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自動車業界は技術革新や市場環境の変化に直面し、M&Aが重要な戦略となっています。
ここでは、業界の特徴や市場規模、最新のM&A事例を紹介します。M&Aを成功させるポイントや今後の展望まで、自動車業界の経営者や関係者に役立つ情報を押さえましょう。
M&Aの前に押さえておきたい自動車業界の情報
自動車業界は多岐にわたる分野から構成される総合産業です。M&Aについて解説する前に、業界の定義や特色、主要企業などの基本情報を押さえておきましょう。
自動車業界の定義
自動車業界とは、自動車に関わる部品の製造から組み立て、整備、販売に至るまでの幅広い産業を指します。
金属だけでなく、プラスチックやゴム、ガラスなど多様な素材や技術が関わることから、総合産業とも呼ばれています。日本の主要産業の一つであり、特にトヨタ自動車は自動車販売数や売上で世界首位を誇る存在です。
代表的な企業
自動車業界を代表する企業としては、以下が挙げられます。
- ・トヨタ自動車株式会社
- ・日産自動車株式会社
- ・本田技研工業株式会社
- ・スズキ株式会社
これらの企業は、国内市場だけでなく、世界市場でも高いシェアを持ち、革新的な技術開発や環境対応車の製造など、自動車産業の発展に大きく貢献しています。
自動車業界の特色
自動車業界は多重構造を持つ複雑な産業です。自動車メーカー、部品メーカー、販売会社、メンテナンス会社、さらにはカーシェアリングサービスなど、さまざまな分野が関わっています。一般的な自動車は2~3万個の部品から構成され、その素材や形状も多岐にわたります。市場規模は大きく、日本にとって重要な産業です。
部品メーカーは階層構造を持ち、自動車メーカーに直接部品を提供する「ティアワン」と、ティアワンに部品を提供する「ティアツー」に分かれます。特に国際的な規模で製造・流通を行う「ティアワン」企業は「メガサプライヤー」と呼ばれ、業界内で重要な位置を占めています。
自動車業界のM&A動向・市場規模
自動車業界の市場規模は、近年変動が激しくなっています。四輪車生産金額は2019年に20兆8,459億円でピークを迎えましたが、その後3年連続で20兆円を下回っています。
背景には、コロナウイルスの流行による影響が大きく関わっています。自動車部品産業の主要拠点である中国の武漢や湖北省で操業停止が起こり、世界的な物流の混乱を招きました。また、自動車製造に欠かせない半導体の工場も閉鎖を余儀なくされ、業界全体で半導体の入手が困難となった経緯もあります。
2021年以降は部品の供給不足も徐々に解消され、回復に向かいつつあります。しかし、未だコロナ禍以前の水準には至っていない状況です。

自動車業界のM&A事例
自動車業界では、技術革新や市場環境の変化に対応するため、さまざまなM&Aが行われています。以下に、近年の代表的な事例を紹介します。
オートバックスセブンとTAインポート
2021年2月、株式会社オートバックスセブンは、株式会社TAインポートの全株式を取得し、子会社化を実施すると発表しました。
TAインポートはAudi正規ディーラーを3拠点運営する会社です。この買収により、オートバックスセブンは新たな自動車メーカーとのネットワークを構築し、多くの顧客を獲得するだけでなく、収益拡大を目指すとしています。
SPKとデルオート
2021年12月、SPK株式会社は、株式会社デルオートの全株式を取得し、子会社化しました。
デルオートは、自動車トランスミッションの修理サービスとリビルト、自動車整備などを営む会社です。SPKグループは自動車整備と補修を手がけています。両社のノウハウの共有によるシナジー効果を期待しての買収です。
デンソーと愛三工業
2022年1月、トヨタ自動車株式会社の持株会社である愛三工業株式会社は、自動車部品業界大手のデンソー株式会社より、フューエルポンプモジュール事業を譲り受ける契約を締結しました。
フューエルポンプモジュールは、エンジンに燃料を供給する役割を持つ重要な部品です。この事業譲渡により、両社が連携して顧客への供給責任を果たすと共に、カーボンニュートラルの実現や社会貢献を目指すとしています。
Samvardhana Mothersonと八千代工業
2023年7月、ホンダの連結子会社である八千代工業は、インドのサンバルダナ・マザーサン・グループに買収されました。
マザーサンは四輪車用の内外装樹脂部品を展開する会社です。八千代工業は燃料タンクの9割をホンダに供給していましたが、電気自動車ニーズの高まりにより自社タンクの採用率低下を危惧し、ホンダ以外の取引先を模索していました。今回の買収により、八千代工業の強みである樹脂部品をマザーサングループの販路を使って拡大することを目指しています。
日産自動車とビークルエナジージャパン
日産自動車株式会社はビークルエナジージャパン株式会社を買収しました。ビークルエナジージャパンは、車載用リチウムイオン電池事業を行う会社です。この買収により、日産自動車は安定的な車載リチウムイオン電池の調達先を確保し、次世代電池の開発で優位に立つことを目指しています。
ビークルエナジージャパンの株を日産に譲渡した官民ファンドのINCJは、同社の発展のために日産自動車への株式譲渡が最適だと判断し、この取引を実施しました。
自動車業界でM&Aを活用するメリット
自動車業界におけるM&Aの大きなメリットは、スケールメリットを享受できる点です。
前述のように、自動車1台あたりには2~3万個もの部品が必要となります。M&Aにより事業規模を拡大できれば、部品や素材の大量仕入れ、一括大量生産が可能となり、仕入れコストや生産コストの削減につながります。
また、相手企業の経営資源を活用することで、自社だけでは困難な大規模な設備投資を実現できるでしょう。これにより、新たな技術の開発や生産性向上が期待できます。さらに、M&Aを通じて異なる強みを持つ企業と統合することで、より幅広い市場ニーズに対応できるようになります。
自動車業界におけるM&A成功のポイント
近年の自動車産業は、デジタル化により大きな転換期を迎えています。特に、電気自動車や自動運転技術に注目が集まっており、ガソリンをはじめとした燃料費の高騰も相まって、デジタル化に対応する新たな技術が求められています。
そのため、自動車業界でM&Aを成功させるためには、市場やニーズの変動を俊敏に察知し、自社に必要な要素を分析したうえで相手を選定することが大切です。その際には同業種だけに限定せず、異業種にまで視野を広げることが重要です。相手企業の有する技術力やノウハウ、人材、設備などのあらゆる情報を綿密に調査し、自社に最適な相手を見極めることが成功のカギとなります。
自動車業界における今後のM&Aの課題と展望
競争が激化している自動車業界においては、今後2つの傾向がより深化していくと考えられます。
一つは、中古車販売や部品製造など、同一業種内でM&Aを行い、可能な限り多角化が進む傾向です。異なる構造分野を内製化していくことで、地域密着型の事業展開や、自動車業界内におけるニッチな分野でのブランド力を高め、事業を継続していくと考えられます。
もう一つは、従来とは異なる経営方針に舵を切る企業も増えていく傾向です。先にも挙げたように、自動車産業でのデジタル技術や新型エネルギーの導入は要注目です。また、海外では目覚ましい経済成長を遂げている東南アジア市場への参入を目指す企業も多くなっています。
このように、従来の自動車産業、販路、拠点といった枠組みにとらわれず、経営の変化に一石を投じる企業も増えていくでしょう。激化する自動車産業市場で生き残るためには差別化が必要であり、そのためには同業種だけでなく異業種とのM&Aもより一層活発化していくと見込まれます。
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