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医療法人の出資持分について
医療法人の出資持分は、持分の有無により相続・解散・譲渡時の扱いが大きく異なり、法人の運営や財務を大きく左右します。厚生労働省は、出資持分なしへの移行を推進していますが、現状では出資持分ありの医療法人が半数以上です。
本記事では、出資持分ありの医療法人と、なしの医療法人の違いや現状について紹介します。よくある質問にも回答しているので、ぜひ参考にしてください。
このページのポイント
~医療法人の出資持分とは?~
医療法人の出資持分とは、法人に対する出資者の財産的権利を指します。持分の有無により相続・解散・譲渡時の扱いが大きく異なり、特に出資持分あり法人では相続税や買取請求リスクが課題です。持分なし法人への移行や基金制度などの選択肢もあり、将来を見据えた検討が重要です。
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目次
医療法人の出資持分とは
医療法人の出資持分とは、出資者が医療法人に対して持つ財産に対する権利です。この権利によって、出資者は法人の財産から出資額に応じた払い戻しを受けたり、残余財産が分配される際に権利を主張したりすることが可能です。
医療法人の出資持分は、医療法参考:医療法(e-Gov 法令検索)により、定款によって定められると規定されています。
持分ありの医療法人とは
持分ありの医療法人では、出資者に対する財産の分配および返還に関する規定が設けられています。医療法人が解散する際や、出資者が退社する際には、この権利が活用されます。
2007年の医療法改正では、非営利性を徹底し医療提供を安定させるため、出資持分あり医療法人の新規設立が禁止されました。法改正前に設立された持分あり医療法人は、「経過措置型医療法人」として一定期間その形態を維持できますが、将来的には持分なし医療法人への移行が推奨されています。
なお、持分ありの医療法人の仕組みは株式会社の株主が持つ株式持分に似ていますが、医療法人は非営利性を重視するため、仕組みが異なります。
株式会社では、株主総会での議決権と残余財産分配請求権がセットで与えられます。この点、医療法人では、社員総会の構成員=出資者とは限りません。実際には社員と出資者が同一人物であることが多いものの、法的には社員が非出資者でも構わないとされています。
持分なしの医療法人とは
出資持分なしの医療法人では、持分の設定が認められず、法人の財産は法人自体が管理し、その目的を達成するために使われます。2007年の医療法改正以降に設立された医療法人は、すべてこの形態です。解散時に財産が分配されることはなく、相続税や贈与税の問題が生じにくい特徴があります。
ただし、出資持分なし医療法人の一つである基金拠出型法人は、解散時や基金返還請求権が行使された場合に、拠出された資金を返還しなければなりません。この返還条件は、定款に明確に記載される必要があります。
医療法人における出資持分あり・なしによる違い
医療法人の出資持分の有無は、財産権や解散時の権利、買取請求権、相続、売却手法などに大きな違いをもたらします。それぞれの違いについては、以下の表にまとめました。
区分 | 持分あり医療法人 | 持分なし医療法人 |
---|---|---|
財産権 |
○ 出資者は、出資額に応じて医療法人の財産に対する権利)を有する |
× 出資者は、医療法人の財産に対する権利を有しない |
解散する際の権利(残余財産) |
○ 出資割合に応じて出資者に分配される |
○ 出資者への分配・返還なし |
買取請求権 |
○ 出資者は、持分を医療法人に買い取るよう請求できる |
× 出資者は、持分の買取請求権を有しない |
相続 |
○ 相続の対象となる |
× 相続の対象とならない |
売却する際の手法 |
|
|
財産権
出資持分のある医療法人の出資者は、法人の財産に対する権利と、出資額に応じて返還を請求する権利を持っています。
一方で、出資持分なしの医療法人の出資者は、法人の財産に権利を持ちません。
例えば、医師2名で出資した医療法人を例に挙げてみます。出資持分ありの医療法人の場合には、両医師がそれぞれの出資額に基づいて財産権を有することになります。一方で、出資持分なしの医療法人の場合には、両医師ともに財産権はありません。
ただし、出資持分なしの医療法人において、基金拠出型医療法人である場合には例外的に、拠出者が拠出した資金の返還を請求することができます。この返還条件は、定款に明確に記載される必要があります。
解散する場合の権利
医療法人が解散する際、出資持分のある医療法人では、残余財産が出資割合に応じて出資者に分配されます。
一方、出資持分なしの医療法人が解散する場合は、残余財産は出資者に分配されず、国庫に帰属します。ただし、基金拠出型医療法人の場合は、拠出者は拠出した金額の返還請求が可能です。
たとえば、医師2名が4000万円ずつ出資して設立した出資持分ありの医療法人で、解散時に6000万円の財産が残っている場合を考えてみましょう。この財産については、設立した医師に各3000万円の割合で帰属します。
買取請求権
複数の医師が開業し医療法人を設立した後、一部の医師が法人を離れる場合、出資持分ありの医療法人において買取請求権が行使された場合には、離れる医師の出資分を他の医師が買い取らなくてはなりません。
一方、出資持分のない医療法人では、法人から離脱する医師に対して設立時に拠出した金額を支払うだけで構いません。もっとも、これは基金拠出型医療法人に限られる点に注意が必要です。
例として2人の医師が1000万円ずつ出資し、数年後に医療法人に5000万円の財産があるケースで考えてみましょう。持分ありの医療法人であれば、医師の片方が離れる際に買取請求権を行使した場合には、残った医師から2500万円を支払う必要があります。
ただし、出資持分なしの医療法人の場合には、離脱する医師に対しては設立時に拠出した1000万円のみを支払うことになります。
相続
医療法人化した医師が死亡して相続が発生したとき、出資持分がある医療法人では、その持分が相続の対象となります。結果として、多額の相続税が発生しかねません。
一方で、出資持分のない医療法人では、法人自体は相続の対象とならず、原則として相続税は発生しません。ただし、基金拠出型医療法人における基金返還請求権については、相続の対象となります。
売却する際の手法
医療法人の売却方法は、出資持分の有無によって異なります。それぞれの主な売却手法は以下のとおりです。
区分 | 売却手法 |
---|---|
出資持分ありの医療法人 |
|
出資持分なしの医療法人 |
|
なお、出資持分なしの医療法人では、理事長などの売り手側は譲渡後に基金や退職金として対価を受け取ることが一般的です。
医療法人における出資持分あり・なしの現状
医療法人における出資持分の有無は、現在も各々の運営に影響を与えています。ここでは、出資持分の現状と、移行推進策について解説します。
依然として持分あり医療法人が多い
令和6年時点での医療法人社団の総数は58,508件です。そのうち、持分あり医療法人は36,393件(約62%)で、持分なし医療法人は22,115件(約38%)です。
持分ありの医療法人が依然として多く、移行が進まない要因としては、理事長の持分放棄への抵抗感や、医師一人の医療法人では移行の必要性を感じにくい点が挙げられます。また、相続税やM&Aなど、将来的な課題も考慮する必要があります。

(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001266062.pdf)
出資持分なしの医療法人への移行推進策
厚生労働省は、医療法人の長期安定経営を目的として、出資持分なしへの移行を促進しています。出資持分のある医療法人では、社員が退社したとき・死亡したときに出資持分を払い戻すよう要求される懸念があるためです。
出資持分のない医療法人への移行参考:「持分なし医療法人」への移行に関する手引書(「◆持分とは」参照)を検討するときは、移行計画を作成し申請することで、厚生労働大臣の認定を受けることができます。申請受付は2026年12月31日までとなっています。認定を受けた医療法人は、相続税・贈与税の納税猶予や、低利での資金調達のための貸し付けなど、支援措置が適用されます。
まとめ
医療法人における出資持分の有無は、財産権や相続税の課税、さらには法人の売却方法にまで影響を及ぼす、経営上きわめて重要な要素です。令和6年時点では、依然として多くの医療法人が「持分あり」の状態を維持しているものの、厚生労働省はその移行を積極的に支援しており、認定制度や税制上の優遇措置なども整備されています。
今後の医療法人の安定経営やスムーズな承継を見据えるうえでも、出資持分の見直しは早期に検討しておくべき課題といえるでしょう。特に、事業承継やM&Aの選択肢を視野に入れる経営者にとっては、信頼できる専門家のサポートが不可欠です。
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よくある質問
- 出資持分のあり・なしはどこで確認できますか?
- 医療法人の定款で確認可能です。持分の払い戻しに関する記載があれば「持分あり」です。また、平成19年4月以降の設立法人はすべて「持分なし」です。
- 出資持分があると相続にどのような影響がありますか?
- 出資持分は相続財産とみなされ、多額の相続税が発生する可能性があります。一方、持分なし医療法人では相続税は基本的に発生しません。
- 医療法人の出資持分なし法人への移行は可能ですか?
- 移行計画を策定し厚労省の認定を受けることで可能です。2026年12月末までが申請期限で、税制優遇などの支援があります。
- 現時点での出資持分割合はどのように確認する?
- 現時点の各人別出資持分(基金拠出)の確認については、特定の資料やツールに頼ることはできません。そのため、設立時の出資持分(基金拠出)をもとに、増減を記録・管理する必要があります。出資持分の増減要因は、売買、贈与、相続などです。設立時の各人別出資持分は、医療法人設立申請書で確認できます。
- 医療法人の売却方法に違いはありますか?
- 持分ありの場合は「持分譲渡」も可能ですが、持分なしでは「事業譲渡」や「法人格売買」が中心になります。