廃棄物処理業界のM&A動向 昨今の事業買収・売却の事情やM&A事例を紹介

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廃棄物処理業界のM&A動向について

廃棄物処理業界では近年、M&Aを活用した企業規模拡大の動きが目立ちます。規模の拡大により、運営効率の向上や、事業領域・バリューチェーンの拡張、新規参入、エリア拡大など、多様な戦略を取れるようになります。

今回は、廃棄物処理企業がM&Aを行うメリットや、成功事例、成功させるためのポイントなどについて見ていきましょう。

廃棄物処理業界の概要

はじめに、廃棄物処理業界の定義と、業界ならではの特色について見ていきましょう。

廃棄物処理業界の定義

廃棄物処理業者とは、廃棄物排出者から廃棄物の処理を委託され、廃棄物の運搬および処理を行う業者です。この事業を行うには、廃棄物処理業の認可を受けなければなりません。
廃棄物の処理および清掃に関する法律(廃棄物処理法)における、廃棄物の定義は次のとおりです。

この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。

引用:廃棄物の処理及び清掃に関する法律 | e-Gov 法令検索

なお、厚生労働省の通達によると、廃棄物は占有者が自ら利用し、または他人に有償で売却することができないために不要になったもののこととされています。そのため他者への譲渡が可能なもの、すなわち価値が残存しているものである「有価物」は廃棄物ではありません。

廃棄物処理業界の特色

廃棄物処理業界の業態は、「収集運搬業」「中間処理業」「最終処分業」に大別でき、それぞれに連携しあう多層構造となっています。処理対象である廃棄物は大きく「一般廃棄物」と「産業廃棄物」に分けられます。
産業廃棄物は、事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、法令で定められた以下の20種類です。

  • 燃え殻
  • 汚泥
  • 廃油
  • 廃酸
  • 廃アルカリ
  • 廃プラスチック
  • ゴムくず
  • 金属くず
  • ガラスくず・コンクリートくず・陶磁器くず
  • 鉱さい
  • がれき類
  • 煤塵
  • 紙くず
  • 木くず
  • 繊維くず
  • 植物性残渣
  • 動物系固形不要物
  • 動物の糞尿
  • 動物の死体
  • 特定事業者が排出する特定の廃棄物

一般廃棄物とは、産業廃棄物以外の廃棄物のことです。なお、事業者が排出する廃棄物であっても、上記の20種類に該当しない場合には一般廃棄物として扱います。
また、産業廃棄物を排出事業者が廃棄物処理業者へ委託処理する場合には、マニフェストで管理することが法律で義務づけられています。万一、不法投棄などの不適切な処理を行った場合は廃棄物処理事業者に罰則が科せられると共に、排出業者も罰せられます。

廃棄物処理業界の動向・市場規模

廃棄物処理・資源有効利用分野の市場規模推移
画像出典:環境産業の市場規模推移

環境省が公表している「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和4年度)について」によると、一般廃棄物の最終処分量は令和4年度で337万トンで、前年度比1.4%減という状況です。
また、令和5年度事業 産業廃棄物排出・処理状況調査報告書 令和4年度速報値(概要版)」では、令和4年度の産業廃棄物の排出量は370万トンで、前年の375万トンに比べ、約1.3%減となっています。
一方、環境省が発表した「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」によると、廃棄物処理業界の市場規模は2022年で5兆2,158億円となり、2000年以降の最高額となりました。この背景には、自動選別技術、焼却熱の発電利用、再資源化の強化といった処理の高度化に加え、人件費・エネルギーコスト・設備維持費の高騰があります。処理単価の上昇が、全体の市場規模を押し上げているのです。

廃棄物処理業界でM&Aを活用するメリット

廃棄物処理業界でM&Aを活用するメリットを3つ紹介します。

運営効率の向上につながる

M&Aによって企業規模が拡大すると、廃棄物の収集・運搬・処理といった、オペレーション全体の効率化が期待できます。
複数拠点で重複していた作業や管理業務を統一することで、業務のスリム化が進み、人的・設備的なコスト削減も可能です。こうした効率化は、単なるコストカットにとどまらず、サービス品質の向上やクレーム削減といった間接的なメリットにもつながります。
特に中小企業では、自社単独では導入が難しかった最新設備やITシステムを活用できる点も大きいでしょう。

事業領域・バリューチェーンを拡張できる

M&Aを活用し、収集から最終処分・再資源化・エネルギー回収までの一連の処理工程を自社内に取り込むことで、垂直統合型のビジネスモデルが実現可能です。
このようなバリューチェーンの拡張は、サービスの幅を広げるだけでなく、各工程ごとに付加価値を生み出す体制づくりにもつながります。例えば、再生資源としての販売、熱エネルギーの有効活用など、新たな収益源を創出する機会が増えるでしょう。
さらに、外部業者への依存を減らせることで、原材料価格や外注費の変動による影響を受けにくくなるのです。

新規参入やエリア拡大ができる

廃棄物処理業界は地域密着型であるうえに許認可制度が厳しく、新規参入のハードルが高い業界です。
そこで有力な突破口となるのが、M&Aによる参入です。既に許認可を保有し、地域に根ざした実績を持つ企業を買収すれば、ゼロからの立ち上げに比べて圧倒的に早く、効率的に事業展開が可能です。
また、既存事業者が他地域の企業を買収すれば、営業エリアの拡大を図れます。買収先のローカル知見を活かせば、特に複数の自治体や条例が絡むエリアでも、運営リスクを最小化しつつ成長スピードを加速できます。

廃棄物処理業界のM&A事例

廃棄物処理業界ではM&Aによる事業再編が活発化しています。代表的な5つの事例を紹介します。

大栄環境と栄和リサイクル

2024年4月、大栄環境株式会社は、栄和リサイクル株式会社の株式を取得して連結子会社化を実施しました。
大栄環境は、首都圏を含む関東エリアでの事業基盤の強化が課題でした。首都圏を中心に建設系産業廃棄物の収集運搬および建物解体事業で、実績とネットワークを有する栄和リサイクルを連結子会社としたことで、関東エリアにおける事業基盤の確立をめざします。
さらに首都圏における産業廃棄物処理の取扱いシェアが拡大することで、グループ全体としてのシナジー効果が創出され、企業価値向上を図るとのことです。

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レナタスとジャパンウェイスト

2024年、株式会社レナタスは、株式交換により、ジャパンウェイスト株式会社を完全子会社化しました。
ジャパンウェイストは、全国規模で環境保全事業を展開し、難処理廃棄物や低炭素型リサイクル技術を持つ企業です。レナタスはジャパンウェイストを迎え入れることで、関東・中部・近畿・北陸の大型処理施設との連携を強化しました。
このM&Aは、高度かつワンストップな廃棄物処理サービスの提供体制を整え、日本を代表する環境ソリューション企業を目指す動きの一環です。

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ヤマダHDと三久

2021年4月、株式会社ヤマダホールディングスは、株式会社三久を完全子会社化しました。
三久は、茨城県で建築系廃棄物の中間処理を手がける企業です。ヤマダHDは、三久の持つリサイクル・再資源化ノウハウを取り込むことで、グループ内の資源循環体制を強化し、SDGsに掲げる「循環型社会の構築と地球環境の保全」の推進をめざします。
また、環境事業セグメントの中核であるヤマダ環境資源開発HDとの連携により、ヤマダHDが掲げる「暮らしまるごと」のビジネスモデルにも広がりが期待されています。

TOKAIとウッドリサイクル

2022年5月、株式会社TOKAIは、株式会社ウッドリサイクルをグループに迎える株式譲渡契約を締結しました。ウッドリサイクルは、岐阜県で木質バイオマス原料の製造・処理を手がけています。
このM&AにおけるTOKAの狙いは、森林整備や解体工事で発生する廃木材を再資源化し、木質チップとして販売してきたウッドリサイクルの強みを活かし、循環型事業を強化することです。バイオマス発電分野への展開も視野に、カーボンニュートラル実現に向けた体制をさらに加速させる方針を掲げています。

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鈴木商会と木村工務店

2021年7月、株式会社鈴木商会は、株式会社木村工務店を完全子会社化しました。
鈴木商会は、北海道を拠点に資源循環事業を展開する企業です。一方の木村工務店は、釧路に拠点を置く解体業者です。
このM&Aにより、鈴木商会は、道東エリアにおける解体〜産業廃棄物処理までの一気通貫体制を構築しています。地域密着型の強みとグループのインフラを融合し、利便性向上と資源循環のさらなる強化を図ります。

廃棄物処理業界におけるM&A成功のポイント・注意点

廃棄物処理業界におけるM&Aを成功させるために、押さえておきたい3つのポイントを解説します。

それぞれ見ていきましょう。

許認可の状況を確認する

廃棄物処理業を継続するには、各種法令に基づく許認可が必須です。その取得状況や更新履歴はM&Aの成否を左右する重要な要素となります。
許認可は有効期限が定められており、更新時には事業者が最新の基準を満たしているかが改めて厳しく審査されます。仮に買収対象企業が現行基準を満たしていない、過去に違反や指摘を受けていた場合、将来的に許認可が失効し、事業が継続できなくなるリスクもあります。

M&Aの初期段階から、法令遵守状況について専門家によるデューデリジェンス(詳細調査)を行い、確実な確認を行うことが不可欠です。

デジタル化に対応しているかどうか

近年では廃棄物処理業界でもAIやIoTなどのデジタル技術を導入する動きが活発化しており、業務の自動化や効率化を図る企業が増えています。これらの技術は、業務負荷の軽減やサービス品質の向上に直結し、他社との差別化を可能にする重要な経営資源です。M&Aの対象企業が既に先進的なデジタルシステムを活用している場合、統合後のシナジーも大きく期待できます。
PMIでは、こうしたIT資産を他拠点に展開する仕組みや、業務プロセスの共通化計画を整えましょう。これにより、M&Aによるシナジーの最大限も図りやすくなり、グループ全体の競争力向上に寄与します。

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地域住民とトラブルになっていないか

廃棄物処理事業は、騒音や悪臭、振動などの環境負荷を伴うケースがあるため、地域住民との関係構築が非常に重要です。
売り手企業の施設の立地や運営状況によっては、過去に周辺住民との間でトラブルが発生している可能性もあります。M&Aを実施する際には、デューデリジェンスを通じて、対象企業が地域と良好な関係を築いてきたか、過去に苦情・訴訟・行政指導などの問題がなかったかなど、丁寧な調査が必要です。

仮にトラブルが継続していたり、未解決の問題を抱えている場合、買収後の事業運営における大きなリスクとなり得ます。

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これからの廃棄物処理業界:課題とM&A活用の展望

廃棄物処理業界において、M&Aは、地域特性やインフラ負担といった課題を乗り越える手段として注目されています。
特に近年、デジタル化や脱炭素対応、広域連携などの社会的要請への適応が求められており企業間の協業や再編が加速する見込みです。
M&Aを検討する際には、許認可の確認や、地域との関係性などに関する、丁寧な調査と対話も不可欠です。持続可能な統合と地域貢献の両立が、M&A成功の鍵を握ります。

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よくある質問

  • 廃棄物処理業界でM&Aが活発な理由は何ですか?
  • 主に業務効率化や事業領域の拡大、新規参入を目的としてM&Aが活用されているためです。
  • 廃棄物処理業のM&Aで注意すべき点は何ですか?
  • 許認可の有効性、地域住民との関係、デジタル対応状況などを事前に確認することが重要です。
  • 廃棄物処理業界においてM&Aによりどのような効果が期待できますか?
  • 業務のスリム化やサービス品質向上、エリア拡大など、効率性と競争力の向上が見込まれます。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社広報室 室長齊藤 宗徳
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 広報室 室長
株式会社レコフ リサーチ部 課長
齊藤 宗徳

2007年、立教大学経済学部経営学科卒業後、国内大手調査会社へ入社し、国内法人約1,500社の企業査定を行うとともに国内・海外データベースソリューション営業を経て、Web戦略室、広報部にて責任者として実績を重ねる。2019年大手M&A仲介会社へ入社し、広報責任者として広報業務に従事。
2021年M&Aキャピタルパートナーズ入社後は、広報責任者として、TV番組・CMなどのメディア戦略をはじめ広報業務全体を管掌、2024年より現職。
一般社団法人金融財政事情研究会認定M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者



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