更新日
企業の資金調達方法はさまざまあり、主な手法の一つとして、新株発行による増資引受が挙げられます。会社法における募集株式の発行方法には「第三者割当」と「株主割当」があり、そのうち「第三者割当」の一つとして総数引受契約があります。
本記事では、総数引受契約の概要を紹介したうえで、メリットや記載事項、契約の流れ、注意点などについて詳しく解説します。
このページのポイント
~総数引受契約とは?~
総数引受契約とは、第三者割当増資の際に特定の引受人が全株式を引き受けることで、手続きが簡略化され、効率的な資金調達が可能となる方法です。メリットには、手続きの簡略化と短期間での資金調達が挙げられます。契約書には、契約者情報、募集する株式の種類と数、1株あたりの金額、株式の割当方法、資本金・資本準備金に関する事項、払込期日・払込場所などが記載されます。注意点として、支配株主の変更、既存株主への対応、譲渡制限株式の場合の手続き、表明保証違反のリスクがあります。
関連タグ
- #M&A
- #M&A関連記事
- #M&A用語集
- #総数引受契約とは?
目次
総数引受契約とは
総数引受契約とは、会社が第三者割当増資を行う際に、特定の引受人が全株式を引き受ける契約のことです。
会社法における募集株式の発行には、主に以下の2つの方法があります。
- 第三者に対して株式を発行する「第三者割当」
- 既存の株主に対して株式を発行する「株主割当」
第三者割当には、株主総会で決定した募集事項に基づいて株式引受けの募集を行い、申し込み者の中から割当先と割当株式数を決定する「申し込み方式」と、あらかじめ引受人を決定し、その特定の人物や法人にすべての株式を付与する「総数引受形式」があります。
総数引受契約は、この総数引受形式を採用した際に締結される契約のことを指します。手続きが簡略化され、効率的な資金調達が可能となるため、迅速に資金を調達したい企業にとって特に有効な手段です。また、引受人の意向を事前に確認できる点もメリットです。
総数引受契約を実施するメリット
総数引受契約にはさまざまなメリットがありますが、そのなかでも最も重要なのが以下の2つです。
- 手続きが簡略化できる
- 短期間で資金調達できる
それぞれ見ていきましょう。
手続きが簡略化できる
総数引受契約は、新株の引受人があらかじめ決まっているため、通常の募集新株発行に比べて手続きが簡略化されています。
一般的な募集株式の割当では、募集事項の決定、申し込み、割当決議、出資履行、登記申請など、複数の手続きが必要です。これには通常1〜2週間を要します。
しかし、総数引受契約では、対象者が既に決まっているため、申し込みや割当決議が不要となり、手続きが簡略化されるほか、申し込み者への対応などの煩雑な手続きも大幅に削減できます。このため、企業は迅速に資金調達を行うことが可能です。
短期間で資金調達できる
総数引受契約では、新株の引受人が事前に決まっているため、購入希望者の募集手続きを省略でき、資金調達までの時間を大幅に短縮できます。
申込割当方式の場合、株式の購入希望者を募る必要があります。特に非上場企業では引受人を見つけるのが難しく、資金調達に時間がかかることも珍しくありません。資金調達が遅れると、経営難や業務拡大の機会を逃すリスクが高まるため、企業の成長に悪影響を及ぼすおそれがあります。
総数引受方式を採用すれば、このようなリスクを最小限に抑え、必要な資金を迅速に確保することが可能です。また、この方法は資金調達の不確実性を減少させ、企業がより確実に成長戦略を実行できる環境を整えてくれます。そのため、総数引受契約は、資金調達を急ぐ企業にとって、有効な手段といえるでしょう。
総数引受契約書の記載事項
総数引受契約書に記載すべき事項は、主に以下のとおりです。
- 契約者情報
- 募集する株式の種類と数
- 1株あたりの金額
- 株式の割当方法
- 資本金・資本準備金に関する事項
- 払込期日・払込場所
一つずつ解説します。
契約者情報
総数引受契約は、株式発行企業と引受人との間で成立する契約です。そのため、契約者が明確にわかるよう、本文中および記名捺印部分に住所と氏名(企業の場合は企業名)を記載します。
なお、新株を一人の引受人が引き受ける場合もありますが、複数の引受人が新株を分け合うこともあります。このような場合は、各引受人ごとに総数引受契約が成立することになるため、引受人の人数分の契約書を作成しなければなりません。これにより、各契約者が契約内容を正確に理解し、合意したことが証明されます。
募集する株式の種類と数
総数引受契約書には、募集する株式の種類およびその数を記載します。
一人の引受人が発行する新株のすべてを引き受ける場合には「募集株式〇株すべてを割り当てる」と記載します。
複数の引受人がいる場合には「募集株式〇株のうち△株を割り当てる」と、それぞれの引受数を記載してください。
いずれの場合も、募集する株式の種類と数、そして引受人が引き受ける株式の種類と数を正確に記載し、誤解や混乱を避けるようにすることが重要です。これにより、取引の透明性が保たれ、円滑な資金調達が実現します。
また、株式の種類や数に誤りがあると、後の契約履行時にトラブルが発生するリスクもあるため、記載内容を慎重に確認しておかなければなりません。
1株あたりの金額
募集株式の1株あたりの金額も、総数引受契約書に記載します。
なお、実際に引受人が払い込む金額は、1株あたりの金額に株数をかけた合計額です。ですから、例えば1株が5万円で300株の場合であれば、払込金額は1,500万円となります。
総数引受契約書に払込金額を記載する必要はありませんが、認識のずれを防ぐために、契約締結時には双方で金額を確認しておいた方が良いでしょう。
株式の割当方法
総数引受契約では、一人または複数の引受人に対して、募集株式を引き渡すことができます。ただし、いずれの場合も、引受人の氏名と各人に割り当てる株式の種類、および株式数を契約書に明確に記載しておかなければなりません。この記載は、株式の割当方法に関する誤解やトラブルを未然に防ぐためのものです。
資本金・資本準備金に関する事項
総数引受契約を締結して出資金の払込を受けると、資本金額や発行済株式総数が変わるため、変更登記の申請を行わなければなりません。この際、総数引受契約書が添付書類として求められます。
したがって、登記手続きをスムーズに進めるために、総数引受契約書には増加する資本金や資本準備金に関する事項を明記しておくことが重要です。
払込期日・払込場所
総数引受契約には、払込期日と払込場所も記載します。期日を明確に記載することで、引受人に払込を促しやすくなります。
また、払込場所については金融機関の名称と支店名を正確に記載し、新株に対する金額がいつ振り込まれても良い状態にしておきましょう。
総数引受契約を結ぶ流れ
総数引受契約を結ぶ際の流れは以下のとおりです。
- 募集事項を決定する
- 総数引受契約の締結に進む
- 出資金の払い込みを確認する
- 登記手続きの実施
順番に見ていきましょう。
募集事項を決定する
新株を発行するためには、まず募集事項を決定し、株主総会で決議を行わなければなりません。決めるべき募集事項は、以下のとおりです。
- 株式の種類と数
- 1株あたりの金額
- 払込金額
- 金銭以外の財産の価額と目的
- 払込期日・期間
- 資本金・資本準備金の増加額
総数引受契約の締結に進む
株主総会や取締役会で決議された募集事項に基づき、株式の引受人と総数引受契約を締結します。引受人が複数いる場合には、各引受人ごとに契約を行わなければなりません。
また、契約書には引受株式数や1株あたりの金額をあらかじめ明記したうえで、引受人の氏名・名称と住所を記入してもらい、契約を締結します。
この手続きによって、引受人が正式に株式を引き受けることが法的に確定します。
出資金の払い込みを確認する
総数引受契約の締結後、引受人は契約書に記載された期日までに株式の代金を指定の金融機関の口座に払い込みます。出資を受けた企業側は、無事に出資金が払い込まれたかを確認しておかなければなりません。
この際に注意すべき点としては、資本金等の変更に伴う変更登記を行うためには、「払込証明書」と「資本金の額の計上に関する証明書」が必要となることです。これらの書類は、変更登記手続きの際に法務局に提出するため、あらかじめ作っておかなければなりません。
登記手続きの実施
引受人による出資が完了したら2週間以内に、発行済み株式数と出資金の変更を法務局で登記手続きする必要があります。
期限内に手続きを行うため、必要書類を事前に準備しておきましょう。必要な書類は以下のとおりです。
- 変更登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録
- 総数引受契約書
- 払込証明書
- 資本金の額の計上に関する証明書
なお、増資による変更登記を行うためには、登録免許税を支払わなければなりません。その税額は、総数引受契約によって増加した資本金の0.7%となります。
ただし、増加した資本金が僅少の場合でも、最低税額30,000円は納める必要があります。
総数引受契約における注意点
総数引受契約には、いくつか注意すべき点があります。なかでも重要な4点を紹介します。
支配株主が変わる可能性がある
1つ目の注意点は、総数引受契約によって支配株主が変わる可能性があるという点です。支配株主とは、総株主の議決権の過半数を持つ株主のことです。
新株発行によって、既存の株数を超える新株を一人が引き受ける場合、その引受人が新たな支配株主となる可能性があります。支配株主が交代すると会社の支配権が異動するため、企業の経営に影響を及ぼすリスクがあります。
また、新株発行によって既存の支配株主の保有株式が過半数以下になる場合も、企業経営における影響力のバランスが変わり、経営判断に影響が及ぶことがあるでしょう。
したがって、総数引受形式による新株発行を検討する際には、既存株主と引受人が保有する株式の割合を慎重に確認しておくことが重要です。これにより、経営への予期せぬ影響を回避することができます。
既存株主への対応が必要になる
2つ目の注意点は、既存株主への対応が必要になるという点です。新株発行に伴い支配株主が変わる場合は、発行する新株の代金の払込期日の2週間前までに既存株主に事前通知する必要があります。
この事前通知を受け、総議決権の10分の1以上を有する株主が異議を申し立てた場合、会社は払込期日または払込期間の初日前日までに、株主総会の普通決議で特定引受人への株式割当や総数引受契約の承認を得なければなりません。
このように、状況によっては対応すべき手続きが増えるため、スムーズな進行のためには事前に準備を整えておくことが大切です。
譲渡制限株式の場合は株主総会・取締役会が必要
3つ目の注意点は、譲渡制限株式の場合に株主総会や取締役会の決議が必要となる点です。非上場企業では、大半の株式に譲渡制限が設けられているため、新たに株式を発行する際には、株主総会の特別決議で承認を得なければなりません。
また、総数引受契約の承認も、株主総会や取締役会での決議が必要です。株主総会の招集通知は、公開会社では開催日の2週間前、非公開会社では1週間前までに発送する義務があるため、計画的な進行が求められます。
表明保証違反になる恐れがある
4つ目の注意点は、表明保証違反のリスクがあるという点です。総数引受契約書の記載項目には法的な定めはありませんが、引受人の氏名や募集株式の数など、会社法第203条2項の申込書に記載すべき事項が欠けていると、契約の法的効力が失われ、資金調達が実現しない恐れがあります。
特に、契約書に誤りがあった結果、表明保証違反が生じる可能性がある点に注意が必要です。表明保証とは、新株引受人に対して、新株発行会社が開示した情報が正確であることを保証するものです。
総数引受契約書には、この表明保証違反が生じた際に備え、多くの場合「表明保証条項」が記載されています。例えば、「表明保証違反があった場合は契約を無効化し、払込額を全額返金する」などの条項を設けるケースがあります。
したがって、こうした条項が契約書に設定されていた場合、開示情報に誤りが発見されると契約が無効となり、企業は払込額を返金しなければならない可能性が生じてしまいます。
そうならないためにも、記載内容に不安がある場合は、専門家に相談しながら進めるほうが良いでしょう。
まとめ
総数引受契約は、資金調達をスムーズに行うための有効な手段ですが、注意すべき点も多く存在します。ポイントを押さえながら、契約の締結から登記手続きまでを確実に進めなければなりません。
M&Aキャピタルパートナーズは、東証プライムに上場しているM&Aの仲介会社として、豊富な経験と専門知識を活かし、皆様の資金調達プロセスを強力にサポートします。ぜひお気軽にご相談ください。