鉄鋼業界 市場規模や買収・売却事例について解説

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鉄鋼業界では、グローバルな需要の変動や競争の激化を背景に、企業の成長と生き残りを目的としたM&Aの重要性が増しています。

本記事では、鉄鋼業界の基礎知識について解説したうえで、M&Aの動向や、代表的な事例、メリット、成功のポイントなどを紹介していきます。

M&Aの前に押さえておきたい鉄鋼業界の情報

M&Aについて触れる前に、鉄鋼業界の定義や代表的な企業、業界ならではの特色といった基礎知識について確認しておきましょう。

鉄鋼業界の定義

鉄鋼業界に属するのは、主に鉄鋼メーカーと、その製品を仕入れてさまざまな業界に販売を行う金属卸事業を行う事業者です。

鉄鋼メーカーは、「高炉メーカー」と「電炉メーカー」にわけられます。「高炉メーカー」とは、鉄鉱石やコークスなどの原材料を高炉(溶解炉)で製鉄し、製鋼、鋳造、鋼材製品まで一貫生産する事業者のことです。「電炉メーカー」とは、くず鉄(鉄製品作成時にできるくずや廃品の鉄製品)を電気の熱で溶かして、不純物を取り除いたうえで製鋼、鋼材製品を製造する事業者のことを指します。

「電炉メーカー」には普通鋼中心の「普通鋼メーカー」と特殊鋼専業(マンガンやニッケル、クロムなどのレアメタルを添加する)の「特殊鋼メーカー」があります。

代表的な企業

鉄鋼業界には、国内外で高い評価を受けている企業が多く存在します。以下に挙げる企業は、そのなかでも業界を代表する存在です。

  • ・日本製鉄株式会社
  • ・JFEホールディングス株式会社
  • ・株式会社神戸製鋼所
  • ・大同特殊鋼株式会社

鉄鋼業界の特色

鉄鋼は、自動車製造業や造船業、建設産業、産業機械産業など幅広い産業で利用されており、特にビルや鉄道、橋など、社会インフラを担うものに欠かせない材料です。そのため、他のさまざまな産業の基盤となっていることが多く、実際の市場規模よりも大きな影響力があるといわれています。

鉄鋼製品は、鉄鋼メーカーから鉄鋼メーカー系列のグループ会社や商社などに卸されるケースと、鉄鋼メーカーから直接、自動車メーカーや、建設会社、造船会社、産業機械メーカーなどの各種メーカーに卸されるケースがあります。

グループ会社や商社に卸したケースでは、一次商社から加工業者を経るケースの他、二次商社(特約店)を経て卸されるケースもあります。

鉄鋼業界のM&A動向・市場規模

日本の粗鋼生産量は、高度経済成長期に急増し、1960年度の2,316万トンから1972年度には1億297万トン、2007年度には1億2,151万トンに達しました。その後、2018年度までは概ね1億トンを維持していましたが、コロナ禍の影響で需要が急減し、2020年度の生産量は8,278万トンに減少しています。

2021年度には回復を見せたものの、再び1億トンには届かず、2022年度には再度減少し、2023年度には8,682万トンに留まりました。

このような生産量の変動は、鉄鋼業界における経営環境の不安定さを示しています。そのため、生産体制の見直しや競争力強化を目的としたM&Aが、業界内で重要な戦略となっています。

粗鋼生産量

鉄鋼業界のM&A事例

ここでは、鉄鋼業界における代表的なM&A事例を取り上げ、その成功要因や業界への影響について詳しく解説します。

伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社とNetwork Steel Resources,S.A.社

2024年7月、伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社は、Network Steel Resources,S.A.(NSR)に出資を行い、持分法適用会社としました。

売り手となったNSRは、スペインの独立系最大手鉄鋼グループ企業です。この出資により、伊藤忠丸紅鉄鋼は欧州市場における事業領域を拡大し、安定した経済成長が期待される地域での競争力を強化しています。また、自社のステークホルダーや強固な事業基盤を活かし、NSRの企業価値向上に寄与することを目指しています。

このM&Aは、製品ラインの多様化や市場拡大を図るだけでなく、両社のシナジー効果を最大限に引き出し、欧州における鉄鋼業界のさらなる発展を目指す戦略的な動きによるものです。

日本製鉄株式会社とUnited States Steel Corporation

2023年12月、日本製鉄株式会社は、米国子会社であるNIPPON STEEL NORTH AMERICA, INC.を通じて、United States Steel Corporation(USスチール)を買収することに合意しました。

USスチールはアメリカ最大の鉄鋼メーカーで、買収価格は141億ドルと発表されています。米国鋼材市場は今後も安定した成長が見込まれており、特に高級鋼材の需要が高い先進国最大の市場です。

このM&Aにより、日本製鉄は世界第2位の鉄鋼メーカーとなり、グローバルな市場での競争力を一層強化することを目指しています。さらに、この買収は、同社の環境目標である脱炭素化の取り組みを推進する一環としても位置付けられています。

日本ヒューム株式会社と株式会社鋼商

2024年1月、日本ヒューム株式会社は、金属製品やコンクリート製品を手がける株式会社鋼商の株式を取得し、同社を連結子会社化しました。

この買収により、日本ヒュームはコンクリート二次製品における金属部材の重要性を強化し、鋼商の技術力と人材を活用してグループ内のシナジーを高めます。また、両社の連携を通じて、製品開発や市場拡大においてさらなる共創を図り、競争力を強化することを目指しています。

瀧上工業株式会社と株式会社菊池鉄工所

2024年3月、瀧上工業株式会社は、株式会社菊池鉄工所の全株式を取得し、同社を完全子会社化することを決議しました。

売り手となった菊池鉄工所は、鉄鋼工作物の製作加工を専門とし、滋賀県に拠点を置く企業です。買い手となった瀧上工業は、今回のM&Aを通して、中期経営計画の一環として掲げる「鉄骨事業の再生と創造」を実現するための体制を早期に構築し、鉄骨・鉄構事業のさらなる強化と成長を図ることを目指します。

また、菊池鉄工所の技術力と人材をグループ内に取り込むことで、特に民間の大型開発案件への対応力を強化し、競争力のある事業基盤を構築する戦略です。

日鉄鋼板株式会社と東海カラー株式会社

2023年11月、日鉄鋼板株式会社は、完全子会社である東海カラー株式会社を吸収合併することを決議しました。この合併により、両社は小ロット・短工期対応の強みを活かしながら、安定供給の継続と製品・サービスの維持・向上を図ります。

日鉄鋼板と東海カラーが製造・販売をはじめ、すべての分野で一体的な運営を行うことで、より効率的かつ効果的な事業展開が可能となると判断し、今回の合併に至りました。

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鉄鋼業界でM&Aを活用するメリット

鉄鋼業界でM&Aを活用する主なメリットとしては、以下の5点が挙げられます。

  • ・企業規模の拡大
  • ・技術力・ノウハウの融合
  • ・スケールメリットの享受
  • ・コスト削減とリソース確保
  • ・迅速な海外進出

それぞれ見ていきましょう。

企業規模の拡大

M&Aにより、企業は短期間で規模を拡大し、市場シェアや競争力を高めることが可能です。既存の市場で強力なプレーヤーとしての地位を確立することで、業界内での影響力をさらに強化できます。

技術力・ノウハウの融合

両企業の技術力やノウハウ、人材を融合することで、シナジー効果が生まれ、新たな製品やサービスの開発が可能となります。これにより、従来の事業を超える付加価値を提供し、差別化を図ることができるでしょう。また、革新的な技術を取り入れることで、業界内での競争優位性を築くことが可能です。

スケールメリットの享受

M&Aを通じて、両社の資金や設備を統合することで、高額な設備投資を実施しやすくなります。これにより、生産効率が向上し、大量生産や一括仕入れによるコスト削減効果を得ることができます。スケールメリットを最大限に活用することで、収益性の向上を図ることが可能です。

コスト削減とリソース確保

原材料価格の変動が激しい現代において、M&Aは安定的なコスト削減とリソース確保の手段として有効な手段です。これにより、供給チェーンの強化や、コストの抑制が可能となり、企業の経営基盤を強固にします。持続可能な収益モデルを構築するための重要なステップとなります。

迅速な海外進出

海外企業とのM&Aを実施すれば、ゼロから海外進出する場合にかかる時間やコストを大幅に削減できます。既存の市場拠点やノウハウを活用することで、迅速かつ効果的に海外市場に参入し、成長著しい地域での競争力を一気に高めることが可能です。また、現地の規制や文化に即した事業展開が可能となり、リスクを最小限に抑えられるでしょう。

鉄鋼業界におけるM&A成功のポイント

鉄鋼業界でのM&Aを成功させるためには、業界特有の課題に対応する戦略的な判断が求められます。ここでは、鉄鋼業界でM&Aを効果的に活用し、企業価値を最大化するための重要なポイントを解説します。

常に業界の動向をチェックする

近年の鉄鋼業界は、業績の乱高下が続く不安定な状況にあります。そのため、業界の最新動向を常にチェックすることが不可欠です。

特に、大手企業の動向は業界全体のパワーバランスに大きな影響を与えるため、その動きを注視する必要があります。こうした動きに乗り遅れないためには、大手企業の戦略や市場での動向に対して常にアンテナを立て、迅速に対応できる体制を整えておくことが重要です。

相性が良い事業を見極める

鉄鋼業界では、相性の良い事業と提携することで、双方の業績向上や持続的な発展が期待できます。例えば、鉄鋼の生産に必要な鉄鉱石を供給する「鉄鉱石採掘・生産業」、製品の輸送を担う「物流・運輸業界」、鉄鋼製品をさらに加工する「鋼材加工業」、そして製造設備を提供する「機械・設備メーカー」などです。

これらの業界との連携は、鉄鋼業界における生産効率やコスト削減を実現し、競争力を大幅に強化します。相性の良い事業を見極め、効果的なパートナーシップを築くことが、成功の鍵となります。

鉄鋼業界における今後のM&Aの課題と展望

鉄鋼業界では、海外企業が市場シェアを強化しており、国内企業は厳しい競争環境に直面しています。特に、海外企業が持つ高度な技術力やコスト競争力は、国内企業にとって大きな脅威となっており、これに対応するための戦略が急務です。

また、業界全体で進むIT化への対応や、環境配慮型の製造体制の構築も求められており、これらの課題に取り組むことが不可欠です。

今後、鉄鋼業界で生き残り、さらなる成長を遂げるためには、技術力やノウハウの向上に加え、IT化の推進やCO2削減といった環境価値の高付加価値化が求められるでしょう。そのため、国内企業だけでなく、海外企業とのM&Aを通じて技術や資源を取り込み、競争力を強化する動きが一層加速することが予想されます。これにより、国内外でのシェア拡大や、新たな市場機会の創出が期待されます。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社広報室 室長齊藤 宗徳
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 広報室 室長
株式会社レコフ リサーチ部 課長
齊藤 宗徳

立教大学経済学部卒業後、2007年国内大手調査会社へ入社し、国内法人約1,500社の企業査定を行うとともに国内・海外データベースソリューション営業を経て、Web戦略室、広報部にて責任者として実績を重ねる。2019年大手M&A仲介会社へ入社し、広報責任者として広報業務に従事。2021年当社入社後は、広報責任者としてグループ広報業務全体を管掌。

一般社団法人金融財政事情研究会認定 M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者


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