業務移管とは? メリット・デメリット、手続きや注意点について解説

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企業の経営効率化やコスト削減を実現する手段として、業務移管が注目されています。しかし、その実施には慎重な検討と準備が必要です。ここでは、業務移管の基礎知識から実務上の注意点まで、詳しく解説していきます。

このページのポイント

~業務移管とは?~

業務移管は、企業内の別部門や外部企業に業務の管轄を移す手段で、経営効率化やコスト削減が目的。系列企業や関連工場への移管が一般的で、外部企業への移管は「オフショアリング」と呼ばれる。実施には慎重な検討と準備が必要。

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1. 業務移管とは

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業務移管とは、企業の業務の管轄(業務を管理し実行する権限)を、同企業内の別部門や外部企業に移すことです。系列企業や関連工場などに業務を移管するだけであり、外部企業への業務移管は「オフショアリング」と呼ばれています。

1-1. 業務移管と事業譲渡の違い

業務移管と事業譲渡は、どちらも事業を他へ移す点では共通していますが、その本質は大きく異なります。

事業譲渡はM&Aの手法の一つで、企業の事業の全部または一部を他の企業へ売却することです。売却の際、買い手側は売り手側に対価を支払います。売却後は事業の権限・責任等が買い手側に移るため、売り手側は会社方針や経営に関与できなくなることが多いです。

一方、業務移管では特定の業務を他に移管するだけなので、経営方針の決定権や事業の運営権は委託側企業に残ります。業務移管を委託する側が受託側に対価を支払う点も特徴です。

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目的の違い

業務移管の主な目的は、業務の一元化による効率化を図ることです。業務を集約することで重複業務を無くし、コスト削減や人員削減を可能とします。また、複数の事業を展開している企業では、業務移管によって経営リソースを集約することで、不採算事業の再建を試みるケースも見られます。

一方で、事業譲渡は売買行為であるため、買い手と売り手それぞれの立場によって、目的が以下のように異なることが特徴です。

買い手の目的 売り手の目的
  • 事業成長の手間・時間の削減
  • 節税効果の活用
  • リスク回避
  • 自社に無い技術や商品の獲得
  • 後継者不足への対応
  • 法人格の継続
  • 事業の選択と集中
  • 再生型M&A(不採算事業の再生)

1-2. 対象の違い

業務移管と事業譲渡では、移管・譲渡の対象が大きく異なっています。

業務移管の対象となるのは、工場での単純な生産業務、伝票発行・経費集計などのデスクワーク、コールセンターなどのバックオフィス業務が中心です。マニュアル化され、臨機応変な対応をあまり必要としない業務が主になっています。また、専門性の高い業務についても、その業務を得意とする外部企業への移管により効率化を図ることが可能です。

業務移管の対象 事業譲渡の対象
  • 工場での単純な生産業務
  • 伝票発行・経費集計などのデスクワーク
  • コールセンターなどのバックオフィス業務
  • 債権・債務
  • 人材
  • 設備
  • ブランド
  • ノウハウ
  • 取引先

一方、事業譲渡の対象には、債権・債務、人材、設備、ブランド、ノウハウ、取引先など、事業運営に関わる幅広い要素が含まれます。これは、事業自体の売買であるため、事業運営に必要な資産や経営資源全般を対象とする必要があるためです。

2. 業務移管を行うメリット

業務移管を行う主なメリットは、以下の2点です。

  • 作業効率向上による業務スピード・品質の向上
  • 社内リソースの最適化

これらのメリットは、社内で業務移管する場合と、社外に業務移管する場合とで、異なる効果を生み出します。以下で詳しく解説します。

2-1. 社内で業務移管する場合

社内での業務移管では、資産や負債、契約などの移転を伴わないため、外部への移管と比較すると手続きを簡素化でき、短期かつ低コストでスムーズな移管が可能です。

業務を担当する従業員ごと部門を異動させる場合、個別の引き継ぎが不要となるため、これまでどおりの業務遂行を維持できます。それに加えて、部署間の連携強化や専門性の向上による業務効率化が期待できるでしょう。社内での業務連携体制を構築することで、組織全体の連携力向上にもつながります。

2-2. 社外に業務移管する場合

外部企業への業務移管には、社内業務の負担軽減というメリットがあります。これにより、従業員がより重要な業務に集中できる環境が整うでしょう。移管した業務の担当者は他部門への配置転換が可能となり、人材の有効活用を図ることができます。

また、専門的な知識や技術を持つ外部企業に業務移管することで、業務の質向上や効率化が実現可能です。不採算部門を抱える企業の場合、外部企業への業務移管を通じて経営状況の改善を図れば、事業の立て直しにつながる可能性が広がります。

3. 業務移管を行うデメリット

業務移管にはメリットだけではなく、以下のようなメリットも存在します。

  • 業務移管完了までに手間やコストがかかる
  • 人材流出のリスクがある

これらは企業の事業継続性に大きな影響を与える可能性があります。以下でそれぞれ解説します。

3-1. 業務移管完了までに手間やコストが生じる

業務移管の対象や社内の状況、委託先によっては、完了までに相当な時間を要することがあります。

特に、外部への移管では、従業員に関する個別の対応など、さらに多くの時間と手間が必要となるケースが見られます。契約交渉やデューデリジェンスといった移管に伴う費用も発生するため、想定外のコストが発生する可能性もあります。

また、社内への移管であっても、多くの時間や手間を要するケースは少なくありません。

3-2. 人材流出のリスクがある

業務移管に伴う部署異動や転籍をきっかけに、従業員が離職するリスクが存在します。特に、外部への業務委託に際して社内担当者を出向させる場合、以下のような動機による退職を招く懸念があります。

  • 出向命令への不満から退職するケース
  • 出向先に魅力を感じて転職を決意するケース

上記のリスクを軽減するためには、従業員との積極的なコミュニケーションが欠かせません。移管に関する情報を適切に開示し、従業員の意見を収集する場を設けるなど、双方向のコミュニケーションを促進することで、不安や不満の解消を図ることが重要です。

4. 業務移管を進めるうえで必要な手続

外部やグループ内の別法人との間で業務移管を行う場合、適切な契約書の締結が必要となります。主要な契約書は、秘密保持契約書と業務委託契約書の2種類です。

秘密保持契約書は業務委託交渉の実施前に、双方の機密情報を保護する目的で締結します。その後、交渉を経て業務移管の詳細が固まった段階で、業務委託契約書を取り交わすことになります。

なお、事業譲渡に伴う業務移管の場合、事業譲渡契約書の締結も必要です。一方、社内での業務移管では、特別な契約書の締結は不要です。

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5. 業務移管の手順・流れ

業務移管は通常、以下の5つのステップで進められていきます。期間はケースバイケースですが、全体でおおよそ10ヶ月以上掛かると見ておくと良いでしょう。

ステップ 期間 概要
1.スキームの決定 開始 1~2ヶ月
  • 目的に照らし、事業譲渡と業務移管どちらのスキームが適切か検討する。
  • 検討にあたっては現行業務の分析、移管・譲渡後のリスクの洗い出し、移管・譲渡の業務範囲や対象部門等を明確にする。
  • 検討の結果、事業移管が適切と判断したら次のステップに進む。
2.労務・法務上の問題の確認や外部パートナーの選定 計画後 1~3ヶ月
  • 移管対象となる部門・従業員等とヒアリングを実施する。
  • 労務上の問題点や、秘密保持契約、業務委託契約の締結・巻き直し等、法務上必要な事項についても確認する。
  • 信頼できる外部パートナーを選定する。
3.移管に向けた具体的な準備 計画後 4~6ヶ月
  • 移管後の業務プロセスの再設計、教育・トレーニングを実施する。
  • システム面でも移行に対応する。
4.移管実施と移管直後の念密なフォローアップ 計画後 7~9ヶ月
  • 契約に沿って、リソースや業務の正式な移行を行う。
  • 移管後のフォローアップ体制を設置し、特に移管直後は円滑に稼働しているか念密に確認する。
  • 万が一トラブルが発生した際のリカバリープランを用意する。
5.移管後の継続的な改善 計画後 10ヶ月以降
  • 移管後に都度発生する問題・課題の分析、それらの改善策の立案と実行を継続する。

6. 業務移管を行う際のポイント

業務移管において重要なのは、移管後の経営統合と業務の引き継ぎをスムーズに進めることです。

この過程がうまくいかないと、事業の停滞や顧客・取引先からの信頼低下を招く恐れがあります。その結果、期待したシナジー効果が得られないばかりか、顧客離れによる売上低下で業績に悪影響が及ぶ可能性も出てくるでしょう。

こうした事態を防ぎ、業務移管の効果を最大限に引き出すためには、下記の3つのポイントを押さえることが重要です。

  • 業務内容を洗い出し、業務マニュアルを作成する
  • スケジュールに余裕を持って実施する
  • 関係各社に向け事前説明を行う

7. まとめ

業務移管は、業務の効率化やコスト削減、人材の有効活用などを実現できる有効な手段です。

ただし、実施にあたっては入念な準備と計画が必要となります。社内での業務移管では手続きが比較的簡素化されるものの、外部への業務移管では契約書の締結やさまざまな調整が必要となるでしょう。また、従業員の離職リスクにも十分な注意を払う必要があります。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社コーポレートアドバイザリー部 部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 コーポレートアドバイザリー部 部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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