石油業界 市場規模や買収・売却事例について解説

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石油業界は、需要減少や環境規制の強化など、大きな転換期を迎えています。このような状況下で、M&A(合併・買収)は企業の成長戦略とリスク管理において大きな役割を果たすでしょう。

ここでは、石油業界の基礎知識について押さえたうえで、M&A動向や最新事例、成功のためのポイントを詳しく解説します。

M&Aの前に押さえておきたい石油業界の情報

石油業界は、エネルギー供給の要として重要な役割を果たしています。M&Aについて触れる前に、業界の定義、主要企業、特色といった、基礎知識を押さえておきましょう。

石油業界の定義

石油業界は、原油の採掘から精製、販売までの一連のプロセスを担う事業者で構成されています。日本の石油事業者は主に下流部門、つまり精製と販売を担当することが多く、事業者は下記2種類に大別されます。

  • ・石油精製製油所を所有し、原油を精製してガソリン、灯油、軽油、重油などの石油製品を製造・貯蔵・出荷する事業者
  • ・石油精製業者と専属的販売契約を結び、特約販売店を持つ事業者

石油製品は、燃料油と潤滑油に大きく分類できます。燃料油にはナフサ、ガソリン、軽油、灯油、LSA重油、A重油などが含まれ、潤滑油にはマシン油、タービン油、冷凍機油、ギア油、コンプレッサ一油、スピンドル油、ダイナモ油などが含まれます。これらを取り扱う事業者は、一般的に「石油元売」「石油元売会社」「元売会社」と呼ばれています。

代表的な企業

日本の石油業界を代表する企業としては、下記が挙げられます。各社は精製・販売網を全国に展開し、日本のエネルギー安全保障に貢献をしているほか、新エネルギー開発や環境対策など、業界の未来を見据えた取り組みにも積極的です。

  • ・ENEOS株式会社
  • ・出光興産株式会社
  • ・コスモエネルギーホールディングス株式会社
  • ・株式会社INPEX

石油業界の特色

石油業界は、上流部門(採鉱・採掘)と下流部門(精製・販売)に分かれています。日本の石油事業者は主に下流部門を担当し、中東などから原油を輸入して国内で精製し、全国に供給しています。主な業務をいくつか挙げると、次のとおりです。

■原油・原料油受入
超大型タンカーで輸送された原油・原料油を貯蔵タンクに移送し、精製装置へ供給します。

■石油精製
蒸留、改質、分解などのプロセスにより、原油・原料油をガソリン、灯油、軽油、重質油に分離します。

■出荷
精製された石油製品をサービスステーションや油槽所に出荷します。

■販売
出荷された石油製品を一般消費者や大口需要家に販売します。

日本の石油事業者の特徴として、石油精製設備の保有と全国的なサービスステーション(ガソリンスタンド)網の展開が挙げられます。この垂直統合型のビジネスモデルにより、原油の調達から最終消費者への販売まで一貫した事業運営が可能です。

石油業界のM&A動向・市場規模

日本の石油業界は、長期的な需要減少傾向に直面しています。

経済産業省の「資源・エネルギー統計」によると、国内の石油製品販売量は1980年代前半に第二次オイルショックの影響で減少しましたが、その後の原油価格低下により1980年代後半から徐々に増加し、1995年にピークを迎えました。

しかし、近年は需要が減少傾向にあります。2020年にはCOVID-19の影響により前年比91%の155,09万klまで落ち込みました。2021年にはわずかに回復したものの、再び下降傾向となり、2023年には150,22万klとなっています。

今後は電気自動車(EV)の普及により、さらに需要が減少する見込みです。この市場環境の変化に対応するため、石油業界ではM&Aを通じた事業再編や新エネルギー分野への進出が活発化しています。

石油製品販売量

石油業界のM&A事例

石油業界では、需要減少と脱炭素化の流れを受けて、事業の多角化や効率化を目指したM&Aが増加しています。以下に、近年の代表的なM&A事例を紹介します。

ENEOSとジャパン・リニューアブル・エナジー

2022年1月、ENEOSホールディングス株式会社の子会社であるENEOS株式会社は、ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社(JRE)の全株式を取得し、子会社化しました。

この買収は、ENEOSがこれまで培ってきたエネルギー事業者としての知見と、JREの事業開発能力を結集し、日本を代表する再生可能エネルギー事業者になることを目指したものです。

この戦略的なM&Aにより、ENEOSは従来の石油事業に加えて、成長が期待される再生可能エネルギー分野での競争力強化を図っています。

出光興産と富士石油

2024年4月、出光興産株式会社と富士石油株式会社は資本業務提携を締結しました。

この提携の主な目的は、既存燃料油事業でのシナジー創出と、両社が協働して京葉地区での将来的な燃料油供給、およびカーボンニュートラル燃料の受入れ、製造、供給拠点の構築を行うことです。

この提携は、石油需要の減少に対応しつつ、環境に配慮した新たな事業展開を目指す両社の戦略を反映しています。

株式会社レゾナックホールディングスとクラサスケミカル株式会社

2024年8月、株式会社レゾナックホールディングスは、同社子会社の株式会社レゾナックが100%出資する子会社として、クラサスケミカル株式会社を設立しました。

この新会社設立の目的は、上場会社として石油化学のグリーン・トランスフォーメーション実現のための取り組みを加速させ、さらなる利益成長と競争力強化を目指すことです。

この動きは、石油化学業界における環境対応の重要性と、それに伴う事業構造の変革を示しています。

株式会社INPEXと株式会社INPEX JAPAN

2024年6月、株式会社INPEXは、自社の石油・天然ガス事業などを会社分割の手法で子会社である株式会社INPEX JAPANに譲渡することを決議しました。この会社分割の目的は、グループの経営体制の合理化、意思決定の迅速化、本事業の機動的かつ効率的な推進などを行うことです。

この再編は、変化の激しい石油・天然ガス業界において、より柔軟で効率的な事業運営を実現するための戦略的な動きといえます。

ウェルビングループ株式会社と綿仁株式会社

2022年11月、ウェルビングループ株式会社は綿仁株式会社の株式を取得し、子会社化を実施しました。

この買収の狙いは、ウェルビングループ社の自動車販売・整備の専門知識と綿仁社の顧客基盤を結びつけ、相乗効果を発揮することにあります。

この事例は、石油関連事業者が自動車関連事業との連携を強化することで、変化する市場環境に適応しようとする動きを示すものです。

石油業界でM&Aを活用するメリット

石油業界でM&Aを活用する主なメリットとしては、以下の2点が挙げられます。

  • ・新エネルギー対応による新たな成長戦略を実現可能
  • ・リスク分散になる

それぞれ見ていきましょう。

新エネルギー対応による新たな成長戦略を実現可能

電気自動車の普及や再生可能エネルギーの利用増加といった社会環境の変化を受け、石油業界でも新エネルギー分野へのシフトが進んでいます。M&Aは、この変化に対応するための効果的な戦略です。

例えば、石油会社が電気自動車産業や新型エネルギー開発業界に属する企業とのM&Aを実施すれば、電気自動車の充電設備の設置や、再生可能エネルギー事業といった、新しいビジネスモデルの開発を加速させることができるでしょう。

このようなアプローチにより、従来の石油事業を維持しながら、企業は新たな成長戦略を実現し、より大きな市場シェアを獲得できる可能性があります。M&Aは、石油業界が急速に変化するエネルギー市場で競争力を維持し、持続可能な成長を実現するための手段です。

リスク分散になる

石油精製業界は、景気変動の影響を強く受け、需要の急激な減少によって経営難に陥るリスクを常に抱えています。さらに、大規模災害が発生した場合、燃料供給拠点や石油製品および原材料の運搬に必要な交通網が遮断され、供給不能に陥るリスクも無視できません。このような多様なリスクに直面する石油業界において、M&Aは効果的なリスク分散策です。

M&Aを実施することで、企業は相手企業の経営資源を活用できるだけでなく、新たな顧客網や仕入先、運搬経路にもアクセスできるようになります。これにより、事業リスクを分散させ、市場変動や災害などの不測の事態に対する耐性を高めることが可能です。また、異なる事業領域や地域への進出は、特定の市場や製品への依存度を下げ、より安定した経営基盤の構築につながります。

このように、M&Aは石油業界企業にとって、成長戦略の実現とリスク管理を同時に達成できる手段となっています。

石油業界におけるM&A成功のポイント

石油業界でのM&Aは、複雑な規制環境や特殊な設備要件など、独特の課題をクリアする必要があります。成功を収めるためには、業界特有の要因を十分に理解し、適切な調査と評価を行うことが不可欠です。以下では、成功のための主なポイントを詳しく解説します。

規制を遵守しているか調査する

石油精製業はその性質上、非常に危険を伴う産業であり、安全性の確保が最優先事項となります。そのため、M&Aを検討する際には、対象企業が関連するすべての規制を遵守しているかを徹底的に調査することが極めて重要です。

まずは、危険物の取扱いに関する規制があります。例えば、ガソリンや軽油などの危険物を扱うためには、「危険物取扱者甲種」または「危険物取扱者乙種4類」の資格が必要です。これらの資格を持つ従業員が適切に配置されているかを確認することが欠かせません。

さらに、石油業界は消費者保護、建築コード、消防法などについても確認してください。特に近年では、環境保護への意識の高まりから、CO2排出量の削減や廃棄物のリサイクルなど、環境保全に向けた取り組みも強く求められています。

これらの規制を遵守していない場合、M&A後に、買収企業が法的責任を負う可能性があります。規制遵守の調査には、法務や環境の専門家を含めたデューデリジェンスチームを組織し、対象企業の許認可状況、過去の違反歴、環境対策の実施状況などを精査することが推奨されます。この過程で発見された問題点は、M&Aの交渉や価格設定に反映させるのが一般的です。

立地や設備は十分か確認する

石油業界、特にガソリンスタンド経営におけるM&Aでは、土地と設備の価値が重要です。これらの資産は、事業の収益性や将来の成長潜在性に直接影響を与えるため、慎重な評価が求められます。

ガソリンスタンドの立地は、顧客のアクセシビリティ、商圏の大きさ、ブランドイメージなど、多くの要因に影響を及ぼします。優れた立地は、安定した顧客基盤と高い売上を確保するうえで欠かせないポイントです。

立地条件を評価する際には、多角的な視点からの分析が必要です。具体的には、商圏の人口動態、地域の経済状況、競合他社の存在、交通量、周辺の開発計画などを考慮に入れましょう。また、将来的な都市計画や道路整備計画なども、長期的な価値に影響を与える可能性があります。

設備の状態や、更新の必要性を詳細に調査することが大切です。老朽化した設備は、将来的に多額の投資が必要となる可能性があり、M&Aの価値評価に大きく影響します。また、最新の環境規制や安全基準に適合しているかどうかも確認しましょう。これらの要素を総合的に評価することで、M&A後の事業の持続可能性と成長性を正確に予測し、適切な投資判断を下すことができます。

石油業界における今後のM&Aの課題と展望

石油業界は現在、原油価格の変動、石油製品の需要減少、環境規制の厳格化、代替エネルギーの普及など、多様な課題に直面しており、これらの課題がM&A活動の方向性に大きな影響を与えています。

原油価格の変動は、石油会社の収益性に直接的な影響を及ぼすでしょう。価格が高騰すれば調達コストが上昇し利益率が低下する一方、価格が下落すれば競争力維持のため販売価格を引き下げざるを得ません。この不安定性に対処するため、多くの企業がM&Aを通じて海外市場への進出を図っています。地理的な多様化は、価格変動リスクの分散と新たな成長機会の獲得につながります。

石油製品の需要減少に伴う市場縮小も、M&Aが活発化する要因の一つです。競争激化のなかで生き残りをかけ、企業は規模の経済を追求するため、業界内での合併・買収に積極的です。この傾向は今後も続くと予想され、業界の集約化がさらに進む可能性があります。

環境規制の厳格化も、石油業界に大きな課題を突きつけています。排出ガスや廃棄物処理に関する規制強化により、今後は新たな技術開発や環境保護への投資が必要です。これらの投資はコスト上昇につながり、利益率を圧迫する可能性があります。この課題に対応するため、企業は技術力強化を目指したM&Aを実施しており、環境技術を持つ企業の買収や、研究開発部門の統合などが増加しています。

石油事業における再編が円熟期を迎えつつある中、今後のM&A活動は、エネルギー分野全体での生き残りを賭けた事業多角化に焦点が移っていくでしょう。再生可能エネルギー企業の買収、電力会社との提携、水素関連技術を持つ企業の取得など、従来の石油事業の枠を超えたM&Aが増加すると予想されます。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社広報室 室長齊藤 宗徳
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 広報室 室長
株式会社レコフ リサーチ部 課長
齊藤 宗徳

立教大学経済学部卒業後、2007年国内大手調査会社へ入社し、国内法人約1,500社の企業査定を行うとともに国内・海外データベースソリューション営業を経て、Web戦略室、広報部にて責任者として実績を重ねる。2019年大手M&A仲介会社へ入社し、広報責任者として広報業務に従事。2021年当社入社後は、広報責任者としてグループ広報業務全体を管掌。

一般社団法人金融財政事情研究会認定 M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者


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