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商法と会社法は、いずれもビジネスにおける取引や企業運営に関する法律です。
本記事では、商法と会社法の違いや、M&Aにおける両法の関係性について解説します。また、近年の改正状況についても紹介していきます。
このページのポイント
~商法と会社法の違いは?~
商法と会社法の違いは、商法が商取引に関する基本的なルールを定めた法律であるのに対し、会社法は会社の設立、運営、清算に関する詳細なルールを定めた法律です。商法は商取引の公平性と信頼性を確保し、会社法は企業のガバナンスを強化します。M&Aにおいては、株式譲渡や合併などの手法は主に会社法が適用されますが、個人事業主の事業譲渡の場合は商法が適用されることもあります。近年の改正では、商法は運送業に関する規定が見直され、会社法はコーポレートガバナンスに関する変更が行われました。
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商法と会社法の違い
商法と会社法は、いずれもビジネスにおける取引や企業運営に関するルールを定めた法律です。しかし、それぞれの適用範囲や目的に違いがあります。
商法とは
商法は、商取引に関する基本的なルールを定めた法律で、ビジネスにおける取引の公平性と信頼性を確保します。
商法は商取引に関する基本ルールをまとめた法律
商法は、日本国内での商業に関する基本的なルールをまとめた法律です。ビジネスにおける個人や企業の取引に関する取り決めを定めています。
2006年には、会社に関するルールが商法から独立して、会社法が制定されました。商法は「第一編 総則」「第二編 商行為」「第三編 海商」の三編から成っています。
商法の構成 | 概要 |
---|---|
第一編 総則 |
・商法の総則として「商行為」「商人」の定義が規定されている 【商人】 【商行為】 ・また商事に関しては商法、商慣習、民法の順で適用される旨が規定されている |
第二編 商行為 |
商行為は以下の3つに分け、具体的な商行為やルールを定めている 【絶対的商行為】 【営業的商行為】 【附属的商行為】 |
第三編 海商 |
船舶の保有や運送契約など、海商を行う際に必要となる特有のルールについて詳細に規定されている |
法律上の位置づけ
商法は、商取引における公平性の維持や取引関係者間における信頼関係構築を目的とする法律です。
対象範囲は、民法が想定する個の取引ではなく、ビジネスにおいて日々継続的かつ反復的に行われる定量的な取引です。具体的な対象としては、売買や交換、貸借、請負、預金などがあります。
また法律には、人物・地域・事項に対し具体的な限定をしない「一般法」と、特定の人物・地域・事項などに限定される「特別法」があり、商法は「特別法」です。民法と商法で重複する部分がある場合、民法ではなく、特別法である商法が優先されます。
歴史
商法に定めるルールは、法律として発布される以前より、商取引における商慣習として存在していました。
明治以降には企業経営におけるルールの必要性が認識されはじめ、1890年に、ドイツの商法を参考にした旧商法が交付され、その後、会社の設立自由化をはじめとした改正が加えられます。
そして、1899年に新商法となり、さまざまな改正を経て現在にいたっています。主な改正は以下のとおりです。
年代 | 改正内容 |
---|---|
1911年 | 取締役・監査役の責任強化 |
1922年 | 破産規定の破産法への移行 |
1932年 | 手形規定の手形法への移行 |
1950年 | 授権資本制度の導入 |
1999年 | 株式交換制度の創設 |
2000年 | 会社分割制度の創設 |
2001年 | 有限会社に関する改正・金庫株の解禁 |
2018年 | 航空運送や危険物の通知義務に関する規定の追加 |
会社法とは
会社法は、会社の設立、運営、清算に関する詳細なルールを定めた法律で、企業のガバナンスを強化するためのものです。
会社法は会社運営に関するルールをまとめた法律
会社法は、日本国内における会社の設立、運営、清算に関する規定や手続きに関するルールを詳細に定めている法律です。
施行前は、「商法」や「株式会社の監査等に関する商法の特例法」「有限会社法」などに分かれていましたが、2006年に会社関連の法律が統合・再編成され「会社法」として施行されました。施行後も何度か見直されており、2014年と2019年には大きな改正が実施されています。
法律上の位置づけ
会社法は、先に挙げたとおり、商法の中から、会社に関する詳細なルールに関する部分を独立して法体系化したものです。そのため、商法はビジネス全般を扱う一般法であり、会社法は企業のルールに特化した特別法として位置づけられます。
また、商法と会社法で重複する部分に関しては、商法ではなく、特別法である会社法が優先的に適用されることがポイントです。
法律の適用範囲に関しても、会社法と商法は異なります。商法はビジネスにおける取引であれば個人事業主、企業を問わず対象となりますが、会社法は「企業」が対象です。つまり、商法は商人全般を対象とする一方で、会社法は会社のみを対象とする法律といえます。
会社法の構成
会社法は、以下のように八つの編から構成されています。
会社法の構成 | 概要 |
---|---|
第1編 総則 |
総則として、会社法で用いられる用語や商号に関する定義が規定されている 【会社】 【外国会社】 【親会社】 【公開会社】 |
第2編 株式会社 |
株式会社の設立や株式、新株予約権、定款の変更方法など、株式会社の運営にあたっての規定を定めている |
第3編 持分会社 |
持分会社の設立や管理など、持分会社運営に関する規定が定められている |
第4編 社債 |
募集社債の総額やその利率、社債券の発行など、社債に関するルールを定めている |
第5編 組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付 |
株式会社および持分会社の組織変更、合併や分割、株式交換の際の規定と手続きについて定めている |
第6編 外国会社 |
海外企業が日本国内において取引する際の規定など、海外企業に関するルールが定められている |
第7編 雑則 |
会社の解散命令や訴え、登記に関して定めている |
第8編 罰則 |
役員の特別背任罪や虚偽文書行使など、会社運営に関する罰則について定めている |
M&Aと商法・会社法の関係
M&Aでは、譲渡側(売り手)も譲受側(買い手)も会社が主体で行うため、株式譲渡、株式交換、合併、会社分割などの手法は主に会社法が適用されます。しかし、個人事業主の事業譲渡の場合、商法が適用されることもあります。
いずれの場合も商法および会社法に沿った手続きが行われなければ、これらの手法は無効となるリスクがあります。さらには法令違反として罪に問われる場合もあるため、現行の法律を正しく理解すると共に、法改正の動向についても注目する必要があります。
近年における商法・会社法の改正
近年、商法と会社法は、現代のビジネス環境に対応するために改正され、運送業やコーポレートガバナンスに関する重要な変更が行われました。
商法の改正
2018年5月に「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律」が成立し、2019年4月から施行されました。これは商法制定以来120年ぶりの改正で、現代の運送業界の実情に合わせたものです。主な改正点は以下のとおりです。
複合運送の規定新設
陸路、海路、空路を組み合わせた運送方法に関する共通ルールが定まりました。航路を超えた共通のルールが定まったことで、事業者も安定したサービス提供につながり、顧客にとってもサービス利用の安心感が高まりました。
運送人の責任範囲の見直し
改正以前の商法では、荷送り人が運送の委託時に高価品であることを知らせなかった場合には、運送人が損害を発生させたとしても賠償責任に問われませんでした。しかし、改正に伴い、荷送り人の明告がなくても運送人が高価品であると知っていた場合や故意に損害を生じさせた場合には、運送人が賠償責任を負うこととなりました。
また、改正前は、運送中に荷物が紛失した際、荷受人のもとに一部分も荷物が届かなかった場合は損害賠償を請求できませんでしたが、改正後は、運送人がすべての荷物を紛失し、荷受人のもとに何も届かないとしても、荷受人は運送人に対して損害賠償請求が可能です。
運送人の責任範囲が見直されたことで、荷送り人および荷受人は万が一のときに一定の保証を受けることができます。
運送人の責任期間の短縮
運送人の責任軽減も商法の改正ポイントの一つです。
例えば、荷物の紛失や損傷が生じた場合、損害賠償請求期間は1年、仮に運送人が事情を知っていた場合には5年間とされていました。しかし、改正により運送品引渡しの日から1年間に統一され、損害賠償責任の行使期間が限定されることとなりました。
危険物通知義務の明文化
商法の改正により、荷送り人は、運送人に危険物の運送を依頼する際に通知することが義務づけられました。通知内容は以下のとおりです。
- 運送品の品名
- 性質
- その他安全な運搬に必要な諸情報
仮に荷送り人がこれらの情報の通知を怠ったことで荷物の破損・重大な事故等が発生した場合には、運送人ではなく荷送り人が損害賠償責任を負うこととなります。
会社法の改正
2019年12月に会社法が改正され、主にコーポレートガバナンスに関する変更が行われました。主な改正点は以下のとおりです。
株主総会の見直し
株主総会の見直しについては以下の3つの点が改正されました。
電子提供制度の創設 |
株主総会資料を会社サイトに掲載することで対応可能になった |
---|---|
株主の議案数の制限 |
株主提案権の濫用防止のため、1回の株主総会で提案できる議案数が10件までに制限された |
議決権行使書面の閲覧請求の制限 |
議決権行使書面の閲覧請求理由に正当性が認められない場合には、会社は閲覧請求を拒否できると改定された |
取締役会の見直し
取締役会に関する見直しでは、「取締役の個人別の報酬の内容が株主総会で決定されない場合には、取締役会はその決定方針を定め、その概要等を開示しなければならない」と定められました。
その他、企業と取締役の利益が相反する場合など社外取締役が例外的に業務を執行することが期待されている場合に社外取締役への業務委託を認めると共に、上場企業においては一人以上の社外取締役の設置が義務付けられています。
株式交付制度の導入
より柔軟な子会社化を実現するために、株式交付制度が導入されました。
改正以前、他の会社を子会社とする場合には、株式交換等で対象企業の株式を100%取得し、完全子会社とする必要がありました。株式交付制度の導入により、対象企業の株式を51%取得して子会社化する際にも、自社株を対象企業の株主に交付し、替わりに対象企業の株式を取得する方法で子会社化の取引が進行できるようになっています。
まとめ
商法と会社法は、ビジネスにおける取引や企業運営に関する重要な法律であり、それぞれの適用範囲や目的に違いがあります。M&Aにおいても、これらの法律に基づいた適切な手続きが必要です。
近年の改正により、現代のビジネス環境に対応した法的な変化が進んでいます。M&Aキャピタルパートナーズでは、最新の法改正に対応した専門的なアドバイスを提供し、企業の成長と発展をサポートします。ぜひご相談ください。