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- #業種別M&A動向
- #倉庫・運輸関連業業界 M&A
業界の定義
倉庫業とは、寄託を受けて顧客の物品を倉庫などで保管する受託事業で、運送業と並んで物流の中核をなす業態である。日本では倉庫業法により、施設・設備に関する基準を満たし、倉庫管理責任者を選任して国土交通大臣の登録を受けることが義務づけられている。単に場所貸しではなく、検品や在庫管理・流通加工・ピッキングから配送の他、インボイス作成などの通関業務、受発注データ管理まで、物流全体に関与している。
その他の運輸関連業としては、港湾運送業(港湾内の運送)・運送代理店(事務代行等)・梱包業・海運仲立業(契約・仲介ブローカー)等があげられる。
業界の特色

諸説あるが、日本では平安時代の末期において、津屋が、金融業と倉庫業を兼ねた事業を始めたのが起源といわれている。
倉庫業法での倉庫とは、物品の滅失や損傷を防止するための工作物・土地・水面を指している。つまり物資や商品を安全に保存し、必要に応じて物流へ載せるための保管、荷役の機能を持つ設備施設のことで、いわゆる倉庫やトランクルーム以外にストックヤード貯木場なども含まれる。コインロッカーや駐車場のような一時預かりや、クリーニングや自動車整備工場などに一時的に衣類や自動車が保管されている保管場所は、保管そのものが目的ではないので除外される。
物流倉庫は、次の運送手段に順調に切り換えるために「検品」「入庫」「流通加工」「ピッキング」「仕分け・荷揃え」「出庫」という緻密で正確な工程を経ることにより、送り主から届け先に適切なタイミングで適切な量を運ぶことに貢献している。近年の倉庫業は、保管するだけではなくコールセンターを併設したり、顧客とタイアップして顧客に最適なロジスティクスを一括提案、請け負うなど、サービス業としてのポジショニングも強化している。
市場の規模
倉庫・運輸関連業は初期投資が膨大で参入障壁が高いように思えるが、開業後は原価率の低さと経費が少ないため、営業利益率の高さが魅力で市場参入が絶えない。
国土交通省が発表した令和2年度倉庫事業経営指標(概況)によると、2020年度の普通倉庫業の営業収益は20億5,996万円であった。他にも貨物自動車運送事業は4億5,976万円、貨物利用運送事業は23億6,321万円、港湾運送事業は12億9,212万円となっている。6,544社がひしめく業界だが、90%以上は中小規模の事業者で、様々な差別化戦略で顧客を獲得している。ECの普及から、市場は拡大し続けている。

出典:令和2年度倉庫事業経営指標(概況)
https://www.mlit.go.jp/common/001474643.pdf
大手と中小との優勝劣敗が鮮明になってきており、深刻な人手不足が要因で倉庫の「自動化」「大型化」が進んでいる。外部からの大資本による参入がこのタイプの倉庫を相次ぎ開設し、既存の小規模施設は、導入による資本(費用)対効果が出しづらく、特に自動化が進めにくくなっている。
首都圏のEC需要が高まっている影響で、ベイエリア・外環状・圏央道などの高速道路周辺では、大型物流施設建設用の用地取得競争が激化するなど、市場が急速に拡大している。これらの巨大倉庫は、複数の企業が入居する「マルチテナント型」と特定企業が独占使用する「ビルトtoスーツ(BTS)型」に大別されるが、いずれも高機能設備を備えた倉庫になっている。
課題と展望
スマートフォンやタブレット端末の急速な普及により、EC市場が急成長している。EC各社の商品拡大を受けて大型の倉庫が必要になり、商社・外資系ディベロッパー・国内大手不動産会社が大規模な物流不動産開発に参入した。国土交通省によると、2022年の倉庫・物流施設の新規請負契約は5,475億円に達していると公表している。
全世界・全国の製造拠点から商品を効率的に集めて物流拠点に集約し、配送業者と提携して、消費者に届けるリードタイムが短い一貫した仕組み「3PL」(倉庫業界ではサプライチェーンマネジメントとは言わず、3PL=サード・パーティーロジスティクスという)を配送業者と組んでIT・AIを駆使した構築が進んでいる。
一方で、深刻な人手不足が課題となっている。フォークマンや倉庫内の作業員の不足が顕在化してくる中、解決策として外国人労働者など多様な人材活用の意向も含めて探っている状況になっている。トラックドライバー不足で、ドライバーの倉庫での作業の見直しが進む一方、倉庫側の負荷が増大しているうえに、倉庫では人件費上昇の価格転嫁があまり進んでいないことが課題としてあがっている。
また、新型コロナウイルス感染症による影響が大きい業界でもある。帝国データバンクの「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年8月)」では、新型コロナウイルス感染症が業績にどう影響するかの質問に対し、82.5%の企業がマイナス営業があると答えた。このうち運輸・倉庫業で「マイナスの影響がある」と答えた企業は86.9%であり、全業種の中でもトップの数値になっている。内訳は「すでにマイナスの影響がある(79.2%)」「今後マイナスの影響がある(7.7%)」である。
これは国内企業の営業自粛ムードや海外への移動制限など、様々な要因を受けてのことと推測される。実際、資材や製品を海外に買い付けに行ったり、輸入したりが制限されれば、保管する物資そのものが減ってしまう。
倉庫・運輸関連業界のM&A動向
倉庫業界では戦後から三菱倉庫・住友倉庫・三井倉庫の旧財閥系3社がトップ3を形成する時期が長く続いた。順位もこの序列が不動であった。この順位を塗り替えたのは三井倉庫によるM&Aであった。
-2010年、三井倉庫株式会社は国際貨物輸送を手がけるジェイティービーエアカーゴ株式会社を株式会社ジェイティービーからM&A。
-2012年、三井倉庫株式会社は、三洋電機子会社の三洋電機ロジスティクス株式会社を242億円でM&A。原材料・部品の調達から生産・販売・流通・アフターサービスの顧客までのサプライチェーン全体の物流業務を包括的に受託する3PL(企業物流一括請負)事業のノウハウを獲得し、家電分野の物流も取り込んだ。
-2012年、三井倉庫エアカーゴ株式会社はトヨタ自動車物流子会社のTASエクスプレス株式会社をM&A。三井倉庫エクスプレス株式会社に改称。
-2014年、持ち株会社制移行にともない三井倉庫ホールディングス株式会社が誕生。
-2015年、大阪と愛媛を中心にトラック1,000台を有する大手陸送会社丸協運輸株式会社をグループ5社を含め100億円でM&A。三井倉庫トランスポート株式会社に改称。
-2015年、ソニーの物流子会社ソニーサプライチェーンソリューション株式会社の株式66%を180億円でM&A。三井倉庫サプライチェーンソリューション株式会社と改称した。ソニー向けにロジスティクスサービスの提供を続けながら、タイ・マレーシアなど既存の拠点を活用してアジアの新たな顧客開拓を進めている。
以上の断続的なM&Aに700億円を投じ、2018年に旧財閥系3社でトップに躍り出た。
ただ、2021年に三井倉庫ホールディングスは子会社のPrime Cargoグループの全株式を、デンマークに本社を構えるDSV Panalpinaグループに譲渡した。元々は中国でのフォワーディング事業の強化を目的に買収した子会社だったが、中国の特にアパレル関連産業の環境悪化が予測されたため売却に踏み切った。
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