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プラント業界は、エネルギー構造転換や老朽設備の更新など、国内外で多岐にわたる課題とチャンスを抱えています。その中でM&Aは、事業拡大や技術力の強化、さらには人材確保といった多角的な視点で非常に有効な選択肢となり得るでしょう。
当記事では、市場規模や買収事例を踏まえながら、プラント業界がいかに変化し、どのような将来像を描いているのかを解説します。企業がM&Aを進めることには、技術革新や海外展開への対応力を高め、持続的な成長を実現する可能性も広がっています。
プラント業界の定義
プラント業とは、プラント(工場設備)の建設に関わる事業のことを指します。工場の種類としては、発電や石油精製、石油化学、製鉄、都市ごみ処理・清掃工場などが挙げられます。
プラント業界の特色
プラント業界には、幅広い業種が関わっています。具体的には、プラントの設計、機器や資材の調達、建設をする「エンジニアリング会社」、工場に機械を製造、納入する「機械メーカー」、機器の計測やコントロール機器を扱う「計装制御メーカー」、土木建設を行う「ゼネコン」、プロジェクトの組成や事業出資する「商社」、建設工事やメンテナンス工事を手がける「工事会社」など、非常に幅広い業種がプラント建設に携わっています。
市場の規模
※出典:経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」
経済産業省の「特定サービス産業動態統計速報」によると、プラント業界の市場規模は、2023年度で約8兆8,874億円です。統計を開始した1994年度は約11兆9,383億円で、そこからの推移を追うと、1996年度が約12兆2,825億円と調査期間内で最大規模となっています。以降は増減を繰り返し、ここ10~20年は約7~9兆円の市場規模を維持しています。
国内・国外別
プラント業界の市場規模の変動は、国内外に分けると異なる傾向が見られます。国内の市場規模の推移は、ほとんど市場全体の規模の推移と同様です。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、国内の市場規模は2012年度に約5兆2,295億円まで落ち込むものの、その後は少しずつ回復し、2023年度には約7兆4,420億円に達しました。
一方、国外の市場規模は、2005年度に統計上最大の約3兆4,222億円となりましたが、2023年度は約1兆4,453億円にとどまっています。
プラント・施設別
経済産業省の「特定サービス産業動態統計速報(2022年12月)」によると、2022年12月の受注高におけるプラント・施設別の構成比は、電力プラントシステムが市場全体の31.1%を占め、その次に化学プラントが13.4%となっています。
経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」では、電力プラントシステムの市場規模は、調査開始の2002年度と2023年度を比較すると、約1兆7,950億円から約3兆1,086億円に拡大しました。化学プラントの2023年度の市場規模は、約1兆295億円です。
市場の動向
プラント業界の動向は、国内だけでなく世界情勢も受けてさまざまな変化を起こします。ここでは、市場の動向に影響を及ぼす要素を解説しますので、プラント業界の変動を予想する際の参考にしてください。
天然ガス需要の高まり
世界規模でエネルギーの安定供給や確保が重要視される中で、2021年からエネルギー価格は上昇傾向にあります。2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻によって、液化天然ガス(LNG)の需要が高まったためです。
欧州を中心に天然ガスの「ロシア離れ」が進む中、今後は世界各地でLNGプラントの建設需要が高まると考えられるでしょう。
脱炭素社会に向けた再生可能エネルギーへの転換
各国ではパリ協定に従い、2020年以降の脱炭素の目標実現に向けてエネルギー政策を実施し、化石エネルギーからほかのエネルギー源への転換が進んでいます。経済産業省 資源エネルギー庁の「エネルギー白書2024」によると、世界のエネルギー消費量が年々増加する中で、再生可能エネルギーのシェアは2022年に7.5%まで上昇しました。
パリ協定の最終目標は、温室効果ガスの排出をゼロにすることです。そのため、太陽光や洋上風力などを活用した再生可能エネルギープラントの需要が高まると予想されます。
国内では特に洋上風力発電への注目が高まっており、洋上風力発電プラント増設に向けた下地が準備されています。2019年には港湾法の一部を改正し、国が指定した港の一部を洋上風力発電の用地として長期的に貸し付けられるようになりました。
新興国や開発途上国の経済成長による電力需要の上昇
新興国・開発途上国の経済成長に伴ってエネルギー消費が増加することから、電力プラントの需要が伸びる可能性があります。経済産業省の「令和6年版 通商白書」における2024年4月の見通しでは、2023年の先進国の実質GDP成長率は1.6%なのに対し、新興国・発展途上国は4.3%となっています。
また、2050年までに世界の人口は約17億人増加すると予測されており、そのほとんどはアジアやアフリカの都市部です。新興国・開発途上国の人口増加によって電力需要が高まれば、電力プラントの重要性はさらに増すでしょう。
石油製品の国内需要の落ち込み
石油製品の国内消費は年々減少しています。経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部による「令和5年資源・エネルギー統計年報」において、国内の石油製品月別国内向販売を見ると、2019年は165,514,014キロリットルでしたが、2023年には146,823,040キロリットルになっています。
そうした動向を受けて、石油元売会社では合併や資本譲渡などによる業界再編が進んでいます。ENEOSの石油便覧によると、1984年までは17社あった石油元売会社は、2023年7月の時点で出光興産・ENEOS・コスモ石油・キグナス石油・太陽石油の5社のみとなりました。石油製品の国内需要の落ち込みに伴う石油元売会社の業界再編の余波で、石油化学系プラントの停止や廃止が進むと予測されます。
水素・アンモニアの導入拡大
近年、石油などの化石燃料の代替として水素やアンモニアが候補に挙がっているため、水素・アンモニア関連のプラント建設の需要が伸びる可能性があります。水素・アンモニアは、安価で長期的に大量のエネルギーを安定供給できると期待されている物質です。電化が難しい分野に活用しやすく、汎用性が高い点も脱炭素化に適したエネルギーとして注目されています。
経済産業省では、エネルギー政策の柱として、水素・アンモニアへの転換を掲げています。水素・アンモニアのエネルギー化は重要分野の1つとして挙げられており、2021年に閣議決定された第6次エネルギー基本計画にも2030年に電源構成の1%を水素・アンモニアに置換すると明記されています。
水素・アンモニアは国家戦略上でも重要な位置づけとされていることから、水素・アンモニア関連のプラントは中長期的な需要が見込まれるでしょう。
今後の課題
プラント業界は明るい話題も多いものの、社会情勢の変化に伴い、経営上や運営上のさまざまな課題に直面しています。ここでは、プラント業界の今後の課題を具体的に解説します。
プラント設備の老朽化に対応できる人材の不足
国内の多くのプラント設備は高度成長期に建設されており、中には稼働から50年以上を迎えるものもあります。老朽化したプラント設備をそのまま放置すると、爆発事故などの重大事故につながりかねないため、安全に稼働を続けられるよう点検や施工を行う必要があります。
しかし、プラント設備の老朽化に対応できるだけの技術力を持つ人材が不足しているのが現状です。経済産業省の「日本の産業保安政策について(スマート保安を中心に)」という資料では、2019年時点でプラント事業者の従業員の46%が45歳以上であり、2030年以降に定年退職を迎えることが示されています。
プラント設備のメンテナンスには高い技術力が要求される一方で、ベテランの大量退職を前に人材の補充・育成は進んでいません。厚生労働省の「令和5年上半期雇用動向調査結果」によると、2023年における「学術研究、専門・技術サービス業」の入職率は7.5%、離職率は7.7%、欠員率は1.6%です。また、同省の「一般職業紹介状況(令和6年10月分)」では、2024年6月時点での製造技術者(開発)の有効求人倍率は1.98倍になっています。
上記の数字はプラント業界に限るものではなく、他業界の数値も含まれています。とはいえ、入職率より離職率が高く、求人に対して求職者が少ない事実が浮き彫りになっていると言えるでしょう。今後、ベテラン従業員の大多数が高齢化を迎える中、熟練層から若年層への技術継承が急務となっています。
時間外労働規制による労働力の不足
プラント設備のメンテナンスに関わる問題として、時間外労働規制による労働力不足も挙げられます。プラント設備には、日常的な点検・作業とは別に、定期修理と呼ばれる作業が必要です。定期修理はプラント設備を完全に停止させて行うため、数か月以内に人員を集中的に投入して短期間で完了させることが求められます。早期に作業が終わるよう、定期修理の期間中は長時間労働が発生するケースも少なくありませんでした。
しかし、2024年4月からはプラント設備の定期修理をはじめとする建設業の仕事に、時間外労働の規制が設けられました。法律では、時間外労働の上限が原則月45時間・年360時間と定められています。そのため、これまでのように長時間の残業で定期修理を終わらせるのは困難となりました。ただでさえ人材が不足している中、一人ひとりの労働時間が短くなると、期間内に修理を完了できなくなる恐れがあります。
IoTやAIによるプラントのスマート化
エネルギーを扱うプラント業界では、労働者や国民の安全を守ることが重要です。経済産業省では、IoTやAIを導入した「スマート保安」を推奨しています。プラント業界ではもともと装置やシステムを多用しており、比較的IoTやAIを導入しやすい産業です。
しかし、職場にIoTやAIを活用できる人材が少ないなどの理由から、スマート保安の導入が阻害される場合もあります。2022年に行われた富士電機の調査によると、IoT/AIを利用・活用していく上での阻害要因としてもっとも多い回答は「IoT/AIに関する人材不足」で、52.5%にものぼります。
プラントのスマート化を進めるには、プラントとIoT・AIの両方に詳しい人材を確保する必要があります。とはいえ、人手不足の中で高度な知識を持つ人材を登用するのは簡単ではありません。
収益の安定化
日本のプラント業界では、国内市場は緩やかな回復傾向を見せながらも、新規事業は頭打ちになりつつあり、海外事業を活発に拡大する傾向にあります。しかし、海外市場は韓国などの海外企業との価格競争が激化している状況です。受注できても、競合企業と比較されて低価格化が求められ、収益が不安定になる恐れがあるでしょう。
収益の安定化を図るためには、プロジェクト管理業務や技術コンサルティング、メンテナンスなど、中長期の経営を見据えた分野での事業拡大が求められます。
プラント業界のM&A動向
プラント業界では、さまざまな課題解決の一環としてM&Aが行われることもあります。ここでは、プラント業界のM&A事例を具体的に紹介します。
ベステラ株式会社による株式会社矢澤の子会社化
ベステラ株式会社と株式会社矢澤は、プラント解体事業を主軸に展開している業者です。ベステラ株式会社は「リンゴ皮むき工法」をはじめとする特殊な解体技術を有している一方、株式会社矢澤はアスベストやダイオキシンなどの有害物質対策を得意としており、お互いに明確な強みを持っています。
今後、解体・更新時期を迎えるプラント設備が増え、プラント解体工事の需要増加が見込まれることから、解体事業における競争力向上を目的に2021年にM&Aに踏み切りました。
株式会社高田工業所による渡部工業株式会社の株式取得
株式会社高田工業所は、石油・天然ガスや化学、製鉄、原子力エネルギーなど、さまざまなプラントの設計・施工・メンテナンスに携わっている企業です。一方、渡部工業株式会社は、主に北海道で石油・天然ガスプラントの設計・施工を行っています。
株式会社高田工業所では、プラントの生産・施工体制の再構築や事業拡大を図っており、石油・天然ガスプラント部門の増強を図るべく渡部工業株式会社を2020年に完全子会社化しています。
ニューホライズンキャピタル株式会社による岩田産業株式会社の株式取得
ニューホライズンキャピタル株式会社と岩田産業株式会社は、プラント・インフラ企業同士ではなく、異業種同士のM&Aの例です。
ニューホライズンキャピタル株式会社は、主に投資に関する業務を行う企業です。幅広い企業に投資しており、建設業や製造業、廃棄物処理業などにも多く投資しています。岩田産業株式会社は、鉄工所として創業された強みを生かして建設業界へ進出し、上下水道施設のプラントを中心とした社会インフラを扱っています。
2020年、ニューホライズンキャピタル株式会社は、水道インフラの老朽化対策に活路を見出すべく、岩田産業の株式を取得する形で投資を行っています。
日工株式会社による宇部興機株式会社の子会社化
2022年、日工株式会社は国内収益基盤の強化と新規事業拡大を目的に、宇部興機株式会社を子会社化しました。日工株式会社は主に建設廃棄物の処理や燃料転換などを扱う業者です。一方、宇部興機株式会社はプラント工事などをはじめとする社会インフラ設備を扱っており、プラントの建設も行っています。
日工株式会社と宇部興機株式会社の事例は、厳密には同業同士ではなく、隣接業界同士のM&Aです。建設業と建設廃棄物という関連性の強い企業で結び付くことで、隣接業界ならではの強いシナジーが期待できるでしょう。
株式会社マイスターエンジニアリングによる株式会社テクノ・スタッフの株式取得
株式会社マイスターエンジニアリングは、建物や設備の保守・運用と、半導体・液晶製造設備、産業機器の新設・メンテナンスなど、インフラ運営を包括的に取り扱う企業です。株式会社テクノ・スタッフは、石油精製や石油化学プラントなど、石油に特化した設備に携わっています。
株式会社マイスターエンジニアリングは産業機器に関する造詣が深く、株式会社テクノ・スタッフは石油プラントに特化したノウハウを持っています。お互いの強みを生かし、新たな事業展開につなげるために2023年にグループに迎えました。
売却企業側の株式会社テクノ・スタッフは当初、M&Aに漠然とした不安を抱いていました。株式会社マイスターエンジニアリングは面談を数度繰り返してお互いの距離を縮め、従業員にも丁寧に説明することでM&Aに成功しています。
住友重機械工業株式会社によるフランスLASSE社の株式取得
2024年、住友重機械工業株式会社は、半導体分野の成長とグローバルな事業展開を図るためにフランスのLASSE社の株式を取得しました。住友重機械工業株式会社では、事業戦略を成功させるために、ヨーロッパのメーカーと強固な関係を結んでいる企業としてLASSE社を子会社に選んでいます。
LASSE社は半導体製造装置を扱う企業です。もともとは株式会社SCREENセミコンダクターソリューションズ(SCREEN SPE社)のグループ会社でした。そのため、住友重機械工業株式会社は、SCREEN SPE社から株式を取得することでLASSE社の事業承継を受けています。
プラント業界でM&Aを行う際の注意点
M&Aの効力を最大限に発揮するためには、メリットだけでなく、M&Aの注意点も押さえておく必要があります。特に、巨大な設備を扱うプラント業界では、M&Aの際に生産設備の最適化などに巨額の投資を伴う場合があります。プラント関連企業を買収する場合は、当初の予定より買収費用がかさむことも念頭に置いて計画を練りましょう。
また、プラント業界では他業種からの参入目的の買収もあります。自分の所属する会社が売却されることが原因で、不安を抱く従業員、離職する従業員もいます。特に、プラント業界はベテランを中心とした人手不足が課題です。他業種に売却する際は、相手企業が「社会インフラを担っているという使命感を共有できるか」「モチベーション低下や離職を防ぐために従業員のケアやサポートを徹底してくるか」を慎重に検討しましょう。
たとえ、同じプラント業界に携わる企業同士でも、そこに根付く企業文化は異なります。企業文化の違いによる衝突が人材流出を進める場合もあるので、M&Aの際は両社でじっくり打ち合わせを行い、お互いに対する理解を深めることも大切です。
プラント業界は社会情勢の影響を受けやすく、近年はますます競争が激化しています。M&Aにあたっては、他分野への市場拡大・自社の主幹業務の強化といった戦略を明確化し、期待できるシナジー効果を分析した上で統合を進めましょう。
まとめ
プラント業界では、脱炭素社会への移行や新興国の需要増加を背景として、多様なエネルギー源の導入やインフラ整備がますます重要になっています。一方で、老朽設備への対応や人材不足といった課題も依然として深刻です。
当記事で紹介したM&Aの事例は、こうした問題解決と競争力強化を狙う企業の動向を示しています。企業文化の違いを尊重しつつシナジー効果を十分に引き出すことが、プラント業界でのM&A成功の鍵となるでしょう。
M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーとして、中小M&Aガイドラインを遵守し、お客様の期待する解決・利益の実現のために日々取り組んでおります。
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よくある質問
- プラント業界のM&Aが重要な理由は?
- 事業拡大や技術力の強化、人材確保など多角的な視点で非常に有効な選択肢となり得るためです。
- プラント業界の市場規模はどれくらいですか?
- 2023年度で約8兆8,874億円です。
- プラント業界の今後の課題は何ですか?
- 老朽設備への対応や人材不足、時間外労働規制による労働力不足、IoTやAIによるスマート化、収益の安定化などが挙げられます。
- プラント業界で注目されているエネルギー源は?
- 再生可能エネルギーや水素・アンモニアが注目されています。

