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土木業界のM&A動向について
土木業界は、道路・橋梁・上下水道など社会インフラの整備を担い、防災・減災や国土強靱化を目的とした公共投資の継続によって受注高は堅調に推移しています。しかし、深刻な人材不足と技能者の高齢化が進み、今後10年以内に大量退職が見込まれるなど、施工体制の維持が大きな課題となっています。さらに、資材・労務・燃料コストの高騰が収益を圧迫し、中小事業者を中心に事業承継の難しさも表面化しています。こうした背景から、技術者確保やエリア拡大、事業基盤の強化を目的としたM&Aが経営戦略として重要性を高めています。
本記事では、「M&Aとは?」の基本的な理解を踏まえたうえで、土木業界の現状やM&Aの動向、実際の事例や成功のポイントをわかりやすく解説します。
土木業界の概要
土木業界は、道路・橋梁・上下水道など社会インフラの整備を支える重要な産業です。公共工事や建設投資の動向と密接に関わり、事業領域も幅広く多様な専門性が求められます。まずは、土木業界がどのように定義され、どのような特色を持つのかを見ていきましょう。
土木業界の定義
土木業界とは、インフラの整備や自然災害の防止・復旧などのために、公共の建造物を建築・工事する業界のことです。
ビル等の建物を築くのは「建築業界」で、建物以外の建造物を対象とするのが「土木業界」です。土木業界は具体的に、道路・橋・トンネル・ダム・空港建設・河川・土地区画整理・水道の8つが該当します。
土木業界の特色
土木業界の仕事は、「現場調査」「設計」「工事着工」の3段階に分けられます。
現場調査では、建設予定地の状況を確認し、記録を残します。設計の仕事は、道路や橋、トンネルなどの設計に携わる、概略設計と詳細設計の2段階です。最後に設計士と話し合い、詳細設計を決定後、実際の工事に着手します。
発注者は、国や自治体などの公共事業が主になるケースが一般的です。施工対象が大きく、天候に左右されやすい一面を持つため、現場調査や施工技術、安全管理能力などの高さが求められます。
土木業界の現状とM&A動向
土木業界は公共工事やインフラ更新の需要に支えられ、一定の市場規模を維持していますが、構造的な課題も抱えており、人材や技術者の確保、そして安定した施工体制の維持を目的としたM&Aが増えています。
土木業界の現状
ここでは、業界の現状を理解するうえで欠かせない、2つのポイントを解説します。
受注高は堅調に推移
2024年の土木工事の受注高は33兆1,255億円となり、過去3年で最も高い水準に達しました。企業の設備投資意欲が回復していることに加え、資材価格や人件費の高騰分を適切に価格へ転嫁できるようになった点が受注高を押し上げています。
さらに、防災・減災や国土強靱化を目的とした公共投資が継続しており、民間だけでなく国の政策面からも市場が下支えされている状況です。こうした複合的な要因により、土木業界の受注動向は堅調に推移しています。
高齢化・若年層不足は深刻化
土木業界が抱える最大の課題は、深刻化する人手不足と高齢化です。土木業を含む建設業では、就業者のうち55歳以上が35.9%を占める一方、29歳以下はわずか11.7%にとどまり、若年層の参入が極めて少ない状況が続いています。
特に技能者は60歳以上が25.7%を占めており、今後10年以内に大量のリタイアが見込まれます。
そのため、技術継承や若手育成の体制づくりが、業界全体にとって喫緊の課題といえるでしょう。さらに、資材・燃料・エネルギー価格の高騰は収まらず、生コンや鉄骨、合板といった主要資材の価格上昇が企業収益を圧迫しています。
一方、公共工事設計労務単価も11年連続で上昇しており、人件費負担は増加の一途です。これらのコスト増に加えて、中小事業者の減少や地域ごとの担い手不足も深刻化していることから、安定した施工体制を維持することが難しくなっているのが現状といえます。
土木業界のM&A動向
現在の土木業界は、現場を支える技能者の高齢化や若手の入職不足、資材や労務費の上昇など、単独の企業では対応しきれない課題が積み重なっています。こうした状況では、既存の組織規模や活動エリアだけで事業を伸ばすことは困難です。
そこで、地域密着型の企業を傘下に迎えて施工エリアを広げたり、官民双方の案件に対応できる事業体制を整えたり、技術者や資格者の確保を目的にM&Aを活用するケースが増加しています。さらに、資材調達の一本化や設備・重機の統合によるコスト削減、バックオフィスの効率化など、スケールメリットが得られやすい点も追い風です。
こうした構造的な課題を背景に、土木業界におけるM&Aは、成長戦略と事業継続の双方を支える重要な選択肢として定着しつつあります。
事業承継・人材不足が促すM&A需要
土木業界では、事業承継と人材確保を目的としたM&A需要が年々高まりつつあります。
この業界では、事業者数の減少と就業者の高齢化が急速に進んでいます。とりわけ中小事業者は、「後継者不在」や「技能継承の難しさ」といった深刻な課題に直面している状況です。
その結果、自社だけでは事業の存続や成長を図りにくくなり、外部の企業へ事業を譲渡したり、グループ入りして人材や技術基盤を確保したりする動きが活発化しています。
コスト圧力と事業再編
土木業界では、建設資材や労務コストの上昇により、企業の収益力が揺らぐ場面が増えています。こうした環境下では、資本力を補い規模を拡大するための経営統合に大きなメリットがあり、業界再編の流れも相まってM&Aが有力な選択肢として浮上しています。
取引環境・法令遵守と業界アライアンス
国土交通省や公正取引委員会は、取引の公正性確保や契約環境の改善を進めており、企業側でも法令遵守体制の再整備や取引の安定化を目的とした提携が活発になっています。こうした動きは、事業基盤を強化しながら持続的に成長していくための土台にもなるもので、業界再編やM&Aはその一環として位置づけられています。
土木業界でM&Aを活用するメリット
土木業界では、人材確保や事業基盤の強化を目的にM&Aを活用する動きが広がっています。主なメリットとしては、以下が挙げられます。
人材確保につながる
土木業界では人手不足が深刻です。売り手企業も買い手企業も、同様の問題を抱えています。従業員不足が要因となり、事業拡大や工期短縮が困難な企業も多く、業界内競争力が低下しているのが現状です。
M&Aを通じて企業提携を行えば、売り手企業の従業員を雇用でき、人材不足を解消できます。特に、同業種の企業と提携することで、熟練したスキルや専門知識を持つ人員の確保をはじめ、即戦力として活用できるため、新たに教育するコストと時間の節約も可能です。
エリア・事業基盤を拡大できる
M&Aにより他地域の企業を迎え入れることで、未進出エリアへの営業基盤や既存の顧客ネットワークを一気に獲得できます。公共工事は「地域密着の実績」や「自治体との信頼関係」が重視されるため、自社だけで新規参入するより、M&Aを活用したほうが、事業の土台を短期間で築けます。
また、公共工事を中心とする企業が民間工事に強い企業を買収するといった形で、官民双方に対応できる体制を整えれば、受注の幅が広がり、事業拡大も可能です。地域と業種の双方でシナジーを高めやすい点が、土木業界におけるM&Aの魅力といえます。
スケールメリットによるコスト削減が期待できる
M&Aによって買収先が保有する設備や資材、重機、協力会社のネットワークを統合すれば、原価の削減や購買業務の効率化が進みます。資材調達を一括化したり在庫管理を統合したりすることで仕入れ単価を下げられ、工事全体の利益率改善にもつながります。
さらに、営業所や倉庫、バックオフィスといった拠点を最適な形に再編することで、間接コストの削減や組織運営のスリム化も実現することが可能です。
土木業界のM&A事例
土木業界では、事業承継や事業基盤の強化を目的としたM&Aが活発化しています。ここでは、実際に行われた代表的な事例を取り上げ、その特徴と背景を見ていきましょう。
コニシ株式会社とコニシ工営株式会社
コニシ株式会社は、子会社で建築・土木工事設計施工請負管理のコニシ工営株式会社を、株式交換により完全子会社化しました。
グループ内の経営資源の有効活用と、事業の意思決定の迅速化を狙った事例です。
株式会社コンセックと株式会社丸金建設
株式会社コンセックは、株式会社丸金建設(以下、丸金建設)の株式100%を取得し、子会社化することを決議しました。
地域密着型の事業を展開してきた丸金建設を取り込むことで、一層の地域貢献を図るほか、グループ全体の技術力向上を期待して本件を実施しています。
第一三興グループと座波商会グループ
土木工事・道路舗装工事などを担う第一三興グループは、総合建設・港湾建設などの座波商会グループに事業承継を行いました。
第一三興グループは、ノウハウや実績の承継、従業員や取引先の生活を第一に考え、今回の事業承継を決断しました。座波商会グループは、第一三興グループの事業実績をもとに、土木・建機レンタル事業への参入を図ると共に、シナジー効果によるさらなる企業価値の創出を期待しています。
OCHIホールディングス株式会社と芳賀屋建設株式会社
OCHIホールディングス株式会社(以下、OCHIホールディングス)は、芳賀屋建設株式会社(以下、芳賀屋建設)の自己株式を除く発行済株式を取得し、連結子会社とすることを決議しました。
福岡県内を中心に建材・住宅設備機器の卸売業を展開するOCHIホールディングスは、芳賀屋建設の持つ関東圏での事業基盤を取り込み、事業エリアの拡大と共にグループ全体のシナジー効果を図っています。
MCPキャピタル株式会社と丸友開発株式会社
MCPキャピタル株式会社が業務受託するMCP6投資事業有限責任組合は、出資する特別目的会社であるMYDホールディングス株式会社を通じて、丸友開発株式会社(以下、丸友開発)の株式を取得しました。
丸友開発は、静岡県西部エリアを中心に、解体工事業や土木工事業を展開しています。MCP6投資事業有限責任組合は、丸友開発をグループ傘下に迎え入れ、相互の企業連携やこれまで築いてきた事業基盤の活用により、グループ全体の成長を目指しました。
インフロニア・ホールディングス株式会社と三井住友建設株式会社
インフロニア・ホールディングス株式会社(以下、インフロニアHD)は、三井住友建設株式会社(以下、三井住友建設)に対して公開買付け(TOB)を実施し、2025年9月18日に買付けが成立しました。その後、決済日である9月26日付で三井住友建設はインフロニアHDの連結子会社となり、建設・インフラ領域における事業基盤の強化が本格的に進む形となりました。
今後はグループ全体でシナジーの最大化を図りながら、建設事業の高度化や技術力向上を推進し、企業価値を一段と高めていく方針が示されています。大手同士の再編により、安定した施工体制の構築や競争力強化を図った事例です。
株式会社トライネットホールディングスと株式会社ナカノフドー建設
株式会社ナカノフドー建設(以下、ナカノフドー建設)は、長野県飯田地域で公共工事を中心に事業を展開してきた株式会社トライネットホールディングス(以下、トライネットHD)を子会社化しました。
トライネットHDは、後継者不在や株主の分散、建築部門の強化など複数の課題を抱えており、将来の事業継続に向けた体制づくりが急務でした。こうした諸問題の解決手段として行われたのが、建築事業に強みを持つナカノフドー建設とのM&Aです。
一方のナカノフドー建設も、中期経営計画で「土木事業の強化」を掲げており、地域に根ざした技術者層や豊富な資格者を評価して譲受を決定しました。
M&A後は、建築と土木の両分野でシナジーの創出を図りながら、地域インフラを支える建設会社としての事業基盤をより強固にしていく方針が示されています。
土木業界におけるM&A成功のポイント・注意点
土木業界で、M&Aを成功させるためのポイントを紹介します。
それぞれ見ていきましょう。
現状把握を入念に行う
土木業界は、M&Aによるシナジー効果が生まれにくいため、譲受企業は目的を明確にしなければなりません。また、業界の特性として中小企業が多いことから、譲渡企業が潜在的リスクを抱えている可能性があります。
M&A後に粉飾決算や簿外債務が発覚すると、罰則や損害賠償が生じるため、事前の確認が重要です。
建設業許可の引き継ぎ方法を確認する
M&Aのスキームによって、建設業許可の引き継ぎ作業は異なります。株式譲渡では許認可をそのまま引き継ぎますが、事業譲渡では許認可の引き継ぎに時間がかかり、空白期間が生じる恐れがあります。
業務をスムーズに進行させるためには、スキームに応じた引き継ぎ方法を確認・調整・実施することが不可欠です。
土木業界における今後のM&Aの課題と展望
土木業界では、深刻な人材不足と技能者の高齢化が進み、安定した施工体制を維持することが大きな課題となっています。これに加えて、資材価格の高騰や利益率の低下、地域ごとの担い手不足も重なり、単独企業だけで事業を継続していくことがますます難しい状況です。
一方で、地域密着の実績や技術者層を持つ企業を取り込み、互いの事業基盤を補完し合うM&Aは、企業存続と成長戦略の両面で有効性が高まっています。
M&Aの成功には、文化や組織の統合(PMI)を丁寧に進めることや、地域自治体との関係を円滑に保つことが欠かせませんが、適切な相手と連携できれば、地域インフラを支える企業として持続的な成長が期待できるでしょう。
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よくある質問
- 土木業界はどのような役割を持つ産業ですか?
- 道路・橋梁・トンネル・ダム・上下水道など社会インフラの整備や、防災・減災、災害復旧を担う公共性の高い産業です。公共工事や建設投資の動向と密接に関わっています。
- 建築業界と土木業界の違いは何ですか?
- 建築は建物の建設を対象とするのに対し、土木は道路・河川・空港・上下水道など建物以外の公共建造物を対象とする点が違いです。
- 土木業界の受注高はどのような状況ですか?
- 2024年の受注高は33兆1,255億円と過去3年で最高水準であり、防災・減災や国土強靱化などの公共投資や設備投資意欲の回復に支えられ堅調に推移しています。
- 土木業界が直面する最大の課題は何ですか?
- 技能者の高齢化と若年層の入職不足による深刻な人材不足が最大の課題です。資材・労務コストの上昇も収益を圧迫しています。
- なぜ土木業界でM&Aが増えているのでしょうか?
- 後継者不在、人材不足、施工体制維持、コスト上昇など単独での対応が難しい課題が積み重なっているため、事業承継や基盤強化、人材確保を目的にM&Aが選ばれるケースが増えています。
- 土木業界のM&Aにはどのようなメリットがありますか?
- 熟練技能者の確保、施工エリアの拡大、設備・重機の統合によるコスト削減、官民双方への対応力向上、地域密着の実績を短期間で引き継げる点などが挙げられます。
- M&A成功のための注意点は何ですか?
- 中小企業が多く潜在リスクを抱えやすいため、粉飾・簿外債務の有無を含めたデューデリジェンスの徹底が必要です。また、建設業許可の引継ぎ方法をスキームに応じて確認し、許認可の空白期間が生じないよう調整することが重要です。


