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コーポレートガバナンスについて
コーポレートガバナンスは、企業の透明性や公平性を確保し、経営の健全性を維持するための重要な仕組みです。株主をはじめとするステークホルダーの利益を守り、企業価値を高める役割を担います。
近年は日本国内でも、企業不祥事の防止や経営の効率化を目的に、コーポレートガバナンスの必要性が再認識されています。
本記事では、企業統治の基本概念や役割、内部統制・コンプライアンスとの違い、さらにガバナンスを強化するための具体的な手法について、詳しく見ていきましょう。
このページのポイント
~コーポレートガバナンスとは?~
コーポレートガバナンスとは、企業が不正を防ぎつつ透明性・公平性のある経営を実現するための統治制度です。株主やステークホルダーの権利を守り、企業価値の向上や健全な成長を支える枠組みとして注目されています。内部統制・コンプライアンスとの違いを理解し、社外取締役の導入や明確な意思決定体制を通じて、効果的な運用を目指すことが重要です。
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目次
コーポレートガバナンスとは
コーポレートガバナンスは、日本語では「企業統治」と訳され、企業経営を監視・統制する仕組みのことを指します。法的な強制力は無いものの、企業の成長に欠かせない要素として認識されています。
コーポレートガバナンスでは、「会社は経営者のものではなく、株主のもの」という考え方が基本です。不正や不祥事を防止し、透明性を確保しつつ、公正な経営判断によって企業価値を向上させ、株主をはじめとするステークホルダーへの利益還元を目指します。
日本のビジネス環境においても、コーポレートガバナンスの重要性は高く、各企業で取り組みが進められています。
内部統制との違い
コーポレートガバナンスと似た概念に、内部統制があります。両者の以下の違いは下表のとおりです。
内部統制 | コーポレートガバナンス | |
---|---|---|
目的 | 従業員の不正などを防止・管理するため | 経営者の不正や暴走を防ぐため |
主体 | 経営者や社内取締役 | 株主、取締役会、顧客社会 |
取り組みの当事者 | 従業員 | 経営者 |
内部統制は、経営者や社内取締役が主体となってルールを整備することで、企業内の業務プロセスを管理し、従業員の不正やミスを防ぐための仕組みです。
一方、コーポレートガバナンスは、株主や取締役会といった外部主体が経営者を監視することで、社外から社内(経営者)への監視・管理体制を確立する仕組みとなっています。
内部統制とコーポレートガバナンスは相互補完的な関係にあり、両方を適切に機能させることで、企業経営の透明性向上が期待できます。
コンプライアンスとの違い
コンプライアンスとは、法令や企業規則、倫理を遵守することです。企業が適切な経営を行うための、具体的な行動指針を示します。
一方で、コーポレートガバナンスは、コンプライアンスを実現するための統治システムの構築に焦点を当てています。
そのため、コーポレートガバナンスは、コンプライアンスを実現するための手段の一つであるといえるでしょう。
CSRとの違い
CSRとは、企業が果たすべき社会貢献活動全般を指します。具体的には、環境保護や地域貢献活動などが含まれます。対象は消費者、従業員、地域社会、環境など、幅広いステークホルダーです。
コーポレートガバナンスは、CSRを実現するための手段の一つです。コーポレートガバナンスの適切な実施は、企業のCSRの質を高めることにつながります。
日本と海外のコーポレートガバナンスの違い
日本では、コーポレートガバナンスに関する法律上の明確な定めがありません。しかし、ヨーロッパ諸国では法律で明文化されています。
また、日本のコーポレートガバナンスの対象となるステークホルダーは、株主だけではなく、顧客や取引先、従業員、社会全体など、広範に渡ります。一方、アメリカやイギリスにおけるコーポレートガバナンスは、株主の価値向上を最優先とする形で運用されています。
コーポレートガバナンス・コードの基本原則
2015年、金融庁と東京証券取引所によって、コーポレートガバナンス・コードが策定されました。これは日本再興戦略の一環であり、上場企業の不祥事防止と、国際競争力の強化を目的とするものです。
コーポレートガバナンス・コードでは、以下の5つの基本原則を定めています。
- 株主の権利・平等性の確保
- ステークホルダーとの協働
- 情報開示と透明性
- 取締役会の責務
- 株主との対話
参考:コーポレートガバナンス・コード|東京証券取引所
法的拘束力は無いものの、東証上場企業ではコーポレートガバナンス・コードに関する報告書の提出が義務付けられています。未実施の場合は十分な説明を求められるため、多くの企業が積極的に取り組んでいます。
コーポレートガバナンスに注目が集まっている背景
コーポレートガバナンスは、1998年にアメリカで誕生した概念です。以降、経営者に対して適切な監視と管理を行い、株主の利益を最大化するための仕組みとして用いられています。
日本では、1990年のバブル経済崩壊後、企業の不祥事や経営の悪化が相次いだことを受け、企業体制の健全化を目的に、コーポレートガバナンスが注目されるようになりました。
さらに近年、国内企業の海外進出や、国際資本市場での資金調達が増加し、海外投資家からの信頼獲得が重視されるようになったことも、コーポレートガバナンスの普及に拍車をかけています。
コーポレートガバナンスによって公正な経営と透明性の高い情報開示を実施すれば、グローバルな市場でも通用する信用力を獲得しやすいためです。
コーポレートガバナンス遵守の目的・役割
コーポレートガバナンスの主な目的や役割としては、以下が挙げられます。
それぞれの詳細について解説していきます。
不正・リスクの回避
コーポレートガバナンスの第一の目的は、企業内部の不正やリスクを回避することです。
企業の不祥事が発覚すると、社会からの信頼を損ない、業績に深刻な影響を及ぼします。特に、粉飾決算や贈収賄などの不正行為があれば、株価の急落や取引先からの契約解除につながりかねません。
また、コーポレートガバナンスが不十分な企業では、M&Aプロセスの途中で不適切な経営判断を行い、統合後の混乱や財務リスクが高まる可能性があります。
こうしたリスクを未然に防ぐため、企業はコーポレートガバナンスを強化し、内部統制の整備や監査体制の強化を進めなければなりません。加えて、定期的な監査や従業員教育を実施すれば、不正アクセスや情報漏洩のリスクを最小限に抑えることが可能です。
さらに、経営陣による透明性の高い情報開示を徹底することで、不正行為への抑止力が働き、企業全体の信頼性向上につながります。
ステークホルダーの権利・利益の保護
企業活動は、株主、従業員、取引先、顧客、地域社会など、多様なステークホルダーの関係の上に成り立っています。これらのステークホルダーの権利や利益を保護することも、コーポレートガバナンスの重要な目的です。
なかでも、株主の権利保護は、コーポレートガバナンスの中心的な要素といえるでしょう。取締役会の適切な監視により、経営者が独断的な意思決定を行い、株主価値を損なう事態を防止します。
持続可能な経営を実現するために、各ステークホルダーと透明性のある対話を心がけ、公正な経営環境を整備することが不可欠です。
迅速な意思決定の実現
コーポレートガバナンスの確立は、意思決定の迅速化にも役立ちます。適切な監視体制を整え、経営者が透明性を確保しながら意思決定を行うことで、事業の方向性を明確にし、リスクを抑えつつ迅速な経営判断が可能となります。
理想的なガバナンス体制では、経営陣の責任範囲が明確になり、意思決定のプロセスが効率的に進行します。例えば、M&Aなどの短期間での判断が求められる場面では、取締役会や社外取締役の監視機能が適切に働くことで、企業価値を維持しながら戦略的な決定を下すことができるでしょう。
また、ステークホルダーとの適切な情報共有により、意思決定のスピードが高まる点もメリットです。例えば、投資家や取引先との定期的な対話を通じて、市場の変化に柔軟に対応できる体制を築くことで、競争力の強化にもつながります。
持続的な企業成長の実現
コーポレートガバナンスは、企業の持続的な成長につながります。健全なガバナンスのもとで透明性の高い経営を行えば、投資家や金融機関からの信頼を獲得し、安定した資金調達が可能です。
例えば、適切なガバナンスのもとで業務運営が行われる企業は、銀行や投資家からの信用が高まり、融資や出資を受けやすくなります。また、企業価値の向上に伴い、株価が安定し、長期的な成長戦略を遂行しやすくなるでしょう。
さらに、ステークホルダーとの継続的な対話を通じて、消費者や取引先のニーズを適切に把握し、新たな市場機会を発掘することも可能です。特に、近年は環境問題や社会貢献への関心が高まっており、サステナビリティを重視した経営が求められています。こうした取り組みが認められれば、企業ブランドの向上にもつながり、競争力の強化が期待できます。
コーポレートガバナンスの強化によってリスクを適切に管理し、経営の透明性を維持することで、企業価値の向上と社会的責任の実現を両立させた、長期的な成長基盤の確立が可能です。
コーポレートガバナンスを強化するための方法
コーポレートガバナンスの強化は、企業の健全な成長と持続的な競争力向上に不可欠です。ここでは、責任と権限の明確化、人材育成の観点から、6つの具体的な取り組みを紹介します。
内部統制の整備
内部統制は、コーポレートガバナンスの中核を担う仕組みであり、なかでも財務報告の信頼性確保や不正防止の観点から重要な役割を果たします。企業は、社内ルールを明確に定め、日常業務における不正行為を防ぐために適切な監視体制を整えなければなりません。
また、業績管理の指標としてKGI(重要目標達成指標)だけではなく、KPI(重要業績評価指標)を設定することで、パフォーマンスの把握が容易になり、組織全体の透明性向上につながります。定期的な内部監査を実施し、リスク管理を強化することも有効な対策です。
社外取締役や社外監査役の設置
コーポレートガバナンスでは、第三者による監視が不可欠です。そこで、社外取締役や社外監査役を設置し、企業の透明性と経営の適正性を確保します。
外部の視点を持つこれらの役職を設置することで、不正防止はもちろん、客観的な企業評価が可能となります。さらに、社内では見落とされがちな経営リスクを発見しやすくなる効果も期待できるでしょう。
加えて、役員人事や役員報酬の適正性を確保するために、指名報酬委員会を設置し、過半数を社外取締役で構成すれば、経営の公正性と透明性をより高めることができます。
執行役員制度を導入する
執行役員制度の導入は、経営の意思決定プロセスを効率化し、コーポレートガバナンス体制を強化する手法の一つです。
執行役員は、取締役会で決定された戦略に基づき業務を執行し、現場との橋渡しを担う役割を果たします。取締役の負担を軽減し、業務執行と監督の役割を明確に分離することで、経営の透明性を向上させる効果があります。
この仕組みにより、意思決定のスピードが向上し、経営の健全性を確保できるでしょう。また、責任の所在を明確にすることで、不正の防止やコンプライアンスの徹底にも役立ちます。
社内規定の明確化
コーポレートガバナンスを効果的に機能させるためには、社内規定を明確にし、従業員に周知徹底することが重要です。企業理念や行動規範、倫理憲章などのルールを明確化することで、経営方針の統一を図ることができます。
また、明確な基準を設けることで、従業員の意識改革を促し、企業全体でのコンプライアンス意識を高めることが可能です。これにより、組織全体の透明性が向上し、不正やガバナンス上の問題を未然に防ぐ効果が期待できるでしょう。
責任と権限の明確化
M&A後のコーポレートガバナンス強化には、買い手企業と売り手企業の責任と権限を明確にすることが不可欠です。各部門の責任範囲や、組織内の役割分担を明文化することが、統合後の円滑な企業運営につながります。
特に重要なのが、意思決定権の所在を明確にすることです。これにより、経営の混乱を防ぎ、スムーズな統合プロセスを実現できるでしょう。
価値観の共有と人材育成
M&A後の企業統合を円滑に進めるためには、価値観の共有と人材育成が重要な要素です。買い手企業と売り手企業の経営理念や文化の違いを理解し、共通の価値観を醸成することで、組織の一体感が高まり、スムーズな統合につながります。
そのためには、経営方針を明確に伝え、従業員との積極的な対話を行うことが有効です。また、統合後の人材基盤を強化するため、継続的な教育プログラムを実施し、リーダーシップを発揮できる人材の育成も推進していきましょう。
こうした取り組みにより、企業文化の違いによる摩擦を軽減し、組織全体のガバナンスが強化されます。
コーポレートガバナンスに関する取り組みの課題
コーポレートガバナンスの強化は企業経営において重要な要素ですが、一方で以下のような課題も伴います。
一つずつ解説していきます。
意思決定の速度が低下する可能性がある
コーポレートガバナンスを強化すると、企業の意思決定プロセスが複雑化し、スピードが低下する可能性があります。特に社外監査を導入すると、経営や事業に関する決定において複数の承認プロセスが求められるようになります。
これまで経営陣が迅速に判断できていた事項も、監査やコンプライアンス審査を経る必要があるため、意思決定が慎重になりすぎる可能性も否定できません。過度な慎重さは、新規事業の展開スピードを鈍らせる要因となり、競争優位性を失うリスクを伴います。
そのため、透明性を確保しつつ、迅速な判断が可能なガバナンス体制の構築が求められます。
社内体制の整備にコストがかかる
コーポレートガバナンスを強化するには、社内体制の整備が不可欠ですが、それに伴うコスト負担が課題となります。内部監査部門の設立や拡充、社外取締役の選任、外部監査の実施など、多岐にわたる要素でコストが発生します。
また、取締役の増員や部署レベルでの監査体制の強化には、専門知識を持つ人材の確保が必要であり、人件費の増加につながります。特に社外取締役は適任者の確保が難しく、専門知識を要する人材を確保することが多いため、報酬コストが増大する傾向があります。
さらに、外部監査として弁護士や会計士を起用する場合、その費用負担も軽視できません。長期的な投資として、適正なコスト配分の検討が求められます。
ステークホルダーに依存するリスクがある
コーポレートガバナンスの強化により、企業の意思決定がステークホルダーの意向に大きく影響を受けるリスクが生じます。株主や取引先、従業員など、さまざまな利害関係者の利益を考慮しながら意思決定を行う必要があるため、企業の独自性が損なわれる場合があるのです。
また、株主の短期的な利益を重視する圧力が強まると、企業の長期的な成長戦略に支障をきたす可能性があります。例えば、短期的な利益向上のために設備投資や研究開発費の削減を求められるケースもあり、結果として競争力の低下につながることも考えられます。
経営陣は、ステークホルダーとのバランスを取りながら、持続可能な成長を実現する戦略を策定することが重要です。
グループ全体のガバナンス強化のために労力・コストが増大する
近年はM&Aの活発化に伴い、企業グループ全体でコーポレートガバナンスを強化することが求められています。
しかし、子会社や海外拠点を多く抱える企業では、それぞれの法人ごとに異なる法規制や文化に対応する必要があり、ガバナンス体制の構築(グループガバナンス)にかかる労力やコストは大きな負担です。
子会社や関連会社における不正・不祥事リスクは防ぐ必要がありますが、その過程で発生する追加コストや業務負担は小さくありません。企業は、適切なガバナンスのバランスを取りながら、効率的な管理体制を構築することが求められます。
まとめ
コーポレートガバナンスの強化は、企業の透明性を向上させ、不正やリスクの軽減につながるため、企業の持続的な成長に欠かせない要素です。一方で、意思決定の遅延やコスト増加、ステークホルダーに依存するリスクなど、いくつかの課題も伴います。企業は、適切なガバナンス体制を構築しながら、迅速かつ柔軟な経営判断を行うことが求められます。
とりわけM&Aの場面では、企業文化の統合や新体制の構築が不可欠であり、ガバナンスの在り方がその成否を左右するといっても過言ではありません。だからこそ、M&Aにおける豊富な知見と実績を持つ専門家のサポートが重要になります。
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よくある質問
- コーポレートガバナンスとは何ですか?
- コーポレートガバナンスは、企業の透明性や公平性を確保し、経営の健全性を維持するための仕組みです。
- コーポレートガバナンスと内部統制の違いは何ですか?
- 内部統制は従業員の不正防止が目的で、コーポレートガバナンスは経営者の不正防止が目的です。
- コーポレートガバナンス強化の具体的な方法は?
- 内部統制の整備、社外取締役の設置、社内規定の明確化などがあります。