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事業承継時の消費税について
事業承継を検討する際、消費税の取扱いは見落とされやすいポイントです。承継方法や事業形態によって納税義務者や課税対象が異なり、適切な対応を怠ると予想外の税負担が生じる可能性があります。
本記事では、事業承継事業承継とは?|詳細記事への基本的な理解を踏まえたうえで、法人と個人事業主それぞれの場合の消費税の納税義務、課税対象となる資産、承継手法による違い、そして効果的な節税方法などについて解説します。
事業承継の基本的な概要について、詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
このページのポイント
~事業承継時の消費税とは?~
事業承継では、消費税の課税対象や納税義務者の判定が手法や事業形態により異なります。法人・個人間の違い、課税資産の扱い、節税策まで正確に理解することで、余計な税負担を回避し、適切な承継準備が可能となります。
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事業承継時の消費税の納税義務は誰にある?
事業承継の際、消費税の納税義務者が誰になるのかは、法人と個人事業主でそれぞれ異なります。
法人の場合
事業承継の対象となる法人の基準期間(原則として前々事業年度)における課税売上高が1,000万円を超えている場合、継続して課税事業者となり、納税義務者とされます。法人が独立した法的主体として認められているため、代表者や株主が変わっても法人としての権利義務関係は継続するという原則に基づくものです。
なお、課税売上高1,000万円以下であれば消費税の納税義務は免除されますが、適格請求書発行事業者の登録を受けているあいだは納税義務免除の対象外、つまり納税義務者となります。
法人の場合、消費税は事業年度の終了日の翌日から2ヶ月以内に納める必要があります。これは個人事業主の納税スケジュールとは異なる点です。
個人事業主の場合
個人事業主の事業承継では、適格請求書発行事業者または基準期間における課税売上高1,000万円超であれば、その事業主個人に納税義務があります。事業内容に変化は無くとも、旧事業主から承継されれば、その後継者が納税義務者です。これは法人と異なり、事業そのものではなく事業を営む個人に納税義務が生じるためです。
なお、旧事業主が運営していた期間に発生した消費税は、その旧事業主に納税義務があります。一方で、承継後の期間は後継者が納税義務者です。事業承継の前後で納税義務者が変わる点は、法人との大きな違いです。
個人事業主の消費税の申告期限は、毎年1月1日から12月31日を課税期間とし、その翌年の3月31日までとなります。所得税の確定申告期限(3月15日)とは異なりますが、実務上は所得税の確定申告と同時に消費税の申告も行うことが一般的です。
事業承継時の消費税の課税対象
事業承継において、消費税の課税対象となる資産は多岐にわたります。適切な税務処理のためには、課税資産と非課税資産を正確に把握することが重要です。
課税資産
事業承継時に消費税の課税対象となる資産は、有形資産、無形資産、棚卸資産、営業権などがあります。以下の表に、具体例とあわせてまとめました。
項目 | 具体例 |
---|---|
有形資産 | 設備・機械・備品・在庫など |
無形資産 | 特許権・商標権など |
棚卸資産 | 商品、製品、原材料、仕掛品など |
営業権 | のれんなど |
なお、事業に付随する契約(リース資産など)を承継する場合、それが課税対象となるかは契約内容によって異なります。消費税の計算では、課税資産の売却価格に対して消費税率(10%)を適用し、税額を算出します。ただし、簡易課税制度を適用している事業者は、みなし仕入率に基づいた計算方法を利用することが可能です。
非課税資産
代表的な非課税資産は「土地」であり、土地の譲渡に関しては消費税の課税対象とはなりません。また「株式」や「社債」も、金融商品の一種であるため、消費税は課されません。その他、売掛債権や未収入金、法律上他人に請求できる権利のあるものについても課税対象外となります。
事業譲渡契約を締結する際は上記を踏まえたうえで、課税資産と非課税資産を明確に区分し、適正な取引を行うことが重要です。
事業承継の手法による消費税の違い
消費税の取扱いは、事業承継の方法によっても変わります。ここでは、以下の3つのケースにおける課税関係を見ていきましょう。
順番に解説します。
生前贈与の場合
生前贈与は、無償で事業資産を引き継ぐ行為であり、対価を伴う売買ではないため、消費税の課税対象にはなりません。
売上については、個人から個人への事業承継かつ適格請求書発行事業者として登録しない場合に限りますが、後継者の消費税の納税義務は2年間発生しません。旧事業主側で廃業し、新事業主で新たに開業する手続きをとるため、基準期間(消費税の課税における売上の基準となる期間)がリセットされるためです。
なお、個人から法人へ無償で事業を譲渡する場合には、「みなし譲渡所得」が発生する可能性がある点には留意しましょう。みなし譲渡とは、資産を無償または著しく低い価額で譲渡した場合に、当該資産が時価で譲渡されたものとみなされ、所得税法上課税対象となる制度です。
相続の場合
事業承継が相続によって行われる場合、消費税の課税対象にはなりません。相続は、被相続人(故人)の資産を無償で承継するため、消費税が適用される「資産の譲渡」には該当しないからです。
課税売上高については、相続があった年において「旧経営者の基準期間」と「後継者が事業承継した後」の合算について消費税が課税されます。重要なのは、被相続人の基準期間(相続発生の2年前)の課税売上高1,000万円超の場合、相続人も相続発生日の翌日から12月31日まで課税事業者となる点です。これは、たとえ相続人自身がそれまで事業を行っていなかったとしても適用されます。
複数の相続人が事業を分割して承継した場合は、それぞれの相続人が分割承継した部分の課税売上高によって納税義務が判定されます。遺産分割協議が相続開始年に行われた場合は、相続開始前の売上、相続開始から遺産分割までの売上、遺産分割後の売上をそれぞれ適切に按分して計算しなければなりません。
なお、相続の場合は消費税の代わりに「相続税」が発生するため、事業承継税制の適用や税負担の軽減策を検討することが重要です。適切な対策を講じることで、相続税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
売買(M&A)の場合
事業承継時の売買に伴い消費税が生じるのは、事業譲渡の場合です。株式譲渡については非課税であり、消費税が課税されません。ほかには、合併や会社分割の場合も「資産の譲渡にあたらない」と判断されるため、不課税扱いです(消費税法施行令2条1項4号)。
事業譲渡する際、譲受企業は譲渡価格に消費税を加算して代金を支払います。譲渡側が課税事業者であれば、その後、消費税申告と納税を実施しなければなりません。非課税事業者であっても、適格請求書発行事業者として登録されていれば同様に消費税を支払うことになります。
なお、事業譲渡においては、譲渡する資産に課税資産と非課税資産が含まれているため、消費税計算時にはこれらを区別して計算しなければなりません。
例えば、事業譲渡の全資産額が10億円で、そのうち土地や有価証券などの非課税資産が2億円の場合、消費税額は差額8億円の10%にあたる8,000万円となります。
また、営業権(のれん)も課税資産に該当する点に注意しましょう。営業権の価値が高い事業の譲渡では、消費税負担が大きくなる可能性があります。
事業承継時に生じる消費税以外の税金
事業承継では消費税だけでなく、さまざまな税金が発生します。主なものとしては、以下の3点が挙げられます。
事前に税負担を把握し、最適な承継方法を選択することが重要です。
相続税
相続税は、被相続人(亡くなった事業者)の財産を相続した際に課される税金であり、事業用資産も課税対象です。課税対象となる財産には、事業用の不動産、設備、在庫、預貯金、株式などが含まれます。個人事業主の場合、事業運営のために使用していた一般動産(器具、備品、機械装置、工具等)や棚卸資産(販売される予定の商品等)などが対象です。
相続税の計算は、課税遺産総額に基づき、法定相続分に応じた税率が適用されます。税率は相続した金額によって異なり、金額が大きくなるにつれて税率も上がる累進税率となっています。
なお、相続税の納税義務は、原則として相続人が負い、被相続人の死亡後10ヶ月以内に申告・納付しなければなりません。申告にあたって事業承継税制(納税猶予制度)を活用すれば、一定の要件を満たすことで相続税の負担を軽減することが可能です。
贈与税
贈与税は、個人から個人へ財産を無償で譲渡した場合に課される税金です。贈与税の課税方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があります。どちらが有利になるかは、贈与額と贈与期間によって異なります。
贈与税も相続税と同様、事業承継税制の活用が可能です。事業承継税制を利用すれば、後継者が非上場株式などを贈与により取得した場合、一定の要件を満たすことで贈与税の納税が猶予されます。
なお、贈与税の申告・納付は、贈与を受けた年の翌年3月15日までに行う必要があります。また、贈与を受けた資産の売却や運用方法によっては、後に所得税や法人税の対象となる場合もあるため注意が必要です。
登録免許税
事業承継時に「会社の登記変更」や「不動産の所有権移転」が発生する場合、登録免許税が課されます。会社の組織変更(合併・会社分割・新会社設立)を伴う場合、資本金の0.7%または最低税額3万円の登録免許税がかかります。譲渡した資産に不動産が含まれるケースの登録免許税の額は、所有権の移転登記につき固定資産評価額の2%です。
登録免許税の負担額は、事業の規模や承継方法によって異なるため、事前に計算しておくことが重要です。
なお、登記手続きは法務局で行いますが、専門知識が必要となるケースが多いため、司法書士や税理士と相談しながら進めることをおすすめします。
事業承継時の消費税を節税する方法
ここでは、事業承継時の消費税を節税するための、2つの方法を紹介します。
生前贈与による事業承継を検討する
事業承継における消費税負担を低く抑えたい場合は、相続よりも生前贈与を選択するほうが有利です。
個人から個人へと事業承継を行うケースでは、消費税課税における基準期間のリセットにより、承継後2年にわたって消費税の納付が必要ありません(後継者が適格請求書発行事業者として登録する場合を除く)。
法人の事業承継においては、時間にゆとりがあることで、売上予測および実際の売上高から消費税額を計算し、適切な時期に承継を実行できるメリットがあります。
簡易課税制度を利用する
事業承継時における消費税の節税では、簡易課税制度の活用も検討できます。この制度は、業種ごとに決められた「みなし仕入率」に基づいて仕入控除額を算出しても良いとするものです。事業承継前に簡易課税制度の適用を受けると、譲渡資産にかかる消費税の納税額を軽減できる可能性があります。
ただし、簡易課税制度を適用すると、実際の仕入税額控除が受けられないため、事業の実態に合わせた選択が求められます。本制度は前々年の課税売上高が5,000万円以下の事業者が対象となるため、適用可否を事前に確認することも重要です。
まとめ
事業承継時の消費税対策は、承継方法や事業形態によって大きく異なります。法人では経営者が変わっても法人自体に納税義務が継続し、個人事業主では承継前後で納税義務者が変わります。
重要なのは、課税対象となる有形・無形資産と非課税となる土地・株式を正確に区分することです。また、生前贈与では後継者が2年間免税事業者になれる一方、相続では旧経営者の課税売上高も引き継ぐため、状況に応じた承継方法の選択と、簡易課税制度の活用で節税を実施しましょう。
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よくある質問
- 法人の事業承継では誰が消費税の納税義務者になりますか?
- 法人は法人格が存続するため、代表者が変わっても法人そのものが継続して納税義務を負います。
- 生前贈与による事業承継は消費税が課税されますか?
- 生前贈与は無償譲渡のため消費税は課税されません。ただし、法人への無償譲渡にはみなし譲渡課税が発生することがあります。
- 事業譲渡と株式譲渡では消費税の扱いに違いがありますか?
- はい、事業譲渡には消費税が課税されますが、株式譲渡は非課税扱いで消費税は発生しません。
- 消費税の課税対象となる事業資産には何がありますか?
- 機械・備品・在庫・営業権などが課税対象です。土地や株式、売掛債権などは非課税です。
- 消費税の節税対策にはどのような方法がありますか?
- 生前贈与や簡易課税制度の活用によって、消費税負担を軽減できる可能性があります。