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連結決算について
連結決算とは、グループ企業にとっては重要な決算手続きです。上場企業など一部の企業には法律で義務づけられていますが、義務のないグループ企業にもメリットが大きいといわれています。M&Aにおいては、対象会社がグループ企業の場合には、連結決算の情報が取引の成否を左右します。正確で透明性のある決算は、企業価値評価や財務分析などにおいて極めて重要な役割を果たします。
本記事では、連結決算の概要、メリット・デメリット、M&Aにおける連結決算の重要性などをわかりやすく解説します。連結決算についての理解を深めるために、本記事をぜひご活用ください。
このページのポイント
~連結決算とは?~
連結決算とは、親会社と子会社を一体と見なし、グループ全体の財務状況を明確にする手続きを指します。本記事では、連結決算の概要、作成義務、メリット・デメリット、M&Aにおける重要性について詳しく解説します。
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目次
連結決算
連結決算とは、親会社と子会社・関連会社を1つの会社とみなし、子会社・関連会社を含むグループ企業全体の財政状態、経営成績、キャッシュフローの状況を数値によって明らかにする手続きをいいます。
グループ企業内でも、親会社を含む各会社単体の決算については、通常の決算手続き=単体決算は行われます。
単体決算では、グループ企業内の取引によって生じる債権債務や未実現利益が消去されないため、正確な財政状況を把握できません。また、単体決算のみでは、押込み販売や利益操作の粉飾決算などの不正が発生する可能性もあります。そこで、連結決算を行えば、内部取引や利益移転などが消去されるため、重複計上によるミスや意図的な不正を防ぎ、グループ企業全体の財政状態や経営成績を反映した財務諸表が作成できます。これにより、株主、投資家などの投資判断に役立つ情報提供ができるようになります。
日本においては、連結決算は、会社法と金融商品取引法で上場会社など、一定の会社に義務づけられています。1978年から導入されましたが、当時は単体決算が重視されていたため、連結決算が開示されることはあまりありませんでした。しかし、2000年3月にディスクロージャー制度が大幅に改正されたことで、連結決算での情報開示が基本となりました。
連結決算で作成される財務諸表
連結決算では、グループ企業の各社の個別財務諸表を取りまとめ、グループ内の内部取引や未実現利益などを相殺し、日本の会計基準においては、以下のようなグループ全体の連結財務諸表を作成します。
- 連結貸借対照表
ある特定のタイミング(決算日)のグループ全体の資産、負債及び純資産の金額と内訳を示す書類 - 連結損益計算書
ある一定期間(決算期の1年間など)のグループ全体の損益の状況を示す書類 - 連結包括利益計算書
グループ全体の当期純利益にその他の包括利益の内訳項目を加減して包括利益を表示する書類 - 連結株主資本等変動計算書
連結貸借対照表の純資産の部の一会計期間における変動額のうち、主として、親会社株主に帰属する部分である株主資本の各項目の変動事由を示す書類 - 連結キャッシュフロー計算書
ある一定期間(決算期の1年間など)のグループ全体の現金及び現金同等物の動きを示す書類 - 連結附属明細表
連結財務諸表の内容を捕捉する重要な事項を表示する書類
なお、BS(貸借対照表)、PL(損益計算書)、包括利益については関連記事をご覧ください。
連結決算の作成義務対象会社と連結範囲
次に連結決算の作成義務対象会社と連結の範囲についてです。会社法と金融商品取引法では、主として以下に該当する会社に対して連結決算を義務づけています。これらの条件を満たす会社は、連結決算を行い、その結果を開示する必要があります。
【連結決算が義務づけられている会社の基準】
- 会社法:
資本金5億円以上または負債総額200億円以上のいわゆる会社法上の大会社 - 金融商品取引法:
有価証券報告書の提出義務がある会社
ただし、連結決算の⽬的は、あくまでも企業グループの財政状態や経営成績などを明らかにすることにあるため、上記に該当する会社であっても、連結対象となる子会社・関連会社がなければ連結財務諸表を作成する義務はありません。
連結範囲の対象となる子会社・関連会社は、原則、全ての子会社・関連会社を含むことが基本とされていますが、企業グループ全体に大きな影響を与えない場合は連結決算対象から外すことが許容されています。
子会社・関連会社を連結決算から除外するか否かは、親会社が支配権を有しているかに加えて、資産、売上、利益、利益剰余金などから総合的に判断します。なお、少し専門的な内容になりますが、参考として連結範囲に含める子会社・関連会社の判定はそれぞれ以下のとおりとなっています
【子会社の判定】
他の企業の議決権の所有割合 | 他の企業を支配していると判定される場合 |
---|---|
50%超(過半数) |
他の企業の議決権の過半数を自己の計算において所有 |
40%~50% |
他の企業の議決権の40%~50%を自己の計算において所有 + 緊密者の議決権や役員関係などの一定の条件(※下記①~⑤のいずれかに該当する場合) |
0%~40%未満 |
他の企業の議決権の0%~40%未満を自己の計算において所有 + 緊密者と合わせると他の企業の議決権の過半数を所有 + 役員関係などの一定の条件(※下記②~⑤のいずれかに該当する場合) |
また、上記表に※と記載した、役員関係などの一定の条件とは、以下の①~⑤をいいます。議決権の所有割合と以下の条件を加味して、他の会社を支配しているかどうかを検討します。
他の企業との関係 | 一定の条件 |
---|---|
① 緊密者、同意者の議決権 |
自己の計算において所有している議決権と、自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者(緊密者)及び自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者(同意者)が所有している議決権とを合わせて、他の企業の議決権の過半数を占めている |
② 役員、使用人関係 |
役員若しくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、当該他の企業の取締役会その他これに準ずる機関の構成員の過半数を占めている |
③ 契約関係 |
他の企業の重要な財務及び営業又は事業の方針の決定を支配する契約等が存在する |
④ 資金関係 |
他の企業の資金調達額(貸借対照表の負債の部に計上されているもの)の総額の過半について融資(債務の保証及び担保の提供を含む。)を行っている (自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係のある者が行う融資の額を合わせて資金調達額の総額の過半となる場合を含む。) |
⑤ その他事実関係 |
なお、ある会社に対して、当該会社を支配し親会社となるのは1社のみであり、2社が親会社となることはありません。例えば、Z社の議決権の50%をX社が保有し、残りの50%をY社が保有している場合、上記の①~⑤の条件等を勘案してどちらが親会社に該当するかを判定します。ただし、Z社に対するX社およびY社の条件が同等の場合には、X、Y社は共にZ社の親会社には該当せず、Z社は両社の関連会社になります。 |
なお、ある会社に対して、当該会社を支配し親会社となるのは1社のみであり、2社が親会社となることはありません。例えば、Z社の議決権の50%をX社が保有し、残りの50%をY社が保有している場合、上記の①~⑤の条件等を勘案してどちらが親会社に該当するかを判定します。ただし、Z社に対するX社およびY社の条件が同等の場合には、X、Y社は共にZ社の親会社には該当せず、Z社は両社の関連会社になります。
関連会社
関連会社とは、親会社が議決権の20%以上を所有し、経営方針の決定に重要な影響を与えることができる会社をいいます。 具体的には、以下のような会社をいいます。
- 議決権株式の保有比率が20%以上の会社
- 議決権保有比率が15%以上20%未満で下記の「一定の要件」 のいずれかに該当する会社
- 議決権保有株式の保有比率が15%未満、特定の者の議決権とあわせて自己所有等議決権数 (※) が20%以上、かつ 「一定の要件」 のいずれかに該当する会社
※自己所有等議決権数とは、自己の議決権」、「自己と出資、人事、資金、技術、取引などにおいて緊密な関係があることにより、自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者が所有している議決権」 、「自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者が所有している議決権」の合計数をいいます。
「一定の要件」は、具体的に以下をいいます。
- (親会社の社員等が)役員等に就任している
- 親会社が重要な融資を行っている
- 親会社が重要な技術を提供している
- 親会社と販売や仕入などビジネス上の重要な取引がある
- 財務や事業の方針決定において、 重要な影響があると考えられる事実が存在する
なお、関連会社や非連結子会社の決算情報を連結決算で取り込む際には、持分法という会計処理を行います。持分法とは、会社の純資産と損益のうち、親会社に帰属する部分だけを連結する方法をいいます。この持分法が適用される会社を持分法適用会社といいます。
連結決算のメリットとデメリット
連結決算のメリット
連結決算のメリットは主に以下の4つがあります。
グループ全体の経営状況を把握できる
グループ経営の場合、各会社の単体決算のみで財政状態や経営成績などを判断することは困難ですが、連結決算を行うことで、グループ全体の経営状況が明確になります。また、連結決算をすれば、内部取引など消去後の数字や、正確な経営状況を把握できる上に、各社のセグメント情報の把握や⼦会社や関連会社の財務分析や収益性分析もしやすくなるため、経営判断にも活用できます。
企業グループ内での不正取引を防⽌できる
連結決算を行うと、企業グループ内(例えば、親会社と子会社間)における不正取引を防⽌できます。連結決算では連結財務諸表の作成に向けてグループ内の情報が収集されるため、例えば、親会社がグループ子会社へ押込み販売するといった異常な取引や不正を発⾒しやすくなります。
不正リスクを回避することで、企業グループの信頼性が向上すれば、株主、投資家などに安心感を与えられることができます。
子会社・関連会社の管理体制やコンプライアンス強化につながる
連結決算を行うと、親子会社間や関連会社との間で情報収集の体制が構築できます。これにより、子会社・関連会社による不正も防止することもできます。また、子会社・関連会社の経理業務が親会社の求める水準を満たさない場合でも、連結決算によってリソース不足によるミスを防ぐことが期待できます。
金融機関からの融資や投資家からの支援を受けやすくなる
連結財務諸表でグループ全体の財政状態が明確になることで、資産規模の増減が把握しやすくなります。連結財務情報は、金融機関や投資家などにとって、リスク評価や融資判断の材料となります。また、連結財務諸表の開示には、外部監査⼈による監査を受けることになるため、情報の信頼性が保証されることになり、融資や投資を行う際の調査を円滑に行うことができます。
連結決算のデメリット
連結決算のデメリットは、業務負担が大きいことが多い点です。
連結財務諸表の作成には、相当程度の時間と労力がかかることが多く、業務が煩雑で、単体決算以上に担当者の負担が大きくなります。特に煩雑になるのは、子会社・関連会社の決算書を収集し、親会社の決算と合算する際の内部取引相殺(いわゆる連結処理)を行う点です。⼦会社が多い企業グループでは業務負担も大きくなりやすく、グループ内取引が多いと、各取引の内容確認も必要になり、それだけで多くの手間がかかります。
また、親会社と子会社・関連会社で異なる勘定科⽬を使⽤している場合には、勘定科目の統一にも時間がかかり、連結試算表作成までに至らないこともあります。
このように、集計までに多大な手間がかかる作業が多いため、連結決算業務を効率的に進めるには、子会社・関連会社から円滑に情報収集し、単純合算・連結修正がスムーズに行える仕組み作りが必要となります。
M&Aにおける連結決算の重要性
最後にM&Aにおける連結決算の重要性について解説していきます。
一般的なM&Aのフローは以下のとおりです。

- 譲渡対象企業である売り手では、案件化作業において企業価値評価を行い、株価の理論値を試算します。
- 譲受け企業である買い手では、対象企業の財務情報等の情報が記載された企業概要書を見て、M&Aを進めるか否かの判断を行います。
- その後、両社の経営陣同士の面談、基本合意、デューデリジェンス(Due Diligence、DDともいわれます)等を経て、契約締結・クロージングへ至ります。
譲渡対象企業である売り手が企業グループである場合には、単体決算だけでなく、連結財務諸表をベースに企業価値評価を行うことになるため、M&Aの成功に直結する重要な要素といえます。
そのため、買い手は、売り手が子会社・関連会社を所有している場合、適切な連結決算を行っているかを確認することが重要です。
なお、企業価値評価やM&Aにおける決算の重要性の詳細については各関連記事をご覧ください。
まとめ
今回は連結決算について説明しました。適切な連結決算の実施は、企業価値評価や財務分析の精度を高め、円滑なM&Aを実現します。売り手は透明性の高い連結財務諸表を準備し、買い手は慎重な財務分析を行うことで、リスクを最小限に抑えたM&Aを進めることが重要です。
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よくある質問
- 連結決算とは何ですか?
- 連結決算とは、親会社とその子会社を一つの企業体として財務状況を明確にする手続きです。
- 連結決算のメリットは何ですか?
- 連結決算のメリットには、グループ全体の経営状況の把握や不正取引の防止などがあります。
- M&Aにおける連結決算の重要性は何ですか?
- M&Aでは、連結決算が企業価値評価の基盤となり、取引の成功に直結します。