テール条項とは? メリットやデメリット、留意点などについてわかりやすく解説

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テール条項について

近年、日本国内でもM&Aが経営戦略の一環として定着する中で、取引の透明性や信頼性を確保するための契約実務も複雑化しています。中でも「テール条項」は、仲介契約が終了した後でも、過去に紹介された相手と一定期間内に取引が成立した場合に報酬が発生する仕組みであり、契約上の重要な確認ポイントとなっています。

本記事では、「M&Aとは?M&Aとは?|詳細記事へ」の基本的な理解を踏まえたうえで、テール条項の基本的な仕組みや目的、仲介会社とクライアント双方にとってのメリット・デメリット、そして契約上の留意点やトラブル事例について、実務的な観点から詳しく解説します。

M&Aの基本的な概要、またはM&Aにおけるアドバイザリー契約について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。

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テール条項とは

中小企業庁が公表する中小M&Aガイドライン(第3版)によると、マッチング支援等において、M&Aが成立しないまま、仲介契約・FA契約が終了した後、一定期間(いわゆる「テール期間」)内に、譲り渡し側がM&Aを行った場合に、その契約は終了しているにもかかわらず、その仲介者・FAが手数料を請求できることとする条項をいわゆる「テール条項」として定められる場合があるとしています。
より簡単にいうと、M&Aの仲介会社等は、クライアントに紹介した顧客を、仲介会社等を飛ばされて契約されてしまうと報酬を得ることができなくなってしまうため、仲介会社等が紹介した後の一定の期間についても仲介会社等が紹介したとみなし、仲介会社等が入らない形でM&Aが行われたとしても、手数料を請求することができる条項をいいます。

目的

テール条項の目的は、M&Aの仲介会社等に対して、取引成立に向けたリスクを取る動機を与え、M&A交渉が破談しても、一定期間内に契約が成立した場合にその報酬を得られるようにすることです。
テール条項は、仲介会社等が最初から関与して取引の成立に貢献したことに対して、その成果を報酬として確実に受け取れるように設けられます。特に、M&Aのプロセスは複雑で時間がかかることが多いため、仲介会社等が取引の成功を目指して長期間にわたって努力を続けるインセンティブとなります。

また、テール条項は、M&A業界の実務において非常に一般的な仕組みであり、仲介会社等がクライアントとの信頼関係を維持し、最終的な取引成立を目指して支援し続けるために重要な役割を果たします。結果として、契約終了後も引き続き交渉をサポートする意欲が高まります。

存在意義

テール条項は、いわゆる「不当な利益の確保」を目的として設けられるわけではなく、M&Aの仲介会社等が取引成立に至るまでの全過程において貢献した結果として、適正な報酬を得るために存在します。特に契約が成立しなかった場合でも、後に再度交渉が行われて取引が成立した場合、その成果に対して報酬が支払われる仕組みは、公正かつ合理的なインセンティブ制度として機能します。

また、テール条項を設けることにより、仲介会社等は交渉の途中で関与を断ち切ることなく、取引成立まで積極的にサポートを継続する意欲が高まります。このため、クライアント(特に売り手企業)は、取引が円滑に進行し、より確実で安定したサポートを受けることが期待できるのです。

M&Aの仲介契約における具体例

ここからは、テール条項がどのように適用されるのか、主な具体例を2つ挙げていきます。

具体例①:破談後の再交渉によって契約が成立した場合

あるM&A案件で、M&Aの仲介会社等がA社とB社を紹介し、交渉が進みましたが、最終的に交渉は破談となりました。しかし、テール条項が設定されている場合、一定期間内にA社とB社が再度交渉を始め、最終的に契約が成立した際には、その契約は仲介会社等の紹介によるものとして、仲介会社等が報酬を受け取ることができます。

具体例②:別の仲介会社等が関与して成立した場合

仮に、最初の仲介会社等がA社とB社を紹介したものの、最終的に交渉は破談。破談後に別の仲介会社等がA社とB社を再度結びつけ、その後契約が成立した場合、テール条項により、もともとの仲介会社等に報酬が支払われることが求められることがあります。これは、もともとの仲介会社等が契約成立に向けた最初の貢献を行ったため、その結果として報酬を受け取るべきだという考え方になります。

テール条項を入れるメリットとデメリット

次にテール条項を入れるメリットとデメリットについて、それぞれ説明します。

テール条項のメリット

M&Aの仲介会社等のモチベーション向上

テール条項を設ける最大のメリットは、仲介会社等が長期間にわたって積極的にサポートを提供するインセンティブを得られる点です。M&Aの交渉プロセスは複雑で時間がかかることが多く、取引が成立するまでには多くの障害や不確定要素が存在します。特に大規模なM&A案件では、交渉が何ヶ月、時には何年にもわたることもあります。そのため、初期段階で仲介会社等が関与し始めても、交渉の途中で破談するリスクがあることは避けられません。
このような状況において、テール条項を設けることにより、仲介会社等は契約が成立しなくても、一定の期間内に再交渉が行われた際に報酬を受け取ることが保証されます。この仕組みが、仲介会社等にとって大きなモチベーションとなり、取引の最終的な成立に向けて、より積極的にサポートを続ける動機を与えます。

例えば、交渉が破談となり、クライアントが再度交渉を行った場合、仲介会社等は最初に関与した取引が再開される可能性が高いことを認識しており、その結果として報酬を得るためには、サポートを途切れさせず、信頼関係を維持することが重要だと考えるようになります。これにより、仲介会社等は交渉中でも常に最善のアドバイスや戦略を提供し、クライアントのために尽力することが期待できます。

クライアントへの継続的サポート

テール条項は、M&Aの仲介会社等が交渉の途中で報酬を得ることを保証するだけでなく、クライアントにとっても非常に大きなメリットをもたらします。M&Aの交渉が進行する中で、予期せぬ理由で交渉が一時中断されることがよくあります。場合によっては、交渉が破談になることもあります。しかし、テール条項があれば、その後も仲介会社等は取引成立に向けて引き続きサポートを行う意欲を持ち続けます。
交渉が一時的に止まってしまった場合でも、仲介会社等は一定期間内に再交渉が行われることを期待し、サポートを提供し続けます。これにより、クライアントは仲介会社等の支援を途中で失うことなく、安定したサポートを受けることができます。特に仲介会社等が長期間にわたって関与してきた取引については、途中で交渉が破談になってもその仲介会社等の知識や経験を活かすことができます。そのため、再交渉が始まったときには、仲介会社等はスムーズにプロセスを再開させるための準備が整っており、クライアントは安心してサポートを受けられる環境が整います。

また、仲介会社等が長期的に支援することで、クライアントの不安や疑問に対して、継続的な解答とアドバイスを提供できます。このような一貫したサポートは、クライアントにとって非常に価値のあるものとなり、M&A取引が最終的に成功した際には、仲介会社等への信頼感が強まります。これがクライアントと仲介会社等の間で長期的な関係を築く土台となり、今後のM&A活動やビジネス成長にも良い影響を与えることが期待できます。

テール条項のデメリット

不確実性がある

テール条項を設けることには、必然的に不確実性が伴います。M&Aの取引が成立しなかった場合、その後の再交渉においても契約成立に至るかどうかは完全に予測することができません。仮にテール期間中に再交渉が行われたとしても、取引が成立するかどうかは依然として不確定な要素が多いです。この不確実性が仲介会社等にとってのリスクとなります。

例えば、テール期間が設けられているにもかかわらず、再交渉を行っても条件が合わず、契約が成立しないことがあります。その結果、仲介会社等は労力と時間を費やしても報酬を得られない可能性があり、これは仲介会社等にとって大きなリスクとなります。したがって、テール条項を設けた場合、仲介会社等はそのリスクを負い続けなければならないことを理解しておく必要があります。
この不確実性は、特に交渉の過程で複雑な条件交渉が行われる場合や、市場環境の変動が大きい場合に強く影響を与えます。取引成立の見込みが不安定であると感じた仲介会社等は、他の案件に注力する可能性があり、結果的にサポートが十分に提供されないことが懸念されます。これにより、再交渉においては仲介会社等が十分に関与せず、クライアントにとってはサポートが弱まるというリスクも存在します。

契約の範囲や期間に関するトラブル

テール条項に関するトラブルで最もよく見られるのが、契約範囲やテール期間に関する曖昧さです。テール条項を契約書に盛り込む際には、テール期間の長さや適用範囲を詳細に設定しておかないと、後々のトラブルの原因となります。特に、テール期間が長すぎる場合や、適用範囲が曖昧であると、契約後のトラブルを引き起こすことがあります。

例えば、テール期間が過度に長く設定されていると、仲介会社等が再交渉を進めている間に、クライアントが他の仲介会社等と並行して交渉を行う場合、その後の取引に関して誰が報酬を得るべきかという問題が生じることがあります。また、テール条項が適用される対象(紹介先の範囲)が不明確であると、再交渉が行われた場合にその取引が仲介会社等の紹介によるものかどうかを巡って争いが生じる可能性があります。
特に、契約終了後に再交渉が行われる際、最初の仲介会社等が紹介した会社との交渉が再開された場合、どのタイミングで報酬が発生するのかを明確に定義しておかないと、最初の仲介会社等がその報酬を得る権利を主張する際に問題が起きます。このような場合、テール期間が適切に設定されていないと、契約後に不満や不信感が生まれ、最終的な取引の成功に悪影響を与えることもあります。
このため、テール条項を設ける際には、期間、範囲、適用対象を事前にしっかりと明確にし、契約書に明記しておくことが非常に重要です。また、契約の内容について双方が納得したうえで合意を得ることが、後々のトラブルを避けるための大切な要素となります。

契約書での留意点・トラブル例

テール条項を契約書に盛り込む際には、慎重にその内容を設計する必要があります。テール条項が適切に設定されていない場合、後々にトラブルの原因となることがあります。特にテール期間の長さ、紹介先の定義、そして適用範囲を明確にしておかないと、契約後に不満や誤解が生じやすくなります。
以下では、契約書での主な留意点について説明し、実際に起こり得るトラブルの例も交えて解説します。

テール期間の長さの設定

テール条項における重要な要素の一つは、「テール期間」です。テール期間とは、M&A契約が終了した後、一定期間内に取引が成立した場合でも、最初のM&Aの仲介会社等が報酬を受け取ることができる期間を指します。テール期間は通常6ヶ月から1年程度が一般的ですが、その長さは業種や取引規模に応じて調整する必要があります。

例えば、非常に大規模なM&A案件や複雑な取引では、交渉が長期化することが予想されるため、テール期間が長く設定されることが多くなります。一方、小規模な取引や迅速に決着をつける案件では、比較的短いテール期間が適当です。この期間の長さを決める際には、仲介会社等とクライアントの双方が納得できる範囲を設定することが重要です。
注意すべき点として、テール期間長すぎる場合があります。長期間を設定すると、仲介会社等が取引の進展に関わらず報酬を得る可能性があるため、契約成立のタイミングやその後の経過に関する混乱が生じやすくなります。長すぎるテール期間は、契約が不明確になり、双方の期待に対する解釈のズレを引き起こす可能性があります。特に、クライアント側が再交渉を行っている間に他の仲介会社等が介入した場合、テール条項に基づいて報酬を主張することが問題になりかねません。

適切な期間設定は、交渉の性質や市場の動向に応じて判断する必要があります。業界の慣習や過去の取引事例を参考にしつつ、テール期間が適切に設定されているかを確認し、契約書に明確に定義することがトラブル回避につながります。

紹介先の定義を明確にする

テール条項を契約書に盛り込む際には、「紹介先」の定義を明確にすることが非常に重要です。紹介先とは、最初にM&Aの仲介会社等が紹介した会社のことを指しますが、前述したとおり、この「紹介先」の範囲が曖昧な場合、後々トラブルを引き起こす原因となります。具体的には、紹介先がどの会社を指すのか、どのような条件で報酬が発生するのかを契約書に詳細に明記しておく必要があります。

例えば、ある仲介会社等がA社とB社のM&Aを仲介する契約を結び、後にその取引が破談となったとします。その後、A社とB社は別の仲介会社等を介して再交渉を始め、契約が成立した場合、もともと紹介していた仲介会社等が報酬を得る権利があるかどうかが問題となります。このような場合、契約書に「紹介先」の範囲が明記されていなければ、どこまでが「紹介先」に該当するのかが不明確になり、後々の報酬請求時に争いが生じることになります。
そのため、紹介先の定義は、契約書でしっかりと記載する必要があります。「紹介先」や「取引先」の範囲を明確にすることで、後々の報酬を巡る争いを防ぐことができます。

例えば、「契約締結前の交渉を行った会社が紹介先に含まれる」、「取引成立がテール期間内であれば、紹介先と見なされる」など、具体的な条件を定めておくことが重要です。

トラブル例

最後に契約書にテール条項を盛り込む際に考慮すべき典型的なトラブル例として、主なに以下のシナリオが考えられます。

想定されるトラブル例①:報酬請求時の争い

例えば、あるM&A契約で、M&Aの仲介会社等XがA社とB社の取引を進めましたが、交渉が破談となった後、B社がY社の仲介会社等に乗り換えて再交渉を行ったとします。最終的に、B社とA社が契約を締結した場合、仲介会社Xはテール条項に基づいて報酬を請求する権利があるかどうかが問題になります。この場合、テール条項がどのように適用されるのかが不明確だと、報酬を巡って争いが生じます。

想定されるトラブル例②:テール期間内の適用範囲

例えば、ある契約でテール期間を6ヶ月に設定している場合でも、その範囲をどう解釈するかが問題になります。もし、契約が終了した時点で交渉が破談となり、再交渉が行われた場合でも、テール期間が明確に定義されていないと、「再交渉がテール期間に含まれるのか」という点で揉めることになります。このように、テール期間の適用範囲が不明確だと、後々トラブルが発生する可能性があります。

想定されるトラブル例③:異なる業者による再交渉

テール期間が長すぎる場合、A社とB社の間で初めに交渉が行われた後、C社が再交渉を行ってM&Aが成立した場合に、A社が紹介した相手に対して報酬請求を行う権利があるかどうかが争いの種となります。この場合、紹介先の定義が曖昧であれば、報酬請求が認められない可能性があるため、注意が必要です。

まとめ

テール条項は、不当な利益確保を目的とするものではなく、取引成立に向けた実際の貢献に対する適切な報酬として設計されていることを理解したうえで、条項の範囲、期間、内容を明確に設定することが、トラブル防止と成功への第一歩となります。
そのため、経営者であれば、M&A契約を検討する際には、テール条項を理解し、適宜、法律やM&Aの専門家などに相談して進めることが重要です。

M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーとして、お客様の期待する解決・利益の実現のために日々取り組んでおります。
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よくある質問

  • テール条項とは何ですか?
  • M&Aの仲介契約(FA契約を含む)終了後でも、紹介を受けた相手と一定期間内に取引が成立した場合、仲介会社が報酬を請求できる契約上の仕組みです。取引に至るまでの貢献を公正に評価する目的で設けられています。
  • テール条項の「契約終了後」とはどの段階のことですか?
  • ここでの『契約終了後』とは、M&Aそのものが成立した後ではなく、仲介契約(FA契約を含む)が途中で解約・終了された状態を指します。たとえば、交渉が進んで相手先の企業名が明らかになっている段階で契約が終わった場合などが該当します。
  • 仲介契約が終了しても報酬を請求されるのはなぜですか?
  • 交渉の初期段階で仲介会社が相手を紹介し、その後クライアント側が独自に成約した場合、紹介という貢献に報いる仕組みとして報酬が請求されることがあります。これは仲介会社の継続的支援を促すインセンティブでもあり、取引成功に向けた体制維持につながります。
  • テール条項があることでクライアントに不利になることはありませんか?
  • テール条項自体が不利というよりも、内容が曖昧な場合にトラブルの原因となることがあります。報酬の対象期間や対象先を明確に契約で定義しておくことで、不要な誤解や紛争を避けることができます。
  • テール期間とは何ですか?
  • テール期間とは、仲介契約終了後も報酬請求の対象となる一定の期間を指します。業種や案件の規模にもよりますが、通常は6ヶ月から1年程度で設定されることが多いです。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社執行役員 コーポレートアドバイザリー部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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