告のいずれか早い日である。 |
782条 794条 |
株主総会 |
存続会社および消滅会社は、効力発生の前日までに株主総会において合併契約の承認を要する。原則として特別決議を要する。 |
309条 783条 795条 |
反対株主の株式買取請求手続 |
事前に反対の意思を表明した株主等は、当事会社に対して公正な価格で保有する株式の買取を請求することができる。請求できる期間は、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までである。 |
785条 797条 |
債権者保護手続 |
存続会社および消滅会社は、効力発生日の1か月前までに、すべての債権者に対して合併に異議を申し出ることができる旨を官報で公告し、かつ知れたる債権者に各別に催告しなければならない(ただし、公告を官報に加え、定款に規定する日刊新聞または電子公告によってする場合には、各別の催告は省略できる)。 |
789条 799条 |
株券提出手続 |
消滅会社が株券発行会社の場合、効力発生日の1か月前までに、効力発生日までの株券提出を求める公告を行う |
219条 |
効力発生および登記 |
合併契約書に規定される効力発生日において、消滅会社の権利義務は、存続会社に承継される。効力発生日以降、2週間以内に合併登記を行う。 |
921条 |
事後開示書類の備置 |
効力発生日後、6か月間存続会社の法定事項を記載した事後開示書類を本店に備置する。 |
801条 |
森山保(2016).「M&Aスキーム」選択の実務 中央経済社
上記のほか、当事会社が上場している場合等には、金融商品取引法・取引所規則により、臨時報告書の提出や適時開示等が求められる。また独占禁止法に基づく企業結合への対応が求められるケースがある。

木俣貴光(2017).企業買収の実務プロセス<第2版>p157 中央経済社
合併 法務上の留意事項
存続会社は、交付する財産の金額が純資産額の5分の1以下である場合に簡易合併に該当する。
ただし、反対株主が存続会社の総株式数の6分の1を超えた場合や存続会社が譲渡制限会社であり譲渡制限株式を割り当てる場合、存続会社において差損が生ずる場合は株主総会を省略できないことに留意。
なお、平成26年改正会社法では、従来、株式買取請求権が認められていた合併存続会社の株主にも、簡易要件を満たす場合、株式買取請求権を認めないこととなった(会社法797条1項但書)。
親子会社間の合併において、親会社が子会社の90%以上の議決権を保有している場合、子会社側の株主総会決議を省略することができる。ただし、子会社が消滅会社の場合で、存続会社の譲渡制限株式を割り当てる場合、子会社が公開会社かつ、種類株式発行会社の場合は略式合併に該当しない。また、子会社が存続会社の場合で、存続会社の譲渡制限株式を割り当てる場合、子会社が非公開会社の場合には略式合併に該当しない。
なお、親会社には略式合併の適用はない。なお、略式合併における特別支配会社17には、株式買取請求権は認められないこととなった(会社法785条2項2号カッコ書,797条2項2号カッコ書)。
合併 税務上の留意事項
税務上、合併は適格合併と非適格合併に分類される。適格合併の場合、被合併法人の資産・負債は簿価で合併法人へ引き継がれ、移転損益は計上されない。
一方、非適格合併の場合、被合併法人の資産・負債は合併時の時価で合併法人へ引き継がれ、これにより生じる移転損益は、被合併法人の最終事業年度における課税所得を構成する。
適格合併と非適格合併を分類する適格要件は、
1.合併の実行前と実行後で完全支配関係(100%)が継続している場合
2.合併の実行前と実行後で支配関係(50%超)が継続している場合
3.共同事業を営む場合
の3つに区分されており、それぞれ定められている。
適格合併の場合、一定の要件を満たした場合にのみ、消滅会社の繰越欠損金を存続会社へ引き継ぐことができる(非適格合併の場合には繰越欠損金の引継ぎは認められない)。
繰越欠損金を有する法人を合併して、不当に繰越欠損金を利用する租税回避行為を防止するため、適格合併であっても、消滅会社と存続会社との間に支配関係が5年間継続しておらず、「みなし共同事業要件」を満たしていない場合等には、支配関係が生じる前に発生した消滅会社の繰越欠損金の引継ぎが制限されている。
また、消滅会社にのみ繰越欠損金の引継ぎ制限を設けた場合、存続会社と消滅会社を入れ替えることで租税回避が可能となることから、存続会社側でも同様に繰越欠損金の使用制限が設けられている。
適格合併では、消滅会社の資産および負債を簿価で合併法人に引き継ぐ。このため、適格合併後に消滅会社から引き継いだ含み損のある資産を売却した場合は譲渡損を計上することができる。
よって、消滅会社は存続会社の繰越欠損金の引継ぎ・使用が制限される場合において、合併により含み損のある資産を引き継ぎ、合併後、当該資産を譲渡して譲渡損を計上することで、繰越欠損金の引継ぎ制限等を回避することが考えられる。
このようなケースを制限するため、支配関係が5年間継続しておらず、「みなし共同事業要件」を満たしていない場合には、合併後一定期間内に計上した存続会社および消滅会社が保有していた資産にかかる譲渡損(特定資産譲渡等損失額)は損金不算入とされている。
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