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企業経営において、予期せぬ困難や経済環境の変化が業績に影響を与えることは少なくありません。「事業再生」は、経営不振に陥った企業が再び収益を回復し、持続的な成長を実現するための重要な手段です。
適切な手法で事業再生に取り組むことで、負債の圧縮や資金繰りを早期に改善し、経営基盤を再構築できる可能性が高まります。
本記事では、事業再生の意味や条件について解説したうえで、メリットや具体的な手法、成功のために押さえておきたいポイントを紹介していきます。
このページのポイント
~事業再生とは?~
企業経営では予期せぬ困難や経済環境の変化が業績に影響を与えることが多く、事業再生は経営不振に陥った企業が収益を回復し、持続的成長を実現するための重要な手段である。適切な手法で負債圧縮や資金繰りを改善し、経営基盤を再構築する可能性が高まる。事業再生は法的手続きと私的手続きに分かれ、企業の状況に応じた手法を選び、企業価値を高めることを目指す。
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目次
1. 事業再生とは
事業再生とは、経営不振に陥った企業が事業を再構築し、収益性を回復させるための取り組みのことです。具体的には、財務のリストラや事業の選択と集中を通じて、持続可能な経営基盤を構築することを目指します。
事業再生の手法は、法的手続きと私的手続きに大別でき、企業の状況に応じたものが選ばれます。また、事業再生は単なる経営改善にとどまらず、企業価値を高め、従業員や取引先などのステークホルダーの信頼を回復することも目的としています。
1-1. 事業再生と企業再生の違い
事業再生と混同されやすいものに、企業再生があります。これらは、対象とする範囲や目的がそれぞれ異なります。
事業再生は、特定の事業部門やプロジェクトに焦点を当て、収益性の低い事業の撤退や再編を通じて再建を図るものです。
これに対し、企業再生は、企業全体を対象に経営戦略や組織体制を見直し、財務構造の改善や経営陣の刷新、さらには広範な経営改革を進めることで包括的な再建を目指します。
事業再生は比較的小規模な範囲で行われることが多いのに対し、企業再生は広範囲かつ戦略的な取り組みが求められます。このように、両者はアプローチの違いこそあれ、最終的な目的が企業の持続的な成長と競争力の強化であるという点では共通しています。
2. 事業再生の条件
事業再生を成功させるには、対象事業が再建に値するものであることが前提です。また、資金繰りの改善可能性についても慎重に判断しなければなりません。
2-1. 再生に値する価値を持っているか
事業再生を検討する際は、再生の対象となる事業が市場で競争力を持ち、今後成長する可能性があるかどうかを評価しなくてはいけません。その際には、主に次のような項目が判断基準になります。
- 製品やサービスの独自性
- 顧客基盤の強さ
- 業界内での地位
これらの要素を見極めることが、再生の可否を見極めることにつながります。また、競合他社の競争力や市場環境の分析なども加えると、より適切な判断が可能となるでしょう。
2-2. 負債を無くすことで資金繰り改善が期待できるか
負債を整理することにより、キャッシュフローを正常化できるかどうかを見極める必要があります。
負債を整理すれば事業継続の可能性は高まるものの、現金預金の残高は減ってしまいます。そのため、事業の収益性が低かったり、資金が不足していたりする場合は、負債を整理しても運用資金が確保できなくなり、ふたたび経営危機に陥ってしまうでしょう。
事業再生の際には負債を圧縮するだけでなく、過剰債務やキャッシュフローを見直し、長期的な資金計画を策定することが大切です。そうすれば、再生後の企業が安定した運営を続け、持続可能な成長を実現できる基盤を築くことが可能となるでしょう。
3. 事業再生のメリット・デメリット
事業再生には、メリットとデメリットがそれぞれ存在します。
メリットとしては、企業が倒産を回避し、存続を図れる点が挙げられます。また、従業員の雇用を守り、取引先との関係を維持することが可能です。加えて、不採算事業の整理や社内資源の最適化を行うことで、経営資源の効率的な再配分が期待できます。
デメリットとしては、手続きが複雑で、実施する際に多くの時間と専門知識が必要となる点です。また、再生中に企業の信用が低下すると、取引や金融支援に影響が出る恐れがあります。さらに、場合によっては経営権を一部または全部失うリスクもあり、最悪の場合、再生計画が失敗して倒産に至る可能性も否定できません。
4. 事業再生の手法

事業再生を成功させるためには、状況に応じた適切な手法を選ぶことが重要です。ここでは、法的再生と私的再生の特徴や、具体的な手法などについて詳しく解説します。
4-1. 法的再生
法的再生とは、裁判所の管理下で行われる企業再建の手続きのことです。債務整理や再建計画が法的に保護されるため、債権者間の公平性を保ちながら再建を進められることが特徴です。
この方法は、法的な強制力を利用するため、債権者との合意が得られない場合でも手続きを進められるというメリットがあります。その反面、手続きが複雑で時間がかかるうえ、コストも高い点はデメリットです。
法的再生は、さらに6つの手法に分けられます。それぞれ見ていきましょう。
民事再生
民事再生とは、企業が自らの再生計画を作り、それを裁判所の監督下で進める手続きのことです。現在の経営陣がそのまま続投できるため、現状に合わせて柔軟な形で再建を進められるのが特徴です。
この手法は、主に中小企業や個人事業主によって、事業再生の手法として利用されています。ただし、債務者の持つ担保権がそのまま行使される可能性があるため、この点が再建の妨げになる場合もあります。
会社更生
会社更生とは、裁判所が選んだ管財人が、対象企業の経営を引き継ぐことです。主に大企業が対象となる再建手続きです。
この手続きの特徴は、債権者の持つ担保権の行使を停止できるため、計画が進めやすい点です。ただし、現経営陣は経営権を失うため、経営に関する柔軟性が制限される場合があります。
特定調停
特定調停は、債権者と債務者の間を裁判所が仲介し、問題解決を目指す手続きのことです。この方法では、債権者が裁判所に申し立てを行い、裁判所が合意形成を支援します。
民事再生よりも手続きが簡易で、公的な手続きであるため、費用を抑えながら柔軟に解決を図れる点が特徴です。ですが、合意なしには調停が成立しないため、再建が滞るリスクもあります。
そのため、特定調停を行う場合は、債権者との信頼関係を維持しながら調停を進めることが大切です。
破産
破産とは、債務超過に陥った企業がすべての資産を清算し、債務の額に応じて、債権者に公平に配当する手続きのことです。破産を行うと、企業は残った債務の返済が免除されるため、手続き後は新たなスタートを切ることができます。
ただし、破産手続きを行うと会社を解散することになるため、事業を継続することはできません。また、取引先や従業員など、ステークホルダーへの影響が大きくなるリスクがあります。
さらに、破産は社会的信用を失う結果を招き、経営者自身の再起にも困難が伴う場合があります。そのため、破産を選択する前に、十分に他の再生手法も検討しておきましょう。
特別清算
特別清算とは、会社が解散した後に債務超過が疑われる場合に、裁判所の監督下で進められる清算手続きのことです。一般的な清算よりも迅速かつ低コストで進められる点が特徴です。
ただし、清算にあたり債権者の同意を得ることが前提となるため、合意形成が難航すると手続きが長引くリスクがあります。また、債務者側には、清算に必要な書類の準備や債権者との交渉など、多くの作業が求められる点も課題です。
そのため、特別清算を行う場合は、弁護士などの専門家のサポートを受けながら進めていくことが推奨されます。
再生型M&A
再生型M&Aとは、事業譲渡や合併などを活用し、外部の支援を受けながら企業を再建する事業再生の手法のことです。これにより、資産や事業を効率的に再編し、収益性の回復を目指します。
なお、再生型M&Aで用いられる主なM&Aの手法は以下のとおりです。
- 企業再生方式:法人格を維持しながらスポンサー企業の子会社として再建を行う方法。
- 事業譲渡方式:収益性のある事業を他社に譲渡し、得た資金で清算を進める方法。
- 会社分割方式:採算事業と不採算事業を分け、不採算事業を清算する方法。
- 第二会社方式:事業譲渡または会社分割と清算を組み合わせ、役員や従業員が新会社を設立して再建する方法。
状況に合わせた最適な手法を活用することで、効率的な事業再生が可能となるでしょう。
4-2. 私的再生
私的再生とは、裁判所を介さずに債務者と債権者が直接協議を行い、債務整理や再建計画を進める方法のことです。この手法では、手続きが迅速で費用が抑えられるほか、外部への情報漏洩を防ぎやすいという特徴があります。
しかし、すべての債権者の同意が必要なため、合意形成が難航する場合があり、計画が進まないリスクも伴います。また、裁判所の関与が無いため法的拘束力がなく、債権者間で公平性を確保することが困難なケースもあります。
以下では、私的再生の具体的な手法を3つ紹介します。
私的整理ガイドラインの利用
私的整理ガイドラインは、政府が策定・公表した、私的再生を進めるための手順や基準を示したものです。法的拘束力はありませんが、実務上の標準として多くの企業や債権者が活用しています。
このガイドラインを利用すれば、事業基盤への影響を最小限に抑えながら、公平性のある債務整理を進めることができます。ただし、この手続きはあくまで私的なものであり、すべての債権者の合意が必要なため、合意形成が難航する場合には計画が進まない場合もあるでしょう。
中小企業再生支援協議会の利用
中小企業再生支援協議会とは、中小企業庁が設置した公的機関で、事業再生を専門的に支援する組織で全都道府県に設置されています。この手法では、協議会が定めたルールに基づき、私的整理を進めます。
協議会の主な役割としては、債権者との調整や再生計画の策定をサポートし、公的な信用を背景に合意形成を促進することです。また、協議会の介入により、優遇措置を受けられる点も特徴として挙げられます。
ただし、この手法の対象は中小企業に限定されるため、企業規模によっては適用が難しい場合があります。
事業再生ADR
事業再生ADRは、裁判所を介さず、中立的な第三者機関が仲介することで、債務者と債権者間の合意形成を図る手法です。この方法は、法的整理と私的整理の長所を組み合わせたハイブリッド型の手法といえます。
公正かつ迅速な調整が可能で、専門家の支援を受けながら問題解決を進められるのが特徴です。ただし、手続きが複雑化しやすく、他の私的整理手法と比べて実施が難しいケースもあるため、その点には注意しなければなりません。
5. 事業再生の流れ
事業再生を実施する際の流れは、以下のとおりです。
- 現状分析と再生方法の選択
- 再生計画の策定と資金確保
- 再生手続きの準備と実行
それぞれのプロセスについて、詳しく見ていきましょう。
5-1. 現状分析と再生方法の選択
事業再生は、現状を正確に把握し、経営危機の原因を特定することが重要です。
具体的な取り組みとしては、財務内容や資金繰り、銀行からの借入状況を詳細に調査し、課題を洗い出すことなどが挙げられます。そのうえで、事業の収益性や負債の状況を考慮し、法的再生と私的再生のどちらが適切かを判断しましょう。
再生方法の選択には、事業の持続可能性やステークホルダーへの影響を総合的に検討することが求められます。なお、これらの作業が難しいと感じた場合は、できるだけ早い段階から専門家に相談し、適切な助言を得ることが推奨されます。
5-2. 再生計画の策定と資金確保
事業再生の成功には、具体的で実現可能な計画の策定が欠かせません。再生方法を選定した後は、3年程度の改善計画を示した「事業再生計画書」を作成します。この計画書には、財務内容の改善目標、資金繰りの方針、新規事業の展開案など、具体的な施策を記載します。
事業再生計画書は、資金確保においても重要な役割を果たします。事業再生のためには、金融機関からの融資や、スポンサー企業からの出資により、必要な資金を集めなければなりません。その際、精度が高く説得力のある計画書を示すことができれば、出資や融資を受けやすくなるでしょう。また、事業の再建に必要なネットワークやノウハウの提供も期待できます。
5-3. 再生手続きの準備と実行
法的整理と私的整理のどちらを選ぶかにより、再生手続の準備は異なります。
法的整理を選ぶ場合、裁判所の許可を得て再生計画を進める必要があります。また、計画を進めるには、債権者からの同意が必要で、会議を開いて承認を得なければなりません。
一方、私的整理の場合は裁判所に申請する必要はありませんが、銀行など主要な債権者と話し合い、協力を得ることが大切です。
どちらの方法でも、再生計画を実現するための準備を整え、スムーズに進行させることが求められます。また、計画を進めるなかで出てくる問題に柔軟に対応し、着実に目標に近づけていくことが大切です。
6. 事業再生を成功させるためのポイント
最後に、事業再生を進めるうえで押さえておきたいポイントについて解説します。事業再生を成功させるには、課題を的確に把握し、効果的な手段を講じることが大切です。
6-1. 不採算事業を見極め、将来性のある事業に集中する
事業再生の第一歩は、採算が取れない事業を見極めたうえで、それらを整理することです。採算が合わない事業はもちろんのこと、将来的に市場ニーズが低下する可能性の高い事業も整理の対象となります。
このプロセスは、利益を生む見込みが高い事業に対し、「選択と集中」により経営資源を再配分することが重要です。また、人件費や運営コストを削減し、再配置を通じて効率化を図る必要もあります。
これにより、事業再生後の安定的な成長を目指す基盤を整えることが可能となります。
6-2. 実行計画と資金管理を徹底する
事業再生計画を成功させるためには、明確なスケジュールを設定し、段階的に計画を実行することが大切です。また、各段階で必要な資金の流れを予測し、計画的な資金調達を行うことも求められます。
その際には、地域金融機関や政府系金融機関が提供する補助金や支援制度なども、積極的に活用すると良いでしょう。また、突発的な資金不足に対応するため、柔軟な資金繰りのシナリオを準備しておくことが必要です。
そうすれば、予期せぬ事態にも対応できる体制を構築できるでしょう。
6-3. 専門家のサポートを得る
事業再生を行うためには高度な専門知識が必要となる場合が多いため、専門家のアドバイスを受けながら進めることを推奨します。
具体的には、経営コンサルタントや事業再生士などとの連携が挙げられます。また、事業再生型M&Aを検討する場合には、M&A仲介会社をはじめとする専門家に相談するのがおすすめです。
債権者や利害関係者との合意形成をスムーズに進めるためには、中立的な第三者を間に入れることも効果的です。このように、専門家の知見を上手に活用すれば、再生の成功確率を高めることができるでしょう。
7. まとめ
本記事では、事業再生の概要や、具体的な手法などについて解説しました。
事業再生は、業績が悪化した企業を回復させるための重要なプロセスです。しかし、事業の状況や課題は企業ごとに異なるため、自社に最適な方法を見つけることは容易ではありません。再生に最適な最短距離の道筋を探すには、専門的な知識と経験が必要です。
M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な実績と専門知識をもとに、企業が直面する課題を解決し、持続的な成長を支援しています。事業再生に向けた具体的な方法をお探しの方は、ぜひご相談ください。