M&Aにおけるディールとは? 失敗要因や成功のためのポイントについて解説

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ディールは「取引」を意味する言葉ですが、M&Aにおいては、M&Aの検討・準備から買収後の統合完了までの一連のプロセスを「ディール」といいます。本記事では、M&Aにおけるディールの用語や、流れ、失敗を回避するポイントなどについて解説します。

このページのポイント

~M&Aにおけるディールとは?~

ディールとは、M&Aの検討・準備から買収後の統合完了までの一連のプロセスを指します。ディールはプレディール、ディール、ポストディールの3段階に分かれ、それぞれの段階で戦略策定、交渉、統合手続きが行われます。ディールの成功には、目的と戦略の明確化、誠意ある対応、徹底したデューデリジェンスが重要です。失敗を回避するためには、ディールブレイカーを想定した対策や、実績のあるM&Aアドバイザーのサポートが必要です。

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M&Aにおけるディールとは

ディールとは、一般的に「取引」を意味する言葉ですが、M&Aにおいては、M&Aの検討・準備から買収後の統合完了までの一連のプロセスを指します

M&Aにおけるディールは、以下の3つに分類されます。

段階 特徴
プレディール M&Aの成功に向けた戦略策定やターゲット企業の選定、事前検討を実施する準備段階
スキームの選定や仲介会社を利用する際の選定もプレディールに含まれる
プレディールはM&Aの進行全体を方向付けるプロセスとなるため、慎重に行う必要がある
ディール 交渉・契約締結などにM&Aの取引を進める段階
綿密なプレディールが行われていれば、ディールの進行もスムーズになる
ポストディール M&A成約後の統合手続きを行う段階
買収した企業と自社の統合を円滑に進めるための施策を実行する

M&Aにおけるディールの関連用語

M&Aにおけるディールには、特有の関連用語がいくつか存在します。そのなかでも代表的なものを見ていきましょう。

ディールサイズ

ディールサイズとは、M&Aでの取引額の規模を示す用語です。ディールサイズは、大きさごとに以下3つに分類されます。

ディールサイズの区分 取引額の目安
大規模案件(メガディール) 数百億円以上
中規模案件 数億円から数十億円程度
小規模案件(スモールM&A) 1億円以下

大規模案件(メガディール)

大規模案件はメガディールとも呼ばれます。取引規模は数百億円以上となり、大企業同士のM&AやクロスボーダーM&Aが該当します。

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大規模案件は注目度が高く、メディアにも頻繁に取り上げられますが、実際の発生頻度は中小規模と比較すると多くありません。また、成約までに時間がかかることが多い傾向にあります。

中規模案件

中規模案件は取引価額が数億円から数十億円程度の案件を指します。ベンチャー企業や地方の中小企業が行うM&Aが該当します。

大規模案件ほどではないにしろ、スキームの選定や税務面での対応など、検討すべきポイントが多いため手続きが煩雑化しやすいディールサイズです。そのため、M&A仲介会社や金融機関のサポートを受けて実施するのが一般的です。

小規模案件(スモールM&A)

小規模案件はスモールM&Aとも呼ばれ、取引価額が一億円以下の案件を指します。主に該当するのは、個人事業やWebメディアのM&Aです。

大規模案件のようにメディア上に取り上げられるケースは少ないものの、小規模ゆえに発生頻度は高いです。また、マッチングサイトを活用し、インターネット上で取引を完了させる場合もあります。

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ディールメーカー

ディールメーカーとは、M&Aの取引を生み出す、買い手側の関係者全般を指す用語です。買い手の他、M&A仲介会社、ファイナンシャルアドバイザー、金融機関などが含まれます。

買い手以外でディールメーカーに該当するのは、相手先の選定、トップ面談の手配、交渉のサポート、デューデリジェンスの実施などをサポートする関係者などです。税務や財務関連業務においては税理士や会計士、法務面においては弁護士がディールメーカーとして参画するケースもあります。

M&Aにおいて意思決定を行う主体はあくまで買い手ですが、ステークホルダーとして多くのディールメーカーが関与します。

ディールブレイカー

ディールブレイカーとは、M&Aにおいてディールが破談になる要因を指す用語です。ディールを破談させる人や企業のことを指すのではなく、要因を指す点に注意が必要です。

例として、デューデリジェンスで売り手が従業員に対して無給労働を強いていたことが明らかになり、ディールが破談になったとします。このときのディールブレイカーは「無給労働を強いていた売り手」ではなく、「無給労働を強いていた」という事実のことを指します。

また、売り手側のキーパーソンの突然の辞職なども、ディールブレイカーに該当する出来事です。

M&Aにおけるディールの流れ

M&Aにおける具体的なディールの流れは以下のとおりです。

プロセス ステップ
プレディール M&A戦略を策定する
M&A専門家の選定と依頼を行う
スキームを決定する
ターゲットを選定する
ディール トップ面談を実施する
基本合意を締結する
デューデリジェンスを行う
最終条件交渉・契約締結を行う
クロージングを実施する
ポストディール PMIを行う

それぞれのステップについて、詳しく見ていきましょう。

【プレディール】M&A戦略を策定する

はじめに、M&Aを行う明確な目的や戦略を策定します。

目的や戦略が曖昧なままプロセスを進めると、自社の課題解決に至らなかったり、企業成長につながらなかったりするリスクが高まります。

そのため、自社の強みや課題、競合や市場の動向をリサーチし、そのためにはどのようなM&Aスキームを選択するべきなのか、どのような相手が最適であるのかを深ぼっていくことが大切です。

【プレディール】M&A専門家の選定と依頼を行う

プレディールは、M&A全体の方向性を決める重要なプロセスです。

効率的かつ綿密なプレディールを実現するためには、このタイミングでM&A専門家の選定と依頼を行うのが望ましいといえます。

専門家にはさまざまなタイプがあり、料金体系やサポート範囲もそれぞれ異なりますので、自社が必要なサポート範囲とコストのバランスを踏まえ、依頼先を選択することが大切です。

【プレディール】スキームを決定する

戦略に合わせてM&Aのスキームを決定します。

具体的には、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併、株式交換、株式移転などのスキームを検討していくことになります。

メリットとデメリットを勘案し、仲介会社などの専門家からのサポートを受けながら慎重に検討しましょう

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【プレディール】ターゲットを選定する

戦略にしたがって相手先を選定します。

買い手の場合では、仲介会社などから収集した、企業が特定されない範囲で業種、希望条件などの情報を記載した「ノンネームシート」からターゲット候補を選定していきます。大まかな条件をもとに複数の候補に絞り込み、興味がある企業があれば、仲介会社へ詳細開示の要望を出しましょう。

その後、相手企業(売り手の候補先)から情報開示への了承を得られたら、買い手と仲介会社などとの間で秘密保持契約を締結します。このプロセスを経ることで、対象企業の企業名や事業内容、役員名などの詳細情報を得られるようになり、ターゲットの選定へと進めることができます。

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【ディール】トップ面談を実施する

情報開示の結果、双方がM&Aの進行に合意したらトップ面談を実施します。売り手と買い手の経営者が対面し、企業文化や価値観、M&Aの目的を確認していきます。

トップ面談では、仲介会社などが同席して行われるのが一般的です。経営者同士の価値観や人柄、企業文化など、データには現れない情報を得るために必要なプロセスといえます。

【ディール】基本合意を締結する

トップ面談後、条件をすり合わせて基本合意書を締結します。これまでのプロセスの中で合意してきた内容を整理し、その証明として示すステップが、基本合意書の締結です。

ただし、基本合意書はあくまでもデューデリジェンスに至る前段階での合意証明となるため、デューデリジェンスの結果によって合意書の内容に変更が生じる可能性もあります。そのため、基本合意書には拘束力を持たせないことが一般的です。

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【ディール】デューデリジェンスを行う

基本合意書を締結した後は、デューデリジェンス(DD)を実施します。

デューデリジェンスとは、相手企業について財務、法務、税務、人事、IT、環境など、さまざまな角度から実態を調査することです。なお、デューデリジェンスは買い手だけでなく、売り手も買い手の立場に立って自らを調査するセルサイドデューデリジェンスが実施されることがあります。

ずさんなデューデリジェンスで売り手の抱える問題に気付かずにM&Aが成立してしまった場合、買い手は期待していたシナジー効果を得られないばかりか、売り手とのトラブルに発展し訴訟沙汰となるケースもあります。

そのため、あらかじめM&Aに伴うリスクの有無の確認や洗い出しを行い、実施可否の判断および対応策を講じるために、デューデリジェンスというプロセスは極めて重要です。

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【ディール】最終条件交渉・契約締結を行う

デューデリジェンスを実施したら、最終契約書の締結に向けた最終条件交渉を行います。

デューデリジェンスの調査結果も踏まえ、金額や条件などを設定し、双方の間で交渉がまとまったら、最終契約書を締結します。最終契約書の記載内容は多岐にわたりますが、一般的な記載項目は以下のとおりです。

  • 定義
  • 取引内容・価格の合意
  • クロージング条件
  • 表明保証
  • 誓約事項
  • 補償・賠償および解除
  • 一般条項
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【ディール】クロージングを実施する

最終契約の締結後、クロージングを行います。クロージングは対価の支払いや株式の移転を行い、M&Aの有効性を法的に証明する重要なプロセスです。

クロージングで行うべき手続きや契約は多岐にわたります。各手続きの進捗状況や契約に向けた書類の準備状況を確認するため、プレクロージングを実施するケースもあります。

また、M&Aは経営上の最重要事項であるため、クロージング完了後に従業員や取引先に情報を開示することが一般的です。

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【ポストディール】PMIを行う

クロージングが完了したら、両者の統合プロセスであるPMIを実施します。PMIは、経営統合・業務統合・意識統合の3段階で構成されています

PMIはM&Aによるシナジー効果を発揮させるために重要です。取引が実行されたからといって安心せず、的確かつ迅速にPMIを進めることが大切です。

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M&Aにおけるディールの失敗を回避するポイント

M&Aにおける主なディールブレイカー(ディールが失敗する要因)としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 両者の価値観や取引条件の不一致
  • ディール途中での重大なリスクの発見
  • ディール中の業績の悪化
  • 基本合意締結後の条件変更の申し出

これらの要因を回避し、ディールを成功させるためのポイントを解説します。

目的と戦略を明確にする

何にも増して、M&Aを行う目的や戦略を明確にすることが大切です。

将来的な企業成長や事業規模の拡大など、M&Aを実施する目的を明確にすることでターゲット企業やスキームの適正化が可能となり、ディールの進行における不一致を回避できます

また、目的が明らかになれば自分たちのなかで譲れない条件もはっきりしますので、ディールの交渉時に相手から希望条件の提示があった際にも、自社の優先順位に応じて一貫した対応が可能になるでしょう。

お互いにM&Aの目的と戦略を明確にした上で、交渉の落としどころを探っていくことが、スムーズなディール進行につながります。

誠意ある対応を徹底する

ディールブレイカーを避けるためには、誠意ある対応を徹底することです。

当たり前ですが、M&Aは取引である以上相手がいるなかで進めるものです。どんなに綿密な計画や戦略を策定し、自分たちが相手のメリットとなる条件を提示したとしても、相手に不信感や不快な思いを抱かせてしまえば、ディールが破談となるリスクは高まります

売り手と買い手は対等な立場であることを理解し、誠意をもって丁寧に交渉を進めることが大切です。

ディールブレイカーを想定した対策を講じておく

M&Aプロセスでは、どんなにに気を付けていてもディールブレイカーとなりえる要因が生じる可能性があります。

「ディールブレイカーは生じるもの」として、あらかじめ対策を講じておけば、実際に発生しても破談には至らず、成功の確率は高まります。

具体的な対応策の例は以下のとおりです。

トップ面談の場を重視する

ディールを成功させるためには、トップ面談の場を重視することが重要です。

トップ面談は両者の相性や経営者の人柄、相手企業のビジョンなどを理解するために重要なプロセスです。トップ面談での相互理解を怠れば、取引が進むにつれて相違点が明るみになり、ディールが破談になる可能性が高まります。

買い手と売り手は異なる企業であるため、考え方が異なるのは当たり前です。しかし、トップ面談を通して相互に理解を深めておくことで、考え方の違いがディールブレイカーになるリスクを下げることができます。相違点があればすり合わせられるよう、丁寧にコミュニケーションをとることを心がけましょう。

徹底したデューデリジェンスを実施する

ディールの途中、特にデューデリジェンス終了後に売り手にリスクが見つかった場合には、ディールが破談となる可能性があります。

そのため、まずは徹底したデューデリジェンスの実施が大切です。売り手は買い手の円滑なデューデリジェンスの実現のため、必要な書類の提供や調査への協力を行うことが欠かせません。買い手もさまざまな角度から綿密なリサーチを行うことが求められます。

また、仮にデューデリジェンスのタイミングでリスクが見つかった場合には、具体的な対応策を提示しましょう。双方がリスクの解決に向けて適切な対応をとれば、ディールが円滑にすすむだけでなく、M&A実行後のトラブルも回避できます。

金融機関と友好な関係を構築しておく

あらかじめ金融機関と友好な関係を構築しておくことも、ディールブレイカーを回避する方法の一つです。

M&Aの実施にあたっては、取引額だけでなく、さまざまな専門家に協力を依頼するため売り手、買い手共に多額の資金が必要となります。そのため、ディールの進行中に何らかの原因で経営が苦しくなり、必要資金が確保できなくなった場合には、ディールが破談となるリスクがあります。

あらかじめ日頃から金融機関と友好な関係を構築しておけば、万が一資金難に陥った際にも融資を受けられるかもしれません。定期的に金融機関と連絡を取ったり、月次決算の報告を行ったりするなど、関係を構築しておくことで、ディールブレイカーを回避できる可能性が高まります。

実績のあるM&Aアドバイザーに相談

M&Aは専門知識や経験が必要です。
どんなにディールの成功に向けて対策を講じていても、自社では限界があります。専門家に依頼すれば、適切な相手企業を見つけられる他、各プロセスを適切かつ正確に進めることが可能です。

相手企業との交渉の際にもアドバイスやサポートを受けられるため、ディール成功の確率を最大限に高められます。相談先は自社の業界に詳しいM&Aアドバイザーが望ましいでしょう。

まとめ

M&Aにおけるディールでは、専門用語が飛び交い、プロセスそのものも複雑です。失敗を回避するためには専門的な知見が不可欠です。

M&Aキャピタルパートナーズには、目的や戦略の策定、デューデリジェンスなどのM&A実務に詳しい専門家が多数在籍しており、企業の成長をサポートするための最適なアドバイスを提供しています。ぜひM&Aキャピタルパートナーズの専門家に相談し、自社にとって最適なディールを実施してください。


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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社コーポレートアドバイザリー部 部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 コーポレートアドバイザリー部 部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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