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分社化について
分社化とは、企業が自社の事業の一部を切り離して新たな会社を設立し、より効率的かつ専門的な経営を実現するための手法です。経営の柔軟性や成長力を高める一方で、手続きの煩雑さやコスト増といった課題も伴います。
分社化は、会社分割や事業譲渡といった手法を活用して実施され、M&Aの場面では「カーブアウト」として企業価値の最適化や売却準備の一環として行われることもあります。
この記事では、分社化の基本的な仕組みから、メリット・デメリット、実施の流れ、実際の企業事例までをわかりやすく解説します。
このページのポイント
~分社化とは?~
分社化とは、企業が一部事業を切り出して新会社を設立する手法であり、経営の柔軟性や事業の専門化を実現する組織再編策です。経営効率化やリスク分散、後継者育成などを目的に活用されますが、手続きやコスト面への配慮も必要です。
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分社化とは

はじめに、分社化の意味や、子会社化との違いについて見ていきましょう。
分社化の意味
分社化とは、新たに独立した会社を設立する組織再編であり、企業が自社の事業の一部を切り離す手法です。経営の効率化や事業の専門化を図ることで、より柔軟な経営体制を構築することが主な目的です。
子会社化との違い
分社化と比較されることの多い組織再編手法が「子会社化」です。事業の一部を切り離しをする場合においては共通している点もありますが、その目的や仕組みには明確な違いがあります。
分社化は、企業が自社内の事業を切り離し、新たに独立した会社として設立する方法です。一方、子会社化は、企業が他社の株式を取得し、その会社を自社の支配下に置く手法であり、M&A(企業の合併・買収)の一形態です。
また、分社化においては、親会社が新会社の株式を100%保有するケースが多いものの、経営権の確保が目的であれば、51%以上の株式保有で支配権を確保できます。さらに、税務や会計処理の面でも違いがあり、分社化では企業再編税制が適用される場合があるのに対し、子会社化では株式取得に関する税務処理が必要となります。
分社化が活用されるケース
分社化が活用される主なケースとしては、以下が挙げられます。
それぞれ見ていきましょう。
新規事業への参入を目指す場合
分社化は、新規事業への参入時に有効な選択肢です。新会社を設立すれば親会社とは独立した組織として運営できるため、既存の企業文化や慣習にとらわれず、柔軟な意思決定が可能となります。
また、分社化により経営資源を新設会社に集中させることで、専門性が高まり、市場の変化への迅速な対応や、イノベーションの推進が期待できます。さらに、分社化はリスクを限定的にとどめられるため、大胆な事業展開にも踏み出しやすくなるでしょう。
これらの点から、新規事業に参入する際には、分社化を選択肢の一つとして検討する価値があります。
不採算部門を抱えている場合
分社化は、不採算部門を切り離す手段としても有効です。例えば、業績が振るわない事業部門を分社化し、親会社の財務諸表から独立させ、売却することで、収益性を改善できる可能性があります。
このような財務体質の改善により、金融面での支援を受けやすくなり、経営上のリスク分散にもつながります。また、事業ごとの業績が明確になることで、経営の効率化が促進される点も大きなメリットです。
さらに、親会社の信用力が高まることで、大手企業からの取引受注がしやすくなる効果も期待できます。
後継者候補の育成が必要な場合
分社化は、後継者候補を育てるためにも活用できます。後継者候補は、新規設立した子会社で実践的な経営を学び、スキルや判断力を身につけることができます。
親会社の監督下で後継者教育を進めることで、事業承継を円滑に進める体制を整えることが可能です。また、後継者候補の適性や能力を客観的に評価できる点も大きなメリットといえるでしょう。
分社化の手法
分社化の手法には、下表に挙げる3種類があります。
手法 | 概要 |
---|---|
単独型新設分社型分割 | 企業が自社単独で新たに会社を設立し、その一部事業を承継させる手法。既存企業内の特定事業を切り出して独立性を持たせる。新設会社は、分割会社の子会社として位置付けられる |
共同新設分社型分割 | 複数の企業が協力して新会社を設立し、各社の一部事業を集約する手法。新設会社の株式は各分割会社が持株比率に応じて取得する |
分社型吸収分割 | 企業が一部事業を既存の別会社に移行する手法。承継会社が株式や現金などを対価として支払い、場合によっては親子関係が形成されることもある |
それぞれの詳細について解説します。
単独型新設分社型分割
単独型新設分社型分割とは、自社の一部事業を切り離し、新規設立した子会社に承継させる手法です。この方法では、事業部門の資産や負債を新設会社へ移転し、その見返りとして新設会社の株式を受け取ります。そのため、原則として新設会社株式は分割元の企業が100%保有し、完全子会社として運営されることになります。
この手法の主な目的は、経営の効率化や、事業の専門性の向上や、リスクの分離などです。また、親会社のブランド力や信用を活かしながら、子会社として独立した成長戦略を描ける点も特徴であり、特に新規事業の立ち上げや組織再編の場面で活用されることが一般的です。
共同新設分社型分割
共同新設分社型分割とは、複数の企業が共同で新たな会社を設立し、それぞれの事業の一部をその新会社に承継させる手法です。新設会社の株式は関与する各企業が保有し、共同で事業を運営する体制が構築されます。
この手法を活用することで、各企業が持つノウハウや経営資源を統合し、相互の競争力を高めることが可能です。特に、業界内の複数の企業が新市場への参入や事業の拡大を目的として取り入れるケースが多く見られます。
また、異業種間での協業においても、シナジー効果の創出やリスク分担を図る上で有効な手段です。合弁事業の形成に適しており、企業間の連携によって双方にとってのメリットを最大化できる点が大きな特徴です。
分社型吸収分割
分社型吸収分割とは、企業が自社の一部事業を既存の他社に移転し、その企業に承継させる手法です。事業を引き継ぐ側である承継会社は、対価として株式や現金などを分割元の企業に交付します。
この手法を用いることで、事業の統合や再編がスムーズに進み、経営資源の最適化が可能です。また、事業の競争力を高めたり、規模の拡大を目的としたりするケースも多く見られます。
特に、事業の選択と集中を進めたい企業や、業界内での競争力向上を目指す企業がこの方法を採用する傾向にあります。分社型吸収分割は、経営資源を特定分野に集約し、効率的な事業運営を実現するための有効な手段といえるでしょう。
分社化のメリット
分社化の主なメリットとしては、以下が挙げられます。
それぞれ見ていきましょう。
経営を効率化できる
分社化を行うと、各事業の経営責任が明確になり、より効率的な運営が可能となります。独立した経営体制が整うことで、事業部門ごとの意思決定が迅速になり、市場の変化にも柔軟な対応が可能です。
また、資金や人材などの経営資源を事業ごとに適切に配分しやすくなるため、組織全体の資源活用の最適化が図られます。こうした環境のもとでは、新規事業への参入や投資に関する意思決定もスムーズに進み、結果として企業全体のパフォーマンス向上が期待されます。
節税効果を得られる
分社化を行うことで、中小企業向けの法人税軽減措置の要件を満たせる場合があります。例えば、資本金が1億円以下の企業として新設法人が扱われると、法人税の軽減税率が適用可能です。
また、新設法人は設立から2年間、一定の要件のもとで消費税の納税義務が免除されるケースもあります。さらに、損益通算が認められる場合には、親会社との間で税務戦略を最適化できます。
このように、分社化は経営の柔軟性を確保しながら、税負担の軽減を図る手段としても有効です。
事業の専門性を向上させられる
分社化を行うことで、特定の事業に特化した経営が可能となり、事業の専門性を高めることができます。その結果、業界内での競争力が強化され、技術力やサービス品質の向上にもつながります。
さらに、独立した経営体制を持つことで、事業ごとのブランディングがしやすくなり、市場ニーズに特化した柔軟な事業展開が可能です。これにより、顧客満足度の向上も期待できるでしょう。
また、特定分野に経営資源を集中させることで、研究開発や人材育成における効率性も高まり、より強い事業基盤の構築が実現できます。
リスク分散を図れる
分社化を行うことで、親会社の財務状況に対する影響を最小限に抑えることが可能となります。不採算部門を切り離してグループから独立させることで、グループ全体のリスクを下げることができる点が大きな利点です。
また、各社が独立採算で運営されるため、特定の事業が不振に陥った場合でも、他の事業への波及リスクを抑制することが可能です。さらに、事業ごとの特性に応じたリスク管理戦略を策定しやすくなり、グループ全体の持続的な成長を支援する体制の構築にもつながります。
分社化のデメリット
分社化には、メリットだけでなく、以下のようなデメリットもあります。
こちらも一つずつ解説していきます。
手続きにより業務負担が増加する
分社化を実施するには、法務、税務、財務といった多岐にわたる手続きが必要です。特に、会社を新たに設立する際には、定款の作成や登記申請、各種契約書の締結など、事務的な業務負担が大きいです。
さらに、分社化後には税務申告や決算処理などの経理業務が複雑化し、経理部門の業務量が増加する可能性もあります。こうした手続きを円滑に進めるためには、弁護士や税理士などの専門家によるサポートが不可欠です。
会社の管理コストが発生する
分社化を行うことで、新たに設立する会社に関する費用や運営コストが発生します。登記手続きに加え、設備投資や事務所の賃料など、初期段階での支出が必要となるため、事前の資金計画が非常に重要です。
また、新会社には経理・人事・総務といったバックオフィス部門の整備も求められるため、それに伴い管理費用も増加します。さらに、経営の効率化を図るためにグループ内のシステムの導入やIT関連の投資が必要となるケースもあります。専門家のサポートを受ける場合は、その報酬も支払わなければなりません。
このように、分社化によって生じるさまざまなコストの増加は、場合によっては企業の利益を圧迫する要因となる可能性があります。
親会社との連携が困難になる
分社化を行うことで、親会社と子会社の業務フローや意思決定のプロセスが分断されることがあります。グループ内において情報共有の体制が十分に整備されていないと、意思疎通の遅れが発生し、業務に支障をきたす可能性があります。特に、部門間での調整が必要となる業務では、連携が円滑に進まないことが課題となりがちです。このような状況が重なると、グループ全体としての戦略調整にも支障をきたします。
また、親会社の経営方針に変更があった場合には、子会社との間で改めて調整となり、柔軟な対応力が求められます。
分社化の流れ
分社化を円滑に進める際の基本的な流れは次のとおりです。
各ステップについて、詳しく見ていきましょう。
1.事前準備と計画の策定
はじめに、分社化の目的を明確にし、全体としての戦略を策定することが重要です。次に、分社化の対象となる事業について、資産・負債・人員といった要素を詳細に分析し、どの範囲を新会社に移管するかを決定しましょう。
あわせて、分社化後の事業計画を立案し、新会社の運営体制を整理・構築する必要があります。また、株主や取引先をはじめとするステークホルダーに対しては、分社化の目的や方針を丁寧に説明し、理解と協力を得ることが求められます。
これらの準備を踏まえ、関係者と連携を取りながら、円滑な実行に向けたスケジュールを策定していくことが重要です。
2.分割契約の締結・分割計画の作成
分割計画書(新設分割)または吸収分割契約書(吸収分割)を作成します。契約書の主な記載事項は以下のとおりです。
書類 | 記載項目例 |
---|---|
分割計画書 |
|
吸収分割契約書 |
|
書類を作成後、取締役会で契約内容を承認し、法的な手続きを進めます。事業の移管プロセスを詳細に定め、スムーズな実施を図りましょう。また、必要に応じて、税務・法務の専門家の意見を取り入れることが必要です。
3.書類の事前開示
新設分割および吸収分割のいずれの手法を採用する場合でも、事前開示書類の備置が必要です。新設分割では、分割会社の本店に書類を備え置く必要があります。吸収分割の場合には、分割会社と承継会社の両方の本店に備置しなければなりません。
これらの書類の備置期間は、「株主総会の決議日」または「分割の効力発生日」のいずれか早い日から起算して、効力発生後6ヶ月間と定められています。
- 株主総会の2週間前
- 株主への通知・公告を行う日
- 債権者への通知・公告を行う日
この期間内に書類を備置し、関係者に適切に情報を提供することが求められます。
4.株主総会の実施
分割計画書または分割契約書のいずれを作成する場合であっても、会社分割の効力発生日の前日までに株主総会を開催し、その承認を得る必要があります。
分社化は、会社の経営体制や組織構造に大きな影響を与える重要な事項であるため、株主総会では通常の決議ではなく、特別決議によって承認を受けなければなりません。
この特別決議を成立させるには、次の2つの要件を満たす必要があります。
- 議決権がある株主の過半数の出席
- 出席した株主の議決権のうち3分の2以上の承認
5.買取請求権の通知
株主総会での決議後には、反対の意思を持つ株主や新株予約権者に対して通知を行い、その意見を求める必要があります。これに対し、権利者が意見を述べたり異議を申し立てたりできる期間は、分割の効力発生日の20日前から前日までです。
また、分社化によって影響を受ける従業員や取引先に対しても、事前に丁寧な説明を行い、理解と協力を得ることが求められます。
6.債権者保護手続き
会社分割を実施する際には、債権者に対してその旨を官報で公告し、分割の実施を周知する必要があります。これに加えて、主要な債権者に対して個別に通知を行い、より丁寧な対応が求められます。
公告および通知にあたっては、一定の期間を設け、債権者が異議を申し立てる機会を確保することが必要です。万が一、債権者から異議の申し立てがあった場合には、その内容を踏まえたうえで、適切な対応方針を検討します。
こうした一連の手続きを通じて、法的な問題が発生しないよう、慎重かつ的確に進めることが重要です。
7.分社化の効力発生と登記手続き
分社化の効力発生日を迎えたら、その日をもって各種手続きを実行します。効力発生により、承継対象となる資産・負債・契約は、新たに設立された会社または承継会社に正式に移転されます。
次に、新会社が設立される場合は、その登記を行うことで法人としての法的地位を確立しましょう。また、親会社についても、分社化に伴う登記内容の変更手続きを行い、正式に分社化が完了したことを示します。
すべての手続きが完了した後は、関連書類を適切に保管し、将来的な監査や税務調査に備えることが重要です。
分社化の事例
分社化は、企業が経営戦略を再構築し、成長分野に経営資源を集中させる手段として活用されています。以下では、東芝、NCネットワーク、日立製作所の事例を紹介します。
株式会社東芝の分社化計画
株式会社東芝は2021年、経営再建の一環として分社化を発表し、事業の選択と集中を進める方針を打ち出しました。当初は3社への分割を計画していたものの、最終的には「東芝」と「東芝デバイス&ストレージ」の2社体制へと移行する方針に変更されました。
この新体制のもと、東芝本体はインフラサービスやエネルギー関連事業を担い、一方でデバイス&ストレージ部門は、半導体などの製造事業を引き続き展開していくこととなります。
分社化の背景には、収益構造の見直しに加え、海外投資家からの圧力を受けたガバナンス改革の必要性がありました。経営資源を最適に配分し、迅速な意思決定を可能にすることで、企業価値の向上を目指す狙いがあったとされています。
さらに、2023年には東芝の非公開化が決定され、産業革新投資機構(JIC)を中心としたコンソーシアムによる買収が進められました。
株式会社NCネットワークの加工事業部門の分社化
2020年6月、株式会社NCネットワークは、加工事業部門を分社化し、「NCネットワークファクトリー株式会社」を新たに設立しました。この分社化は、事業の拡大と競争力の向上を目的としたものであり、独立した経営体制のもとで新会社としての運営を開始しています。
初年度の売上目標は15億円、3年目には30億円を目指しており、加工業務の専門性を高めることで、より効率的な事業運営を実現する狙いがあります。また、分社化によって新会社は、設備投資や人材確保における自由度を高めることが可能となりました。
一方、NCネットワーク本体は、情報プラットフォーム事業に特化することで、本業への集中を図り、分社化によるシナジー効果の最大化を目指す方針を打ち出しています。
株式会社日立製作所の事業再編
株式会社日立製作所は、主要事業の分社化や売却を通じて、選択と集中の戦略を積極的に推進しています。
家電分野では、トルコの家電メーカーであるArçelik(アルチェリク)と合弁会社を設立し、海外事業を分社化しました。
化学事業では、日立化成を昭和電工へ売却することで、事業の効率化を図りました。また、医療機器分野では画像診断装置部門を富士フイルムに譲渡し、医療分野における専門性の強化を進めています。
これらの取り組みにより、日立はIT、インフラ、エネルギーといった成長分野へ経営資源を集中させています。分社化の目的は、成長分野へのシフトと、競争力強化を実現するための経営資源の最適な再配分です。
まとめ
分社化は、経営効率の向上や事業の専門性強化、リスクの分散など多くの利点がある一方で、手続きや管理負担の増加といった課題も伴います。成功のためには、明確な目的設定と綿密な計画のもと、法務・税務の観点からも万全の準備を整えることが不可欠です。また、分社化後のグループ間の連携体制や、リスク管理の枠組みも並行して検討すべきポイントといえるでしょう。戦略的に分社化を活用することで、企業は持続的な成長と変化に対応できる体制を築くことが可能となります。
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よくある質問
- 分社化とはどういう手法ですか?
- 企業が自社の一部事業を切り離し、新たな会社を設立して運営する組織再編手法の一つです。
- 子会社化と分社化の違いは何ですか?
- 分社化は自社の事業を切り出す方法、子会社化は他社の株式を取得して支配下に置くM&A手法です。
- 分社化はどのような場面で活用されますか?
- 新規事業の開始、不採算部門の切り離し、後継者の育成といった場面で活用されます。
- 分社化にはどのような方法がありますか?
- 単独型新設分社型分割、共同新設分社型分割、分社型吸収分割の3種類があります。
- 分社化のメリットとデメリットは?
- 経営効率化やリスク分散などのメリットがある一方、手続き負担や管理コスト増といった課題もあります。