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事業譲渡における売掛債権の取扱い
事業譲渡を検討する際、売掛債権の取扱いは重要な論点の一つです。売掛債権を譲渡対象に含めるかどうかは当事者間で選択可能ですが、含める場合には適切な手続きが必要となります。
ここでは、事業譲渡における売掛債権の3つの取扱い方法から、債権譲渡に必要な契約や対抗要件の具備、さらには回収可能性の確認など注意すべきポイントまで解説します。
このページのポイント
~事業譲渡での売掛債権の取扱いとは?~
事業譲渡で売掛債権を移転する際は、譲渡有無の選択から始まり、債権譲渡契約締結と対抗要件(債務者通知・承諾、公正証書、債権譲渡登記など)の具備が不可欠です。買い手回収か売り手回収継続か、対象外とするかで実務とリスクが変わるため、回収可能性を事前精査し、二重譲渡・誤払防止策を講じてスムーズな資金回収と譲渡後のトラブル最小化を図りましょう。
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事業譲渡時の売掛債権の取扱い
事業譲渡とは、売り手企業が営む事業の一部または全部を第三者へ移転することです。このとき、譲渡対象となる事業の権利義務は、契約により個別に引き継がれます。つまり、売掛債権を譲渡するかどうかも選択可能です。
ただし、売掛債権を譲渡する場合には、事業譲渡契約だけでなく、債権譲渡契約を結ばなければなりません。ここでは、以下3つのケースに分けて、事業譲渡時の売掛債権の取扱いを解説します。
売掛債権を譲渡して買い手側が回収を行う
売掛債権を譲渡し、その回収も含めて買い手企業が一貫して行う方式です。売掛金の譲渡に際しては、譲渡対象となる債権の詳細(金額・期日・相手先など)を明記し、債務者に対して譲渡通知を行うなど、対抗要件を備える手続きも求められます。
この形式はオーソドックスで法的にも明快な対応ですが、取引先の理解と調整が必要不可欠です。
売掛債権を譲渡したうえで売り手側が回収を継続する
事業譲渡では、売掛債権の債権者の地位は買い手企業に移転するものの、実務上は売り手企業が引き続き回収を担うことがあります。譲渡実行直後には、取引先による振込先口座を買い手企業のものへ変更することが難しいことが多々あるためです。
特に金融機関の手続きには一定の時間を要することがあるため、移行期間中は旧口座である売り手側の口座への入金を一時的に受け入れ、後日買い手企業にまとめて精算する方法が現実的です。
例えば、新口座の利用開始に2ヶ月を要するなら、その間の売掛金は旧口座で回収することになります。ただし、精算スケジュールを事前に取り決めておくことが重要です。
売掛債権自体を譲渡対象に含めない
売掛債権を事業譲渡の対象から除外し、譲渡後も売り手企業が回収し続ける方式です。
債権譲渡の際、本来ならば債務者に個別に同意を取得する必要がありますが、この方式では同意が不要となります。
この方法のメリットは、煩雑な契約手続きや通知業務を省略できる点です。実務負担が軽減され、比較的スムーズに譲渡を実行できます。
事業譲渡における売掛債権の譲渡で必要な手続き
売掛債権を事業譲渡の対象に含める場合、法的に有効な譲渡を実現するためには、適切な手続きが不可欠です。単に事業譲渡契約を締結するだけでは債権の移転は完了せず、以下の2つの重要なステップを踏まなくてはなりません。
それぞれ見ていきましょう。
債権譲渡契約を締結する
債権譲渡を実施する際は、債権譲渡契約の締結を要します。単独の契約書として作成される場合もありますが、事業譲渡とあわせて実施されるケースでは、事業譲渡契約書の中に債権譲渡の条項を含める形式が一般的です。
契約書の記載内容
債権譲渡契約書では、以下の内容を明確に記載することが重要です。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 譲渡対象債権の特定 | 債権者・債務者の名称、金額、支払期日など詳細を記載 |
| 譲渡対価 | 売掛債権の譲渡に対する対価金額とその支払条件 |
| 譲渡日 | 債権譲渡の効力発生日を明確に定める |
| 債権目録 | 譲渡対象となる個別債権の一覧を添付 |
取引先との誤解や後の紛争を防ぐためにも、誰がどの債権譲り受けるのかを契約書で明確に定義しなければなりません。
対抗要件を備える
売掛債権は、現金や不動産のように形のある資産ではありません。そのため、実際に誰が本当の権利者なのかを、外部から判断するのが難しい特徴があります。そういったリスクへの備えとなるのが、対抗要件の具備です。
売掛債権を譲渡した場合、債務者が誤って買い手側ではなく旧債権者である売り手側に支払ってしまうことがあります。このとき、対抗要件が無いと買い手側は自身の債権者としての権利を主張できません。
ほかに考え得るリスクとしては、同一の売掛債権が複数の相手に譲渡される二重譲渡などが挙げられます。これらの場面での優劣関係も、誰が先に対抗要件を具備したかで決まるため、適切な手続きを迅速に行うことが重要です。
債務者に通知を発送する・承諾を得る
債権譲渡については、債務者に通知、もしくは承諾してもらわなくてはなりません。通知および承諾は、譲渡人が債務者に対し、内容証明郵便などによって確定日付のある証書を送付することで行います。
ここで重要なのが、債権譲渡の通知は必ず譲渡人が行わなくてはならない点です。譲受人が直接債務者に通知しても法的な効果は生じません。確定日付の取得についても、債務者の承諾については書面での形式制限は無いものの、後のトラブル防止のため、必要だと考えておいたほうが良いでしょう。
以上の対応を行うことで、債務者対抗要件と第三者対抗要件の両方が一度に満たされる効果が得られます。
公正証書を作成する
債権譲渡の内容を証明する方法として、公正証書を活用することも可能です。公正証書とは、法務大臣に任命された「公証人」が作成することで、内容が真正であることや、外部に対する証明力が保証される文書です。
特に、債務者の承諾を正式な形で残したいときや、第三者に対して債権譲渡の事実や日付をしっかりと証明したい場合には、公正証書の作成が有効となります。作成する際の流れは次のとおりです。
- ①債権譲渡の内容を書面にまとめる
- 譲渡対象債権の詳細、金額、期日などを明記
- ②作成した書面を管轄の公証役場に持参する
- 公証人による内容確認のため事前準備が必要
- ③公証人役場で公証人による確認・署名・押印を受ける
- 公証人が内容を確認し正式な証書として完成
- ④確定日付の付与をもって効力発生となる
- 第三者対抗要件が整備される
債権譲渡登記を行う
債務者にはまだ知らせたくないという事情がある場合、債権譲渡登記と呼ばれる手続きを利用して、第三者に対する主張を先に備えることも可能です。その後、債務者に請求するタイミングで改めて通知することで、対抗要件を整えられます。
この制度が利用できるのは法人のみで、金銭の支払いを目的とする債権に限定されています。なお、将来債権についても登記することが可能です。
ただし、債権譲渡登記をしても債権の存在や譲渡の有効性が公的に証明されるものではない点に注意が必要です。
事業譲渡における売掛債権に関する注意点・ポイント
売掛債権を事業譲渡の対象に含める際は、回収可能性があるかを事前に確認することが大切です。たとえ形式的には債権が譲渡されても、実際に買い手が代金回収できなければ、損失を被るリスクが生じるからです。
例えば、長期間にわたり未回収となっている債権があれば、債務者の倒産や連絡不能といったリスクが疑われます。買い手にとっては実態の無い資産を受け取ることになり、譲渡後の財務状況に深刻な影響を与える可能性があります。そのため、売り手は譲渡前に売掛債権の状態を洗い出し、必要に応じて事前回収を行うなどの対応が求められるのです。
あいまいな債権を整理しておくことは、買い手との信頼関係構築や、譲渡交渉をスムーズに進めるためにも有効となります。一方、買い手側も譲渡前の財務デューデリジェンスにおいて、売掛債権の回収実績などを確認し、長期滞留債権が無いかをチェックすることが大切です。
問題がある債権も、売り手からの説明や対応方針を確認することで、譲渡後の予期せぬ損失を未然に回避できるでしょう。
まとめ
事業譲渡における売掛債権の取扱いは、譲渡対象に含めるかどうかの検討から始まり、含める場合には債権譲渡契約の締結と対抗要件の具備が不可欠です。対抗要件については、債務者への通知や承諾、公正証書の作成、債権譲渡登記など複数の方法があり、状況に応じて適切な手続きを選択しましょう。
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よくある質問
- 事業譲渡で売掛債権を必ず譲渡しなければなりませんか?
- 必要ありません。売掛債権は譲渡するかどうかを当事者間で選択でき、対象外とすれば売り手が回収を続けられます。
- 債権譲渡契約だけで売掛債権の移転は完了しますか?
- いいえ。契約締結後に債務者への通知または承諾、公正証書作成や債権譲渡登記など対抗要件を備える手続きが必要です。
- 債務者通知を買い手が出しても有効ですか?
- 無効です。通知は必ず譲渡人(売り手)が行わなければ法的効果が生じません。
- 売掛債権を譲渡する場合、回収リスクはどう評価しますか?
- 長期滞留や債務者の信用状態を確認し、必要に応じて事前回収や精算条件を定めることで損失リスクを抑えます。
- 債権譲渡登記は誰でも行えますか?
- いいえ。債権譲渡登記は法人のみが利用でき、金銭の支払いを目的とする債権に限定されています。






