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資本性劣後ローンについて
創業まもない企業や、資金繰りに悩む経営者にとって、金融機関からの融資が高いハードルとなることは多いでしょう。特に、赤字であったり自己資本が少なかったりするケースでは、資金調達が難航することも少なくありません。
そこで注目されているのが「資本性劣後ローン」です。この制度は、借入でありながら自己資本とみなされる特徴があり、事業成長や資金調達力の強化に役立ちます。
本記事では、「M&Aの資金調達とは?M&Aの資金調達とは?|詳細記事へ」の基本的な理解を踏まえたうえで、資本性劣後ローンの仕組みや活用シーン、メリット・デメリット、申請手続きまでを詳しく解説します。
M&Aの資金調達の基本的な概要について、詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
このページのポイント
~資本性劣後ローンとは?~
資本性劣後ローンは、借入金でありながら自己資本とみなされる特性を持ち、財務体質の改善や他の融資との併用を可能にする柔軟な資金調達手段です。申請には厳正な審査がある一方で、無担保・無保証での利用や返済負担の軽減が図れます。
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資本性劣後ローンとは
項目 | 資本性劣後ローン | 通常の融資 |
---|---|---|
対象者 | 一定の要件を満たす者 | 特に制限は無い |
返済期間 | 5年1ヶ月、7年、10年、15年など | 審査により5年から35年など変動 |
返済方法 | 期限一括返済(毎月利息のみ支払い) | 毎月元利均等返済など |
利率 |
|
審査により0.9%から3.5%など変動 |
担保・保証人 | 原則不要 | 担保または保証人が必要 |
会計上の扱い | 資本として計上 | 負債として計上 |
倒産時の弁済順位 | 劣後する | 他の債務と同順位 |
返済の柔軟性 | 融資後5年間は一括返済不可 | 期限に関わらず繰り上げ返済可能 |
資本性劣後ローンは、日本政策金融公庫などの政府系金融機関が提供する特殊な融資制度です。通常の融資とは異なり、債務者が破綻した場合には他の債権よりも返済順位が低くなります。
このように、他人資本でありながら実質的には自己資本に近い性質であることから、貸借対照表において資本とみなせる極めてユニークな特徴を持っています。なお、民間の金融機関による資本性劣後ローンも存在しますが、政府系の制度ほど一般的ではありません。
資本性劣後ローンと通常の銀行融資との違い
先述のとおり、資本性劣後ローンは会計上「資本」とみなされる点が、通常の銀行融資と大きく異なる点です。通常の融資は借入金であるため負債として処理されますが、資本性劣後ローンは自己資本の増加として扱われるため、借りれば借りるほど企業の財務健全性が向上します。
また、返済に関しては元金の支払いを据え置き、利息のみを支払う形が基本となるため、その後の資金繰りを心配する必要はありません。さらに、金利は業績に応じて変動し、赤字の場合は金利を低く抑えられるため、経営が苦しい時期でも過度な負担を回避できる点も大きなメリットとなります。
資本性劣後ローンの対象者
資本性劣後ローンは、事業者であれば誰でも利用できるわけではありません。
例えば、日本政策金融公庫が提供する「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」では、次の1および2を満たす法人または個人事業主が対象です。
1 融資制度 |
次の(1)から(7)までのいずれかの融資制度の対象となる方
|
---|---|
2 その他条件 |
次のすべての要件も満たす方
|
参考:挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)
資本性劣後ローンのメリット
資本性劣後ローンには、通常の融資とは異なる、以下のようなメリットがあります。
それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
自己資本とみなされる
資本性劣後ローンは、返済期限が5年以上であることや、期限前返済が原則としてできないなど、一定の条件を満たしている場合に限り、金融機関による信用格付けの際に「自己資本」として評価されます。これは通常の借入金と異なり、資本に近い性質を持つためです。そのため、資本性劣後ローンを活用すると、企業の財務体質が改善され、他の融資を受けやすくなるというメリットがあります。特に、創業間もない会社や成長中のベンチャー企業にとっては、資金調達の選択肢を広げる有効な手段となります。
ただし、すべての資本性劣後ローンが自己資本とみなされるわけではありません。契約条件や金融機関の判断によっては異なる場合がある点には注意が必要です。
毎月の返済負担を軽減できる
資本性劣後ローンは、契約で決められた期日に元金をまとめて返す仕組みです。毎月の返済は利息のみで済むため、資金繰りの負担を大きく減らすことが可能です。それだけでなく、利率は業績に応じて毎年見直されるため、業績が落ち込んだ場合には金利も下がり、さらに返済の負担が軽くなります。
また、このローンは返済の順位が他の借入金よりも後になるため、急な返済に追われる心配が少なく、手元資金を柔軟に活用できます。ただし、「返さなくても良いお金」ではないため、最終的には計画に基づいた返済をしなければなりません。
無担保・無保証人で申請できる場合がある
資本性劣後ローンは、一般的な銀行融資と異なり、担保や経営者の個人保証が不要となるケースがあります。特に、日本政策金融公庫などの政府系金融機関が提供する制度では、無担保・無保証人での利用が認められている場合が多いです。
一般的に、中小企業が融資を受ける際には、資産を担保に差し入れたり、経営者が保証人とならなければなりません。しかし、資本性劣後ローンではそうした条件が緩和されているため、資金調達のハードルが低く、創業期や業績が不安定な企業にとっても利用しやすい融資制度です。
資本性劣後ローンのデメリット
資本性劣後ローンは多くのメリットがありますが、以下のようなデメリットも存在します。
メリットとデメリットの両方を理解したうえで、利用を検討しましょう。
厳正な審査を通過する必要がある
資本性劣後ローンは、万が一の倒産時に返済順位が他の債務よりも低いため、金融機関による審査は非常に厳しいです。申請には、通常の融資には無い特約の締結が必要であり、四半期ごとの経営状況や財務データの報告、さらに今後10年間の事業計画書の提出など、多くの書類の作成・提出を求められます。
こうした準備にはかなりの時間や手間がかかります。書類作成や申請を円滑に進めるためには、資金調達に精通した専門家のサポートを受けながら進めて行くと良いでしょう。
黒字の場合は利率が高くなる
資本性劣後ローンは、業績によって金利が変動する仕組みです。業績が悪化している間は低金利で資金繰りを支援する一方で、黒字化した場合には金利が上昇します。
これは、通常の融資のように信用リスクに応じて金利が下がる仕組みとは異なり、「利益が出ているなら相応の負担を求める」という応能負担型の考え方に基づいてるためです。
また、この制度は基本的に日本政策金融公庫などの公的機関によって提供されているため、支援を必要とする企業には手厚い反面、成長した企業には一定の利息を求めるという公平性の視点も背景にあります。こうしたことから、企業の業績が改善し、契約から4年目以降に金利が再設定された結果、利息負担が増える可能性があるのです。
分割払いができない
資本性劣後ローンは、元本を返済期限まで据え置き、満期時に一括返済する仕組みとなっています。したがって、通常の融資のように、月々のキャッシュフローに応じて元本を分割して返済することはできません。そのため、返済期限が到来した時点で、まとまった資金を準備しておく必要があります。
特に、長期のローン期間中に事業環境が変化する可能性を考慮すると、返済期日までに必要な資金をどのように確保するか、あらかじめ綿密な資金計画を立てておくことが非常に重要です。
資本性劣後ローンの申請方法
資本性劣後ローンを申請する際の、一般的な流れは以下のとおりです。
各手順について、詳しく解説します。
1.必要書類の準備
はじめに、資本性劣後ローンの申請に際して提出する書類を揃えましょう。例えば、日本政策金融公庫の資本性劣後ローンであれば、以下のような書類が必要です。
- 事業計画書
- 決算書
- 試算表
- 見積書
- 登記簿謄本
- 身分証明書
- 企業概要書
なお、これらの書類の作成や準備には時間を要する可能性もあります。できるだけ余裕をもって、確認や準備を進めていきましょう。
2.相談窓口の金融機関に申請
必要書類を準備したら、次は申請です。資本性劣後ローンを申し込む際には、日本政策金融公庫や商工中金など、取扱いのある金融機関の相談を訪ねましょう。
そこで、担当者によるヒアリングを受けながら、申請に必要な書類の確認や事業内容の説明などを行います。書類に不備がなければ、その場で申請手続きを進めることも可能です。
また、気になる点がある場合は遠慮せず質問し、十分に理解したうえで申し込みましょう。
3.金融機関による審査
金融機関では、提出された書類をもとに、企業の信用力や経営状況、将来の成長可能性などを総合的に審査します。資本性劣後ローンは、返済順位が低く回収リスクが高いため、通常の融資よりも慎重な審査が必要です。そのため、面談や現地調査を通じて、実際の事業内容や資金の使途、経営者の人物像なども確認されることがあります。
また、提出された事業計画の整合性や収益見通しが実現可能かどうかも評価対象となります。審査期間は2週間から1ヶ月半程度とされますが、追加書類の提出を求められるケースも少なくありません。
このように、通常の融資と比べると審査に時間がかかるため、スムーズに通過するためには、書類の正確さと十分な準備が重要です。
4.資本性劣後ローンの実行
審査に通過すると、契約内容の確認と最終手続きを経て、資本性劣後ローンの契約が締結されます。契約完了後、指定の口座に融資金が振り込まれますが、一般的には契約締結から実際の着金までに1週間程度必要です。
融資が実行されたら、調達した資金は自己資本に算入されるため、財務基盤はより強固になります。なお、契約締結時には金利条件や返済方法などの最終確認が行われるため、不明点があれば必ず確認しておきましょう。
まとめ
資本性劣後ローンは、借入でありながら資本とみなされる特性を活かし、企業の信用力や財務基盤を強化するための有力な資金調達手段です。特に、創業初期や再建期など、従来の融資では資金調達が難しい場面でも利用しやすく、経営の選択肢を広げることが可能です。一方で、厳しい審査や返済方法の制約などもあるため、活用には十分な準備と戦略が求められます。高度な知識を持つ専門家と連携しながら計画的に取り組むことで、資本性劣後ローンの恩恵を最大限に引き出すことができるでしょう。
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よくある質問
- 資本性劣後ローンとはどのような融資ですか?
- 倒産時の返済順位が低く、自己資本とみなされる特殊なローンで、返済も元金一括型の特徴があります。
- 通常の融資と何が違いますか?
- 通常融資が「負債」扱いなのに対し、資本性劣後ローンは「資本」として評価される点が大きく異なります。
- 資本性劣後ローンの対象者はどのような条件がありますか?
- 一定の融資制度の対象者かつ地域経済活性化に関する事業を営むことなど、明確な要件があります。
- 資本性劣後ローンのメリットとデメリットは?
- 財務体質改善や無担保・無保証利用などのメリットがある一方で、審査が厳しく、黒字時は金利が高くなる点がデメリットです。
- 資本性劣後ローンはどのように申請するのですか?
- 必要書類を準備し、政策金融公庫などの窓口に申請後、厳正な審査を経て融資が実行されます。