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決算とは、企業が一定期間の経営成績や財政状態を明らかにするために行う一連の会計処理などの手続をいいます。
M&Aにおいては、対象会社の決算情報が取引の成否を左右します。正確で透明性のある決算は、企業価値評価や財務分析などにおいて極めて重要な役割を果たします。
本記事では、M&Aにおける決算の重要性として、M&Aにおける会計の概要、決算における売り手と買い手の留意すべきポイントなどについてわかりやすく解説します。M&Aにおける決算の重要性の理解を深めるために、本記事をお役立てください。
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~決算(M&Aにおける決算の重要性)とは?~
決算は企業の経営成績や財政状態を明らかにするための会計処理で、M&Aにおいては取引の成否を左右する重要な要素。正確な決算は企業価値評価や財務分析において不可欠であり、売り手と買い手が留意すべきポイントを理解することが重要。
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目次
1. M&Aにおける会計
M&Aにおける会計について説明するにあたり、まずは財務会計と税務会計の違いについて紹介します。
「会計」とは、企業における経済的な取引や事象を記録し開示することであり、記録にとどまる「簿記」とは異なります。
そして、会計には、主な開示対象者によって分類する考え方があり、財務会計、税務会計などと以下のように分類することができます。

財務会計と税務会計は会社の外部の利害関係者に開示することを目的としている点は共通しますが、両者は異なる概念です。
なお、本記事では会計とは財務会計のこととして解説します。
1-1. 財務会計とは
財務会計とは、投資家や債権者などの外部利害関係者の意思決定に資する情報を提供することを目的とする会計をいいます。
経営者など会社内部の意思決定に資する情報を提供する管理会計とは異なります。
日本では一般に公正妥当と認められる企業会計基準というものがありますが、ここで将来の特定の費用または損失について、一定の要件を満たす場合には、引当金として負債計上が求められるほか、保有不動産について、一定の要件を満たす場合には、減損損失の計上が求められることがあります。
このような財務情報である決算情報をもとに、投資家などの外部の利害関係者は意思決定を行うことから、有用な情報であるといえ、財務会計の目的と合致しているといえます。
なお、管理会計とは、会社内部に存在する利害関係者が経営の意思決定をするために用いる会計をいいます。会計処理を通じて取得された情報を、原価計算や在庫管理、損益分岐点分析など様々な方法で整理、分析することで経営を支援する際に役立ちます。
なお、さらに詳しい財務分析については関連記事をご覧ください。
1-2. 税務会計とは
次に税務会計とは、法人税法などの法令に基づく会計であり、財務会計とは目的が異なります。財務会計が利害関係者への情報提供を目的とするのに対し、税務会計は正確な税額計算と納税を目的としています。
会社は税法に従い、課税所得を計算しますが、税法では納税者間の公平性に重きを置いていることから、恣意的な利益操作や未確定の債務の計上などが認められず、前述した企業会計基準で求められるような引当金や不動産の減損損失などについては、原則として損金算入が認められません。
そのため、企業会計基準に基づく会計帳簿における利益の額が、税法の課税所得と差異がある場合には、申告書上で種々の調整が必要となります。
このように税法において損金算入が認められない費用や負債などを会計上、計上しない場合には、申告書での調整が不要となるため、税法に準拠した会計帳簿を作成する企業も数多く存在します。なお、M&A税務については関連記事をご覧ください。
1-3. 決算とM&A
M&Aにおいて、会社の売り手と買い手の間には、情報格差が存在します。
売り手は会社の内情まで把握しているため、価格交渉において有利になります。一方で買い手側は売り手が提示した情報しか判断材料がありません。
上述したとおり、企業会計は外部利害関係者に向けて会社の現状の経営成績や財政状況である決算情報などを提示するのが目標です。買い手に信用をしてもらうためには正しい企業会計のルールに従って決算書が作成されていることが非常に重要です。
また、中小企業の場合には中小企業向けの会計基準も用意されているので、それらを遵守することで様々な外部利害関係者に対して信頼性の高い決算情報を提示することができます。
2. M&Aで会計が役立つ場面
これまで会計の分類について解説しましたが、ここからはM&Aにおいて、M&Aで会計が役立つ場面について解説していきます。
一般的なM&Aのフローは以下のとおりです。

- 譲渡対象企業である売り手では、案件化作業において企業価値評価を行い、株価の理論値を試算します。
- 譲受け企業である買い手では、対象企業の財務情報等の情報が記載された企業概要書を見て、M&Aを進めるか否かの判断を行います。
- その後、両社の経営陣同士の面談、基本合意、デューデリジェンス(Due Diligence、DDともいわれます)等を経て、契約締結・クロージングへ至ります。
会計はM&A全般に役立つものですが、その中でも決算に関係する特に重要な「企業価値評価」、「財務分析」及び「会計処理」についてそれぞれ順に説明します。
2-1. 企業価値評価
企業価値評価とは、会社全体の価値やその会社の株式価値を算出するための手法を指します。また、M&Aにおける企業価値評価とは、株式を譲渡するオーナー経営者である譲渡会社(売り手)と、その株式を譲受する会社(買い手)が納得のいく価格を導き出し、円滑に取引を成立させるための参考指標としての価値を算出することをいいます。
企業価値評価は決算書をもとに算出されますが、会計に対応する企業会計基準、税務に対応する税法のような決まった規則等はありません。しかし、企業価値評価の考え方にも、会計は大きな影響を与えます。
例えば、引当金を例に考えると、引当金は負債又は資産のマイナス科目であり、その結果、企業価値評価において決算数値の調整を考慮することが求められる場合があります。
代表的な例としては、「賞与引当金」、「退職給付引当金」、「貸倒引当金」などがありますが、いずれも企業価値評価上、決算書に追加で費用を追加で計上することになるため、純資産が減少することになるため、株価へのマイナス要因となります。
企業価値評価の手法には、DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)や類似会社比較法などがあり、どの手法を用いるかによって結果が異なるため、適切な選択が求められます。なお、企業価値評価の詳細については関連記事をご覧ください。
2-2. 財務分析
財務分析とは、企業の決算書などの財務情報を分析することにより、当該企業の現状や問題点を把握することであり、収益性分析、安全性分析、生産性分析、成長性分析などがあります。
譲受け企業である買い手は、譲渡対象企業である売り手から提供された決算書などをもとに、財務分析を行うことで、対象企業の強みや弱みなどを把握し、M&Aの検討に役立てることができます。

また 、デューデリジェンス(Due Diligence、DDともいわれる) においても財務分析が役立ちます。
デューデリジェンスの目的は売り手の実態について理解するとともに、M&Aに関する様々なリスク要因を事前に特定し、評価することです。通常、買い手が、公認会計士や弁護士など外部の専門家に依頼し進めることが一般的です。
なお、デューデリジェンスには、財務DD、法務DD、労務DDなどの領域別に様々な種類がありますが、財務分析が最も役立つ場面は財務DDです。財務分析により、対象会社の決算書などの財務情報を分析し、問題点を検出することと、それ以外に当該分析結果に基づき、事業計画の信頼性について検討することができます。
2-3. 会計処理
M&Aは会計処理に大きなインパクトを与えることがあります。例えば、 事業譲渡というスキームでは売り手に譲渡損益が生じ、買い手では「のれん」を認識することがあります。会計におけるのれんは、会社法施行前に営業権と呼ばれていたものです。のれん(Goodwill)とは、買収価格と買収企業の純資産(資産-負債)との差額のことを指し、ブランド価値や顧客基盤などの目に見えない資産が含まれます。日本の会計基準では、こののれんは買収後に一定期間で償却する必要があります。
3. M&Aにおいて売り手が留意すべきポイント
次にM&Aにおいて売り手が留意すべきポイントを企業価値評価に影響する会計論点、粉飾決算について、順に説明していきます。
3-1. 企業価値評価に影響する会計論点
企業価値評価に影響する会計の論点については、様々なものがありますが、こちらでは代表的な論点として、引当金、減損及び税効果会計について解説します。
まず、引当金とは、以下の4要件を満たす場合に、決算書で計上が求められる負債または資産のマイナスであり、株価へのマイナス要因となります。代表的には賞与引当金、退職給付引当金や貸倒引当金などがあり、4つの要件とは、将来の特定の費用または損失であり、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、合理的に金額を見積もることが可能である場合のことです。
4つの要件 | 事象 |
---|---|
将来の特定の費用、または損失である | 損害賠償は将来の損失 |
当期以前の事象に起因する | 係争の原因は当期以前に発生した問題 |
発生する可能性が高い | 裁判の状況に鑑み、敗訴する可能性が高い |
合理的に金額を見積もることが可能である | 判決文などから、損害賠償の金額を見積もることが可能である |
次に減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態をいい、一定の要件を満たす場合には、保有資産の帳簿価額を減額し、特別損失である減損損失の計上が求められます。なお、減損の詳細については関連記事をご覧ください。
最後に税効果会計とは、とは「会計上の資産または負債の額」と、「税務上の資産または負債の額」に相違がある場合において、法人税等の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続です。企業価値評価上、株価へのマイナス要因にもプラス要因にもなります。
3-2. 粉飾決算
粉飾決算とは決算書などの財務情報を実際よりも良く見せるための虚偽表示です。このような粉飾決算が発生する背景としては、投資家からの出資や、銀行からの融資を受けやすくすることなどが考えられます。
また、粉飾決算による財務諸表への影響は、「資産、収益の過大計上」「負債、費用の過少計上」があり、手法としては、「架空売上の計上」や「棚卸資産の過大計上」などがあります。粉飾決算で利用される主な科目、手法、財務諸表への影響は以下のとおりです。

粉飾決算が発覚した場合、決算書を修正する必要があり、売上高や売掛金などが修正前の金額より小さいものとなります。その結果、企業価値評価上、粉飾決算は株価へのマイナス要因となります。
また、M&Aでは経営者同士のトップ面談、デューデリジェンスなど様々なフェーズがありますが、粉飾決算の発覚がM&Aディールの後半になればなるほど、買い手からの印象は当然悪くなります。株価の調整でディールが進むこともありますが、買い手がコンプライアンス意識の高い企業の場合には、ディールが破談する原因にもなります。
4. M&Aにおいて買い手が留意すべきポイント
買い手が認識しておくべきポイントとして、財務分析、連結会計について、順で解説していきます。
4-1. 買い手の留意すべき財務分析
買い手が留意すべき財務分析の例としては、「収益性分析」、「安全性分析」、「成長性分析」があります。それぞれ順に説明します。
●収益性分析は、企業の収益性を分析するもので様々な指標がありますが、代表的な指標として、ROA(総資産利益率)とROE(自己資本利益率)があります。
- ROA(総資産利益率)は、総資産からどれだけの利益が生み出されているかという「資産の利益効率」をみる財務指標で「利益÷資産」で算出できます。
- 総資産ではなく、自己資本から生み出される利益に注目したROE(自己資本利益率)は「利益÷自己資本」で算出できます。
●安全性分析は、事業継続に必要であるのは支払能力であり、安全性分析では支払能力の余力を分析します。安全性分析でも様々な指標がありますが、代表的な指標として、流動比率、固定比率、自己資本比率があります。
- 流動比率は、短期的に支払う必要のある流動負債と当該支払にあてられる流動資産の割合の分析により、「短期的な支払能力を判断する」のに役立つ指標で「流動資産÷流動負債×100」で算出され、一般的に100%以上あるのが望ましいと考えられています。
- 固定比率は、「固定資産がどの程度自己資本で賄われているか」を示す指標で「固定資産÷自己資本×100」で算出され、一般的に100%以上あるのが望ましいと考えられています。
- 自己資本比率は、返済する必要のない自己資本と返済する必要がある借入金との比率の分析により、「長期的な安全性の判断」に役立つ指標で、「自己資本比率=自己資本÷総資産×100」で算出されます。
●成長性分析は、前述した収益性分析や安全性分析は「一時点の状態」を基にした分析とは性質が異なり、複数時点の状態を分析し、企業の成長性について評価する分析手法です。代表的な指標売上高成長率は、前期の売上高と当期の売上高を比較して、前期からどれくらい増加したかの割合を示す指標のことをいいます。
なお、さらに詳しい財務分析については関連記事をご覧ください。
4-2. 連結会計
連結会計とは、企業集団の財政状態、経営成績、キャッシュフローの状況を開示するものです。
上場企業等の一部企業では連結財務諸表の作成義務があり、M&Aは連結会計に大きなインパクトを与えることからも、M&Aでは非常に重要な考え方となります。
また、連結グループとしての経済的実体として業績を把握することが可能となるため、上場企業以外の企業にとっても、連結会計は、重要な考え方といえます。
買い手は、売り手が子会社を所有している場合、適切な連結決算を行っているかを確認することが重要です。
5. まとめ
今回はM&Aにおける決算の重要性について説明しました。
M&Aにおける決算は、買い手と売り手の間の情報格差を埋める重要な役割を担っています。適切な会計処理と正確な決算情報は、企業価値評価や財務分析の精度を高め、円滑なM&Aを実現します。売り手は透明性の高い決算書を準備し、買い手は慎重な財務分析を行うことで、リスクを最小限に抑えたM&Aを進めることが重要です。
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