M&Aの100日プランとは? 概要、基本構成、実務上の留意点などについて、わかりやすく解説

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M&Aの100日プランについて

M&Aの成功は契約の締結で終わるものではなく、その後の統合作業、いわゆるPMI(Post Merger Integration)によって真価が問われます。なかでも「M&Aの100日プラン」は、PMI初期段階における実行計画として非常に重要です。

本記事では、「M&Aとは?M&Aとは?|詳細記事へ」の基本的な理解を踏まえたうえで、100日プランの概要と基本構成、進め方や実務上の留意点に加え、成功事例と失敗事例も紹介しながら、実践に活かせる形でわかりやすく解説します。

M&Aの基本的な概要、またはPMIについて詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。

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M&Aの100日プランとは

M&Aの成立後に行われる統合プロセスのことをPMIといいます。
PMIはM&A成功のカギを握る重要なステップであり、経営・業務・意識をはじめとする統合施策の実施により、M&Aによって想定していた統合効果や投資効果を得ることを目的に行われます。
このPMIのプロセスの中でM&Aの100日プランが登場します。

M&Aの100日プランとは、M&Aの成約直後から100日間に行う作業の計画やスケジュールのことをいいます。M&Aが成約された時点ですぐに経営統合が進められるわけではありません。
買い手企業と売り手企業が連携して手続きを進めることで、M&A成約後の事業運営体制が整えられていきます。
M&A成約後の事業運営体制を計画的に整えていくうえで必要なものがM&Aの100日プランなのです。

なぜ「100日」なのか

M&A後の統合計画で「100日」が重視される主な理由は以下のとおりです。

1つ目は、経営者側の観点から、初めの四半期(3ヶ月、約100日)で結果を出すことが重要であるためです。M&A後に経営陣が刷新された場合、M&A後に初めて迎える四半期での結果次第で、株主や従業員に与える会社の信頼が変わってきます。M&Aで良い成績が出せず信頼を失わないように、M&Aの100日プランを策定することで計画的にPMIを進めることが重要となります。

2つ目は、M&A後に時間が経ちすぎてしまうと、従業員が不安や不信感を抱いてしまう場合があります。M&Aで経営統合されたにもかかわらず、業務フローや人事制度、給与体系がそのままであれば、従業員は今後どのような組織形態となるのか把握できなくなってしまいます。そこで、組織の変革をするときのマイルストーンとして「100日」を目安の期間に設定することが実務上、一般的となっています。

100日プランの基本構成

100日プランで取り組む内容

M&Aの100日プランでは、重要度や優先度が高い課題からピックアップして取り組んでいきます。取り組むべき内容は会社によって様々ありますが、一般的な課題は主に以下のとおりです。

  • シナジーの創出、最大化の施策検討
  • ガバナンス体制、内部統制の構築
  • 人事制度の統合、または再構築
  • 従業員や関係者との信頼関係の構築
  • 業務プロセスの統合
  • 情報システムの統合

特にM&Aによるシナジー獲得を重視する会社であれば、「シナジーの創出、最大化の施策検討」が最優先課題となります。また、買い手企業と売り手企業双方の経営者や従業員、関係者との相互理解と信頼関係の構築も大切です。

100日プランの進め方

次にM&Aの100日プランの一般的な進め方について、4つのステップに分けて説明します。

Step1:プロジェクトチームの結成と担当者の決定

まず第1に、100日プラン実施の中心となるプロジェクトチームを結成し、担当者を決定します。担当者は、買い手企業と売り手企業双方から適切な人材を選ぶことが一般的です。買い手企業の人材のみでチームを構成してしまうと、売り手企業の実態が把握できない、売り手企業の意向が反映されないなどのトラブルの原因となる場合があるためです。
また、100日プランの検討課題は多岐に渡ることから、各プロジェクトチームの他に全体を取りまとめる部署を設置するとより効率的に進めることができます。
さらに、中小規模の会社では社内の人材だけで対応できないケースもあります。その場合には、M&Aの専門家に相談するなど、必要に応じて外部リソースも活用することも重要です。

Step2:両社の現状の分析・課題の明確化

次にM&Aの100日プランの策定には、買い手企業と売り手企業の双方の現状分析と課題抽出が必須です。プロジェクトチームを中心に買い手企業と売り手企業の現状を分析し、経営統合の課題となる点を洗い出します。
また、M&A交渉時の面談やデューデリジェンスで得られた情報は、現状分析の指針をとなるので、有効的に活用できることが多くあります。

Step3:100日プランの策定と実行

次に洗い出した課題をもとに、100日プランを策定します。例えば、「重要度」「緊急性」「実行可能性」などから総合的に判断して課題ごとに優先順位をつけ、具体的な施策を作成していきます。
また、施策の中には、短期的に成果が上がり比較的簡単に実施できる項目を盛り込むことも重要です。例えば、「従業員の処遇改善を行う」、「パソコンなどを新しく購入する」など、即効性のある施策を行うと、従業員はM&Aのメリットを実感でき、PMIへのモチベーションを期待することもできます。

Step4:実行後の効果の検証

最後にM&Aの100日プランを実行したら効果検証を行います。構築した100日プランを実行しても効果が発揮されなければ意味がありません。
効果検証の結果を基に、必要に応じて統合方針を見直し、改善策を次のフェーズへ反映させることで、100日プランはより実効的になります。

100日プランの具体的なスケジュール例

以下は、一般的なPMIにおけるM&Aの100日プランのスケジュール例です。ただし、実際のスケジュールは、M&Aの会社規模や業界、統合の難易度によって大きく異なるため、あくまでも参考例として紹介します。

Day1の主な作業内容

  • 経営統合の公式発表
  • 新経営体制への移行
  • 従業員への説明会実施

1週間後の主な作業内容

  • 人事制度の統合
  • 給与システムの統合
  • 従業員への研修開始

1ヶ月後の主な作業内容

  • ITシステムの統合
  • 業務プロセスの統合開始
  • シナジー創出チームの発足

3ヶ月後の主な作業内容

  • 主要な業務プロセスの統合完了
  • シナジー創出計画の策定
  • 統合効果の測定開始

100日後の主な作業内容

  • PMIの進捗状況の評価
  • 今後の課題と対応策の検討
  • 統合完了の報告

上記は、かなりスピード感のあるスケジュールです。例えば、「ITシステムの統合」は、利用目的の把握・変更する場合の要件定義などに時間がかかる場合が実務上、多くあります。そのため、必ずしもこのスケジュール感で進めなければならないわけではなく、現場の実情に合わせたスケジュールを行うことになります。

実務上の留意点

次にM&Aの100日プランの作成をする際の実務上の留意点について説明します。主な留意点は以下のとおりであり、順番に説明していきます。

  • できるだけ早い段階で100日プランを作成する
  • 目標を明確にする
  • プロジェクトチームの担当者に現場の当事者を入れる
  • 100日以内で達成できないものは別途マイルストーンを設定する
  • M&Aの専門家に相談する

できるだけ早い段階で100日プランを作成する

1つ目は、できるだけ早い段階で100日プランを策定することです。100日プランを早い段階で作成すれば、クロージング手続きが実行されるまで時間に余裕ができます。
余裕を持たせておくと、100日プランの内容を吟味して実効性の高い計画を練り直すことが可能です。そのため、M&Aの契約前から平行して準備を進めておくことが望ましいです。

目標を明確にする

2つ目は、目標を明確にすることです。目標が曖昧なままプラン策定を進めてしまうと、統合作業のいくつかの項目ごとで方向性の違う作業が進められてしまう可能性が高くなります。
そのため、明確な目標を立てておくと、その目標に向かって各部門で必要な100日プランを構築することができます。明確な目標を定めることで、部門ごとに優先すべきタスクを明確化でき、統合に向けた一貫した行動が可能になります。

プロジェクトチームの担当者に現場の当事者を入れる

3つ目は、プロジェクトチームの担当者に現場の当事者を入れることです。経営陣だけでプロジェクトチームを組んでも、経営陣から見た視点でしかM&Aの100日プランが立てることができません。
しかし、買い手企業と売り手企業の双方の現場で働く当事者をプロジェクトチームに参加させることで、現場の意見も反映させたプランが構築できます。また、プランを立てる際には、ステークホルダーの信頼関係についての内容も入れます。ステークホルダーとの信頼関係が構築できるプランを立てるなら、現場の声をプランの中に取り入れる方法が効率的です。

100日以内で達成できないものは別途マイルストーンを設定する

4つ目は、100日以内で達成できないものは別途マイルストーンを設定することです。買い手企業と売り手企業の双方が抱えている課題の中で優先順位の高い内容を先に入れて、M&Aの100日プランの内容を固めていくことから、統合作業に必要とされる内容のすべてを100日間で網羅しきることは実務上、難しいこともあります。
また、M&Aの100日プランの次のステップにすぐにPMIの実施が待っているわけではありません。そこで、実務上、100日以内で達成できないものは別途マイルストーンを設定することで、優先順位を決めてPMIの実施をしていくことが重要です。

M&Aの専門家に相談する

最後にM&Aの専門家に相談することです。M&Aの100日プランを具体的にどのような方針で立てることで、企業成長に繋がりやすいか判断する必要があります。ただ、具体的にどのようなプランを立てるかについては、経験や知識が豊富なM&Aなどの専門家に相談するのが最も確実な方法といえます。
M&Aなどの専門家には、主に以下が挙げられます。

FA(ファイナンシャル・アドバイザー)
FAは、アドバイザリー型のM&A支援をしている専門家です。M&Aについて相談を受けた相手の利益が最大化するように、M&Aの手続きの流れや100日プランの内容を提案してもらうことが可能です。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、M&A支援を専業とし、買い手企業と売り手企業の双方と契約する専門家です。双方の間に立ち、どちらにとっても利益となる内容を提案してもらえる点が特徴的です。M&A仲介会社から中立な立場の意見を提案してもらうことで、円滑にM&Aに交渉が進めやすくなります。

事例紹介(成功例・失敗例)

最後にM&Aの100日プラン作成についての一般的な成功例と失敗例について、それぞれ紹介します。

M&Aの100日プラン作成の成功例

まず、成功例として、M&A前から連携を取っていた場合について、下表のとおり、時系列で紹介します。

Day1の主な作業内容

  • 買い手企業と売り手企業の双方でM&A前から連携を取っており、プロジェクトチームを立ち上げた。
  • 従業員向けにFAQや人事制度の比較資料を配布し、不安の最小化を図った。

1週間後の主な作業内容

  • 週次での本社と各拠点とのオンラインミーティングを定例化し、緊密なコミュニケーション体制を構築した。

1ヶ月後の主な作業内容

  • 人事制度と給与体系の統合を開始した。
  • 従業員への研修を実施し、企業文化の違いを共有した。

3ヶ月後の主な作業内容

  • 主要な業務プロセスの統合が完了した。
  • シナジー創出計画を策定し、統合効果の測定を開始した。

100日後の主な作業内容

  • PMIの進捗状況を評価し、今後の課題と対応策を検討した。
  • 統合効果が早期に可視化され、従業員の離職率も業界平均を下回る水準に抑えることができた。

M&Aの100日プラン作成の失敗例

次に、失敗例として、M&Aのクロージング後にプラン作成を始めた場合について、下表のとおり、時系列で紹介します。

Day1の主な作業内容

  • 買収発表後、売り手企業の従業員への説明が遅れた結果、不安が拡大してしまう。
  • 買い手企業と売り手企業の双方の経営陣の顔合わせが実施されず、現場に混乱が生じてしまう。

1週間後の主な作業内容

  • 組織や権限の整理がされないまま、業務の指揮系統が二重化してしまう。その結果、キーパーソンの離職が相次ぐ。

1ヶ月後の主な作業内容

  • 統合方針が不明確なまま、ITシステム間の整合も未着手のままとなっている。
  • 顧客対応に支障が出て、クレームや取引キャンセルが発生してしまう。

3ヶ月後の主な作業内容

  • 両社の営業方針が食い違い、組織全体の士気が低下し、プロジェクト進行が停滞してしまう。

100日後の主な作業内容

  • 統合効果はゼロ、むしろ財務悪化・人材流出が進行してしまう。
  • 投資家への説明責任を果たせず、買収の評価は「戦略的失敗」と認定されてしまいます。

まとめ

M&Aの100日プランは、PMI成功のカギを握る初動の戦略実行フェーズです。この期間内に適切な準備と実行がなされることで、経営統合に伴う混乱を最小限に抑え、早期にシナジー効果を生み出す土壌を整えることができます。計画の早期策定、明確な目標設定、現場の意見の反映、そして柔軟なマイルストーン設計が、実効性の高い100日プランを支える要素です。M&Aを成功に導くためには、専門家の知見を活かしつつ、組織全体で一貫した行動をとることが求められます。

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よくある質問

  • M&Aの100日プランとは何ですか?
  • M&A成約直後から実施される初期統合計画であり、PMIの第1フェーズとして、組織体制・業務プロセス・ガバナンスの整備等を100日以内に推進するものです。
  • なぜ『100日』が基準とされるのですか?
  • 経営統合において初期成果を示すことで、ステークホルダー(株主・従業員等)との信頼関係を早期に構築する必要があるためです。
  • 100日プランの主な内容は何ですか?
  • シナジー創出に向けた施策、ガバナンス設計、人事制度統合、IT・業務プロセスの統合、内部統制の確立等が含まれます。
  • 計画策定における実務上の留意点は何ですか?
  • 早期着手、現場当事者の参画、優先課題の整理、段階的目標設定、外部専門家の活用などが重要です。
  • 成功事例と失敗事例の主な相違点は何ですか?
  • 成功事例では事前準備と関係者間の連携が徹底されており、失敗事例では初動の遅れと情報不足により混乱が生じています。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社執行役員 コーポレートアドバイザリー部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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