現代日本におけるM&Aの歴史 時代ごとの目的と市場の広がりを整理

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日本におけるM&Aの変遷について

日本におけるM&Aの歴史とは、明治期の企業統合に始まり、1970年代に現代的なM&Aビジネスとして形を整え、その後は海外買収、金融再編、事業承継、制度整備へと広がってきた流れを指します。

日本のM&Aは、当初から現在のように広く普及した経営手法だったわけではありません。近代産業の育成や不況対応を背景とした統合から始まり、景気変動、金融危機、産業構造の変化、後継者問題といった時代ごとの課題に応じて、その目的や活用のされ方を変えてきました。近年では大企業の成長戦略だけでなく、中小企業の事業承継や業界再編の手段としても定着が進んでいます。

本記事では、日本におけるM&Aの歴史と、その時代ごとの特徴について解説します。

また、M&Aの意味と基本知識について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

監修者情報

M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長 公認会計士 梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。 これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。


現代日本におけるM&Aの歴史

日本における企業の統合・合併の動きは、明治時代にまでさかのぼります。ただし当時の統合は、近代産業の育成や不況への対応を目的として、政府の統制や財閥の主導のもとで進められたものであり、現代のように市場で企業を売買する「M&Aビジネス」とは性質が大きく異なります。

現代的なM&Aビジネスとして日本に根付いていくのは、主に1970年代以降のことです。ここでは、その発展の過程を時代ごとに整理します。

時期 主な特徴と出来事
M&Aビジネス萌芽期
(1970年代)
1970年代前半、吉田氏により日本で現代的なM&Aビジネスが成立。1974年に事業譲渡案件が実現し、成功報酬型モデルが確立された。
バブル経済期
(1980年代後半~1990年代初頭)
1985年のプラザ合意後、日本企業は円高不況を経験。その後の金融緩和により過剰な資金が不動産・株式市場に流入し、バブル経済が発生。この時期、ソニーによるコロンビア・ピクチャーズの買収(6,700億円)など、日本企業による大型の海外M&Aが活発化した。
バブル崩壊後の再編期
(1990年代~2000年代前半)
バブル崩壊により多くの企業が不良債権問題に直面。金融システム改革(日本版ビッグバン)を契機に、銀行業界で大規模な再編が進む。みずほフィナンシャルグループ、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行などのメガバンクが誕生。
IT・インターネット企業の台頭期
(2000年代前半)
ITバブルの発生と共に、インターネット関連企業のM&Aが活発化。楽天やヤフーなどによる積極的な企業買収が目立つ。ライブドアによる敵対的買収なども社会的な注目を集めた。
グローバル競争期
(2000年代中盤)
国内市場の成熟化を背景に、日本企業の海外展開が本格化。アジアを中心とした新興国市場への進出を目的としたクロスボーダーM&Aが増加。
構造改革期
(2000年代後半)
産業再編や事業の選択と集中を目的としたM&Aが増加。同業種間の経営統合や、異業種からの参入なども活発化。企業の競争力強化を目指す動きが顕著に。
事業承継型M&A拡大期
(2010年代)
経営者の高齢化を背景に、中小企業の事業承継型M&Aが急増。また、産業構造の変化に対応するための業界再編や、グローバル競争力強化を目的とした大型案件も継続的に発生。
市場拡大・制度整備期
(2020年代~現在)
2020年に一時減少したM&A件数は回復・拡大し、過去最多を更新。目的の多様化と制度整備が進んでいる。

1970年代:日本におけるM&Aビジネスの萌芽

1970年代前半、日本において現代的なビジネスとしてのM&Aが生まれました

当時の日本では、「会社を売買する」という発想はほとんど存在せず、M&Aはまだ一般的な経営手法ではありませんでした。

そんななか、転機となったのが1973年の出来事です。山一證券に勤務していた吉田允昭氏(後のレコフ創業者)が、米国の投資銀行から提示された「企業売却案件リスト」を目にし、当時の日本では前例がなかったこの仕組みに経営戦略としての可能性を見出しました。

翌1974年には、神奈川県のスーパーマーケット(売り手:コミーマート、買い手:大丸ピーコック)の事業譲渡案件を仲介する形で、仲介者が売り手・買い手の双方に提案を行い、成功報酬を得るという日本初の本格的なM&Aビジネスが成立します。

報酬算定にあたっては、米リーマン・ブラザーズの手数料表を和訳・円換算した基準が用いられました。現在も広く使われる「レーマン方式」の起源には諸説ありますが、日本においては株式会社レコフの創業者である吉田氏により導入されたことが始まりとされており、「リーマン」が「レーマン」に変化したという説もあります。

参考:レコフの歴史|M&A・事業承継なら株式会社レコフ

1980年代:バブル経済の後押しによる海外企業の買収

1980年代の日本のM&Aは、バブル経済によって生まれた潤沢な資金力を背景に、日本企業が海外企業の買収を積極化させた時代です。

1985年のプラザ合意後、日本銀行による大規模な金融緩和策が実施され、企業には余剰資金が供給されました。その資金は株式市場や不動産市場に流入し、株価や地価が高騰するバブル経済を形成していきます。こうした環境のもと、日本企業は株式発行などを通じて巨額の資金調達を行い、M&Aを成長戦略の一環として活用しました。

当時のM&Aの特徴は、日本の大企業による海外企業の買収が中心だった点にあります。不動産やレジャー・サービス分野への投資も活発化し、大手流通企業や鉄道会社によるホテル・ゴルフ場の買収が相次ぎました。

代表的な事例として、1989年にソニーが米国の映画会社コロンビア・ピクチャーズを約6,700億円で買収したケースが挙げられます。この買収は、米国メディアから「魂を売った」と批判されるなど、文化的摩擦を引き起こした点でも象徴的な出来事でした。

【1987年に日本初のM&A専業ファーム「RECOF」が設立】
吉田氏は1987年に山一證券を退任し、日本初のM&A専業ファーム「RECOF」を設立。1988年には米国の経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルや英国のフィナンシャル・タイムズがレコフの設立を報じ、日本のM&A市場への注目が高まりました。
なお、株式会社レコフの創業日にちなんで、1987年12月10日は「M&Aの日」と制定されました。

1990年代~2000年代前半:バブル崩壊を契機とした金融再編とM&Aの拡大

1990年代以降の日本のM&Aは、バブル崩壊による金融危機を背景に、銀行再編や業界再編を目的として本格化した時代です。

1990年代初頭のバブル経済崩壊により、多くの企業が保有資産の評価損や借入金返済に苦しみ、銀行には巨額の不良債権が積み上がりました。

この状況を打開するため、大規模な金融再編が進められ、いわゆる「メガバンク」が誕生しました。代表的なメガバンクは以下のとおりです。

  • 東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行) : 三菱銀行と東京銀行の合併
  • みずほ銀行 : 富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行の合併
  • 三井住友銀行 : 住友銀行とさくら銀行の合併

さらに、1996年11月の金融改革、いわゆる日本版ビッグバンを契機に、銀行の破綻処理や業界再編が本格化し、IT・食品・家電など幅広い分野でM&Aが活発化しました。一方で当時は、企業の譲渡が「身売り」「乗っ取り」と受け取られることも多く、M&Aに対する社会的な理解はまだ十分とはいえませんでした。

こうした環境下で、レコフは金融機関の統合や各業界の再編案件に数多く関与。日本のM&A市場の発展を支える役割を果たしています。

2000年代前半~2007年:ITバブルと中小企業におけるM&Aの認知拡大

2000年代前半の日本のM&Aは、敵対的買収をめぐる報道によって「乗っ取り」というイメージが先行していました。一方、2000年代後半になると、中小企業にも徐々に認知が広がっていきます

1990年代末から2000年代初頭にかけて、インターネットの急速な普及を背景にIT関連企業が急成長し、特に米国ではIT産業への過剰な期待から株価が高騰する「ITバブル」が発生しました。この影響を受け、日本でもM&Aに関するニュースが頻繁に報道されるようになり、その存在は一般にも広く認知されていきます。

しかし、報道の内容は必ずしもポジティブなものばかりではありませんでした。特に、ライブドアによるニッポン放送株式の買収劇は、「M&A=乗っ取り」というイメージを強く印象付けることとなります。実際には敵対的買収は極めて稀なケースでしたが、センセーショナルな報道により、M&Aに対する社会の不安や懸念が増幅される結果となりました。

そうした状況のなか、2006年には中小企業庁が「事業承継ガイドライン」を策定・公表します。これは、中小企業経営者の高齢化が進むなか、円滑な事業承継を促進し、中小企業の活性化を図るための指針として示されました。このガイドラインは、M&Aを事業承継の有効な選択肢の一つとして明確に位置付け、その後の中小企業M&Aの活性化に大きな影響を与えることとなりました。

2008年~2010年代:リーマンショック後の海外展開と事業承継型M&Aの本格化

2008年以降の日本のM&Aは、リーマンショックによる市場縮小を経て、海外展開を目的としたM&Aと、中小企業の事業承継を目的としたM&Aが本格的に広がりました

2008年9月、米投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻を契機に世界的な金融危機(リーマンショック)が発生し、日本企業も輸出不振などの影響を受けました。その結果、2011年までに国内のM&A件数は約40%減少します。

こうした逆風のなかでも、日本企業は成長機会を求めて海外市場への展開を加速させ、グローバル市場での事業拡大を目的とした「IN-OUT型」のM&Aが活発化しました。

一方で、国内では少子高齢化の進行により中小企業の後継者不在が深刻化し、2010年代に入ると事業承継を目的としたM&Aが急速に増加します。

リーマンショック後の海外展開と事業承継型M&Aの本格化
出典:登録M&A支援機関数(2024)|中小企業庁

実際に、事業承継・引継ぎ支援センターを通じたM&A実施件数は、2014年度の102件から2022年度には1,681件へと大きく伸長しました。民間のM&A支援機関による実施件数も同期間に260件から4,036件へと拡大しています。さらに、中小企業庁に登録されたM&A支援機関数も増加し、2010年代には1,077件、2020年代には1,648件に達しました。

このように、この時代は大企業だけでなく、中小企業にとってもM&Aが現実的な経営手段として定着していった時期といえます。

【レコフとM&Aキャピタルパートナーズの歴史】
1996年の金融ビッグバン以降、同社は銀行の統合や業界再編に関わる数多くの案件で助言を行い、日本のM&A市場の発展を牽引する存在となります。
2016年には、上場企業であるM&Aキャピタルパートナーズへの株式譲渡を通じて、創業者自身が事業承継を実践し、業界に新たなモデルケースを示すこととなりました。

2020年代~現在:今後のM&A市場の行方

2020年代の日本のM&A市場は、件数の拡大と制度整備が同時に進み、M&Aが経営の選択肢として定着していく成熟期に入っています。大企業だけでなく中小企業にも広く浸透し、その目的も多様化しています。

M&A市場規模の拡大と目的の多様化

1985年以降のマーケット別M&Amp;A件数の推移のグラフ
※参照:レコフデータ-MARR online「1985年以降のマーケット別M&A件数の推移」

新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年には一時的にM&A件数が減少しました。その後は回復基調に転じ、2021年には4,280件を記録します。さらに2025年には5,115件と過去最多を更新し、市場規模は拡大を続けています。

背景にあるのは、コロナ禍を契機とした働き方やビジネスモデルの変化です。成長戦略の実現やグローバル展開にとどまらず、業界再編・事業承継・グループ再編など、多様な目的を抱えたM&A事例が見られるようになりました。

M&Aはもはや一部の大企業に限られた手法ではなく、中小企業や小規模事業者など、企業規模を問わず活用される経営手段として位置づけられています

制度整備の進展と取引環境の健全化

市場拡大と並行して、M&Aを取り巻く制度整備も着実に進んでいます。中小企業庁は2022年に「中小PMIガイドライン」を策定し、2024年には「PMI実践ツール」を公表するなど、成約後の統合プロセス(PMI)を重視する動きを強めています。PMIとは、M&A成立後に買い手と売り手の組織・業務・文化などを統合していくプロセスのことで、M&Aを実際の成果につなげるうえで欠かせない取り組みです。

さらに、M&A支援機関登録制度の充実や特定事業者リストの運用開始、2026年度からのM&Aアドバイザー資格制度導入により、取引の透明性向上と業界の健全化が進められています。こうした制度面での整備は、M&Aに不慣れな中小企業経営者にとっても、安心して利用できる環境づくりにつながっています。

2025年時点で経営者の平均年齢は60歳台後半と過去最高水準に達しており、後継者問題は依然として深刻です。長年かけて築いてきた事業を次世代へ引き継ぐ手段として、M&Aの重要性は今後もさらに高まっていくと考えられます

まとめ

日本のM&Aは、1970年代の萌芽期から半世紀以上をかけて、大企業から中小企業まで広く活用される経営手段へと発展してきました。PMIや支援制度の整備も進み、M&Aは企業規模を問わず定着しつつあります。

事業承継や成長戦略など目的が多様化するなか、近年は実行段階だけでなく成約後も見据えた対応が求められており、必要に応じて専門的な支援を活用する重要性も高まっています。



よくある質問

  • 日本におけるM&Aの歴史はいつ頃から始まったのですか?
  • 日本における企業の買収・統合の動きは明治時代までさかのぼります。ただし、当時は政府の統制や財閥主導で進められたものであり、現代のような市場で企業を売買するM&Aビジネスとは性質が異なります。
  • 現代的なM&Aビジネスが日本で成立したのはいつですか?
  • 現代的なM&Aビジネスが日本に根付いたのは1970年代前半です。1974年には事業譲渡案件が実現し、仲介者が売り手と買い手の双方に提案し、成功報酬を得るという現在につながるモデルが成立しました。
  • バブル経済期の日本のM&Aにはどのような特徴がありましたか?
  • 1980年代後半から1990年代初頭のバブル経済期には、潤沢な資金力を背景に、日本企業による海外企業の買収が活発化しました。象徴的な事例として、1989年のソニーによるコロンビア・ピクチャーズ買収が挙げられます。
  • バブル崩壊後のM&Aはどのように変化しましたか?
  • 1990年代以降は、不良債権問題や金融危機を背景に、金融再編や業界再編を目的としたM&Aが本格化しました。メガバンクの誕生に象徴されるように、企業再編の手段としてM&Aの活用が広がっていきました。
  • 中小企業でM&Aが広がった背景は何ですか?
  • 2000年代後半から2010年代にかけて、中小企業経営者の高齢化と後継者不在の深刻化を背景に、事業承継を目的としたM&Aが広がりました。2006年の事業承継ガイドライン公表も、その認知拡大に影響を与えました。
  • 2020年代の日本のM&A市場にはどのような特徴がありますか?
  • 2020年代の日本のM&A市場は、件数の回復と拡大に加え、成長戦略、事業承継、業界再編、グループ再編など目的の多様化が進んでいる点が特徴です。大企業だけでなく中小企業にも広く浸透しています。
  • 近年のM&Aでは制度面でどのような整備が進んでいますか?
  • 近年は、中小PMIガイドラインの策定やPMI実践ツールの公表、M&A支援機関登録制度の充実などが進んでいます。これにより、取引の透明性向上や成約後の統合支援の重要性がより強く意識されるようになっています。

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