アパレル業界のM&A動向 昨今の事業買収・売却の事情やM&A事例を紹介

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アパレル業界のM&A動向について

アパレル産業は、1960年代に量産型の既製品が普及したのを皮切りに、70~80年代にかけてファッション性を重視したデザインが流行するようになりました。現在はOEM生産・ODM生産が積極的に行われているのが特徴であり、時代と共に移り変わりが見られます。

本記事では、アパレル業界の特色や市場規模、M&Aの動向などについて詳しく解説します。アパレル業界のM&A事例やM&Aを実施するメリットなどもあわせて解説するので、ぜひ参考にしてください。

アパレル業界の概要

アパレル業界は、衣類の製造から販売までを担う幅広い産業であり、多様なビジネスモデルやブランド戦略が展開されています。まずは、アパレル業界の定義と特色について見ていきましょう。

アパレル業界の定義

アパレルとは「衣料」を表す言葉で、広義では、あらゆる衣料の製造および流通に携わる産業を包括して、アパレル産業と呼びます。
アパレル産業は、一般的にイメージされるアパレルブランドのように、衣類の完成品の販売を行う企業、素材や衣類のデザイン・製造・流通を行うメーカー、加えてそれらを一括して行う製造小売業(SPA)に分けられるのが通常です。

アパレルのサプライチェーンは概ね素材調達、衣類製造、および販売に大別できますが、本ページでは主に「衣類製造と販売」という、中間から川下領域を担うアパレル業界を前提とします。

アパレル業界の特色

アパレル産業として、量産型の既製品が普及したのは、戦後1960年代になってからです。それまではオーダーメイドが主流でしたが、70〜80年代になると、単一的なデザインのものではなく、ファッション性を重視した服が出現し大流行しました。この頃は、DC(デザイナー&キャラクター)ブランドブームといわれ、新たなデザイナーズブランドが多く生まれました。
1990年代に入ると、ユニクロを筆頭に、低価格でありながら品質の良い商品を大量に提供するブランドが現れます。さらにGAP、H&MやZARAなどの外資系ファストファッションと呼ばれるブランドも続々と日本に参入し、徐々に業界全体として、ハイブランドとファストファッションへの二極化傾向が進みました。また、そのどちらにも属さない中間的なブランドは、淘汰が進みました。

アパレル業界のビジネスモデルとして特徴的なのは、主に自社で工場を保持し生産する方法のほかに、OEM生産やODM生産が積極的に行われていることです。自社(ブランド)でデザインや商品企画、販路を用意し、他社に生産を委託した商品を自社ブランド名で提供するのがOEM生産であり、国内外の多くの企業がこの形態をとっています。
一方、商品のデザインや企画そのものも他社に委託し、完成したサンプルを確認してから、仕入れるかどうかを決める仕組みがODM生産です。商品数やラインナップの移り変わりが激しいファストファッションブランドでは、この仕組みを取り入れている企業が多くみられます。

アパレル業界のM&A動向・市場規模

衣服・身の回り品卸売業
参考:商業動態統計調査 時系列データ

2000年に15.6兆円あった市場規模は、2024年には4.2兆円まで縮小しており、日本のアパレル市場の規模は縮小傾向にあります。これは、日本全体の少子高齢化・人口減少と経済成長の停滞による、消費者レベルでの需要減退が要因にあるものと考えられます。特に、消費者レベルでの需要は、過去20年強でほぼ半減している状況です。

物販系分野のBtoC-EC市場規模
画像出典:令和5年度 電子商取引に関する市場調査

2023年の日本国内アパレルEC市場規模は2兆6,712億円となっており、物販系EC分野のなかでも特に大きな割合を占めています。アパレル分野のEC化率は22.88%と、全体のBtoC-EC化率(9.38%)を大きく上回っています。

このように国内市場が縮小していく一方で、新たな販売チャネルとして、EC(Electronic Commerce:電子商取引)の飛躍的な台頭や、ファストファッションの浸透によるアパレル業界の二極化という大きな構造変化も見られます。
アパレル業界では、サプライチェーンの統合やEC事業の強化、商品ラインナップの拡充等を目的に、数多くのM&Aが実施されています。

アパレルでM&Aを活用するメリット

アパレル業界でM&Aを実施する主なメリットとしては、以下が挙げられます。

一つずつ見ていきましょう。

ファン層を拡大できる

M&Aにより、異なるブランドの世界観をもつアパレルメーカー同士が統合することで、ファン層の拡大が期待できます。M&Aによるターゲット層の拡張は、流行の変化が速い市場でブランドの生存力を高める戦略です。
例えば、コラボ商品や新ブランドの立ち上げは、さらなる競争力強化に貢献します。また、独自のSNS・EC戦略(インフルエンサー発信、ライブコマース等)を持つメーカー・ブランド同士が統合すれば、ECやSNSでの顧客エンゲージメントも強化できるでしょう。
異なるオムニチャネル戦略を持つブランドを統合することも、顧客接点の拡充に有効です。ブランド価値や電子取引における顧客接点の重要性が高まるなか、M&Aによるファン層拡大は効果的な戦略です。

サプライチェーン統合により業務コストを削減できる

グローバル生産や多拠点物流が一般的なアパレルにおいて、サプライチェーンの統合は大幅なコスト削減効果が期待できる戦略です。多品種小ロット生産におけるスケールメリットの享受や、製造・調達コスト削減が期待できます。
また、トレンド変化に伴う過剰在庫や値引きリスク、欠品リスクを低減し、高い粗利率の維持も実現できるでしょう。さらに、各ブランドや店舗で乱立しがちなシステムや業務フローを標準化・デジタル化することで、管理コスト削減と全体効率の向上が可能です。

人材・ノウハウの獲得により競争力向上につながる

トレンドを生み出すクリエイターやMDなどの希少な専門人材は、アパレル業界内でも獲得競争が非常に激しい存在です。M&Aによってこれらの人材を獲得すれば、商品企画・開発力を強化できるでしょう。

また、相手企業が有する独自ノウハウ(感性、ブランド体験創出、デジタルマーケティング戦略等)を吸収すれば、市場での差別化と競争優位性の構築に役立ち、結果として自社の企業成長につながります。
特にグローバル展開やD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)など、アパレル特有の成長戦略に必要な専門ノウハウやデジタル人材、データ分析力を迅速に獲得する手段としても、M&Aは有効です。

アパレルのM&A事例

アパレル業界では、ブランド強化や事業成長、人材・ノウハウ獲得を目的としたM&Aが活発に行われており、数々の成功事例が生まれています。代表的なものをいくつか見ていきましょう。

W&Dインベストメントデザインとアパレル商社とリデア

投資会社とアパレル商社が組んで、経営不振に陥った企業を買収した事例です。2020年11月、日本政策投資銀行が出資する投資会社W&Dインベストメントデザインと、アパレル商社の八木通商ならびにワールドは共同で、民事再生法を適用したリデアとスポンサー契約を締結しました。
過剰投資や創業者の急逝に加え、新型コロナウイルス感染症の影響により、経営が悪化したリデアから事業を引き継いで立て直しを図り、2年後に黒字化に成功しました。

ニッセンとマロンスタイル

通販大手が、専門特化型EC事業者を買収した事例です。2019年2月、通販大手である株式会社ニッセンが、女性向けラージサイズ服特化のECサイトcletteを運営する株式会社マロンスタイルを完全子会社化しました。
ニッセンは、カタログ通販事業からEC事業への移行に出遅れた結果、セブン&アイ・ホールディングスの傘下で経営再建を進めており、本件によりEC向けの商品ラインナップを拡充し、EC事業を強化することを狙いとしています。

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TSIホールディングスと3ミニッツ

大手企業がEC事業者から、特定のブランドに関する事業を買収した事例です。2020年8月、大手の株式会社TSIホールディングスが、動画マーケティング事業者である株式会社3ミニッツから、アパレル事業ETRÉ TOKYOを取得しました。
同事業は、ライブコマースの手法を活用した販促というユニークな特徴を有しており、TSIホールディングスは、動画やインフルエンサーの活用を通じてデジタルマーケティングを強化することを目的としています。

アダストリアとゼットン

2024年3月、株式会社アダストリアは、株式会社ゼットンを完全子会社化しました。
両社は2021年に資本業務提携を行い、それ以降ブランドの相互展開などで連携を深めてきました。この完全子会社化は、より迅速かつ機動的な経営戦略の実行や、経営資源のさらなる活用を目的としたものです。
両社はこのM&Aにより、両社の強みを活かした事業拡大と、企業価値向上を図るとしています。

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株式会社サザビーリーグとコヒナ(COHINA)

2024年8月、株式会社newnは、アパレルブランドのCOHINA(コヒナ)事業を、株式会社サザビーリーグに事業譲渡しました。これは、小柄女性向けブランドとして独自のポジションを築いてきたCOHINAが、今後さらに多くの顧客に価値を届けるための成長戦略の一環です。
COHINAは2018年の立ち上げ以来、SNSやファンマーケティングを活用して熱心な支持層を獲得してきましたが、より大きなブランド成長とグローバル展開を目指すなかで、40以上のブランド運営と高いクリエイティビティを持つサザビーリーグとの連携が最適と判断されました。

このM&Aにより、COHINAのブランド価値やコミュニティを維持しつつ、サザビーリーグのノウハウやネットワークを活かした事業成長、より多くの小柄女性への価値提供が期待されています。

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株式会社yutoriと株式会社えをかく

2024年11月、株式会社yutoriは、株式会社えをかくを完全子会社化しました。この背景には、両社の強みを融合し、さらなる成長と企業価値向上を目指す戦略があります。

株式会社yutoriはZ世代を中心としたアパレルEC事業で急成長を遂げた企業です。一方、えをかくは人気ブランド「over print」を展開し、クリエイターや若年層から高い支持を得ています。
今回のM&Aにより、yutoriはえをかくのブランド力やクリエイティブノウハウ、コミュニティ形成力を取り込み、商品開発力やマーケティング力の強化、新たな顧客層の獲得を図ります。両社の連携によって、より多様な価値提供と持続的な成長が見込まれます。

アパレルにおけるM&A成功のポイント・注意点

アパレル業界でM&Aを成功させるには、ブランド価値の継承や顧客体験の統合、現場裁量の確保など、業界特有の要素に配慮した戦略設計が重要です。

それぞれ見ていきましょう。

ブランドを再構築する際には細心の注意を払う

アパレル業界において、ブランドとは「世界観」や「ストーリー」であり、顧客にとって大きな価値を持ちます。
そのため、ブランド統合後も、ビジュアルやコンセプトの整合性には細心の注意を払い、既存ブランドが持つストーリーやイメージの連続性を保つことが必要です。売り手企業・買い手企業のターゲット顧客層の嗜好を深く分析し、ブランドの統合・残置・切り離しなど適切なバランスと方向性を明確に定めましょう。

特にブランドロゴや名称の変更は顧客に与える影響が大きいため、M&A実行前にはデューデリジェンスによりブランドごとの業績やターゲット顧客の特性、商品構成比率などを詳細に分析し、再構築戦略を設計することが重要です。

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顧客との信頼関係を大切にする

既存顧客の会員データ、ポイントサービス、購買履歴などを正確に引き継ぎ、中断なくサービスを提供することで、顧客離れを防ぎましょう。また、M&A後に商品価格、品質、店舗での接客方針などが急激に変化しないよう注意深く運用することも重要です。これらの施策は、PMIで重視される顧客体験の統合に直結します。
また、PMIではデータやサービスの正確な移管だけでなく、店舗スタッフやSNS運用チームなど、現場の最前線と連携した実行体制が欠かせません。SNS、メールマガジン、リアルイベントなどを活用して顧客接点を設け、「変わらないブランド価値」や「進化による新たな魅力」を積極的に発信することも有効です。

顧客との密なコミュニケーションと、そこから得られたフィードバックをサービス改善や新たな施策に反映させることで、顧客からの信頼が深まり、満足度とロイヤルティの維持・向上に役立ちます。

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トレンドの変化に対応できる組織体制を整える

アパレル市場のトレンド変化の速さを考慮し、M&Aの実施後も、特に売り手側のブランドに対して、現場に一定の裁量を残すよう組織体制を検討しましょう。

商品開発や販売計画に関する現場からの情報やアイデアが、迅速に経営判断に反映されるような、柔軟な意思決定フローを構築します。
また、複数のブランドを展開する場合には、それぞれの独自性や柔軟性を保つために、「分権型統合」など中央集権型以外の統合方針を選択肢に入れることも一案です。

統合プロセス(PMI)の期間中であっても、季節ごとの商品展開やタイムリーなSNS発信など、アパレル特有の業務が滞らないように、運用計画を事前に綿密に設計してください。

これからのアパレル業界:課題とM&A活用の展望

アパレル業界は、少子高齢化や人口減少、消費者需要の減退などの構造的課題を抱え、市場規模が長期的に縮小傾向にあります。
一方で、EC市場の拡大やファストファッションの台頭、消費者ニーズの多様化といった環境変化を受け、業界再編や成長戦略の一環としてM&Aが活発化しています。
今後のアパレル業界のM&Aでは、ブランドイメージや顧客ロイヤルティの維持、トレンド対応力を損なわない柔軟な組織運営など、統合後のシナジー最大化が重要な課題です。また、デジタル化やグローバル展開、サステナビリティ対応などの新たな成長領域への挑戦も不可欠です。

今後は、単なる規模拡大やコスト削減にとどまらず、ブランド価値や顧客体験の向上、デジタル人材の獲得・育成など、中長期的な競争力強化を見据えたM&A戦略がもとめられるでしょう。

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よくある質問

  • アパレル業界の市場はなぜ縮小しているのですか?
  • 少子高齢化や人口減少、経済成長の停滞により消費者需要が減少し、2024年の市場規模は2000年比で約4分の1にまで縮小しています。
  • アパレル業界でM&Aを行うメリットは何ですか?
  • ファン層の拡大、サプライチェーン統合によるコスト削減、人材・ノウハウの獲得による競争力向上などが挙げられます。
  • M&A後にブランド価値を維持するにはどうすればよいですか?
  • ブランドのストーリーや世界観の連続性を保ちつつ、顧客の信頼関係やサービス水準を損なわないことが重要です。
  • アパレル業界の今後のM&Aの課題は何ですか?
  • ブランドイメージの継承、トレンド変化への柔軟な対応、デジタル化・サステナビリティなど新たな成長領域への対応が課題です。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社広報室 室長齊藤 宗徳
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 広報室 室長
株式会社レコフ リサーチ部 課長
齊藤 宗徳

2007年、立教大学経済学部経営学科卒業後、国内大手調査会社へ入社し、国内法人約1,500社の企業査定を行うとともに国内・海外データベースソリューション営業を経て、Web戦略室、広報部にて責任者として実績を重ねる。2019年大手M&A仲介会社へ入社し、広報責任者として広報業務に従事。
2021年M&Aキャピタルパートナーズ入社後は、広報責任者として、TV番組・CMなどのメディア戦略をはじめ広報業務全体を管掌、2024年より現職。
一般社団法人金融財政事情研究会認定M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者



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