事業承継に向けた資金調達方法とは? 具体的な手法や検討する際のポイントを解説

事業承継に向けた資金調達方法とは?具体的な手法や検討する際のポイントを解説のメインビジュアルイメージ

更新日


事業承継に向けた資金調達について

事業承継に際して、資金調達が課題になるケースは少なくありません。資金調達にはさまざまな手段があり、事業承継の支援を目的とした制度も複数存在します。各手段について把握したうえで、自社にあったものを選択しましょう。

本記事では、「事業承継事業承継とは?|詳細記事へ」の基本的な定義や意義を整理したうえで、事業承継における資金調達の方法を紹介します。検討時のポイントについても触れているので、ぜひ参考にしてください。

事業承継に関して詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。

関連記事
事業承継とは?
~引き継ぐ経営資源や実施方法など注意点やポイントを解説~

このページのポイント

~事業承継に向けた資金調達方法とは?~

事業承継における資金調達には、政府系金融機関の融資、信用保証協会の保証制度、自治体の補助金、投資家やファンドなど、複数の選択肢があります。それぞれの方法に特徴があり、企業の状況や目的に応じた最適な方法を選ぶことが重要です。各方法を理解し、事業承継計画に基づいて慎重に選定しましょう。

無料で相談する

関連タグ

  • #M&A
  • #M&A関連記事
  • #事業承継
  • #事業承継に向けた資金調達方法とは?

~その他 M&Aについて~

事業承継における資金調達の方法

事業承継における資金調達の方法は、以下の4つに大別できます。

各方法について、より具体的に見ていきましょう。

政府系金融機関からの融資

政府系金融機関では、事業承継に特化した融資制度が複数設けられており、後継者による株式の取得や借入金の返済といった資金ニーズにも柔軟に対応しています。
民間金融機関に比べて金利が低く、返済期間も長期に設定されているため、資金繰りの安定を図りやすい点が大きな特徴です。ただし、申請時には後継者の事業計画や承継の体制が明確にされている必要があり、準備を整えたうえでの申し込みが必要となります。

政府系金融機関の代表的な制度としては、日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」が挙げられます。この制度では、設備資金として最長20年、運転資金としては最長10年の返済期間が設定されており、最大14億4,000万円までの融資が可能です。(2025年5月20日時点)

対象者
  • 中期的な事業承継を計画しており、現経営者と後継者(候補者を含む)が共同で事業承継計画を策定している事業者
  • 安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を実施する事業者、またはその対象となる事業者
  • 事業の承継・集約を契機に、新たな第二創業(経営多角化、事業転換、新市場進出)を計画している事業者(計画実施後概ね5年以内の事業者を含む)、新規事業に取り組む事業者(取り組み後概ね5年以内の事業者を含む)、またはPMI(Post Merger Integration:合併後の統合プロセス)に取り組む事業者
  • 中小企業経営承継円滑化法に基づく認定を受けた中小企業者の代表者、認定を受けた個人である中小企業者、または認定を受けた事業を営んでいない個人
  • 事業承継にあたり、経営者個人保証の免除等を金融機関に申し入れた結果、融資を受けることが困難になった事業者であって、日本政策金融公庫が融資に際して経営者個人保証を免除する事業者
融資限度額 14億4千万円
利率

最大2.5%

(企業の状況に応じて特別利率または基準利率が適用)

返済期間

【設備資金の場合】

20年以内(うち据置期間5年以内)

【運転資金の場合】

10年以内(うち据置期間5年以内)

主な要件
  • 事業計画書の提出
  • 後継者や統合企業の明確な承継・成長ビジョン提示

この融資制度は地域経済の活性化も目的に据えていることから、地域に根差した支援を受けながら、円滑な承継を目指す企業にとって非常に有効な選択肢の一つとなっています。

参考:日本政策金融公庫の公式サイト

関連記事
事業承継で活用できる融資とは?
~活用するメリットや注意点についても解説~

信用保証協会による保証制度の活用

信用保証協会では、事業承継を控えた中小企業向けに、資金調達を後押しする保証制度を提供しています。信用保証とは、企業が金融機関から融資を受ける際に、信用保証協会が「保証人」として関与し、金融機関が抱える貸し倒れリスクを肩代わりする制度のことです。

中小企業では、担保や過去の実績の不足により融資が難しい場合もありますが、保証付きであれば金融機関側も安心して融資を実行できます。また、事業承継を目的とする資金調達では、保証料の軽減や経営者保証の免除など、通常よりも利用しやすい条件が整えられています。
なお、制度によって保証限度額や対象となる資金の範囲や利用条件などが異なるため、必ず事前に確認しておかなければなりません。また、場合によっては、事業承継計画の作成や後継者の経営意欲を示す資料の提出が別途求められることもあります。

こうした手続きをスムーズに進めるためには、地域の信用保証協会に早めに相談し、金融機関や支援機関との連携を図ると良いでしょう。

以下では、2025年5月20日時点の情報をもとに、具体的な7つの保証制度を紹介します。

事業承継特別保証

事業承継特別保証は、後継者が事業を引き継ぐ際の資金調達を支援する制度です。経営者保証が不要である点が大きな特徴です。また、既存の保証付き借入金についても、条件を満たすことで借換によって保証を外すことが認められています。後継者が新たな負担を背負うことなく承継を進められるため、事業承継を円滑に行ううえでの有力な選択肢となっています。

融資対象

①保証の申し込み日から3年以内に事業承継を予定している中小企業

②令和2年1月1日から令和7年3月31日までに事業承継を完了した中小企業で、承継日から3年以内の企業

上記のいずれかに該当し、以下の要件をすべて満たす中小企業

  • 資産が負債を上回っていること
  • EBITDA有利子負債倍率が10倍以内であること
  • 法人と個人が明確に分離されていること
  • 返済緩和中の借入が無いこと
資金用途 事業資金
融資限度額 2億8,000万円
(組合などは4億8,000万円)
融資期間 10年以内
(据置期間1年以内を含む)

事業承継サポート保証

事業承継サポート保証は、持株会社を設立して事業承継を行う場合に活用できる信用保証制度です。例えば、後継者が自ら持株会社を設立し、その法人が親会社にあたる事業会社の株式を買い取るケースにおいて、この保証制度を利用することで、株式取得に必要な資金の調達が可能となります。
近年では持株会社化を選ぶ企業も増えていることから、その際の資金面の不安を軽減できる点で有効です。

融資対象 事業承継計画書に基づき、事業会社の株式を集約化するための資金を必要としている持株会社
資金用途 事業会社の株式取得資金
融資限度額 2億8,000万円
(無担保8,000万円を含む)
融資期間 15年以内
(据置期間2年以内を含む)
関連記事
持株会社を活用した事業承継とは?
~メリットや注意点を解説~

経営承継関連保証

経営承継関連保証は、事業承継を予定している法人を対象に、既存借入金の借換資金を保証する制度です。事業承継に支障をきたしている中小企業の株式や事業用資産を取得する際の資金が保証の対象となっていることから、承継の受け手側を支援することで、事業継続の円滑化を図ることを目的としています。

融資対象 事業承継を行うため、都道府県知事の認定を受けた中小企業者(会社または個人)
資金用途 都道府県知事が認定した他の中小企業者の経営の承継に必要な資金
融資限度額 2億8,000万円
(無担保8,000万円を含む)
融資期間

【運転資金の場合】

10年以内(うち据置期間1年以内)

【設備資金の場合】

15年以内(うち据置期間1年以内)

特定経営承継関連保証

特定経営承継関連保証は、後継者が中小企業の経営を引き継ぐ際、外部の株主などから株式や持分を取得するための資金調達を支援する制度です。第三者所有の株式を買い取るケースにも対応しており、承継の円滑化を目的としています。

融資対象 事業承継に伴い、事業活動の継続に支障が生じているとして、都道府県知事の認定を受けた中小企業者の代表者個人
資金用途 都道府県知事が認定した経営の承継の円滑化に必要な資金
融資限度額 2億8,000万円
(無担保8,000万円を含む)
融資期間

【運転資金の場合】

10年以内(うち据置期間1年以内)

【設備資金の場合】

15年以内(うち据置期間1年以内)

経営承継準備関連保証

経営承継準備関連保証は、法人または個人事業主がM&Aを通じて他の中小企業の事業を引き継ぐ際に活用できる制度です。株式や事業用資産の取得に必要な資金を保証することで、円滑な承継の実現を支援します。

融資対象 事業承継を行うため、都道府県知事の認定を受けた中小企業者(会社または個人)
資金用途 都道府県知事が認定した他の中小企業者の経営の承継に必要な資金
融資限度額 2億8,000万円
(無担保8,000万円を含む)
融資期間

【運転資金の場合】

10年以内(うち据置期間1年以内)

【設備資金の場合】

15年以内(うち据置期間1年以内)

特定経営承継準備関連保証

特定経営承継準備関連保証は、都道府県知事の認定を受けた従業員などの個人が、中小企業の経営を引き継ぐ際に活用できる制度です。資金用途は認定を受けた企業の承継に必要な費用で、融資限度額は最大2億8,000万円(無担保8,000万円を含む)となっています。
なお、運転資金は10年以内、設備資金は15年以内の返済期間が設定されています。

融資対象 事業の承継について都道府県知事の認定を受けた事業を営んでいない個人
資金用途 都道府県知事が認定した他の中小企業者の経営の承継に必要な資金
融資限度額 2億8,000万円
(無担保8,000万円を含む)
融資期間

【運転資金の場合】

10年以内(うち据置期間1年以内)

【設備資金の場合】

15年以内(うち据置期間1年以内)

経営承継借換関連保証

経営承継借換関連保証は、経営者保証付き融資を、保証不要の融資に借り換える際に利用できる制度です。一定の要件を満たした事業承継予定の中小企業者が対象となり、承継準備中の資金負担軽減を図ります。

融資対象

都道府県知事の認定を受けた3年以内に事業承継を予定している中小企業者で、次の1から4のすべての要件を満たす法人

  1. 資産超過であること
  2. EBITDA有利子負債倍率が10倍以内であること
  3. 法人・個人の分離がなされていること
  4. 返済緩和している借入金が無いこと
資金用途 認定を受けた中小企業者の経営の承継に必要な資金のうち、認定の日から経営の承継の日までの間における借換資金
(中小企業者の代表者が保証債務を負う借入に係るもの)
融資限度額 2億8,000万円
(無担保8,000万円を含む)
融資期間

一括返済の場合:1年以内

分割返済の場合:10年以内(据置期間1年以内)

自治体による補助金・助成金の活用

各自治体では、地域の中小企業が円滑に事業承継できるように、さまざまな補助金や助成金制度を設けています。対象となるのは原則として、その自治体内で事業を営む企業や個人事業主です。詳細は自社が所在する自治体のホームページなどから確認してください。

例えば、東京都足立区では以下の「事業承継促進支援助成金」が提供されており(2025年5月15日時点)、一定の要件を満たすことで活用が可能です。

融資対象

以下のすべてを満たす中小企業であること

  • 中小企業基本法に定める中小企業者であること
  • 足立区内に本社(法人の場合は登記上の本店所在地、個人事業主の場合は主たる事業所)を有し、5年以上にわたり区内で事業を営んでいる、またはその事業を承継した者であること
  • 申請時点で、次のいずれかに該当すること
    • 今後3年以内に、区内の中小企業者に事業を譲渡する予定である
    • 既に区内の中小企業者から事業を承継し、承継から3年以内である
  • 事業承継後も継続して足立区内で事業を行う意向があり、事前に「事業承継計画書」を作成のうえ、足立区マッチングクリエイター等による審査で適当と認められていること
  • 第三者承継(M&Aや企業合併等)による事業承継ではないこと
  • 法人都民税・法人事業税、または特別区民税・都民税・個人事業税を滞納していないこと
  • 大企業または反社会的勢力が経営に関与していないこと
  • 風俗営業等を営んでいないこと
  • 対象経費について、国・東京都・足立区・公的団体等から補助金の交付を受けていないこと
資金用途
  • 生産力・販売力・集客力等の向上を目的として行う設備購入(区内の事業所、店舗に設置する場合に限る)
  • 老朽化による設備の更新(区内事業所・店舗における入れ替えを伴う設備購入)
  • 販路拡大を目的とした販売促進に係る経費
融資限度額
【競争力強化等のための設備投資等経費】
  • 製造業等:200万円
  • その他の業種:100万円
【販路拡大のための販売促進経費】
  • 50万円

参考:事業承継促進支援助成金|足立区

投資家やファンドの活用

事業承継ファンドは、後継者が不在であったり、経営に課題を抱える中小企業に対し、株式を取得する形で資金を提供しながら、経営改善や成長支援も行うファンドです。経営者の引退後も企業の事業が継続され、発展していくための体制構築が期待できます。
また、社外の専門家や経験豊富な人材の派遣、他企業との連携支援なども行われるため、経営の質的向上を期待することも可能です。さらに、投資家のネットワークを活用することで、新たな取引先や販路が開拓できます。

ただし、ファンドごとに支援方針や期間、目指す方向性が異なるため、導入前に十分な検討を行わなければなりません。

関連記事
事業承継ファンドとは?
~有効な活用方法や選び方、事例を解説~

事業承継に向けた資金調達方法を検討する際のポイント

事業承継に向けた資金調達方法を検討する際には、以下の2点のポイントを押さえておきましょう。

各ポイントについて解説します。

手続き・返済に伴う負担を考慮する

事業承継に向けた資金調達では、手続きや返済条件が制度ごとに異なります

例えば政府系金融機関の融資では、後継者の育成を含めた事業承継計画の策定や、将来の収支見通しを記した事業計画書の提出が求められます。審査期間も一定程度かかるため、早めの準備が必要です。

信用保証協会の保証制度を利用する場合は、保証申請の手続きに加え、金融機関との協議や保証料の支払い、保証期間の制限といった負担が生じることもあります。さらに、返済条件についても金利、期間、据置の有無などに違いがあるため、資金繰りに大きく影響を与える可能性があります。

そのため、資金の調達額だけに注目するのではなく、調達にかかる手間や返済面での負担まで考慮し、総合的に検討することが重要です。

迷ったときは専門家の意見を聞く

事業承継に向けた資金調達には、融資、保証、補助金など多様な選択肢がありますが、最適な方法は企業の財務状況や承継スキームによって異なります。また、制度によっては要件が厳格なものや、申請タイミングが限られているものもあるため、自力での判断が難しい場合もあるかもしれません。
そのような際には、金融・税務・M&Aに詳しい専門家に相談すれば、各制度の比較やリスクの見極めがしやすくなります。申請書類を準備するためのサポートや、金融機関・保証協会との調整などを代行してもらえる場合もあるため、できるだけ早い段階から相談すると良いでしょう。

まとめ

事業承継を円滑に進めるためには、資金の確保は避けて通れない重要な課題です。融資や保証、補助金など多様な手段があるなかで、自社にとって最適な方法を見極めるには、制度の理解と計画的な対応が必要です。

M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーとして、中小M&Aガイドラインを遵守し、お客様の期待する解決・利益の実現のために日々取り組んでおります。
着手金・月額報酬がすべて無料、簡易の企業価値算定(レポート)も無料で作成。秘密厳守にてご対応しております。
以下より、お気軽にお問い合わせください。

弊社の「中小M&Aガイドラインへの取り組み」に関してはこちらをご確認ください



よくある質問

  • 事業承継における資金調達方法にはどのような選択肢がありますか?
  • 事業承継に向けた資金調達方法として、政府系金融機関の融資、信用保証協会の保証制度、自治体の補助金、ファンドの活用が考えられます。それぞれの方法には特定の条件や特徴があり、企業の状況に応じて選ぶことが重要です。
  • 政府系金融機関からの融資を受けるにはどうすればよいですか?
  • 日本政策金融公庫などの政府系金融機関から融資を受けるためには、事業計画書の提出が求められ、後継者のビジョンや事業承継計画が明確である必要があります。また、審査期間があるため、早めに準備を進めることが重要です。
  • 信用保証協会の保証制度はどのように活用できますか?
  • 信用保証協会の保証制度を利用することで、担保が不十分でも融資を受けやすくなります。特に事業承継を目的とする資金調達では、保証料の軽減や経営者保証の免除といった優遇措置が適用される場合があります。
  • 自治体の補助金を活用するには、どのような条件がありますか?
  • 自治体が提供する補助金は、対象となる企業がその自治体内で事業を営んでいることが前提です。例えば、足立区の事業承継促進支援助成金は、一定の条件を満たす企業に対して資金支援を行っています。
  • 事業承継ファンドを活用するメリットは何ですか?
  • 事業承継ファンドを利用することで、資金提供に加えて経営改善や成長支援を受けることができます。また、専門家や経験豊富な人材が支援に入ることで、経営の質的向上が期待できます。

ご納得いただくまで費用はいただきません。
まずはお気軽にご相談ください。

監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社執行役員 コーポレートアドバイザリー部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

詳細プロフィールはこちら

M&Aを流れから学ぶ
(解説記事&用語集)

ライオン社長マガジン

ライオン社長マガジンのイメージ

M&Aキャピタルパートナーズの取り組みや人の想い、業界の動きをお届けするMACP公式マガジン。

業種別M&A動向

業種別M&A動向のイメージ

日本国内におけるM&Aの件数は近年増加傾向にあります。その背景には、企業を取り巻く環境の変化があります。

M&Aキャピタルパートナーズが
選ばれる理由

創業以来、売り手・買い手双方のお客様から頂戴する手数料は同一で、
実際の株式の取引額をそのまま報酬基準とする「株価レーマン方式」を採用しております。
弊社の頂戴する成功報酬の報酬率(手数料率)は、
M&A仲介業界の中でも「支払手数料率の低さNo.1」を誇っております。