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日本の建機(重機)業界は国内外で評価が高く、世界的なシェアを持つメーカーも複数存在しています。次世代重機の開発やDXの導入による効率化、さらにM&Aを通じた事業拡大なども進められており、2022年・2023年には前年に比べて大幅な成長を見せました。
この記事では、建機業界の現状と市場規模、主要企業の動向、課題への取り組み、M&A事例について詳しく解説します。この記事を参考に、業界の動向を深く理解し、今後のM&A戦略策定に役立ててください。
目次
建機(重機)業界の定義
建機(重機)業界とは、工事現場などで使用されている機械の製造・販売・整備・レンタルなどに携わる業界です。
建機には明確な定義はありませんが、一般的には主に土木工事や建築工事、道路舗装などの現場で利用されている、ショベルカーやトラクターなどの機械を指します。また、製鉄所や造船所などで利用されるフォークリフトのほか、クレーン、除雪車なども建機に含まれます。
建機業界はゼネコンなどの企業を顧客とする業界です。顧客・現場によって建機の用途や求められる機能が異なるため、ニーズに合った製品を提案するスキルも求められます。
建機(重機)業界の特色
建機(重機)業界に分類されるのは、以下のような重機を扱う企業です。
- 鉱山機械
- 化学機械
- 環境装置
- 動力伝動装置
- タンク
- ボイラ・原動機
- プラスチック加工機械
- 風水力機械
- 運搬機械
- 製鉄機械
- ポンプ
- 圧縮機 など
建機業界はさまざまな産業に影響があり、特に宇宙産業や、航空産業、防衛産業との関係性が深い点も特徴です。
建機は同じ仕様の製品を大量生産して販売するのでなく、案件ごとに顧客のニーズを的確に把握して建機を開発・製造することが求められます。自社で設計した建機を製品化する際には、製造した建機の約4割をメーカー直販などで顧客に販売し、約6割はレンタル・リースされるのが一般的です。
また、建機業界では、他業界と比べて製品設計においてトレンドの影響が小さい傾向があるとされます。建機の開発において差別化を図るためには、技術力と実績を生かした製品開発・製造スキルが重要な要素であり、売上維持に独自のノウハウが不可欠です。
製品の売却後は長期的にメンテナンスや整備も実施するため、顧客と長く良好な関係を続けることも求められます。日本の建機業界は世界的にも高い評価を得ており、海外進出を進める企業も少なくありません。
建機(重機)市場の規模
建機業界においてM&Aを検討する際は、建機業界の市場規模や国内外の現状についてしっかりと把握しておくことが重要です。
ここでは、建機市場の規模や現状について詳しく解説します。
2023年の建機出荷額は3兆円超
2023年までの建機業界の市場規模推移

※出典:一般社団法人 日本建設機械工業会「建設機械需要予測(2024年2月)」
※出典:一般社団法人 日本建設機械工業会「2023年12月度建設機械出荷金額統計」
2023年の建機出荷額は3兆円を超え、内需・外需ともに好調です。内需は2年連続・外需は3年連続で増加しており、2024年度は底堅い推移が予測されています。
2023年の内需・外需の種類別の状況は、以下の通りです。
内需出荷額(前年同期比) | 外需出荷額(前年同期比) | |
---|---|---|
トラクター | 約1392億円(+28.8%) | 約3098億円(+16.2%) |
建設用クレーン | 約2138億円(+8.9%) | 約1309億円(+47.5%) |
油圧ショベル | 約3319億円(+7.2%) | 約1兆634億円(+18.2%) |
ミニショベル | 約913億円(+10.8%) | 約4715億円(+22.5%) |
※出典:一般社団法人 日本建設機械工業会「2023年12月度建設機械出荷金額統計」
内需ではトラクターが前年同期比28.8%増加ともっとも増加率が高く、外需では建設用クレーンが前年同期比47.5%と大幅に増加しています。
日本には世界的シェアを持つ建機(重機)メーカーが多い
日本の建機業界はグローバル化が進んでおり、世界的なシェアを持つ企業も少なくありません。
2022年の建機業界の売上高は、株式会社小松製作所が世界市場シェアトップをマークしています。さらに、シェアトップ10圏内には、日本の日立建機株式会社や株式会社クボタが存在します。
世界で活躍している日本の建機メーカーの一覧は、以下の通りです。
株式会社小松製作所 | 最新技術の導入により国内の売上トップを誇る企業 |
---|---|
日立建機株式会社 | 鉱山用機械・ショベルカーの製造を得意とする企業 |
株式会社クボタ | ミニショベルカーの市場シェアトップを誇る企業 |
コベルコ建機株式会社 | 神戸製鋼グループ内の大手企業 |
株式会社タダノ | 国内の建設用クレーンシェアのうち約6割を占める企業 |
中国・欧州市場では需要が低迷
北米向けは大きく伸びたが、中国向け、ロシア・CIS向けは減少傾向。

引用:一般社団法人 日本建設機械工業会「建設機械需要予測(2024年2月)」引用日2025/1/16
*9機種(油圧ショベル、ミニショベル、トラクタ、建設用クレーン、道路機械、コンクリート機械、基礎機械、油圧ブレーカ圧砕機、その他建設機械)の出荷金額の指数(2007年出荷金額を100とする)
注)2023年度は4~12月の仕向け先実績より予測 出典:建機工自主統計
中国では、2014年頃の景気減速をきっかけとして建機の需要が低迷しています。工事量の減少に加えて2023年の排ガス規制導入の影響もあり、今後数年間は需要回復が難しいと考えられています。
日本の建機企業では、中国工場の余剰生産力を日本向けの製品生産に充てる・中国以外の国への輸出を強化するなどの対策を取り入れているのが現状です。
また、欧州市場では2023年の建機販売額が約10%減少しており、復活は2025年以降になると予想されています。欧州建機企業の主要輸出先である北米・中東などの市場成長が売上を下支えしているものの、国内需要低迷に対する早急な対策・取り組みが求められます。
建機(重機)業界が抱える課題
日本の建機業界は国内外で評価されており好調である一方で、いくつかの課題も抱えているのが現状です。課題解決に向けて各企業が対策を模索しており、業界全体の持続のため尽力しています。
ここでは、建機業界の課題について詳しく解説します。
環境に配慮した建設機械の普及
昨今では各業界において地球温暖化対策が進められており、建機業界でも建設機械使用時の二酸化炭素排出量の削減が進められてきました。具体的な取り組みとして挙げられるのは、低燃費機械・電動建設機械の開発や、再生エネルギーの活用です。
従来のディーゼルエンジンを搭載した建設機械に比べて、電動建設機械やハイブリッド建設機械ははるかに燃費が良く、メンテナンス性の面でも優れています。また、太陽光発電システムやボイラー発電設備と組み合わせ、さらに環境に配慮しながら経済性も高い運用方法も試験的に導入され始めている状況です。
また、電動建機が長時間の連続使用にも対応できるよう、有線式や水素エンジン式の機械の開発も進められています。
人手不足による安全性・生産性の低下
近年では建機業界の高齢化による人手不足が深刻化しており、安全性・生産性の低下が問題視されています。
建設現場では、巨大な建機を使用したり、鉱山開発などの危険な現場へ出向いたりすることが避けられないため、業務においては安全性の確保が不可欠です。しかし、労働人口不足が進んで十分な安全性を確保できるだけの人手が集まらなければ、その分事故が起こりやすくなります。
また、若手職人への技術継承が行われず、結果として組織の生産性低下を招いている点も課題の1つです。
今後はICTやIoTを活用した作業の自動化・効率化を実現するなど、人手不足やスキル不足を穴埋めする対策が求められるでしょう。
ライフサイクルコストの低減
建設機械は、工場の生産機械と同様に、稼働時間が生産性に直結します。したがって、トラブルによるダウンタイムを可能な限りなくして稼働率を高め、ライフサイクルコストを低減できる建設機械のニーズが高い状況です。
そのため、ICTやIoT技術により機械の状態をチェックし、故障を予想してメンテナンスを最適化する建機も登場しています。また、部品のスムーズな供給や、メンテナンスに当たるエンジニアの育成も業界の課題です。
耐災害性を考慮した機械・技術の開発
近年では、地震・津波・ハリケーンなどのさまざまな自然災害が世界各地で起こっています。特に日本は地震や台風が多い国であるため、強靭なインフラ整備が不可欠です。
建機業界では、地震などの災害発生時にも現場作業をすぐ復旧できるように、耐災害性に優れた建設機械の開発を進めています。また、災害が起きた際でも故障を素早く修理できるよう、スマートフォンなどで故障部分を撮影すれば遠隔からメンテナンス指示を行うサービスを提供している事業者もあります。
建機(重機)業界の展望
建機業界でのM&Aを成功させるには、業界動向や今後の展望、注目されている取り組みについて把握しておくことが不可欠です。
ここでは、建機業界の展望について詳しく解説します。
2024年の市場規模は約3兆円と予測

※出典:一般社団法人 日本建設機械工業会「建設機械需要予測(2024年8月)」
日本の建機業界は、コロナによる工事減少の影響により一時的に市場規模が減少したものの、再び成長に転じている状況です。一方で、2024~2025年にかけては、一時的に横ばいが起きるとみられています。2024年の時点で、2024年度通年の建機の出荷金額は3兆1,610億円と、前年度比で5%減少、2025年には前年度比1%増加の3兆2,033億円に落ち着くと日本建設機械工業会は予測しています。
2024年2月時点では、国内の公共投資・民間投資の継続や、海外の土木機械をメインとした売上増加により、市場規模は全体として微増すると予想されていました。しかし、金利上昇などの影響を受け、8月までの間に予測が207億円下方修正されています。
2025年以降は各部門で需要維持・増加が予想されていますが、工事ニーズが受注に直結する建機業界は外部環境の影響を受けやすいため、今後も動向の注視が求められるでしょう。
次世代重機の開発と導入
建機業界ではカーボンニュートラル行動計画に則って次世代重機の開発に取り組んでおり、地球温暖化防止に貢献しています。
次世代重機にはハイブリッドエンジン式や電動式、水素エンジン式などのさまざまなタイプがあり、これまで国内の建機大手企業が多様な次世代重機を開発してきました。しかし、現在発展途上の分野であるため、今後は普及に向けてさらなる改良が求められます。
DXへの取り組み
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略であり、進化したIT技術の浸透による社会変革を指します。
建機分野では、1991年より災害復旧対策への取り組みとして無人化・遠隔化された建機が本格的に導入されました。建設施工のICT化や機械のロボット化によって人為的な操作の負担を軽減しながら施工を効率化できるため、今後は人手不足解消にも役立つことが期待されています。
実際に国内の建機企業では、DX推進本部を立ち上げるなどして本格的な開発体制を構築しています。
建機(重機)業界のM&A動向と事例
建機業界ではこれまでにもさまざまな企業でM&Aが行われてきました。それぞれの事例について流れやポイントを押さえておくことで、自社のM&Aの成功に生かせるでしょう。
ここでは、建機業界のM&A動向と具体的な成功事例について詳しく解説します。
株式会社IHI
株式会社IHIは、2012年5月8日に明星電気株式会社を株式公開買い付け(TOB)により子会社化することを発表しました。IHIは、産業システムや汎用機械、再生可能エネルギー、インフラなどの分野において製造・開発を行っている重工業グループです。明星電機は宇宙関連の制御システムや津波観測施設、震度計など防災向けの感知技術を持つ企業です。
IHIは、グループのセキュリティ事業と明星電気の環境計測・防災システム事業、さらに両社の宇宙関連事業における相乗効果を期待し、子会社化を決定しました。
株式会社アクティオホールディングス
建機リース業を営む株式会社アクティオホールディングスでは、2016年・2018年にM&Aによって株式会社共成レンテム・三信建設工業株式会社を子会社化しました。
株式会社共成レンテムは、株式会社アクティオホールディングスと同じ建機リース会社です。M&Aによって両社の経営資源を共有することで、業界シェア拡大とコストカットを目指しています。
三信建設工業株式会社は土木工事業を営む企業であり、M&Aによる業容の拡大とシナジー効果を期待しています。
岡谷鋼機株式会社
岡谷鋼機株式会社は鉄鋼・機械を取り扱う商社であり、不動産開発・工場建設企画などが主な業務です。2021年に菱栄工機株式会社の株式を追加取得して保有比率を増やし、子会社化しました。
菱栄工機株式会社はクレーンの製造・保全をメインとする建機企業です。岡谷鋼機株式会社は菱栄工機株式会社の建機クレーン事業に関するノウハウを取り入れることで、クレーン建設や関連事業の強化を目指しています。
株式会社前田製作所
株式会社前田製作所は建設機械・産業用機械を取り扱う企業であり、2024年、株式取得により株式会社岩下製作所を子会社化しました。
株式会社岩下製作所は建機部品の製造を営む企業です。同社はM&A以前から株式会社前田製作所で取り扱うカニクレーンとクローラクレーンの重要保安部品の供給を担当しており、高品質・低コストの実現に寄与していました。
株式会社前田製作所はM&Aを通して両社の事業ノウハウを集結させることで、企業としての成長と競争力アップを目指しています。
株式会社クボタ
株式会社クボタは作業機械や建築材料、産業用ディーゼルエンジンなどを取り扱う建設機械メーカーです。2022年、ドイツのブラベンダーテクノロジー社の全株式を取得して完全子会社化しました。
ブラベンダーテクノロジー社は、工場における原材料の定流量供給に使われている重量式フィーダの世界的シェアを誇るメーカーです。株式会社クボタはM&Aによって取扱製品の拡充やサービスネットワークの相互活用を狙うほか、次世代型の重量式フィーダの開発にも取り組むことを目指しています。
建機(重機)のM&Aを行う際の注意点
建機業界のM&Aにはいくつかの注意点があるため、売却・買収を検討する際は注意点をしっかりと把握して交渉を進めることが重要です。
M&Aの売却側・買収側の双方に共通する注意点は、以下の通りです。
- それぞれの企業文化の差異を理解して統合を進める
- シナジー効果を十分に分析する
M&Aの売却側と買収側では、これまで築き上げてきた企業文化が異なります。スムーズな統合を実現するには、密なコミュニケーションを通してそれぞれの企業の持つ価値観や文化を理解しあうことが求められます。
また、市場動向によっては想定したシナジー効果や利益が得られない可能性も十分にあるでしょう。M&Aで得られるメリットを考えるだけでなく、リスクについてもしっかりと分析しておくことが必要です。
M&Aの売却側の注意点は、以下の通りです。
- 買収側の企業を見極める
- 従業員の流出やモチベーションの低下を防ぐ
M&Aの売却側は、買収側に経営を任せることになります。相手企業の事業内容や企業方針などを総合的に勘案し、信頼して事業承継できる企業であるかどうかを見極めるのが成功ポイントです。
また、M&Aの実行後は売却側の従業員・技術者の職場条件が大きく変わるケースも珍しくありません。環境の変化をストレスに感じる従業員も多いため、適切なサポートの提供やキャリアパスの示唆など、他社への流出を防ぐ対策が求められます。
M&Aの買収側の注意点は、以下の通りです。
- 契約内容が適切かチェックする
- 従業員の引継ぎについて検討する
M&Aにおいて、契約条件が曖昧なままだと、事業の引き継ぎがうまく行かずにトラブルが起きるケースがあります。取引先との契約などはどこまで引き継ぐのか、事前にチェックしておくのが大切です。
また、従業員の引継ぎも重要なポイントです。各従業員の雇用条件は、買収直後は一方的に変更できません。また、人材流出によって企業価値が低下する恐れもあるので、買収後の経営において従業員との雇用契約をどのようにしていくか、売却側と話し合いましょう。
まとめ
建機(重機)業界は、公共工事や大規模インフラ需要の底堅さに支えられ、国内外で一定の市場規模を維持しています。現在はカーボンニュートラル対応や生産性向上のためのICT技術活用が求められており、需要を背景に大手・中堅企業のM&Aも活発化している状況です。
今後は環境・安全・デジタル化をキーワードとした差別化施策が一層進むと考えられるため、買収側・売却側ともにシナジーをいかに生かすかが重要になるでしょう。
M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーとして、お客様の期待する解決・利益の実現のために日々取り組んでおります。
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よくある質問
- 日本の建機業界の市場規模はどれくらいですか?
- 2023年の建機出荷額は3兆円を超えています。
- 建機業界の課題は何ですか?
- 環境に配慮した建設機械の普及、人手不足による安全性・生産性の低下、ライフサイクルコストの低減などが課題です。