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相続時精算課税制度について
通常、相続時には多額の相続税が課せられる場合がありますが、相続時精算課税制度は、2024年1月から適用された税制改正に伴い、納税者にとってメリットの大きな選択肢の1つになりました。また、事業承継時にも、多額の税金を課せられる場合があり、納税負担により事業承継が円滑に実施できないこともあります。そのため、相続や事業承継を検討している経営者の中には、どのような税務対策をしてよいか悩んでいる方が多いと思われます。
本記事では、相続時精算課税制度にフォーカスして、相続時精算課税制度の概要、事業承継時に利用できる事業承継税制で相続時精算課税制度を選択するメリット、親族承継での活用ケースなどについてわかりやすく解説します。相続時精算課税制度について理解を深めるのにお役立てください。
※なお、本記事に記載されている内容は現行制度上のものであり今後改正等で変更される可能性があることにご留意ください。
このページのポイント
~相続時精算課税制度とは?~
相続時精算課税制度とは、一定年齢以上の親から子へ贈与した財産の贈与税を一時的に免除し、将来の相続時にまとめて精算する税制です。2024年の改正で制度が使いやすくなり、中小企業の事業承継にも活用できるメリットがありますが、選択後は暦年課税に戻れない点や小規模宅地特例の適用不可など注意点も存在します。適切な活用には専門家への相談が重要です。
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目次
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度のことです。
この制度は受贈者の選択により生前贈与された財産を贈与税に代えて贈与者の死後に相続税の計算に含めることで、相続税の計算をすることができます。
簡単にいうと、「今は税金を取らず、あとで相続時にまとめて精算しましょう。」という制度といえます。
相続時精算課税制度は、2024年1月から一部の内容が改正されていますが、改正前は納税者にとって使い勝手が悪いものでした。具体的には控除額が、特別控除枠の2,500万円のみで、この控除された贈与財産に関しても、最終的にはすべて相続税として税金を納付する必要がありました。さらに、少額の生前贈与を受けた際も贈与税の申告が必要とされていました。
しかし、2024年1月からの改正では、特別控除額2,500万円に加え、年間110万円までを限度とした基礎控除が利用できるようになりました。この基礎控除額に関しては贈与税が発生せず、相続税の計算に含める必要もありません。
つまり、2024年1月の改正によって、相続時精算課税制度は、節税効果が強化されると同時に、納税者の使い勝手のよいものに大きく改善されました。
相続時精算課税制度の対象者
相続時精算課税制度を利用できる対象者は、以下の条件を満たす人です。
- 贈与者贈与が生じた年の1月1日時点で60歳以上である父母や祖父母
- 受贈者贈与が生じた年の1月1日時点で18歳以上である子や孫
なお、2024年1月改正前は受贈者の対象年齢が20歳以上でしたが、成人年齢の引き下げに対応して、上記のとおり18歳以上となっています。
相続時精算課税制度を利用する際の提出資料
相続時精算課税制度を利用するには、基本的に以下の書類を所轄の税務署へ提出することが必要となります。
- 相続時精算課税選択届出書
- 受贈者の戸籍謄本(または抄本)
- その他の書類(受贈者の氏名、生年月日、受贈者の子または孫であることを証明する書類)
上記書類の提出期限は、最初に贈与を受けた年の翌年3月15日です。なお、贈与税が発生する場合は、その申告書に「相続時精算課税選択届出書」を添付することが求められます。
基本的には、上記1と2の書類で提出できますが、特例制度を利用する事業者など特定のケースではその他の書類も必要になる場合があるため、必要に応じて税理士等の専門家に相談することが重要です。
贈与税との関係
相続時精算課税制度によって贈与した場合の贈与税は、前述したとおり、累計で2,500万円までが非課税ですが、それを上回る部分については20%の税率が適用されます。なお、すでに贈与税を納付した財産分 (暦年贈与分)については、相続税の計算に含める必要はないことに留意が必要です。
相続時精算課税制度のメリット・デメリット
次に改正後の相続時精算課税制度を採用するメリットとデメリットについて説明します。
相続時精算課税制度のメリット
改正後の相続時精算課税制度を採用する主なメリットは以下のとおりです。
年間110万円までは生前贈与加算がない
1年で110万円までの贈与については、時期を問わずに相続税に加算する必要がなくなります。暦年課税制度でも毎年110万円までの基礎控除を使うことは可能です。しかし、暦年課税制度の場合、従来は相続開始前3年以内、2024年1月以降は相続開始前7年以内の贈与はすべて相続財産に加算されてしまいます。一方で相続時精算課税制度の基礎控除額は、この期間に関わらず利用できるので、相続税をより多く節税できます。
賃貸不動産を贈与することにより相続税の節税が可能
相続時精算課税制度は、特に賃貸不動産を贈与する際に大きな節税効果があります。この制度を利用することで、受贈者は贈与税を納付せずに賃貸不動産の贈与を受けることができます。もちろん、この制度を利用したとしても、最終的に相続税を納付しなければいけません。しかし、贈与された時点から賃貸収入はそのまま受贈者のものになるので、賃貸収入が贈与者の相続税の基礎額になることを防ぎ、結果として相続税を節税することが可能です。さらに賃貸収入を預金しておけば、相続税の納税時に役立てることもできます。
贈与時の価格で相続財産に加算が可能
相続財産に加算する評価額が、贈与時の価値になるのもメリットの1つです。これにより、将来価値が上昇しそうな財産を早期に贈与しておくことで、贈与時の低い評価額に基づいて相続税を計算できます。
相続時精算課税制度のデメリット
次に改正後の相続時精算課税制度を採用するには主なデメリットは以下のとおりです。
相続時精算課税制度を選択すると暦年課税制度に戻れない
相続時精算課税制度は、暦年課税制度との二者択一です。この制度をいったん選択すると、今後は二度と暦年課税制度を利用できません。利用申請をする前には、内容を理解した上で検討することに留意が必要です。
メリットがあるのは年110万円まで
基礎控除導入によるメリットは、その範囲内(110万円)の贈与までに限られます。110万円を超える贈与には税務申告が必要となり、超過分は相続財産(特例控除枠)に加算されます。仮に税務申告が遅れると特別控除枠の利用ができなくなり、一律で20%の贈与税が適用されるため、申告期限内に確定申告し納税する必要があります。
小規模宅地等の特例が使用できない
相続時精算課税制度によって贈与された土地は、小規模宅地等の特例の適用が受けられません。このため、特例を活用できる土地を贈与したことで相続税が高額になるリスクがあることからデメリットといえます。
相続時精算課税制度と暦年課税制度の比較
相続時精算課税制度と暦年課税制度(暦年贈与)の主なポイントをまとめると以下のようになります。
項目 | 相続時精算課税制度 | 暦年課税制度(暦年贈与) |
---|---|---|
非課税枠 | 合計2,500万円 | 年間110万円 |
税率 | 超過分は20%(定率) | 超過分は10%~55%(累進) |
相続時 | 財産に加算 | 3年以内贈与のみ加算 |
特徴 | まとめて早く贈与する際に有利 | 少額の贈与を毎年する際に有利 |
前述したとおり、一度相続時精算課税制度を選択すると暦年課税制度に戻れなくなるので、留意が必要です。また、どちらの制度を選択するかは、贈与者の年齢、贈与計画の期間、贈与対象者、所有する財産の種類や価値など、状況に応じて異なります。そのため、不安な場合は税理士等の専門家に適宜相談して進めることが重要です。
事業承継税制利用時の相続時精算課税制度の選択
次に事業承継を検討している中小企業の経営者が事業承継を行う場合を説明していきます。事業承継の実務上、事業承継税制を利用する際に、万が一、将来打ち切り事由に該当し、多額の贈与税を支払うことになるリスクに備え、相続時精算課税を選択することができます。
中小企業の経営者が事業承継を行う際、その後継者に株式を移転させる必要があります。株式を後継者が引き継ぐ際には、贈与や相続によることとなりますが、贈与の場合は課税制度に違いがあります。それは、通常の贈与にあたる暦年贈与の他、事業承継税制や相続時精算課税制度を利用することができるためです。そのため、事業承継税制と相続時精算課税制度は、事業承継税制を利用する際に、相続時精算課税制度の選択が前提となる制度設計となっています。
事業承継税制を利用して株式を後継者に贈与すると、従来の制度では発行済株式総数の3分の2について、100%納税猶予となっていました。これは大きな納税猶予となりますが、手続きの複雑さや条件の厳しさなどから、適用をあきらめるケースもありました。
また、事業承継税制を利用したものの、後で納税猶予が取り消されてしまうこともあり得ました。納税猶予が取り消されると、通常の贈与を行った場合と同様に贈与税がかかります。
非上場会社の株式を後継者に贈与する場合、株式の評価額が高くなると、贈与税の額も大きくなりますが、事業承継税制を利用しても多額の贈与税が発生するリスクがあるため、後継者への事業承継が進まない要因のひとつとなっていました。そこで、2017年度の税制改正では事業承継税制と相続時精算課税制度の併用が認められることとなりました。
具体的には、事業承継税制の適用が後から取り消され贈与税が発生する場合に、相続時精算課税制度を利用することになります。
前述したとおり、相続時精算課税制度によると、先代オーナーが後継者に贈与した財産は2,500万円まで非課税とされ、2,500万円を超える財産を贈与した場合は、一律20%の税率で贈与税の計算を行います。
相続時精算課税制度を利用して贈与された財産は、最終的に相続財産に含めて相続税の対象となりますが、すでに相続時精算課税制度により納税した税額は控除されるため、結果的に株式を相続したのと同じ税負担となるのです。
相続時精算課税制度を選択するメリット
ここからは事業承継税制で相続時精算課税制度を選択するメリットについて説明します。
事業承継税制を適用すると、株式の贈与を行った時に発生する贈与税の納税が猶予されます。事業承継税制は納税猶予が認められる制度であり、完全に納税義務が消滅するわけではありません。そのため、事業承継を行った後に納税義務が発生し、税金を支払うこととなる場合があり得ます。
この時に計算する税金は贈与税となりますが、贈与税の計算方法には大きく分けて前述した暦年贈与贈与と相続時精算課税制度の2種類ありますが、相続時精算課税制度を利用した方が、納税猶予が取り消された時の負担が軽くなるためメリットといえます。
また、事業承継税制による納税猶予が取り消された場合、贈与税以外にも利子税という金銭的な負担が発生します。利子税は本来の贈与税の納期限から遅れて納税していることとなるため、その遅れた日数分に応じた利息を負担する必要があります。
この遅延利息に相当する金額が利子税であり、納税猶予が取り消された場合にも発生するものとされています。利子税の金額は、本来納付しなければならない税金の額と、納税猶予が取り消された日までの日数にもとづいて計算されます。
そのため、暦年贈与による場合は、その暦年贈与により計算した贈与税の額を基礎として計算します。一方で相続時精算課税制度による場合は、相続時精算課税制度により求められた税額を基礎とすることとなります。
このように両者の計算方法は異なり、贈与された財産の金額が大きくなるほど、相続時精算課税制度の方が税額は少なくなります。そして税額が少なくなるほど、その金額をもとに計算される利子税の金額も少なくなるためメリットといえます。
相続時精算課税制度を選択する際の留意点
次に留意点として、以下の2つのケースでは、事業承継税制で相続時精算課税制度を選択した場合、暦年贈与より、税務上不利になる可能性があります。それぞれ順に説明していきます。
先代経営者が相続税の限界税率が高い方で、納税猶予の打ち切りになった場合
例えば、株価1億円の株式について、事業承継税制を使って贈与しましたが、打ち切り事由に該当してしまった場合で、先代経営者の相続税の限界税率が55%の場合を考えます。
暦年課税では、一般税率を適用しても、(1億円-110万円) × 55%-400万円=5,039.5万円の贈与税額の支払いが生じます。
一方で相続時精算課税制度では、(1億円-2,500万円) × 20%=1,500万円の贈与税額の支払いが生じます。
そして、先代経営者が亡くなった際に、1億円 × 55%(限界税率)-1,500万円(贈与税額)=4,000万円の相続税額が増加し、先に支払った贈与税額と合わせて、5,500万円となり、暦年課税より460.5万円(=5,500万円-5,039.5万円)多くなります。
ただし、実際の有利不利の判定には、打ち切り事由に該当した際に支払う利子税も考慮する必要があります。
事業の継続が困難な事由による免除を受ける場合
事業の継続が困難な事由による免除についての詳細は割愛しますが、事業の継続が困難な事由が生じたことにより対象株式を譲渡した場合には、その時の価額で贈与税を再計算できるという制度があり、本来払うべき贈与税額と再計算した贈与税額との差額が免除されます。
暦年課税の場合は、免除されない部分に対する贈与税を納めて課税関係は完結しますが、相続時精算課税を選択していると、先代経営者が亡くなった際に、免除されない部分を相続財産に持ち戻して相続税を計算しなければなりませんので、1つ目と同じく相続税の限界税率が高い方だと不利になるケースがあるため、留意が必要です。
親族承継での活用ケースの紹介
最後に親族内での事業承継を例にして、事業承継税制と相続時精算課税制度を選択した場合の手続きの流れと税負担などについて紹介します。
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経営者:父(65歳)、同族会社の創業者
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後継者:子(35歳)、すでに取締役として経営に参加
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自社株式の評価額:5,000万円(発行済株式の100%)
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相続税対策と経営権移転を視野に入れて、贈与により承継を志向
具体的な手続きの流れ
- Step1
会社が「中小企業庁の認定(認定中小企業者)」を受けるために「特例承継計画」を都道府県に提出(期限:2027年3月31日まで)する。 - Step2
経営者である父が子に自社株式(100%)を一括で贈与する。 - Step3
子は「相続時精算課税制度」を選択して適用申告を行うと同時に同時に「事業承継税制の贈与税猶予の申告」を行う。
税負担の結果
贈与税の計算
相続時精算課税制度を選択することで2,500万円までは非課税となります。
残り2,500万円に対して、通常は一律20%(=500万円)の贈与税が発生します。
ただし、事業承継税制の適用により全額猶予(納税は実質的に不要となります)
相続税の計算
自社株はすでに贈与済のため、将来の相続財産に加算されません。
さらに、贈与時に納税猶予が適用され、要件(5年間の代表者就任・雇用確保等)を満たせば将来的に贈与税も免除される可能性があります。
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経営者
父(65歳)、同族会社の創業者
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相続時精算課税制度
贈与時の税負担を抑えつつ、後継者への株式移転を早期実現
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事業承継税制(特例措置)
贈与税は猶予・免除、相続時の株式課税も不要になり節税効果も大きい
以上より、事業承継税制と相続時精算課税制度を適切に活用することで、税負担を最小限に抑えつつ、後継者への経営権移転と資産承継をスムーズに実現することが可能となります。
まとめ
今回は相続時精算課税制度について説明しました。
事業承継時に事業承継税制を適用して相続時精算課税制度を選択するメリットや留意点を理解しておくことで、税負担を最小限に抑えつつ、後継者への経営権移転と資産承継をスムーズに実現することが可能となります。
また、実務上の不安がある場合には、弁護士や税理士等の専門家に相談して進めることが重要です。
事業承継でM&Aを検討する際にはM&Aの専門家へ相談する選択肢もあります。
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よくある質問
- 相続時精算課税制度とは何ですか?
- 60歳以上の親などから18歳以上の子などへの贈与に対し、贈与税を一時免除し将来の相続時にまとめて精算する税制です。2024年改正で使い勝手が向上しました。
- 相続時精算課税制度を利用するメリットは何ですか?
- 年間110万円までの贈与に加算がなく賃貸不動産の節税効果や贈与時の評価額で相続税計算が可能な点などがあります。
- 相続時精算課税制度を選択すると暦年課税制度に戻れますか?
- 一度選択すると暦年課税制度に戻れません。選択前に慎重な検討が必要です。
- 事業承継で相続時精算課税制度を選ぶメリットは?
- 事業承継税制の納税猶予が取り消された場合の贈与税・利子税負担が軽減され、税負担のリスク管理に役立ちます。
- 相続時精算課税制度の申告に必要な書類は?
- 相続時精算課税選択届出書、受贈者の戸籍謄本などが必要で、申告期限は贈与翌年の3月15日です。