化学業界 市場規模や買収・売却事例について解説

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化学業界におけるM&A(合併・買収)は、事業拡大や技術革新を図るうえでのキーエレメントといえるでしょう。神戸天然物化学株式会社と株式会社INCJのケースを始めとする国内外の複数の事例を通じて、市場規模の拡大や労働力の確保、競争力の向上といったメリットが明らかになっています。しかし、M&Aを成功させるには、自社との相性の高さを重視したうえで、買収先の従業員への配慮が必要です。

本記事では、化学業界におけるM&Aの現状と将来の展望について、具体的な事例を挙げながら詳しく解説します。

M&Aの前に押さえておきたい化学業界の情報

M&Aについて触れる前の基礎情報として、化学業界の定義と特色をそれぞれ解説します。

化学業界の定義

化学会社は、一般的に石油化学会社とも呼ばれ、石油や天然ガスを原材料に、樹脂やゴム、合成繊維などの化学製品を作り出す会社のことを指します。

化学業界で生産される化学製品は、大きく分けて2種類あり、1つは、分子量が1万以上の高分子を主成分とする化学製品です。プラスチック成形加工品・合成繊維・ゴム成形加工品・塗料・接着剤・インク・トナーなどがあげられ、加工前は液体や粉体ですが、加工後には固形物になります。

もう1つは、分子量が概ね1千以下の低分子と呼ばれる化学物質を主成分とするものです。具体的には、医薬品・化粧品・溶剤・洗浄剤・農薬・化学肥料などがあげられます。素材・材料というよりも、それぞれの物質が科学的な機能を活用する化学製品です。

化学業界の特色

化学業界は、石油・天然ガスを主たる原料として数百万種類もの製品を製造しており、対象とするユーザーも自動車・エレクトロニクスから食品容器など日用品にいたるまで極めて広範囲です。

日用品など消費者が直接手に入れる生産品は最終製品と言われますが、最終製品は化学業界では少数派であり、中間材と言われる製品が大多数を占めます。化学メーカーが製造した中間材は、別の化学メーカーとやり取りされ、また別の中間材に形を変えながら完成品メーカーで最終製品となったものが、自動車などの輸送用機器・スマートフォンなどの電子機器・洋服やプラスチック製品です。消費者が日々手にする大半の最終製品は、化学業界と何らかの形で関わっています。

化学業界で生産される主な製品は、加工度と付加価値が低く少品種大量生産を特徴とする基礎化学品と、加工度と付加価値が高く多品種少量生産を特徴とする機能化学品に分けることも可能です。日本の総合化学メーカーはこれまで、その両方を生産していましたが、基礎化学品は中国などの新興国にコスト面で厳しい競争にさらされ段階的に生産を縮小させています。代わりに技術的優位を活かし、各社が得意とする分野の機能化学品にシフトしている状況です。

化学業界のM&A動向・市場規模

化学製造業は、従業員数、製品出荷額、付加価値額などの点で、日本全体の約1割強を占めており、国内の経済や雇用の非常に重要な位置にあるといえます。

雇用に占める化学産業の位置づけ

参照:経済産業省 「化学産業の現状と課題」

業界動向サーチによると、化学業界の売上高は2018年から2020年にかけて減少傾向にありましたが、2021年には440,299億円となり、前年比で11.3%増加しました。2022年にはさらに増加し、462,684億円となり、前年比で5.1%の増加となっています。売上高営業利益率も中長期的に増加傾向です。AI技術の発展や新たなテクノロジー開発のため、半導体市場の需要が大きく拡大しています。化学業界全体の市場も拡大傾向です。

化学製造業の売上高・売上高営業利益率

参考:法人企業統計調査結果(平成26年度)
年次別法人企業統計調査 概要-平成29年度-
報道発表年次別法人企業統計調査(令和4年度)

一方で、近年、原材料である石油や化石燃料の価格変動は非常に激しく、化学業界に大きな影響を与えています。原油の高騰は原材料の価格上昇にもつながり、市場全体としてビジネスモデルの変容を求められている状況です。

また、日本化学産業は、直近20年間で国際競争において大きく立ち位置を変化させました。背景には、化学業界の原材料である国内需要が縮小する一方で、海外市場での需要が拡大したことにあります。M&A事例としても海外企業との実施例が多く見られ、海外への展開や事業拡大を目的としたM&Aが活発化していると推測できるでしょう。

世界の化学企業・売上高トップ15の推移

参照:経済産業省 「化学産業の現状と課題」

化学業界のM&A事例

化学業界では、多くのM&Aが行われています。具体例として、5つの事例を見ていきましょう。

神戸天然物化学とINCJ

2024年3月、株式会社INCJは、INCJが保有するNapaJen Pharma, Inc.の全株式を神戸天然物化学株式会社に譲渡しました。神戸天然物化学は、もともとNapaJen Pharmaから委託を受け、NapaJen Pharmaの研究開発に必要な一部製品を供給していた会社です。自社のバイオ分野および核酸医薬分野へのポジティブな影響を期待し、譲り受けることとなりました。

米国アグロフレッシュ・ソリューションズ社とペース・インターナショナル社

2024年3月、住友化学は、子会社であるペース・インターナショナル社を、アグロフレッシュ・ソリューションズ社に譲渡しました。ペース・インターナショナル社は、農作物の収穫後に使用する殺菌剤や鮮度保持剤、コーティング剤のほか、薬剤処理などのポストハーベスト事業を展開する住友化学の米国子会社です。グローバル展開や製品ラインナップを強みとするアグロフレッシュ社をベストオーナーとし、競争力強化と事業拡大の加速を図ることが最善であると考え、譲渡が実施されました。住友化学の事業の拡大をさらに加速させることが期待されています。

日本ピグメントと住化カラー

2024年3月、日本ピグメント株式会社は、住化カラー株式会社の株式を取得し、子会社化しました。住化カラーは、各種合成樹脂用着色剤マスターバッチおよびコンパウンド等の製造・販売を行っています。提案力や技術サポート力等の強化・向上、さらには新たな顧客や新製品、新しい分野への挑戦によってビジネスの拡大を目的とし、今回の子会社化を実施しました。

渡辺化学工業と八幸通商

2024年2月、株式会社マナック・ケミカル・パートナーズは、連結子会社であるマナック株式会社が所有する連結子会社、八幸通商株式会社の全株式を、渡辺化学工業株式会社に譲渡しました。八幸通商は中国を拠点とし、事業の拡大を行ってきた会社です。しかし、中国の化学品製造環境の変化により、2018年に八幸通商の保有する中国製造拠点の持分を譲渡してからは、マナックグループの他事業とのシナジーが見込みにくくなり、株式譲渡を決議しました。

ハリマ化成グループとヘンケル社

2022年6月、ハリマ化成グループ株式会社は、Henkel AG & Co. KGaAの持つはんだ材料事業に係る商権・資産等の買収手続きを完了させました。今回の買収により、ハリマ化成グループはマレーシアで工場1ヶ所を取得しています。この買収は、ヘンケル社の高品質な製品群と、欧米や中国の自動車業界、産業機器業界、通信機器業界の顧客基盤を活かして、グローバル市場での事業拡大を目指すものです。

化学業界でM&Aを活用するメリット

M&Aは化学業界においても重要な戦略の一つです。労働力の確保、市場での競争力の向上、海外市場への進出といったメリットがあります。

労働力を確保できる

製造業界では、労働力不足の課題が深刻化しており、化学業界も例外ではありません。M&Aを実施すれば、人材難の中、コストや手間を抑制しながら、人材の確保が可能です。対象会社で培ったノウハウやスキルを自社で活用でき、生産性の向上や新たな技術力の創出にもつながります。

市場での競争力を高められる

デジタル技術の発展は、化学業界にも変革の波を起こしています。IT技術を持つ企業を取り込むことで、他社との競争力が一段と高まるでしょう。また、中小企業が大企業とM&Aを実施し、大企業グループの傘下に入ることができれば、グループの一員として効率的に新製品や新技術の開発・研究を行うことも可能です。さらに、大企業グループの顧客基盤を活用し、新たな市場や地域にも容易に進出できます。

海外市場への足がかりとなる

化学品業界の国内市場は既に飽和状態であり、新たな市場開拓は困難です。また、近年の原料の高騰により収益性が悪化し、化学品業界は新たな戦略の必要性に迫られています。海外企業とのM&Aを行えば、経済成長が著しく人口増加を続けている東南アジアなど需要が見込まれるエリアへの進出が可能となり、海外市場でのシェアを広げるためのきっかけが得られるでしょう。

化学業界におけるM&A成功のポイント

M&Aを成功させるためには、自社との相性の高さを重視することや、買収先の従業員への配慮が重要です。

自社との相性の高さを重視する

自社と相性の高い相手を見つけることは、化学業界のM&Aを成功させるために大切なポイントです。自社に無い技術力や研究力を持つ対象会社と契約できれば、事業力向上に貢献する高いシナジー効果が期待できます。また、自社の企業文化や目標、戦略との親和性の高さも大切です。自社にとって最適な相手を見極めるためにも、事前のリサーチやデューデリジェンスを慎重に行うことが求められます。

買収先の従業員に配慮する

化学業界のM&Aでは、優秀な人材は非常に重要な資産です。しかし、M&A後の統合戦略を誤ると、買収先企業の従業員が離職する可能性があります。M&Aの実施後に貴重な人材が離脱してしまうことを避けるためにも、実施前には丁寧な説明を行い、納得してもらえるような雇用環境を整えるなどの対策が必要です。

化学業界における今後のM&Aの課題と展望

昨今は、化学製品の主な原料となる原油や天然ガスの価格の変動が非常に激しい状況です。従来のビジネスモデルでは、収益増加が困難になっています。今後は、収益性・成長性が期待できない事業を切り離し、経営資源をコア事業に集中するために、M&Aが活用されるでしょう。

また、原材料であるエチレンの国内需要が縮小する一方、海外市場では拡大傾向です。日本の化学産業の、海外市場でのさらなるシェア拡大を目的にしたM&Aが活発化することも予測されます。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社広報室 室長齊藤 宗徳
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 広報室 室長
株式会社レコフ リサーチ部 課長
齊藤 宗徳

立教大学経済学部卒業後、2007年国内大手調査会社へ入社し、国内法人約1,500社の企業査定を行うとともに国内・海外データベースソリューション営業を経て、Web戦略室、広報部にて責任者として実績を重ねる。2019年大手M&A仲介会社へ入社し、広報責任者として広報業務に従事。2021年当社入社後は、広報責任者としてグループ広報業務全体を管掌。

一般社団法人金融財政事情研究会認定 M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者


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