更新日
自社の成長戦略を策定するにあたり、「何を判断基準にしたら良いのかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、成長戦略の策定に役立つ「アンゾフの成長マトリクス」を紹介します。アンゾフの成長マトリクスは、企業の成長と拡大を分析するためのフレームワークです。
アンゾフの成長マトリクスの意味と4つの象限について解説するので、ぜひ参考にしてください。
このページのポイント
~アンゾフの成長マトリクスとは?~
アンゾフの成長マトリクスとは、企業の成長と拡大を分析するためのフレームワークです。成長戦略を「製品」と「市場」の二つの軸に分け、それぞれを「既存」と「新規」に分類して成長戦略を導き出します。アンゾフの成長マトリクスには、以下の4つの戦略があります。「市場浸透戦略(既存市場×既存製品)」「新規市場開拓戦略(新規市場×既存製品)」「新製品開発戦略(既存市場×新規製品)」「多角化戦略(新規市場×新規製品)」アンゾフの成長マトリクスを活用することで、企業は具体的な成長戦略を策定し、経営資源を最適化し、リスクを最小化することができます。新規事業の方向性を検討する場合や既存のビジネスモデルを再構築する際に効果的です。
関連タグ
- #M&A
- #M&A関連記事
- #M&Aを検討するために
- #アンゾフの成長マトリクスとは?
目次
アンゾフの成長マトリクスとは
アンゾフの成長マトリクスは、企業の成長と拡大を分析するためのフレームワークです。
成長戦略を「製品」と「市場」の二つの軸に分け、それぞれを「既存」と「新規」に分類して成長戦略を導き出します。
このフレームワークは、ロシア系アメリカ人の経営学者、イゴール・アンゾフによって提唱されました。アンゾフは「戦略的経営の父」とも称され、マイケル・ポーターやゲイリー・ハメルなどの著名な経営学者をはじめ、多方面に影響を与えました。
企業はアンゾフの成長マトリクスを使うことで、自社の成長のために必要な課題と対策を効率的に見出すことができます。
M&Aにおいては、企業価値評価を高め、良い条件を引き出すための経営戦略として役立てられています。
アンゾフの成長マトリクスにおける4つの戦略

市場浸透戦略(既存市場×既存製品)
市場浸透戦略は、既存の製品を既存の市場で展開する手法です。
具体的には、顧客の購入頻度を上げる、一人あたりの購入単価を増やすなどの方法が挙げられます。ファーストフードチェーンが既存市場での売上を増やすために、TVCMなどのプロモーションを強化し、セットメニューの値引きキャンペーンを実施する戦略も、市場浸透戦略に該当します。
既存の製品を既存市場で浸透させる手法であるため、リスクが低く、ビジネス展開がしやすいのが特徴です。
新規市場開拓戦略(新規市場×既存製品)
新規市場開拓戦略は、既存の製品を新しい市場で販売する手法です。
新規のエリアやターゲット、ジャンルでの展開となるため、新規市場のニーズに合わせた既存製品のグレードアップが必要となります。加えて、営業力や顧客ネットワークなどの「売る力」も重要です。
企業向けの製品を一般消費者向けに転用して販売したり、海外市場へ進出したりする手法などは、新規市場開拓戦略に該当します。
新製品開発戦略(既存市場×新規製品)
新製品開発戦略は、既存の市場に新しい製品を投入する手法です。
新製品開発戦略では、既存市場のニーズにマッチした新たな価値の提供や、競合他社との差別化が可能な製品の開発が求められます。したがって、研究施設や製造設備への投資が必要となるケースも少なくありません。
既存商品に用いられる技術を活用した新商品の開発や、既存商品をグレードアップしたリニューアル品の開発などが、新製品開発戦略に該当します。
多角化戦略(新規市場×新規製品)
多角化戦略は、新しい製品を新規市場に展開する手法です。
既存事業の衰退リスクを分散させる方法として有効ですが、従来とは異なる市場へ新規製品をもってチャレンジする手法であるため、マーケティングや開発コストが必要となり、最もリスクが高い戦略といえます。
ベンチャー企業は存在そのものが多角化戦略といえますし、既存企業であれば新規事業開発が多角化戦略に該当します。
アンゾフの成長マトリクスによる4つの多角化戦略
アンゾフの成長マトリクスの4つの象限のうち、新規製品で新規市場開拓を行う「多角化戦略」は、さらに以下の4つのタイプに分けられます。
多角化戦略のタイプ | 説明 | 例 |
---|---|---|
水平型多角化戦略 |
既存の技術や設備を活かし、新規製品を現行の事業と類似する市場で展開する。 新たな設備投資のためのコストや手間を抑えられる。 |
自動車メーカーがバイクの生産を始める。 |
垂直型多角化戦略 |
現行の事業が展開している市場において、川上あるいは川下の事業を展開する。 新設備やノウハウが必要となるものの、現行事業とのシナジー効果を得やすい。 |
ステーキショップが自社牧場で育てた精肉の販売業を始める。 |
集中型多角化戦略 |
自社が強みを持つ技術や経営資源などを製品・サービス開発に活用し、新たな市場に投入し、事業の多角化を図る。 戦略の成否は、自社の開発力や技術力に依存する部分が大きい。 |
酒造メーカーが酵母の知見を活かして健康食品業界に参入する。 |
集成型多角化戦略 | 既存の技術や市場と無関係な分野に進出。自社のリソースの活用が難しいため、最もリスクが高い。 | 物流会社が外食業界に参入する。 |
アンゾフの成長マトリクスを活用するメリット
ここからは、アンゾフの成長マトリクスを活用するメリットを解説します。
具体的な成長戦略策定が可能となる
アンゾフの成長マトリクスは、企業が市場や製品の成長機会を見つけるのに役立ちます。
企業を取り巻く市場環境や経済環境は、常に目まぐるしく変化しています。そうしたなか企業が生き残るには、複雑化する外部環境を踏まえ、自社にとって最適な戦略策定を行うことが不可欠です。
アンゾフの成長マトリクスを活用し、製品と市場の二つの軸から自社事業を整理・分析すれば、自社が取り組むべき成長可能性のある分野を特定でき、具体的な戦略の策定も可能となります。
経営資源を最適化しリスクを最小化できる
自社の経営資源を最適に分配でき、リスクを最小化できるのも、アンゾフの成長マトリクスを活用するメリットです。
企業の発展には、参入すべき市場や開発する製品の特定、具体的な戦略策定が欠かせませんが、こうしたプロセスには時間がかかり、実行にあたっても多くの労力やコストを要します。闇雲な戦略立案や、見切り発車的な実行では成果を期待できず、費やしたリソースが無駄になる可能性が高いといえるでしょう。
しかし、アンゾフの成長マトリクスを活用すれば、自社がとるべき戦略の方向性を効率的に分析でき、経営資源も有効活用できます。リスクをコントロールしながら成長機会を追求することも可能となります。
アンゾフの成長マトリクスの活用が効果的な場面
つぎに、アンゾフの成長マトリクスの活用が効果的な場面を解説します。
新規事業の方向性を検討する場合
新規事業の立ち上げを検討する場合は、アンゾフの成長マトリクスを活用すると良いでしょう。
アンゾフの成長マトリクスを活用すれば、ビジネスモデルに影響を与える外部環境を事前に分析でき、リスク回避が可能になります。
事前にリスクを回避できれば、事業の改善や再構築を効率的に行えるだけでなく、新規事業の成功確率も高まるはずです。
既存のビジネスモデルを再構築する場合
既存のビジネスモデルを再構築する際には、ビジネスモデルキャンバスでビジネスモデルの全体をつかみ、「ズームイン・ズームアウト」で検証、修正を繰り返すというプロセスを踏むのが効果的です。
ビジネスモデルキャンバスとは、既存のビジネスモデルの構造を可視化するための手法です。「ズームイン・ズームアウト」のうちズームアウトのプロセスでは、アンゾフの成長マトリクスを用いた外部環境の把握が推奨されています。
アンゾフの成長マトリクスをもとに既存事業の見直しを行うことで、現実的で競争力のあるビジネスモデルの再構築が可能となります。
事業が低迷している場合
アンゾフの成長マトリクスは、既存事業が停滞や縮小し、打開策を見つけなければならない局面でも活用できます。
アンゾフの成長マトリクスを用いて、どの戦略が最も有益なのか、あるいはリスクが少ないのかを見極めれば、事業の発展に必要な具体的な戦略も自ずと導き出されるはずです。
アンゾフの成長マトリクスを活用する際のポイント
アンゾフの成長マトリクスのメリットや効果的な場面を理解できたら、実際に活用する際のポイントを押さえておきましょう。
ターゲット像を明確にする
ターゲットの選定によって、実際に用いる戦術や施策は大きく変わります。例えば、「女性」をターゲットにする場合でも、年齢層や家族構成によって有効となる製品は異なるもの。製品が違えば、効果的なマーケティング手法も変わってきます。
だからこそ、ターゲット顧客がどのような人物、企業かを念頭に置くことが重要です。
自社に最適な戦略を策定するためにも、自社の既存顧客の見直しや、競合や市場の調査を通してターゲットとなりえる層の要素を洗い出しましょう。精度の高いターゲティングができれば、アンゾフの成長マトリクスの効果も最大化します。
技術の進歩や経済の変動を常に追う
技術の進歩や経済の動向を意識することも大切です。
近年、IT技術の発展により、AIやIoT技術があらゆる分野に活用されています。また、国内および世界経済の変動に伴い、消費者の生活スタイルも変化しています。
このように、企業を取り巻く外部環境は常に変化しているため、定期的な市場動向の観測なしに、ニーズにマッチした成長戦略を策定するのは困難です。
また、現状を把握するだけでなく将来の動向も予測し、長期的な視点で成長戦略を検討しましょう。
将来的な収益化が可能であるか見極める
企業が営利追求を目的とする存在である以上、闇雲にコストをかけるのではなく、将来的な収益化が可能であるかを見極めて投資しなければなりません。
先述のとおり、戦略の立案から実施に至るまでには多くの時間とコストを要します。事業の展開や技術開発に必要な人件費や設備費、材料費など、例を挙げればきりがありません。自社の成長につながる戦略を策定できたとしても、収益に比してコストがかかりすぎてしまえば、全体の利益率の低下はまぬがれないでしょう。
そうした事態を防ぐには、「短期的には赤字となってしまうが、将来的に投資が回収できるか」といった視点から投資の必要性を検討することが重要です。そのうえで、長期的な利益を見据えた慎重な決断が求められます。
アンゾフの成長マトリクスを活用した事例
最後に、アンゾフの成長マトリクスを活用した事例をいくつか紹介します。
富士フイルム株式会社
富士フイルムは、写真フィルムの需要が消滅するなかで、下表のとおり新たな業態への変革を図ってきました。
戦略 | 内容 |
---|---|
市場浸透戦略 | 既存技術を活用した新たな製品であるインスタントカメラ「チェキ」を開発。 |
新規市場開拓戦略 | 既存のフィルム技術を、携帯電話用プラスチックレンズや液晶用フィルムに応用して新たな市場へ提供。 |
新製品開発戦略 | レントゲンフィルムや画像診断システムを通じて接点を持っていた医療機器市場において、レーザー内視鏡などの新技術を提供。 |
多角化戦略 | 医薬品や化粧品、サプリメントなどの新規製品をもって新たな市場へ進出。 |
このように、富士フィルムはアンゾフの成長マトリクスの4象限それぞれで戦略を展開し、事業の多角化を実現しています。
株式会社吉野家
吉野家は、新規市場開拓戦略で成功を収めています。
同社は2002年に中国市場に進出しましたが、当時、牛丼は中華圏でなじみのない料理でした。そこで、日本国内とは異なる高級路線にシフトチェンジし、価格を高めにして店舗も高級感を打ち出しました。
この戦略が功を奏し、吉野屋は次第に現地の消費者に受け入れられ、2005年には「消費者が最も愛するブランド」に選ばれています。
その後、アジアやアメリカへの展開を進め、2022年には海外に974店舗を持つまでに成長しました。
株式会社あきんどスシロー
回転寿司でおなじみのあきんどスシローは、日本市場が鈍化するなか、シェア拡大を目指して「市場浸透戦略」を講じました。「超まぐろづくし」キャンペーンや「スシロー×桃太郎電鉄」コラボ、一本480円(税別)の「特大エビフライ」といった新たなメニュー展開を次々に実施したのです。
回転寿司といえば「安い」「割引」というイメージがありますが、あきんどスシローはこのイメージを払拭し、同社ならではのこだわりや付加価値をアピールするブランディング戦略を採用。顧客からの支持獲得、そして単価の向上を実現しました。
まとめ
アンゾフの成長マトリクスは、戦略的方向性を見出し企業の成長を促進させるためのフレームワークです。M&Aの現場では、企業価値評価を高め、良い条件を引き出すための経営戦略として役立てられており、汎用性の高い手法といえるでしょう。
しかし、その効果を最大化するには高い専門性や経験が必要です。
M&Aキャピタルパートナーズには、経営戦略の立案や企業価値評価など、多くのM&A案件で培った「活きたナレッジ」が豊富に蓄積されています。自社の強みを活かし、M&Aによるシナジー効果を確実にしたい方は、ぜひM&Aキャピタルパートナーズの専門家に相談してみてください。