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範囲の経済は、事業の多角化や製品・サービスの多様化などによって、シナジー効果が生まれ、コスト削減や利益率向上といったメリットを享受できる現象のことです。
本記事では、範囲の経済の概要を解説したうえで、その効果や、メリット・デメリット、代表的な事例などについて詳しく解説します。
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~範囲の経済とは?~
範囲の経済とは、企業が事業の多角化や製品・サービスの多様化を行うことで、コスト削減と利益率向上を実現する現象です。範囲の経済の効果には、コンプリメント効果(相補効果)とシナジー効果があります。メリットとしては、コスト削減、既存のブランド力の活用、付加価値の向上が挙げられます。一方、注意点としては、管理コストの増大や資産の有効活用が難しい場合があることが挙げられます。代表的な事例として、Amazon、Yahoo! JAPAN、ソニー株式会社が範囲の経済を活用して事業拡大を成功させています。
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目次
範囲の経済とは
はじめに、範囲の経済の意味について解説します。対義語である規模の経済との違いもあわせて見ていきましょう。
範囲の経済の意味
範囲の経済とは、企業が事業の多角化や製品・サービスの多様化を行うことで、コスト削減と利益率向上を実現する現象です。これにより、効率的な事業運営が可能となります。
例えば、既存事業で大規模な工場を有している企業が、新たな事業を始めるために既存工場の設備や燃料を活用するとします。この場合、新規事業のために新たに土地や設備、経営資源を確保する必要がないため、製造や事業運営におけるコスト削減が可能です。
このように単一事業を行うよりも複数の事業を展開することで、効率性と収益性を高められている状態は、範囲の経済が効いている状態だといえます。
規模の経済との違い
範囲の経済の対義語として、規模の経済があります。規模の経済とは、単一の事業で規模を拡大することで単位あたりの製造コストが下がる現象です。
例えば、大規模な衣類製造工場を有する企業が毎日大量の衣類を製造し、出荷しているとします。製造量に関わらず製造に必要な固定費は一定のため、製造量や出荷量が増えれば、一定の固定費に対しより多くの衣類を製造していることになり、1つの衣類を製造するのにかかるコストは下がります。また、原材料についても少量を仕入れるよりも一括で大量に仕入れるほうが安くなり、結果、衣類1つあたりの製造コスト低下が可能です。
このように、単一の事業を拡大することで一括仕入れや大量生産を行い、スケールメリットを得ている状態は、規模の経済が効いている状態だといえます。
まとめると、複数の事業を展開することでコストを削減するのが範囲の経済、単一の事業をスケールアップすることでコストを削減するのが規模の経済です。
範囲の経済の効果
範囲の経済の具体的な効果として、以下の2点を紹介します。
- コンプリメント効果
- シナジー効果
それぞれ見ていきましょう。
コンプリメント効果
範囲の経済で生まれる効果にコンプリメント効果があります。これは相補効果とも呼ばれ、1つの企業が持つ資産を複数事業で活用した結果、生じるプラスの効果です。
例えば、既存の事業で、時期によっては稼働を停止している設備があった場合、その間に新たな事業の製品製造に設備を利用すれば、企業全体の生産性が向上します。1つの物的資産を複数の事業で有効活用し、プラスの効果が生じているため、コンプリメント効果が発揮されているといえます。
シナジー効果
シナジー効果も、範囲の経済によって得られる効果です。コンプリメント効果が足し算のような効果であるのに対し、シナジー効果はかけ算のような効果です。
例えば、フィルム製品を扱っていた企業が、医療機器業界に進出したとします。医療機器業に進出したからといって、フィルム製品製造業の停止はありません。既存事業で得たノウハウや知識を、新事業展開に向けた製品開発に活用でき、新事業分野で開発された技術が既存事業の成長に役立つ可能性もあります。
このように、双方の事業を展開することでお互いにプラスの効果を得ることがシナジー効果です。
範囲の経済のメリット
企業が範囲の経済を理解し、事業の多角化や製品・サービスの多様化を行うことで、以下のようなメリットを得ることが可能です。
- コスト削減につながる
- 既存のブランド力を活かせる
- 付加価値が高まる
一つずつ紹介していきます。
コスト削減につながる
範囲の経済によるメリットは、コスト削減ができることです。
製造業では、複数のグループ企業で事業を分散するより、1つの企業に設備を集約するほうが資産を効率的に活用でき、コスト削減につながります。これにより、新規設備投資や管理コストの削減が可能です。
また、複数の事業にわたり資源や資産を活用することでリスク分散にもつながり、経済環境や市場環境に変化が生じた際の柔軟な対応も可能となります。
既存のブランド力を活かせる
既存事業においてある程度のブランド力を有している場合、新規事業においても活用することが可能です。
例えば、食品加工業界で消費者からの支持を得ている企業が外食産業に参入した場合、既存のブランド力を活かして早期に顧客を獲得できる可能性が高まります。
新規事業をゼロから始める場合、自社のブランディングやPRには多額の費用が必要です。加え、顧客からの信頼を得るまでに時間もかかるでしょう。しかし、新規事業を起こす際に既存事業の知名度を活用すれば、ゼロから始めるよりも優位に事業を展開できます。
付加価値が高まる
既存事業の付加価値が高まる点も範囲の経済のメリットです。
例えば、百貨店向けの高価格帯化粧品を取り扱っていた企業が、ドラッグストア向けに安価な化粧品ブランドを立ち上げたとします。これにより、既存事業と新事業の間で差別化したうえで、既存事業の付加価値や顧客の購買意欲向上が可能です。
また、既存事業の顧客が新ブランドへと流入したり、新ブランドの顧客が既存事業を認知したりすることも期待できます。
範囲の経済の注意点
範囲の経済を期待した施策を実施する際には、「範囲の不経済」が生じるリスクを考慮するがあります。企業が多角化を進める際には、以下の注意点を押さえたうえで、慎重な計画と管理を行いましょう。
- 管理コストが増大する
- 資産をすべて活かせるわけではない
順番に解説します。
管理コストが増大する
製品や事業を増やしすぎると、管理コストが増大する可能性があります。
事業の多角化が進めば、事業特性の違いにより、設備や組織の管理コストの上昇は避けられません。コストが増大すれば、範囲の経済によって享受できる経済的メリットを上回ってしまうおそれがあります。
範囲の経済による効果を得られるよう、新規事業のビジネスモデル構築時には、資源の共有が可能かどうか慎重な検討が重要です。また、生産設備や物流網の共用は、既存事業の収益に影響しないよう注意が求められます。
資産をすべて活かせるわけではない
企業が複数の事業を営むことで資産を有効活用できることが範囲の経済のメリットですが、事業同士の関係性が薄い場合、その資産は活かせません。
例えば、建築業を展開していた企業が新たに食品小売業界に進出した場合、既存の工場や設備は活用できず、新たに設備を確保する必要があります。また、建築業界において知名度を有していたとしても、食品小売業では活用できない可能性が高いでしょう。
このように、関連性の薄い事業展開では、範囲の経済は必ずしも成功しないことに留意する必要があります。
範囲の経済の事例
ここでは、範囲の経済を活用し、コスト削減と利益率向上を実現できた事例について紹介します。
Amazonの事例
Amazonは、範囲の経済を活かして事業拡大した事例の1つです。
もともとはインターネットで本を売るECサイトでしたが、物流倉庫やシステム構築に多くのコストを費やしました。この基盤を利用して本以外の商品にも手を広げ、事業を拡大しました。
既存の仕組みやノウハウ、顧客名簿を活用することで範囲の経済が働き、新規事業を次々と成功させ、現在では巨大ECサイトへと成長しています。
Yahoo! JAPANの事例
総合インターネットサービス企業を提供しているYahoo! JAPANは、ポータルサイト以外にもヤフオク、Yahoo!地図、トラベル、ニュースなど多方面に事業を展開している企業です。これにより顧客データベースやポイントサービスを共通化し、決済サービスの導入で事業コストを削減しています。
また、買収した他社サービスに「Yahoo!」というブランド名を付けることで、消費者に安心感を与えています。
ソニー株式会社の事例
電気製品製造からはじまったソニー株式会社は、1950年代のトランジスタラジオ開発による市場での地位確立を皮切りに、さまざまな分野へと事業を展開しました。
よく知られている事業展開には、1994年のプレイステーションの発売によるゲーム業界への進出、1968年のソニーミュージックエンターテイメント設立によるレコード業界への進出、1979年のソニー生命設立による保険業界への進出などがあります。
ソニーは範囲の経済によるシナジー効果により、技術力の深化やリスク分散を実現し、成長を続けています。
まとめ
範囲の経済は、企業が事業の多角化や製品・サービスの多様化を行うことで、コスト削減と利益率向上を実現する現象です。これにより、効率的な事業運営が可能となります。しかし、管理コストの増大や資産の有効活用が難しい場合もあるため、慎重な計画と管理が求められます。
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