M&Aに潜む租税回避リスクとは? 具体例や防止策について解説

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租税回避について

租税回避とは、税法の抜け穴や制度の想定外の使い方によって税負担を軽減する行為です。M&Aでは、繰越欠損金の利用、株式譲渡損の計上、複雑な組織再編やクロスボーダー取引などが問題となることがあり、形式面だけでなく経済実態や取引目的まで踏まえた慎重な判断が求められます。

M&Aでは、税務上の取り扱いを形式だけで判断すると、取引後に想定外の課税リスクが生じることがあります。特に組織再編やクロスボーダー取引を含むスキームでは、制度の要件だけでなく、取引の目的や経済実態を踏まえて検討することが重要です。

本記事では、M&Aに潜む代表的な租税回避リスクと、租税回避とみなされないためのポイントについて解説します。

また、M&Aの意味や基本知識について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

監修者情報

M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長 公認会計士 梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。 これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。


租税回避とは

租税回避とは、税法の抜け穴を利用して課税所得を減らす行為のことです。合法ではあるものの、倫理的な問題を問われたり、将来的な法改正によるリスクが発生したりする可能性があります。
また、国税当局による監視体制は年々強化されており、グレーな節税手法と誤解されかねない行為は企業価値の損失につながりかねません。
M&Aにおいては、節税を目的とした企業買収などを実施し、それが租税回避だとみなされた場合、思わぬ課税リスクが顕在化したり、社会的信頼を失ったりするケースが起こり得ます。したがって、租税回避とみなされないよう、透明性と適法性を重視した対応が不可欠です。
また、租税回避と混同されやすい言葉として、節税や脱税が挙げられます。

概要 合法性
租税回避 税法の抜け穴や想定外の制度を利用して課税を減少させる行為 △(形式的には合法)
節税 税法の範囲内で合法的に税負担を軽減する行為 〇(合法)
脱税 本来納めるべき税金を不正な手段で逃れる行為 ×(違法)

節税とは、税法が認める範囲内で税負担を軽減する行為のことです。例えば、必要経費を適切に計上すれば、合法的に課税所得を減少できる方法が該当します。
脱税は税金を不正に逃れる違法行為です。所得隠しや架空経費の計上といった例が挙げられ、発覚した場合には罰則が科されます。

M&Aにおいて租税回避になり得る行為

M&Aでは節税効果を狙ったさまざまな手法が用いられますが、内容によっては租税回避とみなされ、税務リスクが高まる恐れがあります。代表的な事例と注意点を解説します。

租税回避目的で繰越欠損金や含み損を持つ会社を買収する

繰越欠損金の利用を目的として、赤字企業を買収し、自社の課税所得を減少させる行為が行われる場合があります。買収後に組織再編を行い、繰越欠損金を引き継ぐために、形式的な要件を満たそうとするケースもあります。
また、繰越欠損金の利用に制限が課されている場合でも、対象会社の事業内容や役員構成を変更することで、制限を回避しようとする事例が見られます。
これに対して、国税当局は形式的に適格合併の要件を満たしている場合であっても、実質的に事業承継が行われているかどうかを重視する傾向にあります。そのため、租税回避と判断された場合には、繰越欠損金の利用が否認される可能性があります。

意図的な株式譲渡損の計上

子会社から配当を受けた後、株式価値が下がったタイミングで株式譲渡損を計上するスキームが用いられる場合があります。また、配当益金不算入と譲渡損の二重取りによる税負担の軽減を目的とするケースも見受けられます。
これらは形式的に違法ではありませんが、租税回避行為として税務当局から否認されるリスクを伴う行為です。過去には株式譲渡損と配当益金不算入を併用したスキームが租税回避とみなされ、否認された裁決例も存在します。
形式上は合法に見える取引であっても、経済的な実態に基づき判断される点に留意しましょう。

相手企業の税額控除などを利用する目的での組織再編成

税額控除や優遇措置を受けるために、企業間で合併や分割などの組織再編を行う場合があります。再編によって、資産や負債の移転時に発生する課税を回避し、簿価引き継ぎによる将来課税の繰延べを狙うケースもあります。
適格要件に形式的に適合させるだけの対応を行った場合には、租税回避とみなされるリスクが高いでしょう。特に、研究開発税制や中小企業投資促進税制などを活用するために行われる形式的な組織再編は、制度趣旨を逸脱する行為として税務当局から問題視される可能性があるため、注意が必要です。

複数スキームを段階的に組み合わせた組織再編の実施

株式交換、合併、分割などの複数のスキームを段階的に実施し、効果的な節税効果を狙うケースがあります。例えば、完全子会社化を行った後に合併を実施し、グループ全体で税負担の軽減を図る方法が挙げられます。
こうした複雑な取引については、租税回避防止規定によって否認される可能性があるため、慎重な対応が求められます。

節税を目的とした非適格株式移転の利用

非適格株式移転では、時価評価課税が原則とされていますが、その仕組みを利用して節税効果を得ようとするケースも見受けられます。
非適格株式移転によって、含み益や含み損を持つ資産の評価額が調整され、不自然な形で課税所得が減少する可能性があります。適格要件に該当しない形で株式移転や株式交換が行われた場合には、租税回避行為として税務当局から問題視されることがあるため、注意が必要です。

税率の低い国に本社を移転

M&A後に本社所在地を税率の低い国(いわゆるタックスヘイブン)へ移転することで、グループ全体の税負担を軽減する戦略が取られる場合があります。この戦略は、移転価格税制や利益移転を利用した節税が可能となりますが、租税回避とみなされるリスクも高いです。
特に、知的財産権や特許を活用して移転価格を操作すると、タックスヘイブンでの税率軽減に寄与する場合が見られます。このようなケースでは、移転価格ポリシーを明確に定めることや、APA(事前確認制度)を活用して税務リスクを回避することが重要です。

複雑なアーンアウト構造の利用

アーンアウト(Earn-Out)構造を利用して買収後の業績に応じた支払いを設定し、課税のタイミングを調整するケースがあります。買収時点での課税負担を軽減しつつ、将来的な支払いを通じて節税効果を狙う手法です。
ただし、不適切に設計されたアーンアウトは、租税回避行為とみなされる可能性があります。例えば、業績連動支払を装い、実質的な取得対価を後ろ倒しにするような設計が、税務当局から否認された事例も存在します。

クロスボーダー取引での利益移転

国際的なM&A(クロスボーダー取引)では、利益を低税率国へ移転することで課税負担を減らす手法が取られる場合があります。移転価格操作やデットシフト(債務シフト)による課税所得の調整が一般的な手段です。
日本では、移転価格税制やCFC(タックスヘイブン対策税制)による規制が強化されています。さらに近年は、OECDによるBEPSプロジェクトの影響により、移転価格やタックスヘイブンに関する国際的な規制も厳格化しており、形式的な利益移転については否認リスクが高まっている状況です。

利益剰余金の意図的な分配による課税調整

子会社の利益剰余金を意図的に配当として分配し、株式譲渡時の課税所得を減少させるケースがあります。配当益金不算入制度を利用して、譲渡益を抑える手法です。
こうした取引への対応として、2020年の税制改正では「配当ストリッピング行為」に関する明確な規制が導入され、租税回避的なスキームが否認されるリスクが高まっています。過去の判例や通達も参考にしながら慎重なスキーム設計が必要です。

節税を目的とした資産売却の再投資

資産売却益を特定の再投資に充てることで、課税を繰り延べるスキームが利用される場合があります。再投資要件を形式的に満たすだけで、実質的な課税回避を狙うケースも見受けられます。
税務当局は取引の経済実態を重視しており、再投資の実質性が乏しい場合には、租税回避行為とみなされる可能性が高い点に注意が必要です。

M&Aにおける租税回避を防止するためのポイント

M&Aでは、適切な税務対応を怠ると租税回避とみなされ、重いペナルティを受けるリスクがあります。ここでは、租税回避とみなされる事態を回避するために、押さえるべき4つのポイントを紹介します。

デューデリジェンスを徹底する

対象企業の過去の税務申告状況や未解決の税務問題を洗い出すことは、税務リスクを正確に把握し、将来的な追徴課税や罰則リスクを事前に回避するうえで非常に重要です。
また、税務デューデリジェンス(税務DD)の結果に応じて、M&Aスキームを柔軟に変更する対応も求められます。

移転価格ポリシーを構築する

国外関連者取引で価格設定ルールを明確化し、移転価格税制への適切な対応を図りましょう。グループ全体で整合性を保つことで、移転価格調査時の信頼性が高まります。
移転価格ポリシーは、各企業の実情に応じたオーダーメイドで策定し、各国の税制変化にも柔軟に対応するよう求められます。また、国税庁が公表している「移転価格ガイドブック」を確認し、これに基づいたルールの遵守も大切です。

参考:移転価格ガイドブック ~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~

タックスヘイブン対策税制の適用要否の確認

タックスヘイブン対策税制は、軽課税国に設立された子会社の所得を親会社側で合算して課税することを規制する制度です。ペーパーカンパニーの設立による租税回避を疑われないためにも、適用判定フローを事前に確認する必要があります。また、子会社が現地で実質的な活動を行っているかどうかも、適用可否を判断するうえで重要な基準です。

欠損金を適切に活用する

繰越欠損金は、適格合併など特定の条件を満たす場合に限り引き継ぐことが可能ですが、節税のみを目的とした利用は認められていません。買収対象企業の赤字額や繰越欠損金残高を正確に評価し、戦略的に活用することが重要です。
また、税務当局から租税回避と判断されないよう、事前に専門家へ相談し、慎重に対応を検討することが推奨されます。

まとめ

M&Aでは、節税と租税回避の境界を意識しながら、税務対応を慎重に進めることが欠かせません。繰越欠損金の利用、株式譲渡損、組織再編、アーンアウト、クロスボーダー取引などは、形式面だけでなく経済実態や取引目的まで踏まえて判断されます。リスクを軽視すると、否認や追徴課税だけでなく社会的信用の低下にもつながりかねません。税務デューデリジェンスや移転価格ポリシーの整備を通じて、透明性と適法性を備えたM&Aを進めることが重要です。



よくある質問

  • 租税回避とは何ですか?
  • 税法の抜け穴や想定外の制度利用によって課税所得を減らす行為です。形式的には合法であっても、課税リスクや信用低下のリスクを伴います。
  • 租税回避と節税の違いは何ですか?
  • 節税は税法の範囲内で合法的に税負担を軽減する行為ですが、租税回避は制度の抜け穴や趣旨を外れた使い方で課税を減らす行為です。
  • M&Aで租税回避とみなされる可能性がある行為は何ですか?
  • 繰越欠損金や含み損を持つ会社の買収、意図的な株式譲渡損の計上、税額控除目的の組織再編、複数スキームを段階的に組み合わせた再編などが該当する可能性があります。
  • 繰越欠損金を目的に会社を買収すると問題になりますか?
  • 問題になる可能性があります。形式的に要件を満たしていても、実質的な事業承継や経済合理性が乏しい場合は、租税回避として否認されるおそれがあります。
  • クロスボーダーM&Aではどのような租税回避リスクがありますか?
  • 利益を低税率国へ移転する移転価格操作やデットシフト、タックスヘイブンの利用などが問題となり得ます。移転価格税制やCFC税制の適用にも注意が必要です。
  • 租税回避を防ぐために実務で重要なことは何ですか?
  • 税務デューデリジェンスを徹底し、取引の経済実態を確認すること、移転価格ポリシーを整備すること、タックスヘイブン対策税制の適用要否を確認することが重要です。
  • アーンアウトや組織再編も租税回避と判断されることがありますか?
  • あります。複雑なアーンアウト構造や形式的な適格要件に合わせた組織再編で、実質的に課税回避を狙っているとみなされる場合は、否認リスクがあります。

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