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役員報酬について
役員報酬は原則として損金算入できません。一定の条件を満たすことで損金算入が可能になりますが、手続きに不備があると、思わぬ課税リスクを招く恐れがあります。
そこで本記事では、役員報酬の税務処理に関する基本的なルールや、損金算入するための要件、実務上の注意点などについて、わかりやすく解説します。
このページのポイント
~税務上の役員報酬の扱いとは?~
役員報酬とは、会社の役員に対して支払われる報酬のことです。法人税法上は原則として損金不算入とされますが、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかに該当すれば損金算入が可能です。支給時期や金額変更のルールに加え、形式・実質両面からの適正性判断が税務上求められます。
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~その他 M&Aについて~
税務上の役員報酬の取扱い
役員報酬は、税務上、原則として損金不算入、つまり経費として計上することは認められていません。
税法では、事業のために要した費用のみを、経費として計上することを認めています。ですが、役員報酬についてまで自由に経費計上を認めると、経営者自身が節税目的で報酬額を恣意的に設定し、過度な節税から税の公平性を歪めてしまうことになりかねません。こうした事態を防ぐために、役員報酬は原則として損金不算入とされているのです。
ただし、株式総会で正式に決議されたこと、業務内容や貢献度に見合った合理的な金額であること、定期同額給与や事前確定届出給与といった所定の手続きを適切に踏んでいることなど、一定の条件を満たしている場合は、例外的に役員報酬の損金算入が認められています。
参考:No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)|国税庁
損金算入できる役員報酬の要件
役員報酬を損金算入するためには、以下の3つの要件のうちいずれかを満たす必要があります。
それぞれの要件について詳しく見ていきましょう。
定期同額給与
定期同額給与とは、毎月同じ金額を支給する形で設定された役員報酬のことです。役員報酬の最も基本的な支給形態であり、多くの企業がこの方式を採用しています。
先に述べたように、もし役員報酬を自由に操作できてしまうと、業績に応じて報酬額を増減させ、法人税額が恣意的に調整されかねません。そのため、毎月同じ金額で支給され、税務上の透明性を保てる定期同額給与であることが、役員報酬を損金算入するための要件の一つとなっています。
なお、金額変更は、年に一度の定期改定を除き、原則として認められていません。やむを得ず金額変更を行う場合でも、事業年度開始から3ヶ月以内に手続きを済ませる必要があります。
過度な金額変更が行われた場合には、税務署から不正な支給とみなされるリスクがあります。報酬改定は慎重に行い、業務内容や業績に見合った適正な金額設定を心がけましょう。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、役員に対する給与の支給額や支給時期などを、事前に税務署長へ届出ることで、損金算入が認められる制度のことです。これは、夏季賞与や冬季賞与など、定期同額給与以外の一時的な支給に対応するために設けられたもので、役員報酬の柔軟な支給を可能にしています。
届出の際には、「支払日」「支払額」「支払う相手」などを明記した「事前確定届出給与に関する届出書」を、所轄税務署に提出します。そのうえで、実際の支給時には、届出書に記載された内容どおりに支払わなくてはなりません。届出の内容と支給内容に齟齬が生じた場合、原則、税務上の損金算入が認められません。
また、届出書の提出期限にも留意しなければなりません。原則として「株主総会等の決議日から1ヶ月以内」または「事業年度開始日から4ヶ月以内」の、いずれか早い日までに提出する必要があります。
業績連動給与
業績連動給与とは、会社の業績や個人の成果に応じて、役員報酬の金額が変動する給与形態のことです。この方式では、売上高、利益率、目標達成度など、あらかじめ定めた業績指標に基づき報酬額が決定される仕組みとなっています。
税務上、業績連動給与として損金算入を認められるためには、客観的かつ公平な基準で報酬額を算定し、業績が確定したあとで、速やかに支給しなければなりません。具体的な算定基準としては、「事業年度の利益の状況」「株式市場価格の状況」「売上高の状況」を示す指標を用いる必要があり、有価証券報告書への記載も義務付けられています。このような要件を満たす必要があるため、実務上、業績連動給与を導入できるのは上場企業に限定されるのが一般的です。
業績連動給与は、役員のパフォーマンス向上を促す効果が期待できる一方で、税務上の認定を受けるためには評価基準や算定方法を事前に明確化しておくことが非常に重要となります。
税務上で役員報酬が「過大」と判断される基準
役員報酬は、前述の要件を満たし、適正な範囲で支給されていれば損金算入が可能ですが、金額が過大と判断されると一部または全額が損金不算入となるリスクがあります。ここでは、税務上「過大」と見なされる基準について解説します。
形式基準
形式基準とは、役員報酬の適正性を税務上判断する際に、契約書や株主総会議事録など、書類上の内容に基づいて確認する基準のことです。
会社法第361条に基づき、役員報酬は、株主総会の普通決議、もしくは定款の定めによって決められる必要があります。
形式基準では、こうした決議や定款に記載された報酬額と、実際に支払われた報酬額を照らし合わせ、定められた金額を超えた部分について「過大」と判断します。この過大と認定された部分は、税務上、損金不算入とされ、損金として認められません。
また、株主総会議事録に記載された報酬の金額、支給方法、変更理由などは、形式基準における重要な証拠資料となります。そのため、議事録は株主総会終了後、必ず10年間保管し、税務署や株主からの求めに応じて速やかに提出できるよう備えておかなければなりません。
こうした適切な文書管理は、のちの税務リスクを回避するうえでも欠かせないポイントといえます。
実質基準
実質基準とは、役員報酬の税務上の適正性を判断する際に、形式的な契約内容だけでなく、実際の業務内容や報酬の支給状況を総合的に評価する考え方のことです。この基準では、単なる書類上の手続きだけでなく、役員の職務内容や会社の収益状況など、実態に即した要素が重視されます。
具体的な評価項目としては、次のようなものがあります。
- 役員の職務の内容
- 会社自体の収益
- 使用人に対する給与の支給状況
- 同業かつ事業規模が近い他社における役員報酬の水準
参考:法人税法施行令 (第七十条イ 参照)
役員報酬には明確な相場基準は存在しないものの、不当に高額と認定されると、税務調査の対象となるリスクが高まります。そのため、実質基準を採用する場合、実際の業務運営に裏付けられた報酬設定を行い、同規模他社との比較データを用意するなど、妥当性を客観的に説明できる体制を整えることが重要です。
損金算入が認められる役員報酬の変更のタイミング
役員報酬は事業年度ごとに確定し、その年度中は基本的に同額で支給されることが前提となっています。一度確定した役員報酬をあとから変更すると、原則として損金算入が認められません。
ただし、事業年度開始から3ヶ月以内であれば、変更しても税務上問題なく損金算入することが可能です。このほかにも、以下のような事情がある場合には、例外的に役員報酬の変更が認められるケースがあります。
| 役員報酬の増額が認められるケース |
|
|---|---|
| 役員報酬の減額が認められるケース |
|
なお、業績悪化に伴う役員報酬の減額については、税務上の明確な基準は設けられていません。とはいえ、減額するためには、従業員や株主、金融機関などへの悪影響が懸念されるといった、合理的な事情が必要です。
まとめ
役員報酬の税務処理には厳格なルールがあり、適切な手続きを踏まないと損金算入が認められないリスクがあります。特にM&Aにおいては、役員報酬の設定や変更が重要な検討事項となるため、事前に十分な準備が必要です。
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よくある質問
- 役員報酬は損金に算入できますか?
- 原則として損金不算入ですが、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかに該当すれば損金算入が認められます。
- 定期同額給与とは何ですか?
- 毎月同額を支給する役員報酬で、税務上もっとも基本的な支給形態です。年1回の改定を除き原則変更できません。
- 役員報酬の変更が認められるのはどのような場合ですか?
- 原則として事業年度開始から3ヶ月以内の変更に限られますが、昇格や業績悪化など合理的な事情がある場合は例外的に認められます。
- 役員報酬が過大と判断される基準は?
- 株主総会の決議内容などによる形式基準と、業務実態や他社比較による実質基準の両面から判断されます。









