広告業界のM&A動向 昨今の事業買収・売却の事情やM&A事例を紹介

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広告業界では、デジタル化の進展と共にM&A活動が活発化しています。

特に、インターネット広告の急成長により、マス広告とデジタル広告を統合的に提供できる企業への需要が高まっている状況です。また、事業承継や業界再編を目的としたM&Aにも注目が集まっています。

本記事では、広告業界の市場規模やM&A動向、成功事例について詳しく解説します。M&A成功のコツについても紹介しますので、経営戦略を立てる際の参考にしてください。

広告業界の概要

広告業とは、企業の商品やサービスの魅力を消費者に伝えることで、購買行動を促進し、企業の売上拡大やブランド価値の向上を支える産業です。

企業と市場をつなぐ役割も果たしており、日本経済の成長を支える基幹産業の一つとされています。

広告業界の定義

広告業界は、広告の企画・運用・制作に関わるさまざまな企業で構成されており、なかでも中心的な役割を担っているのが、広告代理店と広告制作会社です。

これらの企業が連携することで、広告主のニーズに応じた効果的な広告展開が実現されています。

ここでは、広告代理店と広告制作会社の役割についてそれぞれ見ていきましょう。

広告代理店

広告代理店とは、広告主とテレビ・新聞・Webメディアなどの媒体の間に立ち、広告の企画・戦略立案・媒体選定・出稿手続きなどを一括して担う企業です。広告主の目的やターゲット層に応じて最適な広告手法を提案し、効果的な広告展開を実現するためのサポートを行います。

広告代理店は、取扱う媒体や業務内容の違いにより、以下の3つに分類されます。

総合広告代理店
テレビ・新聞・雑誌・Webなど、複数の広告媒体を横断的に取扱う代理店
専門広告代理店
交通広告・新聞・出版など、特定の分野に特化した代理店
インターネット広告代理店
検索・SNS・動画など、インターネット広告に特化した代理店

広告制作会社

広告制作会社とは、媒体を問わず、広告に使用されるクリエイティブ(デザイン・映像・コピーなど)の制作を専門に行う会社です。

一般的に、広告代理店が企画した広告戦略に基づいて、具体的な広告制作を手がけます。クリエイティブの質が広告の効果に直結するため、制作会社は高い専門性と技術力が求められます。

広告業界の特色

広告業界は、広告主から最終的な広告掲載までをつなぐ中間業者が多く存在します。広告の企画や制作、実際の掲載まで、それぞれ専門の会社が分担して行う仕組みが確立されているのが特徴です。

近年では、インターネット広告の普及により、広告枠の最適化や配信技術の高度化が進み、メディアレップやアドテクベンダーなど新たな事業者も登場しています。

さらに、データ分析やターゲティングといったマーケティング機能も、広告代理店の業務に取り込まれつつあります。広告業界はメディアを買うだけのビジネスから、課題を解決する統合ソリューション業へと進化を遂げているのです。

広告業界のM&A動向・市場規模

株式会社電通が発表した「2024年 日本の広告費」によると、2024年の日本の総広告費は前年比104.9%の7兆6,730億円であり、3年連続で過去最高を更新していることがわかりました。インターネット広告費は、3兆6,517億円で、総広告費の約5割となっています。

日本の総広告費の推移
参考:2024年 日本の広告費|株式会社電通

媒体別にみると、新聞広告費が3,417億円(前年比97.3%)、雑誌広告費が1,179億円(前年比101.4%)、ラジオ広告費が1,162億円(前年比102.0%)、テレビメディア広告費(地上波テレビ+衛星メディア関連)が1兆7,605億円(前年比101.5%)、インターネット広告媒体費が2兆9,611億円(前年比110.2%)、デジタルサイネージなど屋外広告が2,889億円(前年比100.8%)、鉄道の中吊りなど交通広告が1,598億円(前年比108.5%)となっています。

広告代理店別にみると、売上1位は電通で6兆3,524億円。続いて、博報堂の1兆1,615億円、サイバーエージェントの8,012億円でした。

広告業界ではインターネット広告代理店のM&Aが進んでいます。これはブランディングを目的とした案件が増えるなど、ダイレクトレスポンスだけでないインターネット広告へのニーズが要因となっています。また、マスメディアとインターネット広告の組み合わせや、CRM(Customer Relationship Management)などのデータ活用、屋外デジタル広告、実店舗の来店解析など、さまざまな分野でのサービスが要求されており、それぞれの分野を強みにしている企業同士がM&Aにより、事業拡大を図っている状況です。

広告業界でM&Aを活用するメリット

新たな広告領域への進出が可能となる

M&Aを活用し、これまで手がけてこなかった媒体や分野に強みを持つ広告代理店を買収すれば、新たな広告領域へ参入できます。

広告には、交通広告やデジタル広告、動画広告など、さまざまな種類があります。特定の媒体や分野に特化した専門代理店を取り込み、自社に不足しているノウハウを補完すれば、広告の企画から制作、配信までの幅広い領域で競争力を高められるでしょう。

また、テレビCMのような大規模施策からWeb広告などの小規模施策まで、一気通貫で対応できる体制が整うことで、案件規模を問わず柔軟に対応できる地盤の強化も図れます。これにより、顧客の多様なニーズやスケジュールに対応できるようになり、顧客満足度の向上も期待できるでしょう。

広告機能を内製化できる

広告代理店をグループ内に取り込むことで、外部委託していた広告業務を自社内で完結させる内製化が可能です。これにより、広告の企画・運用・分析といったプロセスをすべて社内で管理できるようになり、ノウハウの蓄積が進みます。社内に知見が蓄積されることで、広告の効果測定や改善施策もスピーディかつ柔軟に行えるようになり、自社の広告機能を長期的に強化できます。また、広告代理店への外注費用を抑えられる点もメリットです。

広告業界のM&A事例

広告業界で実施されたM&Aのうち、代表的な事例を5つ紹介します。

ニューラルポケット株式会社と株式会社フォーカスチャネル

2021年11月、ニューラルポケット株式会社は、株式会社フォーカスチャネルの子会社化を実施しました。

売り手となったフォーカスチャネルは、マンション内エントランスなどにデジタルサイネージを展開する会社です。買い手のニューラルポケットはこのM&Aをとおして、AIカメラ搭載のサイネージを活用し、通行者や視聴者の属性を可視化することで、高精度なターゲティング広告の実現を図りました。加えて、設置ノウハウと営業力も取り込み、設置数を急拡大しています。

これにより、マンション広告のデジタル化を加速し、富裕層向けメディアとしての価値を大幅に向上させることに成功しました。

株式会社電通グループとRCKT GmbH

2023年8月、株式会社電通は、ドイツのデジタルファースト・エージェンシーであるRCKT社を買収し、「RCKT, a Dentsu Creative company」として再ブランド化に取り組みました。

RCKT社は、サステナビリティ・エンプロイヤーブランディング・従業員体験・プロダクトイノベーションなど、クリエイティビティを軸に幅広いサービスを提供しています。特に、米欧を中心としたグローバルブランドを多数クライアントに抱えており、高い実績を持つ企業です。

このM&Aは、電通グループのカスタマージャーニー全体を統合的に支援する戦略の一環です。国際市場、特にドイツにおけるクリエイティブ分野の事業基盤を強化し、統合型ソリューション提供体制の深化を目指す重要な一手と位置づけられています。

株式会社ラバブルマーケティンググループとDTK AD Co. Ltd.

2023年4月、株式会社ラバブルマーケティンググループはタイ拠点のマーケティング支援会社であるDTK ADを子会社化しました。さらに同年9月には支援地域をベトナムにも拡大しています。

ベトナムは平均年齢31歳と若年層が多く、16〜64歳のFacebook利用率が91.6%、TikTokは77.5%と、SNSの普及率が非常に高い国です。そのため、SNSを中心としたデジタルマーケティングにおいて大きな成長が見込まれる市場といえます。

この展開により、ラバブルマーケティンググループはタイに次ぐ6地域目の進出拠点を獲得し、現地文化・言語に精通した体制で、東南アジア全域におけるマーケ支援力を一層強化しました。

ノバセル株式会社と株式会社オールマーケ

2025年2月、ラクスル株式会社の子会社であるノバセル株式会社は、独立系Web広告運用会社の株式会社オールマーケの株式を取得し、グループ傘下に加えました。

このM&Aにより、ノバセルはWeb広告運用の専門ノウハウと人材を確保し、テレビCM・クロスメディアと連携したより高度なデジタル広告運用体制の構築を目指しています。

現在、サードパーティークッキーの廃止が進み、広告運用の複雑化が加速しています。オールマーケの株取得は、これらの課題解決に寄与し、プライバシー対応力強化と運用効率の向上を図る戦略的布石です。

株式会社フリークアウトと株式会社VAAS

2024年10月、広告技術分野を手がける株式会社フリークアウトは、High Impact広告ソリューションを提供する株式会社VAASを完全子会社化しました。

VAASは日本市場で先駆けてHigh Impact広告を導入し、5年以上にわたり広告主・代理店・媒体社への展開実績を持つ企業です。この買収により、フリークアウトはこれまで以上にユーザーエンゲージメントの高い広告表現を、自社ソリューションとして提供可能になりました。

さらに、媒体社向けの収益最適化技術も取り込み、広告効果の最大化と収益性向上を両立する戦略的な強化も図っています。

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広告業界におけるM&A成功のポイント・注意点

広告業界のM&Aを成功に導くためには、業界特有の課題を十分に理解し、適切な戦略を立てることが重要です。

ここでは、特に押さえておきたいポイントを2つご紹介します。

デジタル適応力・技術基盤の将来性を見極める

広告業界は、AI活用やターゲティング精度の向上など、急速にデジタル化が進展しています。そのため、買い手企業は、売り手企業が持つ運用技術、分析基盤、配信最適化などのデジタル資産の質と、それを活かす実行力を評価することが重要です。

M&Aの評価にあたっては、短期的な広告売上の数字だけに注目するのではなく、将来的な広告市場での競争力や成長性を重視しましょう。特に、既存事業とのシナジーが期待できるかどうかを見極めることが、持続的な成長を実現するためのカギとなります。

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人的資産を適切に評価する

競争が激化する広告業界では、優秀な人材が最大の資産です。買い手企業に在籍するプランナーやデザイナー、アカウント担当者の創造性・柔軟性を適切に見極めましょう。

また、M&A後には企業文化や働き方の違いによる人材流出リスクが高まるため、現場との積極的な対話や働きやすい制度設計を進めることが重要です。人材の定着を促進し、両社の強みを活かした相乗効果を実現するPMI(統合プロセス管理)戦略が欠かせません。

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広告業界における今後のM&Aの課題と展望

広告業界では、生成AIやクッキーレス広告など技術革新が進むなかで、M&Aの対象企業が持つデジタル基盤の将来性を見極める力が求められています。また、クリエイティブや運用に携わる人材の確保・定着も成功のカギとなるため、買収後の文化融合や人材マネジメントを含めた統合プロセスも欠かせません。

また、マス広告とデジタル広告、CRMや屋外広告などを一体的に提供できる体制へのニーズが高まっており、M&Aを通じてフルファネル型の統合支援力を強化する動きは今後さらに加速すると見られます。

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よくある質問

  • 広告業界とは何ですか?
  • 広告の企画・運用・制作を担う代理店と制作会社が中心で、広告主と媒体をつなぐ産業です。
  • 広告業界においてデジタル化が進むなかでM&Aが増加する理由は?
  • マス広告とデジタル広告を統合提供する需要が拡大し、専門領域を補完する買収が活発化しているためです。
  • M&Aによる新規広告領域参入のメリットは?
  • 未経験の媒体に強い代理店を取得すれば、企画から配信まで幅広く対応でき、顧客満足度と競争力が向上します。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社広報室 室長齊藤 宗徳
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 広報室 室長
株式会社レコフ リサーチ部 課長
齊藤 宗徳

2007年、立教大学経済学部経営学科卒業後、国内大手調査会社へ入社し、国内法人約1,500社の企業査定を行うとともに国内・海外データベースソリューション営業を経て、Web戦略室、広報部にて責任者として実績を重ねる。2019年大手M&A仲介会社へ入社し、広報責任者として広報業務に従事。
2021年M&Aキャピタルパートナーズ入社後は、広報責任者として、TV番組・CMなどのメディア戦略をはじめ広報業務全体を管掌、2024年より現職。

一般社団法人金融財政事情研究会認定M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者



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