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金属製品(金属加工)業界のM&A動向について
金属製品業界は、日本のものづくりを支える基幹産業として、多様な製品を供給しています。その一方で、技術者の高齢化や後継者不足、原材料価格の高騰といった、さまざまな課題に直面しているのが現状です。これらの課題の解決策として、M&Aを活用した経営基盤の強化が進められています。
本記事では、金属製品業界の現状やM&A動向、具体的な事例、成功のポイントなどについて、詳しく解説します。金属製品業界のM&A動向や市場規模について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
金属製品業界の概要
金属製品業界は、鉄鋼や非鉄金属を原材料として、さまざまな金属部品や最終製品を製造する産業です。日本の製造業のなかでも重要な位置を占め、高い技術力を持つ企業が多く存在しています。
ここでは、金属製品業界の定義や特色について見ていきましょう。
金属製品業界の定義
金属製品製造業とは、鉄鋼や非鉄金属などの金属精錬製品を原材料として、金属部品や最終製品に加工し、販売することを指します。
主な金属製品は、食缶・金属プレス製品・機械刃物・作業工具・鉄骨・橋梁・鉄塔・サッシ・シャッター・金網・バネ・ねじなど機械部品や比較的小型の最終製品などです。金属製品製造業で製造される製品は多岐に渡り、それぞれの業績はそれぞれの最終消費業界の動向に影響されやすい性質を持ちます。
金属製品製造業は、日本のものづくり産業を支える高い技術力を持った企業が多く、特定製品のみを製造する中小零細企業が多い業界です。
金属製品業界の特色
金属製品製造業は、販売先である自動車・建設・住宅メーカー等大規模事業者であるユーザー企業のニーズに合った製品を製造する受注生産型主体の製造業です。ユーザー企業に対して金属製品の設計に参画することや周辺技術のディレクションを行うことができる一次メーカーがあり、その一次メーカーから二次・三次メーカーに発注が流れていく多層産業構造になっています。
特に金属製品における技術力は、個々の技術者の経験や勘などによって支えられていた部分が大きく、日々現場で改善され積み重ねられた長年の膨大な技術・技能の継承をいかに後継していくかが金属製品業界の大きな課題です。
金属製品業界のM&A動向・市場規模

「2023年経済構造実態調査二次集計結果」によると、金属製品業界の市場規模(2022年の製造品出荷額)は16兆9,199億円となっています。事業所数は3万589箇所で製造業のなかでは最多となっており、従業員数は60万7992人です。これらの数字からは、金属製品業界が、日本企業における重要な基幹産業として経済や雇用を支えていることがわかります。
金属製品業界は、生活に密着した消費材(飲料用缶・家庭用機器など)と、景気に連動しやすい産業材(自動車・住宅・建設向け部材)に分かれており、内需動向と密接に関係する産業構造を持っています。
特にプレス部品やサッシ・シャッターは、自動車業界や住宅業界の影響を強く受けるため、需要の波が大きくなりやすいです。一方で、2022年の出荷額は前年比1.07%増と微増にとどまり、2017年以降の年平均4~5%の増加率と比べても伸び悩みが見られます。
その背景としては、製品素材の樹脂化や切削・プレスなど、従来の加工法から3Dプリンターへの代替といった構造的な変化が挙げられます。さらに、ウクライナ情勢などによるアルミニウム価格の高騰や供給不安といった外部要因も、材料高騰や納期の遅れといった経営課題を生み出す要因です。
今後の市場展開においては、技術革新への対応力と、地政学リスクへの備えの両立が企業に求められるでしょう。
金属製品業界でM&Aを活用するメリット
金属製品業界は、熟練の加工技術と特殊な製造ノウハウが競争力を源泉とする、技能に依存した産業です。そのため、他社とのM&Aによって優れた技能や加工手法を継承することは、業界での競争力を高めるうえで有効となります。
アルミやステンレスなど、特定の素材に精通した企業を買収すれば、素材特性に即した加工ノウハウや業界固有の認証体制(JIS規格・ISOなど)を一括で手に入れられます。ハード面においても、金属加工に用いるプレス機、ダイキャスト装置、CNCマシンなどの既存の設備資産を引継げば、高額な初期投資は必要ありません。
こうした専門技術・資産・体制の統合によって、革新的な製品開発や生産性向上が見込まれるでしょう。製造業としての収益力を大きく押し上げる可能性があります。また、新たに事業を立ち上げる場合も、所要時間を大幅に短縮できるでしょう。
金属製品業界のM&A事例
金属製品業界では、技術力強化や事業拡大を目的としたM&Aが活発に行われています。
ここでは、金属製品業界の代表的なM&A事例を見ていきましょう。
株式会社フジオーゼックスと株式会社マルヨシ製作所
2023年5月、株式会社フジオーゼックスは、株式会社マルヨシ製作所の全株式を取得し、子会社化することを決定しました。
フジオーゼックスは、自動車部品メーカーであり、各種エンジンバルブ、エンジン関連部品商品、自動車部品の製作・販売、鋼材の加工だけでなく、加工製品の販売などを手がけています。一方、マルヨシ製作所は、セパレータフィルム製造用の金属ロール、シャフトなどの製造をしており、セパレータフィルム製造装置メーカー等に製品を販売しています。
このM&Aにより、フジオーゼックスの事業拡大につながるだけでなく、グループとのシナジーの創出により、同事業が拡大される見込みです。自動車部品から電池関連部材へと事業領域を拡大する、戦略的なM&Aといえるでしょう。
三陽工業株式会社と株式会社太田工業所
2022年6月、研磨・塗装・レーザー加工等を扱う三陽工業株式会社は、金属加工に強みを持つ株式会社太田工業所の全株式を取得しました。
三陽工業は2018年から、後継者不足に悩む中小製造業や派遣会社M&Aに積極的で、太田工業所を含め、4年間で5件のM&Aを行っています。今回のM&Aに踏み切ったのは、太田工業所と協議を重ねるうえでビジョンや方向性の一致を見たことによります。
不二精機株式会社と秋元精機工業株式会社
2019年9月、金型製造を手がける不二精機株式会社は、精密プレス加工等を手がける秋元精機工業株式会社の全株式を取得し、M&Aしました。
同社は、精密金属部品を金型内にインサートして樹脂成形する「インサート成形品」などの新たな製品開発を進めています。このM&Aにより、「インサート成形品」の国際競争力を高め、事業の拡大が図られました。
株式会社ヤマシナと株式会社山添製作所
2019年2月、株式会社ヤマシナは、徹底した品質および環境管理を強みとするネジメーカーの株式会社山添製作所の株式を取得し、子会社化しました。このM&Aの目的は、生産拠点の分割や物流コストの低減等を含めた、グループの企業価値向上が図ることです。
株式会社FUJIとファスフォードテクノロジ株式会社
2018年8月、株式会社FUJIは、半導体製造装置メーカーのファスフォードテクノロジ株式会社の全株式を取得し、M&Aしました。取得金額は218億円です。このM&Aにより、半導体後工程および電子部品実装工程の次世代技術開発や両社製品の更なる品質向上が図られました。
金属製品業界におけるM&A成功のポイント・注意点
金属製品業界のM&Aを成功させるためには、業界特有の要素を考慮することが欠かせません。ここでは、M&A成功のポイントと注意点を解説します。
知的財産の引継ぎを丁寧に行う
M&Aを進める際には、買収時点での知的財産の権利状況や管理体制を精査することに加えて、統合後の運用体制にも十分に配慮しましょう。
例えば、売り手が保有する加工技術やノウハウをスムーズに自社の生産体制に組み込むには、技術資料の整備や担当者によるOJTなど、PMIフェーズでの丁寧な引き継ぎが不可欠となります。
また、情報へのアクセス権限を見直し、知財情報の保護と活用を両立させる体制を構築することも肝心です。買収後に価値ある知財が活かされない、あるいは流出するリスクを防ぐためにも、事前の整理と統合後の運用設計は密接に連携して行いましょう。
環境リスクへの対応を確認する
金属製品業界では、溶接や切削、表面処理など、環境負荷の高い工程が多いです。そのため、環境リスクへの対応は、M&Aにおける重要な評価ポイントとなります。
買収前のデューデリジェンスでは、有害物質の管理状況や廃液処理の適正性、過去の環境事故履歴などを詳細に確認してください。これらが不十分な場合、買収後に土壌汚染や行政処分といった法的・財務的リスクが発覚する恐れがあります。
また、労災が頻発しているような事業所では、安全管理体制の整備状況も併せて精査すべきです。将来の事業継続に影響を与える要素かどうかを、慎重に見極めましょう。
金属製品業界における今後のM&Aの課題と展望
金属製品業界は、熟練職人の技能に支えられた属人的な技術体系が多く、事業承継や技術継承が長年の課題となってきました。こうしたなか、近年はCAD・CAMやAIの進化により、熟練者のノウハウをソフトウェアで支援・再現する取り組みが活発化しています。
例えば、京都のヒルトップ社は、自社開発のHILLTOP SYSTEMによって、新人でも短期間でプログラム作成ができる体制を構築しました。さらに、AIによる自動加工支援「COMlogiQ」を外販し、技術の標準化と生産性の両立を図っています。
今後のM&Aでは、こうしたIT連携や自動化技術の有無が、企業評価の軸となる可能性が高まっています。買い手にとっては、属人的な技術資産の見極めと、ソフトウェアによる平準化余地の有無が大きな判断材料となるでしょう。
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よくある質問
- 金属製品業界でM&Aが増えている主な理由は何ですか?
- 技術者高齢化と後継者不足、原材料高騰への対応策として、熟練技術や生産設備を一括で承継できるM&Aが有効だからです。
- デューデリジェンスで重視すべきポイントは?
- 知的財産の権利状況と環境負荷工程への対応、設備の老朽化や安全管理体制などを詳細に確認することです。
- PMIを成功させるためのコツはありますか?
- 技術資料とOJTを組み合わせた丁寧な技能継承計画を策定し、情報保護と活用を両立させる運用体制を整備することです。