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みなし配当について
みなし配当とは、形式上は配当ではなくても、実質的に株主への利益の分配とみなされ、課税対象となる所得です。法人税法第24条を根拠に導入されており、不公平な節税を防ぐために一定の取引を配当として扱います。
本記事では、みなし配当の定義や仕組みに加え、発生する具体的なケース、計算方法、税務処理などについて、わかりやすく解説します。
このページのポイント
~みなし配当とは?~
みなし配当とは、形式上の配当ではないものの、経済的実態として株主への利益還元と判断され課税対象となる所得です。自己株式取得、非適格合併、資本払戻しなど複数の取引に関連し、計算方法も取引内容によって異なります。正確な判断と税務処理が求められるため、実務においては法人税法の理解とともに適用可否を慎重に検討することが重要です。
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みなし配当とは

みなし配当とは、法人税法第23条における配当には該当しないものの、実質的には配当と同様であるため、法人税法において配当とみなされる所得や利益のことです。
これは、配当と同等の経済的利益を受け取りながら、「これは配当ではない」と主張することで、租税を意図的に回避することを防ぐためのルールです。法人税法第24条に規定されています。
法人税法では形式ではなく「経済的な実態」に着目し、一定の取引は配当と同様に取り扱います。これにより、不適切な節税行為や課税漏れを防止し、適正な課税の実現を目指しています。
みなし配当が発生するケース
みなし配当は形式に関わらず、実質的に利益の分配とみなされるケースが該当します。主なものとして以下が挙げられます。
一つずつ解説していきます。
自己株式を取得する場合
会社による自己株式の取得(自社株買い)によって、株主側に「みなし配当」が生じる場合があります。このケースでは、株主が受け取る金額のうち、株式の資本金等の額を超える部分を、法人税法上「配当」とみなして課税対象とします。
例えば、会社が自己株式を700万円で取得し、その株式の資本金等の額が500万円であった場合、差額の200万円が、みなし配当としての課税対象です。
解散による残余財産の分配
株主が、会社解散に伴い残余財産の分配を受ける際、出資金額を超える分については事実上の利益であるため、みなし配当として扱い、課税の対象となります。
ただし、会社の経営状態によっては残余財産が出資額を下回る場合もあります。その場合には出資額を超える分が存在しないため、この配当は発生しません。
会社の資本が大きく変動する場合
有償減資により、株主が会社から資本金の一部を受ける場合、出資金額を超える分については事実上の利益であるため、みなし配当として課税対象になることがあります。
有償減資とは、会社の純財産の一部を株主に返還し、資本金を減額することです。実質的に利益の分配であるため、みなし配当として扱われます。
なお、株主などから出資された資金のうち、資本金に組み入れられなかった部分が資本剰余金です。
M&A・組織再編を行う場合
M&Aや組織再編では、合併や会社分割の方法によっては「みなし配当」が発生し、課税対象となる場合があります。ここでは、以下の2つのケースについて、それぞれ見ていきましょう。
非適格合併
合併とはM&Aのスキームのうち、二つ以上の会社を一つに統合することです。
合併には、税制上の要件を満たし資産を帳簿価額で引き継ぐ「適格合併」と、資産を市場価格(時価)で評価して引き継ぐ「非適格合併」があります。このうち、非適格合併ではみなし配当が発生します。
そのため、被合併法人の株主が受け取る対価(株式や現金など)のうち、出資額を超える部分が課税対象です。
非適格分割型分割
会社分割は、M&Aスキームの一つで、ある会社が営んでいる事業のうち一部(または全部)を他の会社に承継させることです。
会社分割にも合併と同様「適格分割」と「非適格分割」があります。会社分割が「分割型分割」という形態をとり、さらに税務上の「非適格分割」に該当する場合に限り、みなし配当が発生する可能性があります。
非適格分割型分割では、分割法人の株主が受け取る対価(株式や現金など)の一部が、利益剰余金からの分配とみなされ、その部分はみなし配当に該当します。
みなし配当の計算方法
みなし配当の金額は、受け取った対価と資本の払戻し部分との差額で計算されます。ここでは、基本的な考え方と、取引別の計算方法を解説します。
基本的な計算方法
みなし配当額は、株主が受け取った金銭等の総額から資本の払戻し部分を差し引いて算出します。計算式にすると以下のとおりです。
- みなし配当額=交付された金銭等の額−資本の払戻し分
資本の払戻し分は、以下の式で計算可能です。
- 資本の払戻し分=(資本金と資本剰余金の合計)×(自分が保有していた株式数)÷(発行済みの全株式数)
例えば、発行済みの全株式を保有する個人の株主が、1,000万円の金銭等を受け取り、そのうち800万円が資本の払戻しに相当する場合、残りの200万円がみなし配当の金額となります。
取引に応じた計算方法
みなし配当の金額は、取引の種類によって計算方法が異なります。ここでは、主なケースごとに具体的な算出方法を解説します。
非適格合併の場合
非適格合併の場合、合併消滅法人の資本金等に株主の株式保有割合を乗じた金額を基準とします。
- みなし配当額=(交付された財産の時価)−(資本金等の額×所有株式数 / 発行済株式数)
その際、自己株式を除いた発行済株式数を用います。
非適格分割型分割の場合
非適格分割型分割の場合、分割法人全体と分割部分の純資産比率を用いて計算します。手順は以下のとおりです。
- 分割部分の純資産比率を求める
- 分割部分に対応する資本金等を算出する
分割対価から上記で求めた資本金等を差し引いた金額が、対象となる配当です。
資本剰余金や残余財産の分配の場合
資本剰余金や残余財産の分割の場合は、資本金などに対応する金額を算出し、受け取った金額との差額がみなし配当です。計算式は非適格分割型分割の場合と同様です。
自己株式取得の場合
自己株式取得の場合、1株あたりの資本金等を算出後、売却株式数をかけ合わせて払戻し金額を計算します。
- みなし配当額=(受け取った財産の総額)−(1株あたり資本金等×売却株式数)
持分会社の出資払戻し・組織変更の場合
持分会社の出資払戻しや、組織変更の場合、合併や分割と同様に、1株あたりの資本金等を基準に計算します。株主が受け取った現金や株式との差額がみなし配当です。
みなし配当が発生した場合の税務処理
みなし配当が発生した場合、個人・法人それぞれで異なる税務処理が必要です。課税方法や源泉徴収義務などの基本を解説します。
株式を発行法人に譲渡した個人の場合
税務上、個人株主が受け取るみなし配当は配当所得に区分され、所得税の課税対象となります。上場企業の株式の場合、課税方法は以下のいずれかから選択可能です。
- 申告分離課税
- 一律20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)
- 総合課税
- 累進課税(他の所得と合算し、所得額に応じた税率が適用)
非上場企業の株式の場合、申告分離課税が選べないため、総合課税のみが適用されます。これは配当金額が大きいほど高い税率が適用され、負担が増加する課税方法です。
株式を発行法人に譲渡した法人の場合
法人がみなし配当を受け取った場合、会計上は受取配当金として処理します。二重課税を防ぐため、受け取った金額の一部または全額が益金不算入です。その割合は持株比率に応じて以下のように異なります。
- 完全子法人株式等(持株比率100%)の場合は100%不算入
- 関連法人株式等(持株比率1/3超~100%未満)の場合は100%不算入(負債利子控除あり)
- その他の株式等(持株比率5%超~1/3以下)の場合は50%不算入
- 非支配目的株式等(持株比率5%以下)の場合は20%不算入
この制度により、法人税負担が軽減されます。
自己株式を取得した法人の場合
自己株式取得時に支払った金額は、みなし配当として処理されます。株主に対して支払った配当額に源泉徴収義務があります。上場企業の場合、税率は20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)です。非上場企業の場合は総合課税で適用します。源泉徴収した税額は翌月10日までに納付しなければなりません。
みなし配当が発生しないケース
みなし配当はすべての取引で発生するわけではありません。ここでは、適格な組織再編や特例に該当する場合など、発生しない主なケースを解説します。
適格要件を満たす合併・分社型分割の場合
前述のとおり、組織再編において発生するケースは、非適格の合併および分割型分割の場合に限られます。税制上の要件を満たす適格合併では、消滅する会社の利益(利益積立金)は存続会社にそのまま移ります。この際、株主へ金銭などが渡されないため、課税対象となることはありません。
適格分割型分割の場合も同様で、分割会社の利益積立金は承継会社に引き継がれます。株主に対して金銭などの資産が交付されるわけではないため、これは課税対象にはなりません。
市場における通常取引の場合
証券取引所などの市場における通常の取引で株式を取得した場合には、みなし配当は発生しません。市場取引による自己株式の取得は、通常の売買として扱われ、税務上も譲渡所得として処理されます。
また、事業全部の譲り受けにより株式を取得する場合もこの配当は発生しません。この場合も譲渡所得として取り扱われるため、配当所得には該当しないとされています。
その他の特例に該当する場合
合併に反対する株主が買取請求権を行使して株式を発行会社に売却した場合、その取得はみなし配当に該当せず、通常の譲渡所得として扱われます。
また、相続税の課税対象となった非上場株式を、相続開始後3年以内に発行会社へ譲渡した場合も、たとえ譲渡額が資本金等を上回っていたとしても、それには該当せず、譲渡所得として課税されます。この特例により、通常の総合課税ではなく分離課税が適用されるため、相続人の税負担が軽減される効果があります。
まとめ
みなし配当は、自己株式の取得や非適格な合併・分割など、形式上の配当ではない取引でも、実質的な利益の還元と見なされて課税対象になる制度です。取引内容によって発生の有無や金額の計算方法が異なり、法人・個人それぞれの税務処理も複雑になります。
しかし、適格要件を満たす組織再編や市場取引などでは課税対象外とされる場合もあり、正確な判断が重要です。みなし配当の正しい理解は、税務リスクの回避や資本政策の立案に直結します。
企業再編やM&Aを進める際には、税務の専門家と連携しながら制度に則った適切な処理を行うことが求められます。
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よくある質問
- みなし配当とは何ですか?
- 形式上は配当でなくても、実質的に株主への利益還元と見なされる所得で、法人税法上の課税対象です。
- みなし配当が発生する主なケースは?
- 自己株式の取得、会社解散、資本払戻し、非適格合併や分割などが該当します。
- みなし配当の計算方法は?
- 原則は「受け取った金銭等−資本の払戻し分」で、取引ごとに計算式が異なります。
- みなし配当は個人と法人で税務処理が違いますか?
- はい、個人は配当所得、法人は持株比率に応じて益金不算入の処理が必要です。
- みなし配当が発生しない取引には何がありますか?
- 適格組織再編、市場取引、相続特例の売却などは、原則として非課税です。