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銀行業界では、人口減少や低金利、加速するデジタル化を受け、再編やM&Aの動きが急速に拡大しています。
本記事では、銀行業界の概要や、銀行業界のM&A動向、M&Aを活用するメリット、代表的な事例などについて解説します。
銀行業界の概要
銀行業界は、都市銀行や地方銀行、信託銀行といった多様な銀行が存在し、それぞれ異なる役割を果たしています。これらの金融機関は、預金や貸し出し、資産管理などさまざまなサービスを提供し、経済活動を支えています。
銀行業界の定義
銀行とは、預金の受け入れ、資金の貸し出し、為替取引などを行う金融機関です。一般的に「普通銀行」と呼ばれるのは、都市銀行・地方銀行・第二地方銀行などの民間銀行を指します。これらはすべて株式会社形態であり、金融庁の認可を受けて営業しています。
例外的な存在として日本銀行があります。日本銀行は銀行券の発行や金融政策の実施を担う中央銀行であり、通常「銀行業界」には含まれません。
銀行業界の特色
銀行は主に都市銀行、地方銀行、信託銀行の3つのビジネスモデルに分類されます。
都市銀行
都市銀行は、東京や大阪などの大都市に本店を置いて全国規模の業務展開をしている普通銀行のことで、メガバンクとも呼ばれます。金融庁の銀行免許一覧によると、株式会社みずほ銀行、株式会社三井住友銀行、株式会社三菱UFJ銀行、株式会社りそな銀行の4行が該当します。これらの都市銀行は、普通銀行のみならず信託銀行や証券会社、地方銀行などさまざまな金融機関を傘下に収めており、日本の銀行業界において大きな影響力を持つ存在です。
地方銀行
地方銀行とは、一般社団法人全国地方銀行協会の会員である普通銀行のことです。各都道府県に本店を置き、各地方に集中して営業・サービス業務を展開しています。
信託銀行
信託銀行は、顧客からお金・株・土地などの資産を預かり、その管理や運用を行う資産管理代行や信託業務を担う銀行です。他人の財産を自身の名義で預かり、自己の資産と分けて管理する信託業務は、多くの年金基金や投資信託で利用されており、金融市場において重要なインフラとなっています。
銀行業界のM&A動向・市場規模
日本の銀行業界は、低金利や人口減少の影響を受けながらも、安定的に運営されています。金融庁が認可する預金取扱銀行が約132行(都市銀行・信託銀行・地方銀行・第二地方銀行の合計、令和7年5月27日現在)存在しています。また、近年成長が著しいのがネット銀行です。
「インターネット専業銀行の預金動向 No.2025-27 (2025.6.5)」によると2025年3月末時点で、9行のネット銀行預金残高の合計は38.2兆円に達し、10年前の11.4兆円から約3倍に拡大しました。このことから、ネット銀行が国内金融の主要な存在となったことがわかります。
また、全国銀行協会や日本銀行の統計によれば、銀行業界全体の貸出残高や規模も継続的に拡大しており、とりわけ企業や家計向けの融資が着実に増加傾向です。これにより、業界の基盤がしっかりと保たれていることが確認できます。
銀行でM&Aを活用するメリット
銀行業界においてM&Aを活用する主なメリットは以下のとおりです。
各メリットについて、詳しく紹介します。
経営資源の統合による効率化・スケールメリットが期待できる
複数の銀行が統合や合併を行うことで、店舗や人材、システムなどの経営資源の重複を解消でき、業務の効率化やコスト削減が可能です。
さらに、統合によってスケールメリットが発生し、自己資本比率や信用格付けが向上します。これにより、大口融資やデジタル投資などの経営戦略の幅も広がります。これにより、金融機関としての安定性や競争力が一段と強化されるでしょう。
営業基盤の拡大・サービスの高度化につながる
M&Aによって新たな顧客基盤や営業エリアを獲得でき、地域密着型の金融機関が広い範囲での事業展開を目指すことも可能です。また、対象企業のノウハウやIT技術を取り入れることで、サービスの多様化やデジタル対応が一層進みます。フィンテック企業と連携し、デジタルチャネルの強化を図れば、顧客接点の高度化にもつながります。
事業・企業の持続的な成長に寄与する
低金利や人口減少といった構造的な逆風のなかでも、M&Aを活用すれば、新たな収益源の確保や非金融事業への進出が可能です。例えば地域密着型の銀行が観光分野や地域商社との連携を強めたり、成長余地のある海外市場に挑戦するなど、多様な戦略が実現できます。このように、事業の多角化と持続的成長を目指すうえで、M&Aは有力な選択肢となります。
銀行のM&A事例
銀行業界では多様なM&A事例が見られ、経営統合や提携を通じて競争力向上や新市場への展開、デジタル戦略の強化などさまざまな効果が生まれています。ここでは、代表的な事例をいくつか見ていきましょう。
株式会社八十二銀行と株式会社長野銀行
2023年6月、株式会社八十二銀行は、株式会社長野銀行を株式交換により完全子会社化し、経営統合を実施しました。このM&Aの主な目的は、取締役の相互兼職によりガバナンスの統一や職員の融和を進め、ノウハウの共有による営業力の強化や人材育成、システム統合・店舗統廃合で経営基盤を強化することです。また、トップラインシナジー(収益増強)とコストシナジー(経費削減)の両立も図ります。両行は2025年度を目標に合併することを基本方針とし、協議・検討を続けています。
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループとマネーツリー株式会社
2025年5月、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と、その傘下である株式会社三菱UFJ銀行およびウェルスナビ株式会社は、マネーツリー株式会社の買収に向けた基本合意書を締結しました。マネーツリー株式会社は銀行口座、クレジットカード、証券口座など、個人のさまざまな資産を一元管理できるアプリを提供しています。MUFGはマネーツリー株式会社が保有するデータを活用し、金融総合基盤「マネー・アドバイザー・プラットフォーム」の開発を目指しています。
株式会社三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)とYES BANK Limited
2025年5月、株式会社三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)および株式会社三井住友銀行は、インドの民間大手商業銀行YES BANK Limitedの発行済普通株式20%を取得しました。YES BANK Limitedは持分法適用会社となる見込みです。関係当局の許認可を取得し、インド市場での事業拡大と成長の加速を図ることが主な目的です。このM&AはSMFGの「アジア・マルチフランチャイズ戦略」における重要な施策として位置づけられています。
株式会社大和証券グループと株式会社あおぞら銀行
2024年5月、株式会社大和証券グループと株式会社あおぞら銀行は、資本業務提携契約を締結しました。株式会社大和証券グループは、株式会社あおぞら銀行の発行済株式約15.4%を取得する第三者割当増資を実施します。このM&Aは、本提携は双方の持続的成長と企業価値向上を目指す中長期的戦略の一環です。今後は両社の強みを活かし、ウェルスマネジメントや不動産ファイナンス、法人・事業承継、資本市場ビジネスなど多様な分野で協業を推進し、顧客基盤の拡大とサービス高度化を目指します。
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループとHC Consumer Finance Philippines
2024年11月、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)および株式会社三菱UFJ銀行は、保有するHC Consumer Finance Philippines, Inc.(以下、HCフィリピン)の株式25%を、持分法適用会社であるフィリピンの商業銀行Security Bank Corporation(以下、セキュリティバンク)に譲渡することで合意しました。
MUFGの連結子会社であるタイのアユタヤ銀行は、HCフィリピン株式75%を引き続き保有し、HCフィリピンはMUFGの連結子会社として存続します。セキュリティバンクの現地市場知見を活用することで、フィリピンリテール市場でのMUFGグループの基盤拡大を図ります。MUFGは東南アジアでのパートナーバンクとの連携を強化し、同地域でのビジネスプラットフォームの構築と成長に注力する見込みです。
銀行におけるM&A成功のポイント・注意点
銀行M&Aの成功には、シナジー効果や顧客層の補完を見極め、デューデリジェンスやPMIの徹底、人的・文化的な融和を図ることが重要です。
ここでは、上記のポイントについて詳しく解説します。
シナジーが見込める相手であるかを見極める
銀行業界では低金利の長期化やデジタル対応の負担が課題となっています。そのため、M&Aにおいては収益源の多様化や業務効率化が期待できる相手を慎重に見極める必要があります。融資や手数料収入の再編やシステム共通化による投資効率の向上といった実効性あるシナジー戦略の策定と、適切な取引先を検討しましょう。また効果を最大化するには、買収先の財務や業務プロセス、コンプライアンス体制を丁寧に調査するデューデリジェンスが不可欠です。
顧客層・ネットワークを丁寧に引き継ぐ
地方銀行同士のM&Aでは、営業エリアや顧客層の補完がシナジー創出のカギとなります。特に法人・個人の属性や取扱商品の違いを事前にしっかりと見極め、相手の顧客基盤が自社の成長にどのように役立つかを検討することが大切です。統合後は既存顧客との関係維持や職員の離職防止のため、地域性や文化に配慮したPMIを丁寧に実施する必要があります。
銀行における今後のM&Aの課題と展望
人口減少や低金利環境、デジタル化の加速などを背景に、銀行業界では今後も再編が進むと見込まれます。一方、M&A成果を最大化するには、戦略の精緻化が不可欠です。さらに文化やシステムの違いを乗り越えるPMIの難易度も高く、事前のデューデリジェンスや実行後の統合マネジメントの精度が成否を左右します。地域・デジタル・海外など多角的な視点からM&A戦略を練ることが重要です。
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よくある質問
- 銀行業界でM&Aが活発化している背景は何ですか?
- 低金利の長期化や人口減少、デジタル化の加速により収益構造の転換や業務効率化が必要となっているため、経営資源の統合や新規顧客の獲得を目的にM&Aが活発化しています。ネット銀行やフィンテック企業との連携も進んでいます。
- 銀行がM&Aを活用する主なメリットは何ですか?
- 経営資源の統合による効率化・スケールメリット、営業基盤の拡大やサービスの高度化、そして事業や企業の持続的成長への寄与が主なメリットです。M&Aによりコスト削減や顧客層の拡大が可能となり、新たな収益源の確保にもつながります。
- 銀行業界でのM&A成功のポイントは何ですか?
- シナジー効果や顧客層の補完を見極めること、買収先の財務や業務を詳細に調査するデューデリジェンスの徹底、そして統合後の文化や顧客基盤を丁寧に引き継ぐPMIの実施が重要です。

