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海運業界は、グローバルな経済活動の基盤となる重要な産業の一つです。特に日本は、海洋国家として海運業界の発展に大きく貢献してきました。本記事では、海運業界の最新動向や市場規模、M&A事例などについて詳しく解説します。
M&Aを成功させるポイントや、海運業界における今後の課題と展望についても触れていますので、M&Aに踏み切るか否かの判断材料をお探しの経営者様や、今後の経営戦略に活かしたい方は、最後までご参照ください。
M&Aの前に押さえておきたい海運業界の情報
海運業界におけるM&Aを成功させるためには、業界の特性や動向の理解が重要です。以下では、海運業界の定義と特色について解説します。
海運業界の定義
海運業とは、海上を利用した旅客輸送や貨物輸送、また船舶の貸し渡しを行い利益を得る事業のことを指します。
貨物輸送は、輸送するものによって、下記のような船舶が活用されているのが特徴です。
- ・貨物コンテナ(雑貨・食料品等)
- ・油槽船(別名オイルタンカーとも呼ばれ、原油・LNG・LPG等を輸送)
- ・ばら積み貨物船(石炭・鉄鉱石・木材・穀物等)
- ・自動車船
- ・セメント専用船 など
運行領域が、国内から国内の港への海上輸送は「内航海運」といい、国内以外を「外航海運」と呼びます。日本は世界でも有数の海運国家であり、世界の海上輸送量の約1割を、日本の海運業者が運んでいます。
海運業界の特色
島国である日本にとって、海運業は非常に重要な産業です。空運・陸運・海運と大きく3つの輸送手段がある中で、海運は輸送コストが低い点に優位性があり、現在では、食料・衣類から原油・天然ガスなどのエネルギー資源まで、ほとんどのものが海運で輸送されています。
海運業は、事業の特性上、環境への配慮が不可欠です。世界中で多くの規制や条約が締結されるため規制強化への対応が欠かせず、こうした規制や条約は海運業者にとって負担となっています。
例えば、2017年9月に発効された「バラスト水管理条約」は、2022年9月までに海運業者が保有するすべての船に対して、バラスト水処理装置搭載が義務付けられており、コストが増加する要因の一つです。
また、2020年1月からは「SOx規制」が施行されています。SOx規制とは、船舶の燃料油の硫黄分許容限度が、3.5%m/mから0.5%m/mに強化されるものです。SOx規制が施行されると、硫黄分含有量が多い現在の燃料油(C重油)は、そのままでは使用できなくなってしまいます。
他にも、海洋汚染防止条約やGHG削減戦略など、2020年代にクリアすべき環境対策が存在しています。海運業界は常に、新規で追加される規制や条約に対応しなければなりません。
海運業界の動向・市場規模
日本の海運業界は、日本郵船グループ、商船三井グループ、川崎汽船グループの大手3グループによる寡占状態が続いています。
国土交通省の調査によると、内航船舶輸送実績は2013年度以降、持続的にゆるやかな減少傾向にあったものの、2020年度には新型コロナウイルス感染症の流行によって輸送量30万6,076トン、対前年度比89.6%と急激に減少したことがわかります。
その後2021年度には輸送量32万4,659トン、対前年度比106.1%とやや回復しましたが、2022年度には世界情勢の悪化や景気後退のあおりを受け、再び減少することになりました。
また、内航海運市場では、人口減少や船舶の供給規制終了といった事業環境の変化を伴っています。そのなかでも、持続的なサービスの提供を可能とするため、2023年4月には船員の労働時間規制の見直し・健康確保のため「船員の働き方改革」が実施されました。

参照:内航船舶輸送統計調査|e-Stat 政府統計の総合窓口
海運業界のM&A事例
海運業界では、企業の成長戦略の一環として、M&Aが活発に行われています。以下に、近年の主なM&A事例を5つ紹介します。
日本郵船グループの郵船ロジスティクスとNoel Topco
日本郵船グループの、郵船ロジスティクス株式会社の英国法人International Logistics Group Limitedは、Noel Topco Limitedを2024年2月21日に買収しました。
日本郵船グループの打ち出した中長期経営計画では、既存事業で得た利益を新事業へ投資し成長を目指す「両利きの経営」を実現する目的で、買収を実施しています。
みちのりHDと佐渡汽船
みちのりホールディングスは2022年3月、新潟県に本社を置く海運会社の佐渡汽船へ出資を完了させ、子会社化しました。
みちのりホールディングスは筆頭株主となり、佐渡汽船の66.7%の議決権を保有しました。佐渡汽船はみちのりHDの支援を受けながら、経営再建を進めると共に、佐渡地域への貢献を目指しています。
川崎汽船とAIRSEAS社
2024年1月18日、川崎汽船株式会社はフランスにOCEANICWING S.A.S.を設立しました。同社は、AIRSEAS社が開発を進める、自動カイトシステム「Seawing(風力推進)」事業を、同年2月15日付で承継しました。
目的は、技術の確立および製品化に向けた取り組みを強化し、低炭素・脱炭素社会の実現です。
商船三井ロジスティクスとエムオーエルロジスティクス九州
商船三井ロジスティクス株式会社と、グループ会社のエムオーエルロジスティクス九州株式会社は2024年4月1日、吸収合併を実施しました。
この合併により、エムオーエルロジスティクス九州は消滅しています。顧客ニーズの多様化や、高度化する環境変化に対応するため、迅速な意思決定・サービスの強化・業務効率化を目的に、今回の合併を実施しました。
商船三井子会社MOLCTとFairfield Chemical Carriers
2024年3月1日、商船三井グループの100%子会社であるMOL Chemical Tankers Pte. Ltd.は、ケミカル船社Fairfield Chemical Carriers Pte. Ltd.の全株式を取得しました。
商船三井グループは、経営計画「BLUE ACTION 2035」において、市場の成長にはケミカル船事業が期待できる事業領域と評価し、積極的に投資を実施する方針です。今回の買収は、その一環として実施しました。
海運業界でM&Aを活用するメリット
海運業界におけるM&Aは、企業の成長戦略を実現するための重要な手段となっています。主なメリットは、以下のとおりです。
事業規模拡大やブランド獲得につながる
買い手にとってのM&Aのメリットは、事業規模の拡大に加えて、ブランド力を獲得できる点です。運送業は消費者の目に触れる機会が多く、よく知られた企業を買収することで、ブランド力を活用できます。
ブランド力は広告宣伝に利用できるだけでなく、企業の既存の信頼をもとに、新規顧客の獲得につながる可能性もあります。
輸送船や設備を引き継ぎ使用できる
M&Aにより、買い手は輸送船を引き継いで使用できるほか、効率的な輸送ルートといったノウハウも獲得できます。加えて、船内外に設備を導入することで、輸送効率を向上させられるかもしれません。
事業の大規模化が進むことによって交渉力が強まり、コスト削減も期待できるでしょう。
海運業界におけるM&A成功のポイント
海運業界におけるM&Aを成功させるためには、以下の重要なポイントを押さえておく必要があります。
対象企業のリサーチを行う
買い手は、対象企業が有する船の過去の事故履歴や、安全マニュアルの確認が不可欠です。
船長や船員の経歴と、将来の勤務可能年数を把握します。大規模な修繕が必要な場合は、費用を買収コストに上乗せし、投資回収が見込めるかを判断しなければなりません。
事業を成長させるために必要な要素を押さえる
海運業で事業成長を目指すには、以下のような要素が必要です。
- ・コンテナ船の効率的な利用
- ・定期的な運航スケジュール
- ・港湾設備の整備
- ・交通システムの充実 など
M&Aを実施する際は、自社の弱みを把握し、補完が必要となる要素を押さえなければなりません。また、市場調査を通じて顧客ニーズを理解することも求められます。
自社に必要な要素や、顧客の需要に応じたサービス・航路を提供している会社の買収により、M&Aの成功に近づくでしょう。
海運業界における今後のM&Aの課題と展望
海運業界は、2020年から開始した船舶燃料の規制強化に対応するため、高コスト燃料への切替や排ガス洗浄装置の設置によるコスト増のほか、新たな環境技術への対応が課題です。
一方で、デジタル化への取り組みが進み、
- ・ICT技術を用いた船舶の早期損傷検出
- ・高度な気象データ分析による事故防止
- ・労働力不足の解消
などが期待されています。環境変化への対応や新たな技術の導入は、国内海運業者の国際競争力向上に役立つと見られており、今後、実現するためのM&Aが拡大していくでしょう。
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