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日本語学校業界では、事業拡大や競争力強化を目指してM&Aが活発化しています。
本記事では、業界の基礎知識についてまとめたうえで、市場規模や動向、代表的なM&A事例、M&Aを実施する場合のメリットやポイントについて解説していきます。さらに、業界の今後の展望についても見ていきましょう。
M&Aの前に押さえておきたい日本語学校業界の情報
M&Aについて解説する前に、日本語学校業界の基礎知識として、業界の定義や、代表的な企業、業界ならではの特色などについて解説していきます。
日本語学校業界の定義
日本語学校とは、主に外国人を対象に日本語教育を提供する機関です。全国に約600校あり、約49,000人の学習者が在籍しています。
日本語学校では、基礎的な日本語習得だけでなく、進学やビジネス向けの専門コースも提供されています。この業界は複数の省庁(文部科学省、法務省、外務省など)の管轄下にあり、教育機関の形態や地域によって所轄が異なる点も特徴です。
代表的な企業
日本語学校業界には、多様な規模と特色を持つ学校が存在します。業界をリードする主要な日本語学校をいくつか挙げると、次のとおりです。
- ・東京日本語学校
- ・ISI日本語学校
- ・ヒューマンアカデミー日本語学校
- ・京進ランゲージアカデミー
日本語学校業界の特色
日本語学校業界は、経営主体の多様性が特徴です。専修学校や学校法人、その他の形態に分類され、個人経営から株式会社経営まで幅広い形態が存在します。また、事業規模や生徒構成は出身国の政治情勢に影響されやすい傾向があります。
業務内容としては、日本語教育だけでなく、海外からの生徒を受け入れる際に行う「在留資格」に関する複雑な手続きが必要です。また、外国人生徒が週28時間以内のアルバイトに従事する際には「資格外活動許可」が必要で、これを学校がサポートすることもあります。
このように、単なる教育機関にとどまらず、外国人生徒の日本での生活全般を支援する役割も担い、幅広い知識と業務スキルが求められる業界といえます。
日本語学校業界の市場規模・動向
日本語教育実施機関は1992年度以降、全体として増加傾向にあります。しかし、新型コロナウイルスの影響により、2019年から2020年にかけて日本語学習者数が約11万7千人減少し、前年比57.9%まで落ち込みました。
2021年度にはさらに約4万人の減少が見られましたが、2022年10月の水際措置緩和により、生徒数は回復傾向に転じています。教師数も同様の傾向を示し、2019年に一時減少したものの、2022年にはコロナ禍以前の水準近くまで回復しています。

引用:外国人等に対する日本語教育の現状について
日本語学校業界のM&A事例
日本語学校業界では、事業拡大や競争力強化を目指し、さまざまなM&Aが行われています。ここでは、近年注目された代表的なM&A事例を紹介し、その目的や期待される効果を解説します。
スプリックスとひのき会
2022年7月、株式会社スプリックスは、ひのき会の和陽日本語学院を買収しました。
買い手となったスプリックスは個別指導「森塾」を運営しており、売り手となったひのき会の和陽日本語学院は日本語学校経営を行う会社です。
この買収の主な目的は、両社のブランド力と運営ノウハウを融合させ、日本語学校事業を強化することです。さらに、海外展開を見据えて、日本語教育コンテンツの開発を共同で行うことも計画しています。
この取り組みにより、スプリックスは教育事業の多角化と国際化を進め、競争力の向上を図ります。
SIVAホールディングスとJCE 日本文化教育学院
2021年2月、SIVAホールディングス株式会社が、株式会社JCE 日本文化教育学院の株式を100%取得しました。
買い手となったSIVAホールディングスは留学生向けの日本語学校経営や職業訓練、教育事業を展開しており、売り手となったJCE 日本文化教育学院は佐賀県鳥栖市で日本語学校を経営しています。
SIVAホールディングスはこのM&Aをとおして、技能実習生や留学生の支援事業拡大、そして地方での事業基盤の強化をめざします。
日本産業推進機構とISIグローバル
2021年10月、株式会社日本産業推進機構と、ISIグローバル株式会社が資本提携を実施しました。
日本産業推進機構は投資事業を行う会社であり、ISILグローバルは日本語教育に関する幅広い事業を展開しています。
この提携の主な目的は、両社の体制強化と売上アップです。日本産業推進機構の資金力とISIグローバルの教育ノウハウを組み合わせることで、事業の拡大と効率化が期待されます。また、日本語教育市場における競争力の向上も見込まれています。
京進とSELC Australia Pty Ltd
2020年10月、株式会社京進が、SELC Australia Pty Ltdを連結子会社化しました。
買い手となった京進は学習塾や日本語教育事業を展開しており、売り手となったSELC Australia Pty Ltdはオーストラリアのシドニーで留学生向けの語学学校や専門学校事業を行う会社です。
この買収により、京進は英会話事業における新規サービスの展開と、その他の語学関連事業でのシナジー効果を生み出すことを目指しています。国際的な教育ネットワークの構築により、グローバル市場での競争力強化と新たな成長機会の創出が期待されています。
ルネサンス・アカデミーと日本語センター
2019年1月、ルネサンス・アカデミー株式会社が、株式会社日本語センターを買収しました。
買い手となったルネサンスアカデミーはオンライン教材を活用した学習サービスを提供しています。売り手となったルネサンスアカデミーは外国人向け日本語研修と日本語教員養成講座を運営する会社です。
ルネサンス・アカデミーはこの買収により、海外在住者向けの教育サービス提供や、日本語研修および日本語教員養成講座のオンライン化を進め、新規顧客創出を目指しています。デジタル技術と従来の教育ノウハウを融合させることで、より効果的で広範囲な日本語教育サービスの展開が期待されます。
日本語学校業界でM&Aを活用するメリット
日本語学校業界でM&Aを活用する主なメリットとしては、以下の3点が挙げられます。
- ・学生を確保できる
- ・教員などの人材確保につながる
- ・不動産と設備の取得が可能
それぞれ見ていきましょう。
学生を確保できる
M&Aを通じて日本語学校を買収することで、売り手側の学校に在籍する学生をそのまま引き継ぐことが可能です。これにより、安定的な学校運営の基盤を即座に確立できます。
新規で学生を募集する場合、多額の広告費用や時間が必要となりますが、M&Aではこれらの経費や労力を大幅に削減できるでしょう。結果として、効率的かつ迅速な事業拡大が可能となります。
教員などの人材確保につながる
M&Aを実施することで、経験豊富な教職員を一括して確保でき、教師募集にかかる費用や時間を節約できます。
日本語学校運営において、質の高い日本語教師の確保は極めて重要です。コロナ禍で一時減少した教員数は2022年にはほぼ回復しましたが、業界全体では慢性的な教師不足が続いています。そこでM&Aを実施すれば、既に日本語教育の経験がある教員を獲得できるため、生徒に対してより充実した学習環境を提供することが可能です。
これは生徒の満足度向上につながり、結果として学校のブランド力強化にも寄与します。質の高い教育サービスを迅速に提供できることは、競争激化する日本語学校業界において大きな優位性となります。
不動産と設備の取得が可能
日本語学校には、多数の生徒を受け入れるための広い校舎と充実した設備が必要です。しかし、新規に校舎を建設したり、既存の施設を拡張したりする場合、莫大な費用と時間がかかるでしょう。また、適切な立地の確保や周辺環境の調査など、さまざまな課題に直面します。
M&Aを通じて既存の日本語学校を買収することで、これらの課題を一挙に解決できます。既に整備された校舎や設備を即座に取得でき、事業展開にかかる時間とコストを大幅に削減できるのです。これにより、迅速かつ効率的な事業規模の拡大が可能となり、競争力の強化につながります。また、既存の立地を活用することで、周辺地域との関係性を引き継げる点もメリットです。
日本語学校業界におけるM&A成功のポイント
日本語学校業界でM&Aを成功させるには、相手企業の質、安定性、そしてネットワークの強さを見極めることが重要です。適正校の認定状況、教師と生徒の安定性、海外とのつながりなど、複数の要素を慎重に評価することが成功への鍵となります。
適正校の認定を受けている相手を選ぶ
M&Aの相手企業を選定する際、「適正校」の認定を受けているかどうかは極めて重要な判断材料です。
日本語学校は「適正校」と「非適正校」に分類され、法務局から「適正校」として認められることで複数の利点が生まれます。
適正校では、在留資格認定証明書の交付手続きが簡素化されたり、在留資格期間の更新が不要になるなど、外国人生徒にとって大きなメリットがあります。これにより、適正校は社会的信用度が高まり、より多くの留学生を集めることが可能です。
上記のように、適正校の認定は学校の質を示す重要な指標であり、将来的な収益性にも大きく影響します。したがって、M&Aを検討する際には、相手企業が適正校であるかどうかを慎重に確認することが、成功への重要なステップとなります。
教師数と生徒数が安定しているかを確認する
日本語学校の経営において、生徒数と教師数の安定は収益の安定に直結する重要な要素です。M&Aを通じて生徒数を増やせるかどうかは、成功の鍵を握るポイントの一つです。
同時に、日本語教育業界で慢性的な人材不足が続いていることを考慮すると、売り手側の教員数や教員の指導力も重要な評価基準となります。M&Aの検討過程では、教員の離職率や、自校に不足している分野の教員が在籍しているかなど、綿密な調査を行うことが不可欠です。これらの要素を慎重に評価することで、M&A後の安定した学校運営と質の高い教育提供が可能となります。
ネットワークの保有状況を確認する
日本語学校の留学生募集は、主に海外の留学仲介業者を通じて行われています。そのため、M&Aの相手企業が持つ海外ネットワークの規模と質は、非常に重要な評価基準となります。
新たにエージェントを開拓したり、適切なパートナーを選別したりするには多大な時間と労力が必要です。既に広範かつ質の高いネットワークを保有している企業を選べば、M&A成功に大きく寄与することでしょう。このようなネットワークを獲得することで、効率的な学生募集と安定した経営基盤の構築が可能になります。
日本語学校業界における今後のM&Aの課題と展望
日本語学校業界は現在、回復傾向にあるものの、コロナ禍の長期的影響により経営難に陥っている学校も依然として存在します。一方で、増加する需要に対応するため、事業拡大や安定成長を目指す動きも見られ、人材不足解消のための事業譲渡やグループ再編が進んでいます。
将来的には、エッセンシャルワーカーなどの人材不足が予測されており、日本語を学習する外国人は増加するでしょう。これに伴い、日本語学校で学ぶ外国人学生も増加すると予想されます。
このような状況下で、M&Aは世界情勢の影響を受けつつも、二極化が進む日本語学校業界の課題解決策として重要な役割を果たすと考えられます。規模の経済を活かした効率的な経営や、多様化する学習ニーズへの対応など、M&Aを通じた業界再編は今後も加速していく可能性が高いといえます。
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