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事業承継計画書について
事業承継計画書は、経営者が事業を後継者へ引き継ぐ際に、その手順や内容を体系的にまとめた文書です。承継の目的や背景、関係者との連携、資産の移転、後継者育成などを記載し、企業の持続的な発展と円滑な承継を実現するための実務的な指針として活用されます。
そこで本記事では、「事業承継事業承継とは?|詳細記事へ」の基本的な定義や意義を整理したうえで、「事業承継計画の立て方とは?」でご紹介した基本の計画立案ステップに加え、事業承継計画書の必要性や、税制活用を前提とした場合の実務的な対応策について詳しく解説します。
事業承継や事業承継計画の立て方について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
このページのポイント
~事業承継計画書の記載項目とは?~
事業承継計画書は、経営者の交代に伴い必要な情報を整理し、承継の混乱を防ぐための文書です。記載すべき項目には企業概要や後継者情報、経営課題、承継スケジュールなどがあり、特に税制特例の活用には計画書の提出が重要です。経営資源の現状把握と中長期的視野が成功の鍵になります。
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~その他 M&Aについて~
事業承継計画書とは

事業承継計画書とは、経営者が後継者へ円滑に事業を引き継ぐための指針となる文書です。経営方針や資産の承継方法、従業員の役割分担などが明記されており、事業承継時の混乱を防ぎます。
また、事業の継続性が確保され、取引先との信用を維持することも、事業承継計画書の役割です。さらに、将来の成長戦略を明確に示すことで、後継者が適切な経営判断を下せるよう支援する効果もあります。
事業承継計画書を作成する意義・必要性
事業承継計画書を作成する主な意義や必要性としては、以下が挙げられます。
それぞれ見ていきましょう。
現経営者から後継者への引継ぎ事項を明確にするため
事業承継計画書によって引継ぎ事項を明確にすることで、後継者が方向性を見失うことなく経営に集中することできます。財務状況や主要な取引先との契約内容も整理して記載すれば、引継ぎ後の混乱を防ぎ、安定した経営のスタートが可能になるでしょう。
また、役員や従業員の役割を明確にすれば、後継者がスムーズに組織を運営できる環境を整えることが可能です。加えて、事業の競争優位性についても記載しておくと、後継者が適切な経営判断を下しやすくなります。
このように、計画書の整備は引継ぎ事項の漏れを防ぎ、スピーディな事業承継の実現に貢献します。
事業承継税制の特例を利用するため
事業承継税制の特例を適用するためには、適切な事業承継計画書の作成が必要です。
事業承継税制の特例が適用されれば、株式や事業資産の承継にかかる税負担を大幅に軽減できます。ただし、この特例が適用されるためには、一定期間の雇用の維持や事業継続などの条件を満たさなくてはなりません。事業承継計画書は、承継後の経営計画や事業継続の意思を明確に示す役割を担っています。
ステークホルダーとの信頼関係を維持するため
事業承継では、取引先や金融機関、株主、従業員などのステークホルダーとの信頼関係を維持することが大切です。
事業承継計画書を作成する際、現経営者と後継者の間で企業経営に対する認識や将来のビジョンをすり合わせておくことで、承継後の経営の方向性を統一できます。また、契約状況やリスク管理に関する方針を明記しておけば、事業承継に伴うステークホルダーの不安や混乱を最小限に抑えることが可能です。
これにより、関係者との信頼関係を維持しつつ、円滑な事業承継が可能になるでしょう。
事業承継における課題を把握するため
事業承継計画書には、財務・法務・人事といった多岐にわたる課題を整理し、それぞれの対策を明記しておきましょう。
なかでも、後継者の育成は時間を要するものであり、一般的に5年から10年程度の準備期間が必要とされています。その期間においては、後継者のスキルや経験不足を補うための教育計画とあわせて、従業員の不安やモチベーションの低下を防ぐ施策も盛り込むことで、組織全体の安定と円滑な承継が可能です。
事業承継計画書の記載項目
事業承継計画書の主な記載項目は以下のとおりです。
それぞれ見ていきましょう。
事業承継の概要
誰から誰へ事業を承継するのか、またその実施時期などの概要を端的に記載します。詳細については、計画書内の別項目にて記述しましょう。こうすることで、全体の構成をわかりやすく整理できます。
企業概要
企業の名称、所在地、設立年月日、資本金、事業内容といった基本情報を明記します。財務状況や従業員数、保有する経営資源などを整理し、企業の現状や今後の成長可能性を示せると、なお良いです。加えて、主要な取引先や、業界内での市場ポジション、競争優位性、今後の事業方針や成長戦略についてもまとめておくことで、後継者の経営判断における指針として活用することができます。
現経営者の個人情報
現経営者の氏名や生年月日、経営歴、所有する株式の割合など、基本的な情報を記載します。加えて、これまでの経営方針や経営実績、経営哲学なども明示することで、後継者が経営判断を行う際の参考になるでしょう。後継者への引継ぎ予定時期や、承継後における現経営者の関与方針についても具体的に記載し、スムーズな引継ぎに備えます。
後継者の個人情報
後継者の氏名、生年月日、現在の役職、所有する予定の株式割合といった基本的な情報を記載します。後継者自身の強みやリーダーシップ経験、承継後の経営ビジョンなどを示せば、経営者としての適性をアピールしつつ、将来の成長に向けた企業の方向性を具体的に共有することができます。
あわせて、事業承継に向けた研修計画やスキル習得のスケジュールなど、スムーズな承継に向けた姿勢を示すことで、信頼性の向上につながるでしょう。
経営理念
企業の経営理念やミッションを記載します。経営理念は企業の根幹をなすものです。事業承継においてもその一貫性を保つことで、従業員や取引先との信頼関係を維持できるでしょう。
事業環境の変化に応じて、経営理念やミッションを見直す場合は、その方針を計画書に記載します。経営方針とビジョンを一致させることで、企業の持続的な成長と社会的価値の向上につながります。
経営課題
現在の経営課題を整理し、後継者が理解しやすい形で具体的に提示しましょう。市場環境や競争状況の変化を踏まえたうえで、適切な対応策を計画書に明記することで、後継者の経営判断をサポートします。
また、財務状況の課題や人材不足、技術革新に伴う変化といったリスク要因についても明確に記載し、それぞれに対する解決策を示しておくことで、リスク管理体制の継続が可能です。さらに、事業拡大や新規市場開拓の可能性についても分析を行い、後継者が実行できる戦略として提示することが望まれます。
事業承継の方針
事業承継計画書では、親族内承継、従業員承継、M&Aといった承継方法の中から、自社に適した方法を明確に決定することが重要です。選択した承継方法に応じて、具体的なスケジュールや必要な手続きを詳細に記載し、計画的な移行を図ります。
また、承継における株式の移転方法や、それに伴う税務対策、財務計画も盛り込み、承継に伴うリスクを最小限に抑える工夫が求められます。さらに、金融機関や税理士・弁護士などの専門家と連携しながら、最適な承継プランを実行に移すための体制や準備状況も記載しておくと効果的です。
承継スケジュール
事業承継のスケジュールは、現経営者が何歳のタイミングで承継を実施するかを起点として逆算し、計画的に立てるのが一般的です。
また、目標とする承継時期までに会社の年商や経常利益、株式の保有割合がどのように推移していくかについても見通しを立て、これを踏まえた現実的な承継計画を盛り込むことで、より実効性の高いスケジュールが完成します。
事業承継計画書を作成するための6つのステップ
事業承継計画書を作成する際の流れは、以下の6つのステップに大きく分けられます。
順番に見ていきましょう。
1.会社の保有する資源を把握する
はじめに、会社の保有する資源を正確に把握します。資産や負債はもちろん、従業員、設備、知的財産、ブランド価値といった経営資源などをリストアップしたうえで、現状の評価を適切に行いましょう。これは自社の強味と弱味を把握することにもつながります。
また、取引先や顧客情報、契約状況を正確に把握し、事業の継続性を確保するための準備を進めることも不可欠です。
2.事業承継の方向性・後継者の検討を行う
続いて、事業承継の方向性や後継者の検討を行います。事業承継には、親族内承継、従業員承継、M&Aなどのスキームがあります。各スキームにメリットとデメリットがあるため、自社に適したものを選びましょう。
例えば、親族内承継は経営理念や社内の人間関係を維持しやすい反面、後継者の能力や意欲が不十分な場合には、経営の不安定化を招くリスクがあります。
M&Aによる第三者承継は、経営資源や販路の拡大といった成長の機会を得られる可能性がある一方で、自社の文化や価値観が大きく変わってしまうリスクも伴います。
3.関係者へヒアリングを行う
後継者候補をはじめとする関係者へのヒアリングを行います。後継者へのヒアリングでは、一人ひとりの候補者に対してヒアリングを実施し、事業承継の意向や、将来のビジョンを把握しましょう。
また、後継者だけでなく、取引先や従業員など主要な関係者の意見や懸念も丁寧に収集することで、関係者の理解と協力を得やすくなり、承継後の信頼関係の維持や組織の安定化にもつながります。
こうしたコミュニケーションの積み重ねが、実効性の高い事業承継の実現を支える基盤となります。
4.事業承継先・後継者を確定する
事業承継先や後継者を確定します。
この段階までに関係者との十分なコミュニケーションを取り、各方面の意見を汲み取るプロセスを経ることで、承継後のトラブルや混乱を未然に防ぎながら円滑な事業承継が可能になります。
5.事業承継計画書の作成
承継方法や後継者が決定したら、事業承継計画書の作成を行います。事業承継計画書には経営理念や事業戦略、資産・株式の移転計画など、承継に関わるあらゆる項目を網羅的に盛り込みます。
作成した計画書は関係者と共有し、意見や懸念を丁寧に反映させながら内容をブラッシュアップしていくことで、関係者の理解と協力を得られるでしょう。
また、法的要件を確実に満たすためにも、税理士や弁護士などの専門家の助言を受けながら、計画書を正式な文書として完成させることが重要です。
6.事業承継計画表の作成
事業承継計画表を作成します。これは、事業承継計画書をもとに、実行に向けた具体的なスケジュールを明記したものです。各フェーズのタスクを明確にし、それぞれに対して実施期限と担当者を設定することで、計画的かつ効率的な実行管理を可能にします。
作成した計画表は、関係者全体と共有し、定期的に進捗状況を確認し、情報の透明性と協力体制を維持しましょう。また、実行の過程で生じる変化や課題に対応できるよう、計画の進行状況をモニタリングし、必要に応じて柔軟に修正を加えていくことも欠かせません。
事業承継計画書を作成する際の注意点
事業承継計画書を作成する際は、特に以下の3つの項目に注意すると良いでしょう。
それぞれ解説します。
経営資源や資産などの現状を正確に把握する
事業承継計画書を作成する際には、まず会社が保有する経営資源や資産の現状を正確に把握しましょう。財務状況や資産・負債、事業の強みや課題を整理し、明確にすることで、承継に向けた基礎情報が整います。
さらに、従業員数や設備だけでなく、知的財産やブランド価値といった目に見えない無形資産についても正確に把握しましょう。これらをしっかり整理しておくことで、事業承継時に直面する可能性のある相続や税務上の課題を早期に把握し、あらかじめ対応策を検討できます。
第三者でも理解しやすい資料を作成する
事業承継計画書は、現経営者だけでなく、後継者や取引先、金融機関など、さまざまな関係者が目を通す文書です。そのため、誰が読んでも内容が理解できるよう、わかりやすさを重視して作成する必要があります。具体的には、次のようなポイントを意識すると良いでしょう。
- 承継の背景や目的、実施までの流れを丁寧に記載する
- 専門用語の多用は避け、図表やグラフを活用して視覚的に伝える
- 現経営者のみが把握している重要な情報も漏れ無く明文化する
第三者とのコミュニケーションを図りながら進めることで、情報の客観性が確保され、より説得力のある計画書の作成につながります。特に、税理士や中小企業診断士などの専門家の意見は、より完成度の高い事業承継計画書を策定する助けになるでしょう。
中長期的な視点で作成する
事業承継は将来にわたって継続的に進められるものです。そのため、事業承継計画書を作成する際には中長期的な視点に立ち、目先の課題だけではなく将来も見据えた経営戦略や事業戦略を示すことが大切です。
特に、事業承継後の5〜10年を見据えて計画を立てると、企業の持続的な成長を支援し、安定した経営体制の構築につながります。また、市場の変化や経済状況の変動に対応できるよう、計画を定期的に見直し、柔軟に修正できる体制を整えておきましょう。
さらに、後継者の成長段階や従業員のモチベーション維持にも配慮し、組織全体の発展を促す視点を盛り込むことで、実効性の高い事業承継計画書となります。
まとめ
事業承継計画書は、後継者への円滑な引継ぎと企業の安定成長を実現するために不可欠なツールです。現経営者の理念や方針、資産の状況、後継者の育成方針などを明文化することで、関係者間の理解と信頼を得ながら計画的な承継を進めることが可能になります。また、事業承継税制の特例などを活用することで、税負担を軽減しながら円滑な承継を実現できます。経営の持続可能性を高めるうえでも、早期からの計画書作成と専門家のサポート活用が重要です。
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よくある質問
- 事業承継計画書にはどのような項目を記載しますか?
- 企業概要や後継者情報、経営理念、経営課題、承継スケジュールなど、承継に必要な情報を網羅的に記載します。
- 事業承継税制の特例を受けるには計画書が必要ですか?
- はい、特例の適用には承継後の事業継続計画を明確に示した計画書の提出が必要となります。
- 事業承継計画書を作成する際の注意点は何ですか?
- 経営資源の正確な把握、第三者にも伝わる分かりやすい資料作成、中長期的な視点の3点が重要です。
- 計画書の作成手順にはどんなステップがありますか?
- 資源の把握から後継者の選定、ヒアリング、計画書と計画表の作成まで、6つの段階があります。