商標権の譲渡、移転とは? 必要な手続きや実務上のポイント・注意点を解説

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商標権について

商標権は、企業のブランドや事業価値を象徴する重要な知的財産です。譲渡や移転を行う際には、法律上の手続きだけでなく、契約書の取り決めや、事前に確認すべき事項が多く存在します。

本記事では、商標権を譲渡・移転する際の具体的な流れや注意点を、譲渡側・譲受側の両面から、詳しく解説します。

このページのポイント

~商標権の譲渡、移転とは?~

商標権の譲渡・移転は、事業譲渡や会社合併、相続など、企業活動において頻繁に発生する重要な手続きです。譲渡や移転を行う際には、特許庁への登録手続きや契約内容の明確化が求められます。商標の使用権や譲渡対価、担保権の有無など、慎重に整理・確認すべきポイントが多いため、事前準備が不可欠です。

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商標権の譲渡・移転とは

商標権とは、特定の商品やサービスを他と識別するために認められた法的な権利です。
商標権は無体財産権に該当し、一方の団体から他方の団体へ譲渡や売却といった取引ができます。こうした商標権の移転や譲渡は、ビジネス戦略や事業再編を進める場面において重要な役割を果たします。
商標権を譲渡すれば、ブランドの持つ価値や市場における浸透力を他者に移転でき、ブランド戦略の一環として商標を活用することが可能です。さらに、商標権を資産として位置づければ、M&Aなどの際に企業評価を向上させることも期待できます。

商標権譲渡の方法

商標権は、すべての指定商品・役務を他者に移転する完全譲渡と、一部のみを譲渡する部分譲渡の2通りの方法で譲渡できます。

完全譲渡

商標権のすべてを他者に移転する方法には、権利の譲渡があります。この場合、すべての指定商品や役務をまとめて相手に譲渡する形となります。譲渡の完了後は、元の権利者はその商標を一切使用できません。

部分譲渡

商標権は、指定された商品や役務の一部だけを他者に譲渡することも可能です。例えば、化粧品と健康食品の両方を対象とする商標権の場合、健康食品に関する部分だけを譲渡できます。このように一部のみを譲渡した場合、譲渡しなかった部分については、引き続き自社で利用することが可能です。

商標権の譲渡・移転が必要となるシーン

商標権の譲渡や移転が必要となる具体的なシーンとしては、以下が挙げられます。

事業譲渡・会社合併・分割を行う場合

事業譲渡会社合併を行う際には、商標権も併せて移転する必要があります。合併の場合には「合併による商標権移転登録申請書」を使用して手続きを行います。一方、事業譲渡に該当するケースでは、通常の商標権移転手続き用の書類を用いた申請が必要です。

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相続・贈与などによる権利移転が生じた場合

商標権は財産権に該当するため、相続や贈与の対象です。相続によって商標権を取得する場合には「相続による商標権移転登録申請書」を提出する必要があります。その際には、戸籍謄本や遺言書、遺産分割協議書などの書類が必要です。

個人から法人へ名義を移す場合

個人事業から法人化する場合など、事業形態の変更時にも商標権の譲渡が発生します。また、スタートアップ企業や中小企業においては、もともと代表者個人の名義で登録されていた商標権を、法人に移転するケースも見られます。

商標権の譲渡・移転に必要な手続き

商標権の譲渡・移転が発生した際には、特許庁へ正しく手続きすることが求められます。必要な手続きは、特定承継の場合と、一般承継の場合で、それぞれ異なります。

特定承継の場合

特定承継とは、第三者への譲渡や持分の放棄などで商標権が移転することです。必要な手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 譲渡契約書の締結
  2. 取締役会・株主総会での承認
  3. 特許庁への転移登録申請

特定承継では、移転の効力は特許庁への登録が完了して初めて発生します。つまり、登録がされなければ商標権の移転が法的に有効とならないため、十分な注意が必要です。

1.譲渡契約書の締結

商標権の譲渡や移転を行う際には、譲渡人と譲受人の間で正式な譲渡契約書の締結が必要です。契約書の主な記載項目は次のとおりです。

  • 商標登録番号
  • 指定商品・役務の区分
  • 商標の表示
  • 譲渡対価
  • 支払い期日
  • 支払い方法
  • 特許庁への移転義務

契約書の記載が曖昧な場合、後にトラブルの原因となるおそれがあります。対象となる商標を特定するための基本的な情報に加え、譲渡対価や取扱いについても必ず明記することが必要です。

2.取締役会・株主総会での承認

商標権の譲渡が利益相反行為に該当する場合には、取締役会などの機関による承認が必要

です。利益相反とは、二者以上の利害が対立する状態を指します。商標権の譲渡においては、譲渡人と譲受人の代表者が同一人物である場合や、同一の企業グループ内で商標が相互に譲渡される場合などが、利益相反行為に該当します。
取締役会や株主総会の開催に際しては、関係者向けに商標権取引に関する資料を作成しましょう。会議の内容についても、議事録や承認書を作成し、取引の公正性や透明性を確保しなくてはなりません。

参考:移転登録申請における利益相反行為について|経済産業省 特許庁

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~該当する手続きや承認手続きについて解説~

3.特許庁への移転登録申請

特許庁への申請には次の各種書類が必要です。

必要書類 詳細
商標権移転登録申請書
  • 商標登録番号・登録の目的・登録権利者と登録義務者の情報・添付書類の目録などの必要事項を記載する
  • 1件につき30,000円の登録免許税が必要
譲渡証書 譲渡人の実印の押印が必要
譲渡人の印鑑証明書 発行から3ヶ月以内でなければならない
株主総会および取締役会の議事録・承認書 利益相反行為に該当する場合に必要
委任状
  • 代理人(弁理士など)に依頼する場合に必要
  • 別途代理人手数料(2〜5万円程度)も必要となる

参考:権利の移転等に関する手続|経済産業省 特許庁

商標権の移転登録申請は、原則として登録権利者(譲受人)と登録義務者(譲渡人)の双方によって行うことが必要です。ただし、譲渡人の承諾書がある場合には、譲受人による単独申請も認められます。
申請後は、特許庁において内容の確認および審査を実施し、問題がなければ登録原簿に移転登録される仕組みです。おおよそ2週間程度で手続きが完了します。
なお、提出書類に不備があると補正命令が出されるため、記載ミスや押印漏れ、必要書類の不足などには十分注意が必要です。

一般承継の場合

一般承継とは、相続や会社合併など、法律の規定に基づいて商標権が自動的に移転するケースです。一般承継の場合、移転登録は効力発生のための要件ではありませんが、特許庁への届出義務は発生します。
また、一般承継では、特定承継とは異なり承継人による単独での申請が認められています。ただし、代理人に登録手続きを依頼する場合は、特定承継と同様、委任状の提出や手数料の支払いが必要です。
なお、一般承継は類型ごとに必要な手続きが異なります。ここでは、次の3つのケースそれぞれにおける、主な手続きを紹介します。

相続による移転登録の手続き・必要書類

相続による移転登録手続きでは、以下の手続きが必要です。

必要書類 詳細
相続による商標権移転登録申請書
  • 特定承継で使用する申請書とは異なるため要注意
  • 登録免許税として1件につき3,000円分の収入印紙を張り付ける
戸籍謄本など 権利者の死亡の事実を証明するために必要
相続人であることを示す戸籍謄本 相続の資格を有する者全員の記載のある戸籍謄本が必要
遺産分割協議書
  • 複数の相続人がいる場合に必要
  • 誰が商標権を承継するかを明記する
遺言書 遺言がある場合は遺産分割協議書に代えることができる

参考:相続による商標権移転登録申請書

相続人が手続きを行わない場合、商標権は法的に存続していても実質的に利用できなくなるため、早めに手続きを進めることが重要です。

会社合併による移転登録の手続き

会社合併に伴う移転登録では、以下の手続きが必要です。

必要書類 詳細
合併による商標権移転登録申請書
  • 特許庁指定の様式
  • 合併用の専用書式を使用
  • 登録免許税として1件につき3,000円分の収入印紙を張り付ける
承継人の登記事項証明書 承継人であることを証明するために必要
被承継人の印鑑証明書 発行から三ヶ月以内のものでなければならない

参考:合併による移転登録申請書|経済産業省 特許庁

合併によって商標権を移転する場合は「合併による商標権移転登録申請書」を作成し、必要な添付書類と共に特許庁へ提出します。この手続きでは、合併による移転専用の申請書が必要です。さらに、合併の事実を証明する書類として、合併に関する登記事項証明書または被承継人の閉鎖登記事項証明書の提出が求められます。なお、合併の類型によって必要となる添付書類の内容が異なるため、書式や提出書類の形式に十分注意しなければなりません。

会社分割による移転登録の手続き

会社分割による移転登録手続きは以下のとおりです。

必要書類 詳細
会社分割による商標権移転登録申請書
  • 特許庁指定の様式
  • 会社分割用の専用書式を使用
  • 登録免許税として1件につき30,000円分の収入印紙を張り付ける
会社分割承継証明書 商標権が承継対象となることを明示した契約書等
登記事項証明書(承継会社) 承継会社の登記事項証明書で、法人資格を確認
被承継会社の印鑑証明書 発行から3ヶ月以内のものが必要

参考:会社分割による移転登録申請書|経済産業省 特許庁

商標権を譲渡・移転する際のポイント

商標権の譲渡・移転を進める際には、権利の有効性や担保の有無、契約条件や手続きの分担など、譲渡側と譲受側の双方で事前に整理・確認しておくことが重要です。

譲渡側

商標権の譲渡における、譲渡側のポイントとして、以下を紹介します。

譲渡後の商標権の使用権利に関して契約書に明記する

商標権を譲渡する際には、譲渡後に自社が意図せずに権利侵害してしまう事態を防ぐためにも、商標の使用範囲や制限事項について契約書で明確に取り決めておくことが重要です。特に譲渡対象となる商標と類似する商標を譲渡人が別途保有している場合、その使用が譲受人の権利を妨げると判断されるおそれがあります。

譲渡後も自社に残る類似商標の使用を継続したい場合は「類似商標の利用に関する例外条項」を契約書に盛り込むことが必要です。また、旧パッケージ製品など譲渡後も販売を継続したい商品がある場合には「残存商品の販売期限」や「販売条件」に関する条項を設けておくと、トラブル回避につながります。
さらに、競業避止義務や類似商標不使用義務などの制限条項も、譲渡人と譲受人の事業実態に即した内容で無理なく調整しておくことで、譲渡後も事業の継続が可能となります。

対価・支払い期限・支払い方法を明確に定める

商標権の譲渡契約は、譲渡対価の金額、支払い方法(例えば銀行振込など)、および支払い時期(契約締結時や登録完了時など)を明確に定めておくことが重要です。

支払いが分割になる場合は、各回の支払い金額や期限、遅延損害金の有無、さらに契約解除の条件についても詳細に記載すると、未払いが発生した際のトラブルを未然に防止できます。
また、振込手数料や登録免許税の負担者についてもあらかじめ契約書に明記しておくなど、細かな取り決めにも注意を払うことが必要です。

第三者への再譲渡・使用許諾の許否を明文化しておく

商標が譲渡された後、譲受人が第三者へ再譲渡したり、使用許諾したりするケースがあります。このような場合、ブランドイメージの毀損や製品・サービスの品質低下を招くおそれがあるため、あらかじめ契約書で、その可否や条件を明確に定めておく必要があります。

例えば「譲渡人の事前承諾が必要」や「関連会社への使用に限る」といった制限を設けることで、ブランド価値の低下や信頼の損失を防ぐことが可能です。特に、老舗ブランドや高付加価値のある商標は、使用先の管理が企業全体に与える影響が大きいため、こうした管理条項は契約上欠かせないものといえます。

譲受側

商標権の譲渡における、譲受側の注意点として、次の3点を紹介します。

商標権の有効期間・更新状況等を確認する

商標権を譲り受ける際には、前提として、それが現在も有効であるかを事前に確認する必要があります。特許庁が管理する商標原簿を利用すれば、登録の有無や有効期間、過去の更新履歴などを調査できます。

商標権の存続期間は登録日から10年間で、10年ごとの更新が可能です。更新時期が近い商標を取得する場合には、事前に更新の有無や、今後の予定を確認しておきましょう。
また、過去3年以上使用されていない商標は「不使用取消審判」の対象となり得るため、第三者から取消請求を受けるリスクがあります。さらに、商標の現在の権利状態だけでなく、指定されている商品や役務が、自社の事業内容と一致しているかどうかも、あわせて確認しておくことが重要です。

商標権に対する担保権等の設定有無を確認する

譲り受けを検討している商標権に対する、担保権等の設定の有無を、特許庁の登録原簿で確認する必要があります。担保が設定されたままの状態では、将来的に第三者から商標を差押さえられるなど、重大なリスクが生じるおそれがあります。
また、担保権の有無だけでなく、差押えや仮差押えが行われていないかもあわせてチェックしましょう。万が一、担保の設定が判明した場合には、譲渡契約書に「抹消手続きの実施義務」や「費用負担の明確化」などの条項を盛り込むことで、譲渡後のトラブルを未然に防止できます。

商標権譲渡・移転手続きに関する譲渡側の協力義務を明記しておく

商標権の譲渡を円滑に進めるには、必要書類の準備や手続きに関する、譲渡側と譲受側それぞれの役割をあらかじめ明確に定めておくことが重要です。
具体的には「移転登録申請書」「譲渡証書」「印鑑証明書」など、特許庁に提出する各種書類を誰が用意し、いつまでに提出するのかを契約書上で取り決めておくと良いでしょう。

特に、譲渡人が手続きに協力しない場合には、移転登録が完了しないため、譲受人が商標を使用できないおそれがあります。譲渡人には必要書類の作成・押印・提出に関する協力義務を契約書に明記し、手続きの遅延や不履行を未然に防ぐことが推奨されます。

商標権の譲渡に関する注意点

出願中の商標は、まだ登録が完了していないため「商標権」ではなく「商標登録を受ける権利」として取り扱われます。そのため、譲渡手続きも異なり、特許庁には「出願人名義変更届」の提出が必要です。手続きにかかる費用も異なり、登録免許税ではなく名義変更手数料として、4,200円の納付が求められます。
また、出願中の商標は審査中のため、今後、拒絶理由通知が発生する可能性があります。名義変更のタイミングによっては、審査結果や補正指令などの通知が旧出願人に届いてしまうリスクもあるため、連絡先の最新化や宛先の変更手続きも必要です。
さらに、出願中の商標は商標権としての排他的効力が無く、第三者の使用を法的に差し止めることはできません。そのため、通常、登録済みの商標と比べて譲渡価値が低く評価される傾向があります。こうした事情を踏まえ、譲渡契約書には拒絶対応の責任分担や費用負担の取り決めを明記し、トラブルを未然に防ぐことが重要です。

まとめ

商標権の譲渡・移転は、ブランドの価値承継や事業再編に欠かせない重要な手続きです。手続きは譲渡形態や承継方法によって異なり、契約条項の明確化や特許庁への申請も不可欠です。また、出願中商標や担保設定の有無、利益相反や協力義務など、譲渡側・譲受側双方が留意すべきポイントを理解し、トラブルを回避する対応が求められます。

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よくある質問

  • 商標権の譲渡手続きはどのように進めるべきですか?
  • 商標権の譲渡には、譲渡契約書の締結、取締役会・株主総会での承認、特許庁への移転登録申請が必要です。詳細な手続きを踏まえて、権利移転が効力を持つようにしましょう。
  • 商標権の部分譲渡とは何ですか?
  • 商標権は指定された商品や役務の一部を譲渡することができます。たとえば、化粧品に関連する商標権のみを譲渡することが可能です。
  • 商標権の移転に関して注意すべき点は何ですか?
  • 商標権移転時には、譲渡側と譲受側が契約内容を明確にし、権利の使用範囲や支払い条件などを詳細に定めておくことが重要です。
  • 商標権の譲渡契約書にはどのような情報を盛り込むべきですか?
  • 商標登録番号、指定商品・役務、譲渡対価、支払い方法など、具体的な条件を契約書に明記しておく必要があります。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社執行役員 コーポレートアドバイザリー部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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