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M&Aにおける情報漏洩のリスク対策について
M&Aにおける情報管理は、「秘密保持に始まり、秘密保持に終わる」と言われるほど重要です。ひとたび情報が漏洩すると、取引の破談や企業の存続危機など、取り返しのつかない事態を招きかねません。
ここでは、M&Aにおける情報漏洩のリスクと対策について、詳しく解説します。情報漏洩が原因でM&Aが失敗に終わった事例も紹介するので、自社の情報管理に役立ててください。
このページのポイント
~M&Aで情報漏洩を起こさないためにできることは?~
M&Aにおける情報漏洩は、取引の破談や企業の存続危機を招く重大なリスクです。情報漏洩が発生すると、取引先との関係悪化や資金調達の困難化、従業員の離反など深刻な事態を引き起こす可能性があります。この記事では、秘密保持契約(NDA)やVDRの活用など、具体的な対策と情報漏洩による失敗事例を紹介します。
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目次
M&Aに関する情報漏洩が発生した場合のリスク
M&Aの成否を左右する重要な要素の一つが情報管理です。情報漏洩が発生すると、取引先との関係悪化や資金調達の困難化、従業員の離反など、深刻な事態を引き起こす可能性があります。ここでは、具体的にどのようなリスクがあるのか見ていきましょう。
取引先に情報漏洩した場合のリスク
M&Aに関する情報が取引先に漏洩すると、自社の信用が低下し、取引の減少や停止に至る可能性があります。
特に、公式発表前の段階で噂が広がってしまうと、「あの会社はガバナンスが効いてない」といった認識につながり、取引先は将来の不確実性を懸念し始めるでしょう。
金融機関へ情報漏洩した場合のリスク
M&Aに関する情報が金融機関に漏洩した場合、企業の資金繰りに深刻な影響を及ぼしかねません。資金調達が困難になるだけでなく、既存の借入条件の見直しを迫られる可能性があります。
特に、資金調達の一環として株式売却を検討している場合、漏洩により資金調達の道が絶たれ、最悪の場合は倒産のおそれもあります。
従業員へ情報漏洩した場合のリスク
従業員へのM&A情報漏洩は、外部への漏洩以上に深刻な影響をもたらすことがあります。「会社が売られるらしい」という断片的な情報が広がると、従業員は経営体制の変更や雇用条件の変化に不安を抱き、社内が混乱状態に陥りかねません。
また、混乱が拡大し社内からの反発が強まることで、交渉中の買い手候補が取引を断念するリスクも高まるでしょう。
企業のブランドイメージが傷つき信用が失墜するリスク
個人情報や企業情報の漏洩は、ステークホルダー全体に不安を抱かせ、長年築き上げてきた信頼関係が崩壊する要因となります。SNSや匿名掲示板で拡散されてしまえば、噂話に尾ひれがつき、深刻な風評被害につながる恐れもあります。
大企業の場合はブランド力で致命的な打撃を回避できる可能性がありますが、ブランド力の弱い中小企業では顧客離れや売上減少に直結し、会社存続の危機に陥ることも考えられるでしょう。
M&Aに関する情報漏洩が発生するパターン
M&Aの検討・交渉過程における情報漏洩は、さまざまな状況で発生します。それぞれ主なパターンを確認したうえで、対策を講じましょう。
経営者自身の行動により情報漏洩生じるパターン
経営者自身の不用意な行動により、情報漏洩が生じることがあります。具体的には以下のようなケースが挙げられます。
- M&A関連資料をデスクに放置した
- メールアドレスを共有設定にしていた
- 経営者仲間との会食時に「実は今M&Aを検討している」と話してしまった
- M&Aコンサルタントとの打ち合わせを従業員に目撃された
このような軽率な行動から情報が漏洩し、自社が危機的状況に追い込まれることも考えられます。そのため、M&Aを検討・交渉している際の経営者は、普段以上に自身の言動に注意深くなる必要があるでしょう。
従業員によって情報漏洩が生じるパターン
従業員からの情報漏洩は、以下のような偶発的な発見から始まることが多くあります。
- 社長のデスク上に置かれたM&A関連書類を目にしてしまう
- M&Aコンサルタントの頻繁な来訪に気付く
- 誤って関連資料が含まれたメールを開封してしまう
このような形で断片的な情報を得た従業員は、不明な部分を憶測で補いながら、同僚や取引先に話してしまいかねません。その結果、予期せぬ形で情報が拡散することも考えられます。
買い手候補先から情報漏洩が生じるパターン
自社での情報管理を徹底していても、買い手候補企業側から情報が漏洩する可能性もゼロではありません。このような時点を想定し、秘密保持契約を締結しておくことは必須といえるでしょう。
また、買い手候補を絞り込む段階に応じて、情報開示の範囲を段階的に広げていくなど、慎重なアプローチが求められます。
M&Aコンサルタントから情報漏洩が生じるパターン
M&AコンサルタントはM&Aのプロフェッショナルですが、人間である以上、情報漏洩のリスクはゼロではありません。
売り手企業がM&Aに開示する情報は財務状況や事業上の課題、経営者の個人的な悩みまで多岐にわたるため、万一のことがあると大きな痛手となります。そのため、こちらも早い段階で秘密保持契約を締結することが必須です。
また、いうまでもなく、実績と信頼性の高いコンサルタントを選定することも重要です。
M&Aマッチングサイトから情報漏洩が生じるパターン
M&Aマッチングサイトは、効率的に買い手や売り手を探せる一方で、情報管理面での課題もあります。企業名や事業内容を匿名化していても、業界特性や規模感に基づき、同業者や関係者に特定される可能性があるのです。
こういった懸念は、マッチングサイトの利用数に応じて強くなります。同時に複数のサイトで情報が公開されていると、閲覧者がその整合性を測ることで、企業を特定されるリスクが高くなるでしょう。
物理的な紛失や盗難により情報流出が生じるパターン
情報漏洩は、デジタルデータだけでなく、物理的な要因でも発生します。業務用パソコンやタブレット、USBメモリ、紙資料などを駅や電車内、カフェなどに置き忘れるケースが後を絶ちません。取扱いには十分に注意する必要があります。
特に注意したいのは、M&A関連の機密書類が悪意ある第三者の手に渡った場合です。このケースでは重大な情報流出につながる可能性が高いと言わざるを得ません。
M&Aの情報漏洩を防ぐための対策
M&Aにおける情報漏洩は、取引の成否を左右しかねない重大なリスクです。以下のような予防策を講じて、安全性を確保する必要があります。
- 秘密保持契約(NDA)の締結
- VDRの活用
- 従業員をM&Aの情報に触れさせない
- 無闇に複数のM&A会社と契約しない
それぞれの対策について、詳しく見ていきましょう。
秘密保持契約(NDA)の締結
秘密保持契約(NDA)とは、M&A交渉で得られる機密情報やノウハウ、顧客情報などを、目的外で使用したり第三者に漏洩したりしないことを約束する契約です。
M&A交渉では、財務情報や事業戦略など極めて重要な情報を共有しなければなりません。共有した情報が外部に流出した場合の損害は計り知れないため、交渉開始前のNDA締結は必須の対策といえます。
VDRの活用
VDR(バーチャルデータルーム)は、M&Aにおける情報共有を安全に行うためのオンラインプラットフォームです。高度なセキュリティ機能を備え、アクセス権限の詳細な設定や操作ログの記録を可能とします。
従来の書面やメールでのやり取りと比べて情報漏洩リスクを大幅に低減できるため、機密性の高い分野ではVDAの活用を積極的に検討するべきです。
従業員をM&Aの情報に触れさせない
従業員への情報漏洩を防ぐには、M&A関連の情報に接触する機会自体を最小限に抑える必要があります。具体的には、次のような対策が効果的です。
- 資料や電源の入ったパソコンの放置を避ける
- メールの共有設定に注意を払う
- M&Aコンサルタントとは社外で打ち合わせする
- M&Aコンサルタントとの連絡には個人携帯を使用する
- 郵便物を自宅受取や局留めにする
無暗に複数のM&A会社と契約しない
M&Aの買い手候補を探す際には、M&A会社とアドバイザリー契約を結び、自社情報を開示することが一般的です。しかし、無暗に複数のM&A会社を契約すると、情報漏洩リスクが高まります。そこで意識したいのが、契約形態の選定です。
M&A会社との契約には、専任契約と非専任契約の2種類があります。それぞれのメリット・デメリットは下表のとおりです。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
専任契約 | 特定の1社の専門家と独占的に契約を結ぶため、丁寧なサポートが期待できる 情報漏洩のリスクを軽減できる |
仮に他社で魅力的な案件を認めても契約を履行しなければならない |
非専任契約 | 複数のM&A専門家と同時に契約を結ぶことができるため、取引相手の選択肢が増える | 専任契約よりも情報漏洩のリスクが高い 仮に情報が漏洩した際に、漏洩元を特定することが困難 |
情報管理の観点はもちろん、企業規模や事業特性、M&Aの目的なども考慮したうえで、より自社に合った契約形態を選択してください。
情報漏洩によりM&Aが失敗した事例
M&Aにおける情報管理の重要性を示すため、実際に情報漏洩が原因で失敗に終わった事例を紹介します。自社でM&Aを検討する際の参考にしてください。
事例1:売り手の経営者と仲介会社のサポート不足
後継者不在に悩んでいたF社は、M&Aによる事業承継を希望し、仲介会社の支援のもと、買い手企業との基本合意に至りました。
M&Aは、基本合意の後、デューデリジェンスを経て、それから最終契約書を締結した段階で成立となります。従業員や取引先への開示は、その後のクロージングのなかで順次行っていくのが一般的な流れです。
しかし、F社の社長は、基本合意をM&Aの成立と誤解し、従業員や取引先に対して、買い手企業名を含む情報を開示してしまいました。その結果、情報漏洩が買い手企業に伝わり、このM&Aは破談となりました。その後、F社は後継者が見つからないまま廃業を余儀なくされています。
この事例は、M&Aプロセスの理解不足と情報管理の甘さが招いた典型的な失敗例といえるでしょう。
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事例2:売り手の経営者から情報漏洩
後継者不在を理由にM&Aを検討していたB社は、M&A専門業者の支援を受け、買い手企業との基本合意まで順調に進みました。
ですがその後、B社の社長は情報管理に関する専門業者からの警告を軽視し、従業員や取引先に対して、買い手企業の名称を含むM&A情報を明かしてしまったのです。この行為は、買い手企業の強い不信感を招き、最終的に交渉の打ち切りという結果を招きました。
情報管理の重要性に対する理解不足が、それまでの交渉過程での努力を水泡に帰してしまった事例です。
まとめ
情報漏洩は、M&Aを失敗に導く深刻なリスクの一つであり、経営者自身の言動や従業員の不用意な情報共有、物理的な紛失など、さまざまな形で発生する可能性があります。
M&Aキャピタルパートナーズでは、初期の相談段階から徹底した情報管理体制を整え、VDRの活用やNDAの締結など、情報漏洩を防ぐための万全な対策を講じています。
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よくある質問
- M&Aにおける情報漏洩のリスクとは?
- 情報漏洩が発生すると、取引先との関係悪化や資金調達の困難化、従業員の離反など、深刻な事態を引き起こす可能性があります。
- 情報漏洩を防ぐための具体的な対策は?
- 秘密保持契約(NDA)の締結やVDRの活用、従業員をM&Aの情報に触れさせないことなどが効果的です。