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事業承継と資産移転について
事業承継時には資産の移転も伴うことがほとんどですが、ここでいう資産とはどのようなものなのでしょうか?また、資産移転の方法や移転後の処理についてはどのように行えばよいのでしょうか?
本記事では、事業承継に伴う資産移転について、事業承継の概要、特に個人事業を事業承継した場合の減価償却資産の取扱いについてわかりやすく解説します。事業承継に伴う資産移転について理解を深めるのにお役立てください。
※なお、本記事に記載されている内容は現行制度上のものであり今後改正等で変更される可能性があることにご留意ください。
このページのポイント
~事業承継と資産移転とは?~
テーマ「事業承継と資産移転」とは、企業の事業や資産を後継者に引き継ぐ過程で特に資産の移転に焦点を当てた内容です。資産移転には税務上の減価償却の取扱いや税負担の軽減策が関わり、適切な管理が経営の安定に不可欠です。個人事業承継時の実務のポイントも示し、専門家活用の重要性を解説します。
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目次
事業承継とは
まずは事業承継の概要から説明していきます。
事業承継とは、単なる経営権や資産の引き継ぎではなく、企業が長年築いてきた無形の価値、文化や信頼関係、技術といった「見えない資産」も次世代へと渡す、極めて重要なプロセスです。
自分が創業した会社や、先代から引き継ぎ成長発展させた会社は、経営者自身にとって強い思い入れのある存在です。そのため、次世代へとバトンを渡す事業承継は、経営者の最後の大仕事ともいえます。
事業承継にあたっては、以下の3つの要素を総合的に引き継ぐ必要があります。
人(経営)の承継
経営者の交代には、後継者の選定・育成が欠かせません。経営力だけでなく、従業員や取引先との信頼関係も継承されるべき重要な資産です。法的には代表取締役の変更手続きも必要です。
経営資源の承継
経営理念やノウハウ、顧客情報といった知的資産の引き継ぎは、事業の継続と成長のカギとなります。不十分な引き継ぎは、経営の混乱を招く恐れがあります。
資産の承継
株式、不動産や設備などの資産は、契約や税務手続きと共に承継されます。特に不動産や設備などの資産を引き継いだ場合にはその後の減価償却の計算などの資産管理も重要となります。そのため、弁護士や税理士等の専門家によるサポートを受けながら進めることが重要です。
また、事業承継は、引き継ぐ相手によって主に以下の3種類に分類されます。
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親族内承継
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親族に引き継ぐ方法で、教育期間を確保しやすく税制上のメリットもあります。一方で、適任者がいないことも多く、その場合は他の方法を検討します。
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従業員・役員への承継
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社内にいる信頼できる人材に承継できる反面、責任や資金面の負担から断られる可能性もあります。
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第三者承継(M&A)
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外部の企業などに事業を売却する方法で、経営者が資金を得られる一方、手続きが複雑で時間もかかります。適切な準備とM&Aの専門家の支援が重要です。
なお、さらに詳しく知りたい場合は、以下の関連記事をご覧ください。
事業承継に伴う資産移転
ここから事業承継に伴う資産移転について解説します。
事業承継で引き継ぐ具体的な要素の1つに資産があります。具体的には株式、事業用資産(設備・不動産等)、資金(運転資金・借入金等)がありますが、特に個人事業を事業承継した際の事業用資産(設備・不動産等)の引継ぎは、会計上の固定資産として適切な減価償却の実施が重要です。それは、適切な減価償却を行っていないと、事業承継で引き継ぐ固定資産の評価額が高くなり、相続税・贈与税の負担も大きくなるためです。
そのため、ここからは事業承継した固定資産の減価償却に関する基礎知識、減価償却の基本的なルール、個人事業の事業承継における減価償却の実務上のポイントなどを順に説明します。
減価償却とは
減価償却とは、建物、構築物、機械装置などの固定資産を使用年数に応じて資産価値を減少させていき、減少させた分を経費として計上する会計手続きをいいます。これらの固定資産は、会社が事業活動を行うあたり長期間にわたって利用されるため、使用期間の経過とともに価値が減少するということを理解しておく必要があります。
事業承継によって引き継いだ資産にも減価償却は適用されます。
なお、減価償却に関連する用語は主に以下のようなものがあります。併せて覚えておくことをお勧めします。
用語 | 説明 |
---|---|
減価償却資産 |
|
減価償却費 |
|
取得価額 |
|
耐用年数 |
|
減価償却累計額 |
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未償却残高 |
|
事業承継した資産の取扱い
次に減価償却の対象となった、事業承継した資産の取得価額、耐用年数、償却方法及び税金について順に説明します。
事業承継した資産の取得価額
事業承継した資産の取得価額は、後継者が引き継ぐ際の取得価額として、「前任者の取得価額から減価償却累計額を差し引いた金額」となります。
なお、減価償却累計額とは、前任者が所有していた資産の減価償却費の累積額をいいます。この取得価額は、後継者にとって事業承継時の資産価値を示したものです。
事業承継においては、正確な取得価額の把握が重要となります。この計算方法によって、後継者は適切な減価償却処理を行い、資産の価値が適切に管理することができます。
例えば、個人事業から法人へ1億円の固定資産(機械装置)を引き継ぐ場合の仕訳は以下のとおりとなります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
機械装置 | 1,000万円 | 資本金 | 1,000万円 |
事業承継した資産の耐用年数
事業承継した資産の耐用年数はそのまま引き継がれます。つまり、前任者が設定した耐用年数が後継者によって引き継がれ、引き続き使用されます。
例えば、前任者が固定資産(機械装置)に対して10年の耐用年数を設定して、2年間使用していた場合、10年から2年を引いた残り8年間で同様に減価償却をしていきます。
耐用年数は、資産の経済的な寿命や価値減少の見積もりに基づいて設定されるため、引き継ぐ側もそれに従い適切な減価償却を行う必要があります。
事業承継した資産の償却方法
事業承継において、引き継いだ資産の償却方法は、前任者から後継者には引き継がれません。後継者は自身の判断に基づいて償却方法を選択する必要があります。
そして、この選択には税務署への届け出が必要となります。
主な償却方法には、定額法と定率法があります。それぞれ具体例を交えて説明します。
定額法
定額法とは、毎年一定額の減価償却費を計上する方法です。計算が簡単なので、複数の償却資産を保有していても、毎年一定額の費用を計上するので将来の見通しが立ちやすいメリットがあります。
減価償却費は「取得価額 × 定額法の償却率」で算出します。例えば、取得価額1億円、耐用年数10年の固定資産(機械装置)の場合は、1,000万円の減価償却を10年間計上することになり、1年目からの仕訳は以下のとおりとなります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 1,000万円 | 減価償却累計額 | 1,000万円 |
定額法は、計算方法が分かりやすく帳簿をつけやすいですが、時期に関わらず一定額の経費計上になるので、利益の相殺に利用しづらい面もあることに留意が必要です。
定率法
定率法とは、未償却残高を一定割合で償却する方法です。初年度の償却費を高く計上して徐々に逓減していく方法なので、投資額を早めに回収したい場合に採用されます。
減価償却費は「期首未償却残高 × 定率法の償却率」で算出します。償却率をかける基準額が徐々に減っていくので、算出される減価償却費も低くなる仕組みとなっています。
例えば、取得価額1億円、耐用年数10年の固定資産(機械装置)の場合は、1年目は2,000万円(=1億円 × 20%)の減価償却を、2年目は1,600万円(=8,000万円 × 20%)の減価償却を計上していくことになり、算出される減価償却費も毎年低くなっていきます。なお、1年目の仕訳は以下のとおりとなります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 2,000万円 | 減価償却累計額 | 2,000万円 |
また、定率法の償却率は、国税庁の減価償却資産の償却率表で確認することができます。
定率法は、定額法と比較すると計算方法が複雑になりがちで、実務上の負担が大きくなる傾向があります。さらに、耐用年数の後半年度になると減価償却費が低くなるので、節税効果が弱まっていくデメリットもあることに留意が必要です。
事業承継した資産にかかる税金
事業承継においては、相続税や贈与税が関係します。
これらの税金は、承継時の資産の未償却残高を基準にして計算されます。なお、未償却残高は、資産の取得価額からこれまでの減価償却累計額を差し引いた金額です。
個人事業を事業承継する際には、原則として、固定資産を贈与する場合には贈与税、相続する場合には相続税が課税されます。ただし、贈与税には110万円の非課税枠がありますので、110万円以下の固定資産の贈与であれば非課税です。
また、青色申告にかかる事業の後継者として、2019年1月1日から2024年3月31日までに都道府県知事から認定を受け、2019年1月1日から2028年12月31日までの贈与・相続などにより特定事業用資産を承継した場合に、事業承継税制が適用されます。
事業承継税制が適用されると、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税が猶予され、最終的には免除も可能です。
固定資産の所有権を事業承継しない場合
個人事業主の事業承継では、事業用資産の事業承継は相続税・贈与税の負担が大きいため、事業用資産の所有権を引き継がずに、被相続人の所有物のまま事業用に使用する場合もあります。
この場合、事業用資産は先代経営者から事業用資産を借り受ける形となります。使用貸借が有償・無償に関わらず対価の授受があったものとした場合には、相続人は通常通り減価償却を行うことができます。
ただし、被相続人と相続人が生計を一にしているという条件があります。例えば、生活費のやり取りがなく別々の住居に住んでいるなど、独立した生活を送っている場合は、減価償却費や固定資産税、修繕費等の経費計上ができません。このことに留意が必要です。
なお、事業承継時の相続税・贈与税は、所有権を移転していない固定資産については発生しません。これは手元に資金を残しやすい方法なので、個人事業主の事業承継で選ばれやすい方法となっています。
まとめ
今回は事業承継に伴う資産移転について説明しました。
事業承継は、経営者の熱い想いや築き上げた技術や資産を次の後継者につなぎ、発展・成長していくことを目的としています。しかし、事業承継において引き継ぐ資産が多い場合は減価償却の会計処理が大きな負担になります。そのために実務上の不安がある場合には、弁護士や税理士等の専門家に相談して進めることが重要です。
また、事業承継でM&Aを検討する際にはM&Aの専門家へ相談する選択肢もあります。
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よくある質問
- 事業承継における資産移転とは何ですか?
- 事業承継時に、設備や不動産などの事業用資産を後継者に引き継ぐことを指します。適切な会計処理と税務対応が必要です。
- 減価償却とはどのような仕組みですか?
- 減価償却とは、固定資産の使用による価値の減少を経費として計上する会計手続きです。期間に応じて資産価値を配分します。
- 事業承継で引き継いだ資産の取得価額はどう決まりますか?
- 取得価額は、前任者の取得価額から減価償却累計額を引いた残額となります。この額を基に減価償却を継続します。
- 事業承継をしても耐用年数は引き継がれますか?
- はい、前任者が設定した耐用年数から使用済期間を差し引いた年数が、後継者の耐用年数となります。
- 資産の所有権を移転しない場合も減価償却できますか?
- 原則、同一生計であれば使用貸借でも減価償却可能です。ただし別居などで独立している場合は経費計上できません。