事業再生で活用できる税務上の特例とは? 企業再生税制の概要や要件について解説

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事業再生における税務について

事業再生における税務とは、債務免除益や評価損など再建過程で生じる税務上の利益や損失をどのように処理し、企業再生税制を通じて税負担を調整するかという論点です。とくに債務免除益は原則課税対象となるため、法的整理や私的整理の手続に応じた特例の適用可否を正しく見極める必要があります。

事業再生では、資金繰りや債務整理だけでなく、税務上の負担をどう抑えるかが重要です。とくに債務免除を受けた場合は、再建を進める局面であっても債務免除益が原則として課税対象となるため、納税負担が再生の障害になりかねません。一方で、企業再生税制を活用できれば、欠損金や評価損を通じて課税所得を圧縮できる可能性があります。

本記事では、事業再生で活用できる企業再生税制の概要や適用要件、具体的な類型、活用する際の注意点について解説します。

また、事業再生について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

監修者情報

M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長 公認会計士 梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。 これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。


事業再生で活用できる税務上の特例

事業再生で活用できる税務上の特例として「企業再生税制」が挙げられます。企業再生税制は、法人税法に定められた一定の条件を満たす企業が受けられる税制上の優遇措置です。
そもそも事業再生の目的は、存続が危ぶまれている事業および企業から経営不振の原因を排除し、活性化をはかることです。再生の過程では、下記のようなさまざまな経済的利益が生じる可能性があります。

債権者による債権放棄に起因する債務免除益
【例】金融機関が貸付金1億円の返済を免除した場合、その1億円が債務免除益として企業の利益とみなされる
債務の株式化(DES)による債務消滅益
【例】債務1億円を株式に転換してもらうことで返済義務が消滅し、その分の債務消滅益が発生する
役員等による私財提供による受贈益
【例】代表取締役が会社の資金繰りを助けるために個人資産から1,000万円を無償提供した場合、それが受贈益として計上される

法人税法では、これらの債務免除益等は原則として益金の額に算入され、課税対象となります。通常の企業活動において債務免除を受けた場合、その金額は利益として認識され、法人税の計算基礎に含まれるのです。
繰越欠損金の範囲内で債務免除益等を相殺できる場合は課税されませんが、繰越欠損金を超える部分については課税される点には注意する必要があります。
例として、1億円の債務免除益が発生し、繰越欠損金が7,000万円の場合を考えてみましょう。差額の3,000万円については法人税が課されます。このような状況になると、企業は多額の納税資金を必要とし、再建途上にも関わらず資金繰りをさらに圧迫する要因となりかねません。
企業再生税制の目的は、法人税法における債務免除益等への課税を調整し、再生に取り組む企業に対する税負担を軽減することです。この制度により、経営危機に陥った企業が再建のチャンスを得やすくなり、事業の継続性を確保しながら再生を進めることが可能になります。
適切に活用することで、企業は再生プロセスにおける税務上のハードルを低減し、限られた資金を事業の立て直しに集中投下できるようになるでしょう。

企業再生税制の適用要件

企業再生税制の適用要件は、次のどちらの方法で事業再生するのかによって異なります。

適切な手続きを踏むことが税制優遇を受けるための前提条件です。

法的整理の場合

法的再生とは、債務者の資産・負債の整理を裁判所の監督のもとで行う手続きです。具体的には、民事再生、会社更生、特定調停などが該当します。これらの手続きは法律に基づいて行われるため、透明性と公平性が確保されています。
法的整理で企業再生税制を利用する場合は、再生につながり、かつ実現可能な事業計画書である「更生計画」または「再生計画」を作成し、裁判所の認可を得なければなりません。裁判所の関与によって計画の合理性や実現可能性が担保され、税制上の特例措置を受けるための要件を満たすことになるのです。

私的整理の場合

私的再生とは、裁判手続によらず当事者同士で協議し、そこで合意した内容に沿って債務整理や再建計画を進める方法です。私的整理ガイドラインの利用や中小企業再生支援協議会の利用、事業再生ADRなどが該当します。私的整理のメリットは、法的整理と比較して柔軟かつ迅速に進められる点です。
私的整理の場合でも、法的整理と同様に、一定の手続的整合性が認められる場合には、企業再生税制の適用が可能です。2022年に公表された「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」では、私的整理の透明性と客観性を確保するための要件が明示されました。このガイドラインは、中小企業者が事業再生に取り組む際の指針となるもので、税務上の取扱いについても言及しています。
私的整理において企業再生税制の適用を検討する場合、手続きの整合性を示すためガイドラインに沿った手続きが必須です。具体的には、債務処理に関する計画が以下の共通要件すべてに該当し、かつ、ほかに指定された条件のいずれかを満たさなくてはなりません。

共通要件

  • 一般に公表された準則に基づいて策定されていること(例:RCC企業再生スキーム、中小企業再生支援協議会、事業再生ADRなど)
  • 公正な価額による資産評定に基づく「実態BS(資産評価の見直し後に作成する貸借対照表)」が作成されていること
  • 実態BSに基づいて、債務免除額などが合理的に算出されていること

いずれか一方を満たすこと

  • 2つ以上の金融機関が債務免除などを実施
  • 地域経済活性化支援機構などが保有する債権に対し債務免除などが行われる

企業再生税制の類型

企業再生税制には、事業再生を円滑に進めるためのさまざまな税務上の特例措置が用意されています。これらの特例の目的も同じく、債務免除益に対する課税を調整し、再建途上の企業の税負担を軽減することです。具体的には以下のようなものがあります。

それぞれ解説します。

繰越欠損金の活用による債務免除益との相殺

繰越欠損金を活用することで、原則として課税対象となる債務免除益に対して実際の法人税負担を軽減できます。
繰越欠損金とは、当該事業年度において生じた青色欠損金を将来に繰り越すことであり、将来の一定期間内に発生した所得(黒字)と相殺することが可能です。
法人税法上、会社側から見た債務免除は「無償での資産譲受」とみなされます。債務免除による利益は、当該事業年度の収益に合算されて法人税の課税額のベースとなり、これによる課税が企業再生を阻みかねません。
一方、繰越欠損金があれば、それを債務免除益と相殺して、課税対象の所得を圧縮できます。例えば、1億円の債務免除益が発生し、同額の繰越欠損金がある場合、相殺により課税所得はゼロとなり、法人税の負担は無くなります。
もっとも、債務免除益が繰越欠損金を超える部分については、依然として法人税の課税対象です。そのため、繰越欠損金を考慮し、債務免除金額を調整することが、税負担軽減の観点から有効です。

期限切れ欠損金の繰越による課税所得の圧縮

先にあげたように、欠損金は将来的に赤字が生じた事業年度に繰り越すことが可能です。ただし、その繰越期限は10年と定められており、期限切れ欠損金は原則として損金算入の対象外です。しかし、民事再生や法的再建、または私的整理といった手続きのなかで債務免除が行われた場合には、例外的に期限切れ欠損金を損金に算入できるようになります
上記の特例措置は、事業再生に取り組む企業にとって効果の高い救済策といえます。期限切れ欠損金を活用することで、債務免除益による課税所得をさらに圧縮し、再建のための資金を確保できるのです。
例えば、下記のケースを考えてみましょう。

  • 債務免除益(益金):6億円
  • 通常の青色欠損金:1億円
  • 期限切れ欠損金:2億円

この場合、益金である6億円から通常の青色欠損金である1億円、さらに期限切れ欠損金である2億円を控除することが可能です。その結果、課税所得は3億円まで圧縮でき、法人税の負担を大幅に軽減し、企業は再生のための資金をより多く確保することができます。

評価損の損金算入に関する特例

評価損とは?

評価損とは、保有する資産の価値が下がった際に、未売却の状態においても帳簿上で損失を計上することです。
例えば、保有する5億円の不動産の価値が、市場価格では3億円だったとしましょう。この不動産を売却せず保有したままである場合、保有する不動産の価値と市場価値には2億円の乖離が生じています。そのため、帳簿上では「2億円の損失が生じている」ことになります。
ただし、保有不動産にかかる損失は原則として「実際に売却して初めて税務上の損失」として認識されるものです。そのため不動産売却が実現すれば、債務免除益から売却損を差し引くことができ、結果として税負担を軽減または回避できます。しかし、事業用の自社ビルや製造設備などは、売却してしまうと事業そのものが成り立たなくなるケースも多く、売却は現実的に不可能といわざるを得ないこともあるでしょう。
そこで、事業再生においては、債務者が民事再生などの法的再建手続きを選択した場合には、例外的に売却しなくても資産評価損の損失計上が認められています。2025年4月現在、この特例措置は私的整理においても一定の要件を満たせば適用可能となっており、事業再生を支援する重要な制度と考えられます。

例えば、5億円の債務免除益に対して、2億円の評価損を損金にできれば、資産を流出させることなく課税対象を3億円におさえることが可能です。これにより、事業の再生・継続に必要なものを残したまま税負担を軽減できます。

企業再生税制を活用する際の注意点

債務免除益は原則として法人税の課税対象となります。事業再生において債権者から債務免除を受けても、その金額は益金として認識され、法人税の計算基礎に含まれることになるのです。多くの経営危機に瀕した企業は、この税負担が再建の大きな障壁となります。
解説したとおり、事業再生の局面では、繰越欠損金の活用や資産評価損の損金算入といった手段を講じることで、課税所得を圧縮して税負担を軽減することが可能です。ここで注意したいのは、これらの特例措置は自動的に適用されるものではない点です。債務免除益に対する課税を完全に免除する特例は存在せず、あくまでも「損失」の計上や「損金」の利用を通じて対策を講じなくてはなりません。
また、企業再生税制を適用するには、法的整理や私的整理の各手続きにおいて厳格な要件を満たす必要があります。例えば、DES(債務の株式化)を実施する場合、簿価と時価の差額が債務消滅差益として課税対象となるリスクがあり、税務上の取扱いを誤ると予期せぬ税負担が生じかねません。過去には、税務リスクの説明不足により専門家が損害賠償を命じられた事例もあります。
正確に手続きを進め、税負担を軽減したうえで事業再生を実現するためにも、税理士や弁護士といった専門家との連携が不可欠です。適切な事業再生スキームの選定と税務対策の立案により、再建のための貴重な資金を確保できるでしょう。

まとめ

企業再生税制は、事業再生に伴って生じる債務免除益などへの課税負担を調整し、再建企業の資金確保を支える重要な制度です。繰越欠損金や期限切れ欠損金の活用、評価損の損金算入などを通じて課税所得を圧縮できますが、これらは自動的に適用されるものではなく、法的整理や私的整理に応じた厳格な要件を満たさなければなりません。再生スキームの選定段階から税務面を織り込み、専門家と連携しながら適切に進めることが、事業再生を実現するうえで重要です。



よくある質問

  • 事業再生で活用できる税務上の特例とは何ですか?
  • 企業再生税制に基づき、債務免除益に対する課税を調整し、繰越欠損金の活用、期限切れ欠損金の損金算入、評価損の損金算入などで税負担を軽減する特例です。
  • 債務免除益は必ず課税されますか?
  • 原則として益金に算入され課税対象となります。ただし、繰越欠損金との相殺や企業再生税制の適用により、課税所得を圧縮できる場合があります。
  • 企業再生税制の適用要件は何ですか?
  • 法的整理では裁判所の認可を受けた更生計画または再生計画が必要です。私的整理では公表された準則に基づく計画、実態BSの作成、合理的な債務免除額の算定などの要件を満たす必要があります。
  • 法的整理と私的整理では税務上の扱いに違いがありますか?
  • 適用要件が異なります。法的整理では裁判所の関与により計画の合理性が担保され、私的整理ではガイドラインに沿った手続的整合性や金融機関等の関与が求められます。
  • 期限切れ欠損金は事業再生で使えますか?
  • 民事再生や法的再建、一定の私的整理で債務免除が行われた場合には、通常は使えない期限切れ欠損金を例外的に損金算入できることがあります。
  • 評価損の損金算入に関する特例とは何ですか?
  • 本来は売却しなければ税務上の損失とならない資産について、事業再生の場面では一定の要件のもとで未売却のまま評価損を損金算入できる特例です。
  • 企業再生税制を活用する際に注意すべきことは何ですか?
  • 特例は自動適用ではなく、厳格な手続要件を満たす必要があります。DESを含む再生スキームでは税務上の取扱いを誤ると予期せぬ税負担が生じるため、専門家との連携が重要です。

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