アナジー効果とは? 引き起こす要因や回避策、生じた際の対応策を解説

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M&Aは、企業の成長や市場競争力を高めるための有力な戦略ですが、統合の過程で「アナジー効果」と呼ばれるマイナスの影響が発生するリスクがあります。

アナジー効果とは、企業間の文化やビジョンの違い、コミュニケーション不足などにより、M&Aを実施することで期待していたシナジー効果が得られず、逆に事業に悪影響を与える現象のことです。

本記事では、アナジー効果の概要を解説したうえで、その原因になり得る要素や、発生した際の対応策、発生を回避するための対策などを紹介していきます。

このページのポイント

~アナジー効果とは?~

アナジー効果とは、M&Aによるマイナスの影響のことです。企業間の文化やビジョンの違い、コミュニケーション不足などにより、期待していたシナジー効果が得られず、逆に事業に悪影響を与える現象を指します。アナジー効果を引き起こす要因には、企業理念や経営方針の急激な変化、コミュニケーション不足、既存事業との方向性の違い、リソースの見積もり不足などがあります。回避策としては、戦略統合プロセスの重要性を理解しPMIを実施すること、徹底したデューデリジェンス、トップ面談での相互理解、具体的な対応策を契約書に記載すること、従業員へのヒアリング、M&A成立後のコミュニケーション、専門家のサポートを受けることが挙げられます。

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M&Aにおけるアナジー効果とは

はじめに、M&Aにおけるアナジー効果の概要と、シナジー効果の違いについて簡単に整理してみます。

アナジー効果の概要

アナジー効果とは、M&Aにおいて発生するマイナスの効果のことです。これは、買い手企業と売り手企業がそれぞれ単独で事業を行う場合よりも、統合することで生じるマイナスがより一層顕著になる現象を指します。

具体的な例としては、M&Aをきっかけに売上が減少したり、業績が不振に陥ったりするほか、従業員のモチベーションが低下し、大量辞職が発生することなどが挙げられます。これ以外にも、統合によって発生する組織文化の摩擦や、経営陣の意見の不一致が事業運営に深刻な影響を与え、アナジー効果が生じることもあります。

シナジー効果との違い

アナジー効果と同様に、各事業の関係性や企業統合における効果を表す用語には「シナジー効果」があります。アナジー効果がM&Aによって生じる企業や事業間の相互マイナスの相乗効果を指すのに対し、シナジー効果はM&Aによって相互に発生するプラスの効果のことです

具体的には、M&Aの結果生じた生産性が向上することによるコストの削減や販路拡大に伴う得意先の増加、ノウハウや知識の共有による新商品・サービスの開発などが挙げられます。

シナジー効果が創出されると、企業の成長が加速し、競争力が強化されるでしょう。しかし、シナジー効果でなくアナジー効果が発生してしまうと、逆にマイナスの結果を招くことになり、企業の目指す成果が達成できなくなるリスクが生じます。

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アナジー効果を引き起こす要因

M&Aのアナジー効果を引き起こす主な要因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • M&Aによって企業理念や経営方針が急に変わる
  • コミュニケーションが十分でない
  • 既存事業との方向性の違いが大きい
  • M&Aにあたって投じるべきリソースの見積もりが不十分である

それぞれ見ていきましょう。

M&Aによって企業理念や経営方針が急に変わる

M&Aによって企業理念や価値観が急激に変わると、社員が新しい文化や行動指針に対応できず、チームワークの乱れやモチベーションの低下を引き起こす場合があります。

これにより、組織内で重要な役割を果たしているキーパーソンの辞職や、さらには従業員の大量退職が発生する恐れがあります。企業理念が深く浸透している会社ほど、M&Aを実施することでこのアナジー効果が発生するリスクは高まります。

また、売り手企業で大規模な経営方針の転換が行われた場合には、顧客が離れ、収益が減少する可能性もあります。

例えば、外資系企業が歴史ある老舗企業を買収し、その企業文化を自社のカラーに一変させた場合、老舗企業が築き上げてきた伝統やブランドイメージが失われ、顧客は収益を失うことが考えられるでしょう。

コミュニケーションが十分でない

売り手企業と買い手企業との間でコミュニケーションが十分でないと、アナジー効果が発生しやすくなります。

例えば、M&Aの準備段階でトップ同士の関係性が十分に構築されていない場合や、統合後の経営方針に関するコミュニケーションが不十分な場合は、統合後に方針の乖離が生じ、生産性の低下につながるかもしれません

また、M&A後に旧経営者が何らかの形で経営に関与する場合も、モチベーションの低下が原因で期待された活躍ができず、アナジー効果を引き起こす可能性があります。
トップ同士のコミュニケーションだけでなく、従業員に対するコミュニケーションも重要です。特に売り手企業の従業員は、M&Aによる給与や待遇の変化を不安に感じやすいため、こうした従業員に対する配慮が欠けると、モチベーションの低下や離職を招くリスクが高まります。

既存事業との方向性の違いが大きい

既存事業とはまったく異なる業種でM&Aを行う場合は、シナジー効果が得られにくく、むしろアナジー効果が発生する可能性が高まります

例えば、建設業を主な事業とする企業が、外食事業を展開する企業を買収しようと考えた場合、双方の事業に直接的な接点は少ないため、建設業の技術力やノウハウをそのまま外食事業に転用することはできません。したがって、シナジー効果が得られにくいだけでなく、未知の業界で事業を展開するための体制構築やフォローアップに多大な時間と労力を要することになります。

その結果、新規事業の運営が既存事業を圧迫するようになり、既存事業の業績悪化や生産性の低下など、アナジー効果を招くリスクが高まります。

M&Aにあたって投じるべきリソースの見積もりが不十分である

コスト削減は、一般的にM&Aによって期待されるシナジー効果の一つですが、M&Aによって発生するコストを正確に見積もらないと、予想外の出費が発生し、アナジー効果を招く要因になり得ます

例えば、複雑な業務システムや社内制度の統合にかかるコストの見積もりが不十分である場合、資金が不足し、統合後の運営に悪影響を与えるかもしれません。

さらに、統合前に売り手企業の経営資源の実態把握が不十分だと、M&A後に人材や資金の不足が発覚するリスクがあります。

このような場合、買い手企業は支援のために追加のリソースを割かなければなりません。それにより、本来の事業に費やすべき労力や資金が失われ、結果的に買い手企業自体の生産性が低下するアナジー効果が発生する可能性があります。

アナジー効果が生じた際の対応策

アナジー効果が生じてしまったら、できるだけ早急に対応策を講じなければなりません。なかでも特に効果的なのが、以下の3つです。

  • 双方の企業文化を配慮した統合プロセスへ転換する
  • 本業の基盤への投資を重視する
  • ピュアカンパニーを設立し環境を整備する

一つずつ見ていきましょう。

双方の企業文化を配慮した統合プロセスへ転換する

統合過程でアナジー効果が生じた場合、双方の企業文化を尊重し、それらを配慮した統合プロセスへ転換することが大切です。

企業文化の相違を無視し続けると、従業員や経営陣に過度の負担がかかり、意欲の低下や離職につながるリスクが高まります。

まずは、お互いの企業文化を正確に把握し、その違いを理解することが重要です。そのうえで、違いを考慮しながら慎重に統合を進めることで、従業員のモチベーション向上や離職の回避が期待できます。

本業の基盤への投資を重視する

売り手企業の立て直しに親会社のリソースを集中させた結果、資金や人材が不足し、本業に支障が生じるケースがあります。そのような場合は、売り手企業の立て直しをいったんストップし、本業の基盤への投資を優先して進めていくことが大切です。

まずは母体となる企業が揺らがないように資金を投入し、基盤を強化することで、将来に向けた買収先への投資がし易くなります。また、少人数であっても本業が安定して稼働できる体制を構築しておくことが、企業全体の持続的な成長につながります。

ピュアカンパニーを設立し環境を整備する

ピュアカンパニーとは、特定の事業に専念する企業のことです。

同一企業内で多角的な事業を展開すると、シナジー効果が期待できる一方で、異なる事業間でアナジー効果が生じやすくなるリスクもあります。そのため、多角化によってアナジー効果が発生した場合は、ピュアカンパニーを設立して事業ごとに集中できる環境を整備することが有効な対策となります

ただし、既存企業から事業を切り出し、ピュアカンパニーを設立する場合には、新たなアナジー効果が生じる可能性もあるため、慎重に進めることが必要です。特に、母体企業と新設するピュアカンパニーの双方に過度な負担がかからないよう、事前にシミュレーションを行い、万全の体制を整えることが重要です。

アナジー効果を回避する方法

アナジー効果を回避するためには、いくつかの効果的な方法があります。そのなかでも、多くの企業に共通する効果的な、7つの方法を紹介します。

戦略統合プロセスの重要性を理解してPMIを実施する

M&AにおけるPMI(統合プロセス)は、戦略統合、業務統合、モニタリングの3段階に分かれています。このなかでも特に重要なのが、戦略統合プロセスです。戦略統合プロセスとは、買い手企業と売り手企業が共通の戦略に基づいて、統合後の戦略策定を行うプロセスのことです。

このプロセスはシナジー効果を追求するための重要なステップであるにも関わらず、多くの企業で明確なノウハウが欠如しているため、統合が進まず失敗に終わることがあります。戦略統合プロセスを成功させ、アナジー効果の発生を回避するためには、相手企業の組織能力を正確に見極め、双方のビジョンを共有することが不可欠です。

また、統合を円滑に進めるための人材の育成と、統合状況をモニタリングするための体制を構築することも重要です。

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徹底したデューデリジェンスでリスクを洗い出す

アナジー効果を回避するためには、徹底したデューデリジェンスを実施して、相手企業が抱えるリスクを洗い出すことが重要です。デューデリジェンスとは、法務、財務・税務、人事などあらゆる角度から相手企業を調査し、その実態を把握する買収監査のことです。

買収実施前に綿密なデューデリジェンスを行うことで、売り手企業のリスクの有無を確認でき、適切な対応策を講じることが可能になります。また、リスクが発見された場合には、統合前にM&Aの実施可否を再検討することができるため、事前にコストの発生が予測される場合には、必要な準備を進めることでアナジー効果を最小限に抑えることができます。

ただし、デューデリジェンスの調査対象が広範囲になるほど時間やコストがかかるため、コストを考慮しつつ、必要な調査範囲を見極めて実施することが大切です。

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トップ面談で相互理解を深める

アナジー効果を回避するためには、トップ面談で経営理念やビジョンを確認し、互いの価値観や相性を見極めることが重要です。

価値観が似ていれば統合が円滑に進む可能性が高まりますが、異なる場合は統合が難航してしまい、アナジー効果が発生するリスクが高くなります。

そのため、話し合いを通じて相互理解を深め、経営に関する疑問を解消することが、成功するM&Aの鍵となります

契約書に具体的な対応策を記載する

アナジー効果を避けるためには、M&Aの最終契約書に具体的な対応策を盛り込むことも大切です。

例えば、売り手企業の経営者がM&A後も数年間取締役として企業成長に貢献することや、売り手企業の従業員に負担をかけないよう統合後に経営スタイルを急変させないことなどを、契約書に盛り込むことが挙げられます。

また、最重要顧客の引継ぎを条件にM&Aを実行するなど、想定されるアナジー効果を回避するための具体的な内容を契約書に盛り込むことが望ましいでしょう。

これら以外にも、予期せぬ問題が発生した場合の対応策や役割分担も明記しておくことで、リスクを最小限に抑え、統合プロセスを円滑に進めることができます。

従業員へのヒアリングを実施する

人材の流出や辞職などのアナジー効果を回避するためには、統合プロセス以前に従業員へのヒアリングを実施することが効果的です。M&Aに対する不安や不満を受け止め、気持ちを汲んだ対応策を講じることで、従業員の不安を払拭し、アナジー効果を回避することができます

また、現場の意見を事前にヒアリングしておけば、統合後の経営戦略にも活用できるため、顧客離れや生産性低下のリスクを最小化することが期待できるでしょう。

M&A成立後のコミュニケーションを怠らない

M&A後のアナジー効果発生を回避するためには、定期的なコミュニケーションが欠かせません。統合前にお互いの認識のすり合わせを行っておいたとしても、実際の運営段階では、何らかの乖離が生じるケースは珍しくありません。

双方が同じ方向を向いて企業を運営するためには、統合後も売り手・買い手の経営者や従業員間で適切な話し合いや気軽に相談できる環境を整えることが重要です。このような環境を維持することで、潜在的な問題を早期に発見し、適切に対応することが可能になります。

専門家のサポートを受ける

M&Aの準備段階では、アナジー効果を回避するために計画的な取り組みが不可欠です。しかし、M&Aの実施には専門的な知識が求められるうえに、多くの時間と労力が必要となります。

こうした作業を正確かつ効率的に行い、アナジー効果を回避しながらM&Aを進めていくためには、M&A仲介会社やFA、金融機関、士業などの専門家のサポートを受けることが望ましいといえるでしょう。

豊富な経験とノウハウを持つ専門家の支援が得られれば、アナジー効果を防ぐ施策の提案や進行などのサポートが受けられます。

まとめ

M&Aにおけるアナジー効果のリスクを回避し、成功へと導くためには、戦略的な計画と適切な対応策が不可欠です。本記事で解説したポイントを踏まえたうえで、M&Aを進めていく際には、専門家のサポートを受けながら慎重に対応していくことをおすすめします。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社コーポレートアドバイザリー部 部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 コーポレートアドバイザリー部 部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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